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本当の理由

「ン? ンンン!? 違うデアリマスヨ、プリンセス! ソンナ辛気臭いカオをされるほど、我輩の死はセマッテオランデゴザイマスヨ! オオウ、ナキナサンナ、ナキナサンナ」


 え? ボク泣いてるの? 自分ではそんなつもりはなかったのだけれど、頬を触ってみると確かに涙で濡れていた。そのことに驚いたが、とりあえずはティチアーノさんを心配させまいと、ごしごしと目頭を拭う。


「カノウセイの話デゴザイマス。我輩の魔法が……あア、プリンセスにはマダ我輩の魔法の話をシテイナイデスタネ」


「……あ、ほんとだ。ティチアーノさんの魔法知らないや」


 言われて気づいた。ティチアーノさんが魔法使いだと言うことは理解していたが、どんな体質なのかは全く知らなかった。ティチアーノさんの魔法については確か……当たりと言えば当たりだけど、外れと言えば外れって、ロタさんは言ってたっけ。

 話の流れからして、外れの部分はもしかして命が削られる的な……? それ確実に外れだよね? 当たりの部分がどれだけ良くても、命を落とすんだったら全っ然、当たりじゃないよね? もしそうだったらどの部分が当たりなんだ。どんな利点があっても割に合わないけど。


 どんな魔法なのか、内心ドキドキしながらティチアーノさんの言葉に耳を傾ける。ティチアーノさんは特に言い淀んだ様子もなく、それをごく当然のように語った。


「我輩の魔法はヒトの手をクワエテ作られた毒がキカナイ、トイウモノデアリマス。動物ヤ植物ナドガ保有する毒はキクノデスガ、ニンゲンが生み出したシアン化カリウムのヨウニ、自然界にモトモトないモノの影響はイッサイ受けることはナイデゴザイマスヨ。まア、ニンゲンが自然の毒にナニカシラノ手をイレタラ、ソレもキカナイのデアリマスケド、ソレはドウデモヨイデゴザイマス。トニカク、我輩はコノ体質をリヨウシテ、研究にハゲムノデアリマスヨ」


 毒が効かない……って、欠点あるのか? 人間は元々毒が効くから、一部の種類が効かないだけでも便利……いや、普通はそんなに毒と触れ合う機会はないんだけどね。それだけ聞くと長く生きられない理由がないように思える。

 やっぱり他に何か……まさか、毒は効かないけど、その毒に一回触れる度に一年寿命が縮むとか!? 研究をするためにティチアーノさんは命を削ってるってこと!?


「ダメだよティチアーノさん! いくら好きなことだからとはいえ、自分をもっと大事にしないと!」


「何を考えたかはワカランデアリマスガ、オソラクプリンセスが考えたコトはマチガイダト思うデス」


 ち、違うのか。それなら良かった。ボクの考えてることが本当だったら、ティチアーノさんがやりたいって言うことを禁止はできないから、せめて回数を減らしてもらおうと思ってた。ひとまず安心だ。


 そうほっとしたのも束の間、ティチアーノさんは、デスガ、と付け加えた。


「毒がキカナイトイウコトハ、薬もキカナイトイウコトデゴザイマス」


「薬も? ってことは?」


「……タトエバ、万人ニトッテ風邪薬と呼ばれるヨウナモノは、我輩のカラダにはキカナイのデアリマスヨ。薬はキカナイのに、ウイルスはヨウシャナク我輩のカラダを蝕むデスカラ」


 ……ということは、病院でお医者さんに処方される薬は効かないってことか? あんまり薬とかに詳しくないから正確には違うかもしれないけど、大体そんな感じだと思う。それならもし、ティチアーノさんが重い病気を患ったら……。


「で、でも、自然のものなら効くんだよね? 薬草とか? そういうのなら……」


 すがるようにそう言ったが、ティチアーノさんはすぐに首を振った。


「自然もバンノウではないデゴザイマス。コノ世界にはニンゲンが生み出した薬デナケレバ、治すノガ困難なビョウキもあるデスカラ。我輩にキク薬がアリハシテモ、コノ国はミテノトオリ、ネンガラネンジュウ雪が降っているデアリマス故、自然から薬を入手するノハキワメテ難しいのデゴザイマスヨ」


 この国は、一年中雪なんだ。寒い地域でも成長する植物とかもあるだろうけれど、種類は限られてくる。ティチアーノさんに必要なものが、動物や植物から取れたとしても、この国には生息していなかったり、生えることがなかったりしたら、ティチアーノさんは……。


「オワー! プリンセスにソンナカオをされると、我輩イタタマレナイデアリマスヨー! 我輩、心臓にトゲがササルヨウナ心地デゴザイマス!」


「あっ、ボクまた酷い顔してた? ごめんなさい。顔に出さないようにしてたんだけど……っ」


 慌てふためくティチアーノさんを安心させるために、何とか無理やり表情筋を動かす。そうだ、ボクが今泣いたところでどうこうなる話ではない。落ち着け、落ち着け。


「あアあアア、アンドレ・カルティエがマダいなくてヨカッタ、ホントウニ。ビョウキ以前に首が飛ぶトコロデアリマスタ」


「あはは。さすがの兄様でも友達にそんなことしないよ」


「イヤ、するデアリマスヨ。アヤツならカナラズ」


 いやいや、ボクが勝手に泣いちゃってただけなんだし、いくら兄様とはいえそんなことしない……しないよね? ボクが言うのもなんだけど、兄様は妹思いだからね。ちょーっとだけ怒りっぽいというか、口より先に物理的に足が出たりところがあったりするけど、まさかそんなことは……。


 うん、考えるのはよそう。別に、兄様ならやるかもしれないとか思っちゃったわけじゃないからね。今はティチアーノさんの話を聞かなきゃいけないから、考えないことにするだけだからね! ボクは断じて、他の人はありえないけど兄様ならやるな、とか思ってないから!


「プリンセス・ルミア? どうしたデアリマスカ?」


「な、何でもないよ!」


 切り替えよう。今はティチアーノさんとフェルツィウムさんのことを何とかすることに集中しなければ。


「それで、ええと、ティチアーノさんは、フェルツィウムさんとずっと一緒に生きられないかもしれないから、わざと突き放して結婚しないようにしてる、とか?」


「……イイエ。ソンナ綺麗なモノではないデゴザイマスヨ」


 ティチアーノさんは小さく息をついてから、弱々しく笑った。


「タダ我輩は、フェルに忘れられたくないダケデアリマス。イマデハ、プリンセスたちニモ忘れられたくないデゴザイマスケド」


「忘れられたくない、って。そんな、ティチアーノさんのこと、忘れられるわけないよ」


 言われた言葉に、反射的にボクはそう返した。それは紛れもない本心だ。ティチアーノさんがいなくなっても、一生忘れない自信がある。それだけ印象的だし、大切な友達なのだ。忘れるはずがない。友達のボクでさえそう思うのだから、幼なじみで婚約者であるフェルツィウムさんは、より強くそう思うだろう。

 けれど、ティチアーノさんはまるで痛々しいものでも見るかのような目をしながら、それを否定した。


「ソレは生者側の錯覚デアリマスヨ、プリンセス。ヒトはイチド見聞きしたトシテモ、ソレを体感するコトがナクナレバ、不必要なモノトシテ記憶から失うのデス。イクラ覚えていようトシタトコロデ、月日トトモニ風化シテイク。シッテイルデスカ? ヒトはマズ声から忘れていくソウデゴザイマスヨ。ソシテ顔を、最後に思い出を。イマドレダケ、フェルが我輩をオモッテイタトシテモ、ヤガテ我輩の全てを忘れて、新しい魔法使いとソイトゲル。

 ソンナモノはカノウセイだトカ、死ななければソレデイイトカ、ソウ考えられるモノではないのデス! ヒトより死ぬカノウセイがあるカラ、コンナコトを考えるのデアリマス。我輩は死してナオ、誰よりもフェルをオモエルのに、フェルはソウではないカモシレナイ。オモイをナクスドコロカ、我輩トイウモノ全てを忘れられてしまう。ソレを思うと、我輩はっ!」


 ティチアーノさんの吐き出すような言葉とともに、一筋の涙が零れ落ちた。


「クルシクテ苦しくて仕方がナイっ……!」


 体全体でそう叫ぶティチアーノさんに、ボクは何も言えなかった。

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