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話をするならかまくらで

 帰り道はわからないけど、歩いて歩いて歩き続けて、まだ一応氷の城が見える場所でやっとボクは立ち止まった。振り返ると、ティチアーノさんは不思議そうな顔でボクを見ていた。


「コンナところデどうしたデアリマスカ? 何やらタクランデいそうデゴザイマスナー、プリンセス・ルミア?」


「そんなことは……あるね。企んでるよ、ティチアーノさん」


 そう言ってボクはティチアーノさんに笑いかけた。ボクがティチアーノさんの言葉を肯定したのが意外だったのだろう。ティチアーノさんはますます困惑した顔をしている。そんなティチアーノさんをさらに困らせてしまおうと、次の言葉を口に出した。


「よーし、ティチアーノさん! かまくらを作ろう!」


「オヤ? ソノ為にココにキタデゴザイマスカ?」


「と、言いたいところだけど、すでに完成したものがこちらになります」


「エ!?」


 ふっふっふ、驚いてるなティチアーノさん。と、偉ぶってはみるものの、ボクが用意したものでは全くない。このこじんまりとしたかまくらは一昨日、エドガーさんとフランが二人で作ったものらしい。フランがずいぶん楽しそうに話していたので、昨日わざわざここまで連れてきてもらったのだ。

 この場所とロタさんの家……ラボ?が近くて助かった。お陰で絶好の話し場所までティチアーノさんをつれてこれた。まだかまくら崩さないで、って言っておいて本当によかった。ボクがしばらく入ってみたかっただけで、こんな使い方をするとは予想もしなかったけれど。まあこういうのって、自分で作ったのに入る醍醐味とかあると思うけど、まあそこは時間がないので割愛させてほしい。


「さあ、入って入って! 外は寒いからね」


「ココは外デゴザイマスシ、寒さニハ馴れてオルノデアリマスケド、プリンセスがソウ言うマスナラ入るデゴザイマース」


 どことなくわくわくとした様子でティチアーノさんはかまくらへと入っていく。かまくら好きなんだなあ。今は無理になっちゃったけど、問題が解決したときには今度こそ一緒にかまくら作りをしよう。ティチアーノさんがかまくらを作る姿は、まだあまり想像できないけれど、今朝あんなに楽しそうに話そうとしていたし、なんだかすごいのを作りそうな気がする。


 ボクも中に入ってティチアーノさんの隣に座る。すごい。話には聞いていたけど、本当に暖かいんだ。雪の中には変わりないのに。何でなんだろう。

 いや、かまくらに感動してる場合じゃなかった。ティチアーノさんから話を聞くのが目的だ。


「ティチアーノさん」


 聞きたいことが、と切り出そうとしたが、言葉はティチアーノさんに制されてしまった。


「ミナマデイウナ。我輩、サッシはついてるデアリマスカラ」


「えっ」


「我輩とアノ男のコトデゴザイマスデスネ。違うデアリマスカ?」


「ち、違わないね……」


 察されていたのか。よくよく考えれば、あのタイミングで連れ出したんだから、それしかないと考えるのが自然か。やはりティチアーノさんにとってはあまり話したくないことなのだろう。彼女の顔色はあまり良くない。聞くべきだと思ったからこうして連れてきたけど、止めておいた方がよかっただろうか。


「話したくないなら、無理して話さなくてもいいよ! 人間誰しも隠しておきたいことはあるわけだし!」


「……イイエ。モトモト我輩がプリンセスにシタイ話と言うノモ、ソレデアリマスカラ。学園時代カラ話そうトシテイタコトデゴザイマスタガ、機会がナク先延ばしにナッテイタマス故、イマダ二話ができていないノデゴザイマスヨ」


「そうだったの?」


「ハイ」


 学園時代から……? そういえば、一年の頃の修学旅行で時間を貰いたいって言った時は断っちゃったし、その後もティチアーノさんが話したいって来てくれた時もことごとく予定が合わなかったことを思い出した。

 もしかしてあの時からずっと、フェルツィウムさんについての話を聞いてほしかったのだろうか。うう、悪いことをしたなあ。でも、何でボクなんだろう? ……いいや、今はそれを考える時間じゃないな。ティチアーノさんの話に集中しなくては。


 ボクが聞く体勢になると、ティチアーノさんは軽く頷いてから話し始めた。


「プリンセス、コノ国は魔法を中心にウゴイテイルコトは知ってるデスカ?」


「ううん。でも理由はなんとなくわかるよ。この国のご先祖様が魔法使いだから、だよね?」


「ソレもあるデアリマスナ。魔法使いがショウニンズウであるコトは?」


「ロタさんに聞いたよ」


 けれど、それがどうティチアーノさんとフェルツィウムさんの話に繋がるかはわからなかった。魔法が中心の世界でティチアーノさんが貴重って言われるのはわかるけれど、人間関係はまた別だろう。

 そう思っていたが、ティチアーノさんの言葉でボクの価値観は覆された。


「我輩がアイツの婚約者にサレタノハ、ソレが原因デゴザイマスヨ。我輩はウマレタソノ瞬間から、アノ男の妻にナルコトヲ義務ヅケラレタノデアリマス」


「……あっ!? そうなの!?」


 ティチアーノさんは黙って頷いた。魔法使いが中心の国ってことは、貴族なんかよりも地位が高いってことになるから、王族としては手中に収めておきたいってことか。うわあ、何か良い家柄同士が、ってタイプよりも、下心が丸見えな感じがする。

 ディゾルマジーアでは当たり前かもしれないけど、ボクからしてみればその人自体の価値を魔法だけで決めつけていて、はっきり言ってしまえば嫌だ。お金とか結び付きって言うものはその家の価値だけど、魔法は完全に個人の価値だ。人の価値をつけてしまえば、その人から他に価値を見出だすのは困難になる。つまり、ティチアーノさん個人の良さと言うものが、ディゾルマジーアの人々には見えていないことになる。


 でもそれは果たしてフェルツィウムさんも同じなのだろうか。ティチアーノさんとフェルツィウムさんは幼なじみで、昔は仲が良かった。ということは、その頃は魔法なんてものは抜きにして、フェルツィウムさんはティチアーノさんを見ていたのだろう。そんなフェルツィウムさんが、今はティチアーノさんを魔法使いとしてしか見てないとはどうしても思えない。……この辺りはルドヴィンに聞き出してもらうしかないか。


「それで、ティチアーノさんはフェルツィウムさんに反発してるの?」


「……イイエ。我輩は、ベツニ良いのデアリマスヨ。フェルとはナガイ付き合いデゴザイマスカラ、我輩も人並みにレンアイカンジョウとイウモノガあるデアリマスシ、アイツのコトはキライでは、ナイ。我輩がアヤツにアアシテイルノハ、別のワケがあるが故デゴザイマス」


 聞いておいて悪いけれど、そんな気はしていた。フェルツィウムさんのことが嫌いだったら、口論をしているときに泣きそうになんてならないだろうから。ティチアーノさんは多分、嫌っている人に情をかけない人だ。言い合うなら相手が潰れてしまうまで言葉を吐き捨てるだろう。

 ボクには言葉がわからなかったから、絶対とは言えないけれど、きっとティチアーノさんはフェルツィウムさんに心にもない言葉を言い続けていたのだろう。何年も言い続けていたのに今でも涙を流してしまいそうだったのは、今でもフェルツィウムさんのことが好きだからだ、とさっき、直感的にボクは思った。だから連れ出したのだ。


 でも別の理由って、なんだろう。ティチアーノさんがフェルツィウムさんに辛く当たらなければならない理由って?

 ボクに考えられる、色々な理由を予想しながら、ティチアーノさんの言葉を待った。ティチアーノさんは悲し気に笑うと、ボクにこう言った。


「我輩、オソラク長くはイキラレナイのデアリマスヨ」


 一瞬聞き間違えかと思うほど、至極当たり前のようにティチアーノさんはそう言った。

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