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出会いました

 出発時間は本当に朝早くだった。これでも学生時代から早起きしていたはずのボクだったが、ティチアーノさんに叩き起こされた時間は、ボクがいつも起きる時間より一時間早い、午前五時であった。起こされた瞬間、寝坊したのかと思ったが、そうじゃなかったようでほっとした。その分、なぜこの時間に起こされたのかが疑問だったけども。

 ティチアーノさんが言うには、これくらいの時間じゃないとお師匠様が起きていないらしい。生活リズムが普通の人とは違って、日によって違うけれど、大体午前七時から午後四時までは眠ってしまうんだとか。そう考えると、お師匠様が寝てしまうまでには二時間しかないので、急がなければという気持ちになる。


 急いで支度をして、玄関からだとバレるから、ボクの部屋の窓から外に出る。ボクの部屋が一階でよかった。ティチアーノさんの部屋は二階にあるから、多分、というか確実に、ボクじゃ窓から出られなかった。


「うう……寒い……」


 外は昨日と変わらず一面雪で覆われている。視界が悪く、無情にも顔やら身体やらに当たる雪が冷たくて凍えそうだ。

 そんなボクとは対照的に、ティチアーノさんはボクより薄着にもかかわらず、軽やかに前を歩いていた。


「ご、ごめん、ティチアーノさん。もうちょっとゆっくり……」


「アア! プリンセスはコノ土地のキコウにマダ馴れていないデアリマスタネエ。申し訳ござらんデゴザイマス……」


 珍しくしょぼんとした様子でティチアーノさんがそう言うので、ボクは慌てて訂正するように手を振った。


「いやいや、大丈夫だよ! ボク、雪は結構好きだしさ! あ、お師匠様のところ行った帰りに、雪合戦しようよ!」


 昨日、雪合戦やり損ねてたのを、今思い出した。そして、思い出すと急にやりたくなる。正直なことを言うと、ボクの頭の中はお師匠様と雪合戦のことでいっぱいだ。もはや三対七くらいで雪合戦が勝ってしまっている。


「オウ、雪が好きとは、他国民ナノニヨイ心がけデアリマスナー。受けてたつデゴザイマス! デスガ、交換条件があるデスヨ」


「交換条件?」


 なんだろう。ティチアーノさんがしてくることって言ったら……薬品関連? いやいや、ティチアーノさんは、親しい人を実験台にしたことはない。あ、でもエドガーさんはされてた覚えあるな。


「き、危険じゃないやつなら……」


「何の話デアリマスカ?」


 ティチアーノさんは不思議そうに首を傾げた。この反応ってことは、そういう薬品関係ではないのだろうか。いやでもティチアーノさんが、薬品を危険だと思っていない可能性も……あるか?さすがのティチアーノさんでもないように思うけど。


 悩んでいるボクを、不思議そうに見つめた後、ティチアーノさんは普通に口を開いてくれた。


「何の話かはワカランデアリマスケド、我輩は少し、プリンセスと話がシタイだけデゴザイマスヨ。ソウデスナア、かまくらの中でデモよろしいデアリマスカ?」


「かまくら? ティチアーノさん、かまくら作るの?」


 ティチアーノさんがかまくらを作るイメージはない。というよりも、ティチアーノさんが外で遊んでいる姿をほとんど見たことがないから、そういうイメージが湧かない。だから、ティチアーノさんとかまくらが、簡単には結びつかなかった。


「作るデアリマスヨー! かまくらはイイデスヨー、コレデモ我輩は幼き頃カラ……」


「ティチアーノさん?」


 楽しそうに話し出したのに、突然ティチアーノさんは口をつぐんでしまった。心配になって顔を覗きこんで見るが、吹雪のせいで、よく表情は読み取れなかった。


「……何でもないデアリマス。我輩、かまくらは好きデアリマス故、プリンセスとのハナシアイの場にフサワシイと思っただけデゴザイマスヨ」


「そっか。かまくらかー。楽しみだなー!」


 ティチアーノさんの様子に思うところはあるが、さっき子供の頃って言ってたし、きっとボクには深入りできないことであろう。フェルツィウムさん関係で何かありそうだから気になるけれど、突っ込んで聞かずに、ボクは雪合戦とかまくらに思いを馳せることにした。

 かまくらか。そういえばボク作ったことないなあ。ボクは基本雪が積もると雪合戦してたし、ナツメは雪だるまを作るのが好きだったから、かまくらが作られることはなかった。大きくなったらそもそも雪で遊ぶ機会もないしね。初めてのかまくらはティチアーノさんと一緒に入るのか~。楽しみだなあ! 何か冬限定の秘密基地って感じがする!


 そんなことを思いながら、ティチアーノさんの後に続いて歩いていくと、前方に建物が見えてきた。悪天候で見にくいけれど、家にしては大きすぎる建物である。ここにティチアーノさんのお師匠様が住んでいるのだろうか。

 ティチアーノさんはどんどん建物に近づいていって、その側面にあったタッチパネルの数字を、次々と押していった。最初の方は目で追っていたが、長すぎてすぐにわからなくなってしまった。ティチアーノさんが入力し終えると、急に建物から音がして、普通の壁だったはずのところが開いた。


「サア、入るマスデスヨ、プリンセス・ルミア。ココガオッショーサマのラボデス」


 ラボ……? 家ではないんだろうか。とりあえず、中に入ってみよう。

 ボクとティチアーノさんが中に入るとすぐに扉は閉まった。自動ドアみたいなものなのだろうか。前世ではよく見たが、この世界で見たのは初めてだ。いや、ボクの知ってる自動ドアは、こんな壁と一体化しているように見えるものではないのだけれど。なんだか感動する。


 暗い、金属製の廊下を歩いていくと、奥から光が見えてきた。あの部屋にお師匠様がいるのだろうか。……ちょっと緊張してきた。一体どういう人なんだろう。悪い人でないことは間違いないけれど。

 ティチアーノさんは部屋に駆け寄っていくと、中に声をかけた。


「オッショーサマ! オッショーサマー! 朝デアリマスヨー!」


 ボクも中を覗きこんでみる。中は、大量の紙や機械でごった返していた。足の踏み場はないと言っても過言ではない。こんなところに人がいるのか? そう思った矢先、紙束の一部が崩れ去り、小さな機械が二、三個落ちた。


「ティチアーノ……朝なのにそんな声出さないでくれる……? 今から寝ようと思ってたのに、ねえ」


 ちょっと低めだが、女性の声だ。声が聞こえてから少し間をおいた後、機械の山から、ひょっこりと綺麗な女性が顔を出した。


「オッショーサマ! プリンセス・ルミアをつれてきたデスヨ! ほんのショウショウ時間をもらえるデゴザイマスカ?」


「プリンセスルミア? ルミア、ルミア……ルミア・カルティエのこと? それで? 今度はその子が? 来てるの? ふーん……はっ!? 来てるの!?」


「来てるデアリマスヨ」


「もう……来るなら来るって事前に言っておいてくれなきゃ、ねえ。……! 痛い……」


 立ち上がろうとしたお師匠様は、その衝撃で動いた機械で頭をぶつけてさすっていた。なんだか思っていたより、かわいいような気が……?

 ティチアーノさんは慌てて、機械を掻き分けながら、お師匠様のところへと駆け寄り、立ち上がらせていた。手を取ってエスコートしながら、二人はこっちにやってくると、ボクの方を向いた。はっ、そうだ! 挨拶しなきゃ!


「初めまして、ルミア・カルティエです。エルメステラから来ました」


「おお……これはこれは、ご丁寧に。お姫様? この子からもベルからも聞いているわ。うるさいくらいに話してくるんだから、ねえ」


「プリンセスはイイコデアリマスカラナー」


 二人の話が噛み合ってるようで噛み合ってないような感じがするなあ。いや、逆に噛み合ってるのか? 何か独特な雰囲気だ。他にない感じがする。


「ルミア、ルミアね。ふーん、意外と……思ってたのと違うわ。らしいらしくないで言えば、らしくないわ」


「ら、らしくない……?」


 どういう意味だろう。らしくないって、ボクがボクらしくないってこと? いや、どういうことなんだ。ボクはボクだと思うんだけどな。

 言われたことにちょっと戸惑ったけれど、お師匠様はくすりともせず、物憂げな表情のまま話した。


「いい意味で、ねえ。あたしはロタシオン・フォンダート。ロタでもシオンでも、好きに呼んで頂戴な。おすすめはロタの方よ。この二択出すと大体シオンの方選ばれるから」


「はい、じゃあロタさんで……フォンダート?」


「そうよ。何かあったのかしら、ねえ」


 フォンダートって、フォンダートって? あのフォンダート!?

 そう思い至った瞬間、ベルがボクの頭の中で馬鹿にするように笑った気がした。

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