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おやすみ前に

 結局、特に何もわからないまま、就寝時間になってしまった。食事のときもその後も、フランもエドガーさんもいつも通りに見えたし、暗い表情も見せなかった。完全に、普段と同じような感じでボクも楽しんでしまった。何たる失態だ。


 やっぱり今考えてもどうしようもないことだろう。そう思いながら、靴を脱ぎ、ベッドに入って目を閉じる。……何だか、そわそわして眠れないな。


 少ししても眠れないので、目を開けて、天井を見上げた。天井は完全に氷なのに、寒さは感じない。本当に不思議だなあ。向こうの国では特に目新しいものなんてないのだけれど。

 あれか? もしかして、乙女ゲームの続編がこの世界を舞台にしているとか、あるんだろうか。この国が一切ゲームに関わっていないとは思えないんだけどなあ。……そうだった場合でも、さすがにルミアは関係ないよね?


 ま、まあルミアが死ぬことは、もうゲーム上ではないとしても、ありうる話ではある。今さら、だからなんだって感じだけど、ただ単にそういうのを考えるのが楽しいだけだ。例えば、もしかしたらティチアーノさんが、主人公だったりするのかもしれないし。んん、いや、薬作って爆発させるのは、はたして主人公のすることだろうか。それに婚約者がいるから、攻略対象が一人になっちゃうし、ありえないか。

 そういえば、ティチアーノさんは夕食にも姿を現さなかったな。部屋にも行ってみたけど返事がなかったから、フェルツィウムさん曰く、部屋にはいないらしい。いたら必ず、何かしらの返事はするそうだ。フェルツィウムさんはお師匠様のところにいるのかも、って言ってたから、大丈夫だとは思うんだけど、ちょっと心配だな。


 ……ところで、この国の布団って、こう、勝手に動くものなのか? 何だか中で何かもぞもぞしてるような……いや、これ絶対誰かいるな!? ボク以外に布団に入ってる人が!?


 飛び起きて、掛け布団をバッとめくった。電気を消してしまっているため、よくは見えないが、人影は確かにある。急いで、近くにあったランプをつけて、人影の正体を表した。


「誰……って、ティチアーノさん!?」


「フフフ……気づかれたようデゴザイマスネエ。プリンセス、夜分オソクニ失礼するデアリマスヨ」


 それ、普通は部屋に訪ねてきた時点で言う台詞じゃないか? いつからこの部屋にいたんだろう。というか、ボクが部屋に戻ってきてから寝るまでずっと、ベッドの中にいたって言うことか? 逆に何で気づかなかったんだろう。ボクの目は節穴だったのか。


「ティチアーノさん、もしかしてずっとここにいたの?」


「モチノロンデゴザイマース! プリンセス・ルミアがあのアホと部屋を出ていったノデ、そのスキに侵入したのデアリマスヨー。ゼンゼン気づかれなくて、ラッキーデスタネー」


 そんな長い時間ここにいたのか。まさかボクの部屋がティチアーノさんの隠れ場所になっていたとは、それは誰もわからないわけだ。でもどうしてここにいたんだろう。隠れるのなら、まだ使われていない兄様やエドモンドさんの部屋でもよかったんじゃないのか?

 その疑問をぶつけると、ティチアーノさんは少しむっとしたように答えた。


「何を言ってるのデアリマスカ。我輩はキチント伝えたデゴザイマスヨ。カナラズヤ貴女のモトへマスと!」


 ……確かに言ってたな。実際、フェルツィウムさんを振りきってきてたわけだし、ティチアーノさんは有言実行してたのか。


「デスガ、ココにアノヤロウが来てシマイヤガッタノデ、こうして身を隠したシダイデアリマス。ホントウニ面倒な奴デアリマスナー」


 なるほど。ボクがいる間に入ろうと思ってたんだろうけど、フェルツィウムさんが来て、ボクがフェルツィウムさんについていってしまったから、姿を見せてくれなかった、ということか。その後は結構ずっと、近くにフェルツィウムさんがいたし、部屋の中で待っててくれたわけだ。


「あれ? でも夕食の後、ボクが一人で部屋に戻ってきたときも、出てこなかったよね?」


「アー……ハハハ。我輩、待ってる間に、スッカリ眠っていたようデアリマシテ。サキホド、プリンセスが布団に入ってきたトキ、覚醒したノデゴザイマース!」


 ああ、確かに長い間待ってたら眠くなるよね。それなら出てこれなくても仕方がないような……いや、そもそもボクの部屋に侵入してる時点でダメだと思うんだけど、ティチアーノさんだしね。まあ、仕方ないだろう。ティチアーノさんに常識というものは、通用しないと考えた方がいい。


「アア、ソウソウ。我輩ジツハお誘いしに来たのデスナ。貴女の明日一日、借りてもよろしいデゴザイマスカー?」


「うん? うん、大丈夫だよ」


「ソレはよかったデアリマス! マア、ダメだと言われてもムリヤリつれていくデゴザイマスカラ、問題ないマスデスケド」


 実質強制だって言いたいんだな。ボクがもし、明日予定が入ってたら、全力で断るところなのだが、パーティーが行われる日まで、これといった予定はないはずだ。ティチアーノさんが何をするかはわからないが、久しぶりに会ったんだし、ボクも全身全霊で付き合おう。何もせずに一人でいると、またフランとエドガーさんのことで悩んじゃいそうだしなあ。むしろ願ったり叶ったりという感じである。


「ソウト決まれば、プリンセス? 明日目が覚めタラ、スグニ向かうデスカラネ」


「……え? どこに?」


 急な話に驚きながら聞くと、ティチアーノさんはにこやかに笑いながら答えた。


「モチロン、オッショーサマのトコロデゴザイマス。我輩はオッショーサマにプリンセスを献上せねばナランノデアリマス故、モンドウムヨーデスヨ」


 オッショーサマ……ティチアーノさんのお師匠様のことか。確かベルの手紙にも、お師匠様にはお世話になった、とたくさん書かれていた。一年間お世話になってもよくわからない人で、正直理解するのは一生かけても無理だ、と書いてあったのをよく覚えている。そんなお師匠様に、明日の朝すぐに会いに行かなければならないのか。

 ……いや、今ティチアーノさん、献上って言わなかったか。どちらかと言うと、生け贄的なあれなのだろうか。何か急に不安になってきたな……。


「う、うん。それはいいんだけどさ、具体的には何時から……?」


「朝デゴザイマスネ」


 大雑把だね!? ううん? もしかしてこれ、本当にボクが目を覚ました瞬間に連れていかれるのか? さすがにそれは無理なんじゃないだろうか。ボクにも支度とかあるし、勝手に出ていったら、セザールさんはともかく、イリスさんはめちゃくちゃ心配しそうだ。


「あ、そうだ! 朝食は? 朝食くらいは食べてからでもいいかな?」


「フッフッフ、コンナコトもあろうかと、我輩、携行食を持っているデアリマスカラ、心配イランデゴザイマスヨ!」


 そ、そんなの持ってるのか~! くっ、さすがティチアーノさん。準備万端だな! それはお腹が減っても困らないね! ボク、そういうの食べたことないから、ちょっと憧れてたし、心惹かれてしまう!


「ううむ……よし、じゃあそれでいいや。でもその前に、イリスさんとセザールさんにだけでも、所在を教えておいてもいいかな? 心配かけたくないし」


「ムムム……。イエ、許可デキナイデスナ。ダレカ一人にデモ伝えてしまえば、アヤツが向かって来てしまうデアリマスカラネ! 誰にも言ってはイケナイデゴザイマスヨ」


 誰にも言わなくても、フェルツィウムさんはお師匠様のところに向かってきそうだけども。でもそれならボクの居場所も必然的にわかるってことだし、大丈夫かな。何も言わなかったことによって、多少は怒られそうだけど、まあいいか。危険なことに首突っ込むわけでもないしね。

 ……ああ、それでも、兄様は悲しむのかな。


「ソレデハ、早く寝るデスヨ。プリンセス・ルミア、よい夢を」


 そう言ってウインクしてから、ティチアーノさんはすぐに眠りについた。さっきまで眠っていたらしいのに、よく寝れるなあ。

 ……あれ? ティチアーノさん、ボクの部屋で寝るのか!? 何でだろう。変なことのはずなのに、全く違和感がなかった。さっきまでティチアーノさんがここで寝ていたからだろうか。うわあ、びっくりした。


 寝る前にたくさん驚かされたからか、何だか疲れてよく眠れそうだ。考え事をすることもなく、ボクの意識はゆっくりと眠りに落ちていった。

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