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今できることはない

 ルドヴィンの部屋に、フェルツィウムさんと一緒に入ると、ルドヴィンと一緒にラフィネもそこにいた。フランの姿もエドガーさんの姿も、そこにはない。


「失礼するよ、ルドヴィン。プリンセスのご来訪だ」


「ん? おお、思ってたより早かったな」


 二人は思っていた以上に部屋でまったりとしていて、仲良くチェスをやっていたようだった。ボクはルールを全く知らないから、どっちが優勢なのかはわからない。どうやらこの様子だと、フランの体調不良も知らないのかもしれないが、一応聞いておこう。


「エドガーさんとフランには会ってない?」


「エドガーとフランソワーズ? そういえばルミアを迎えに行くってはしゃぎながら出ていったっきり、戻ってきてないよね」


「ああ、そういやそうだな。また二人でどっか探検でもしてるのか? 好きだな、あいつらも」


 戻ってきてないのか。エドガーさんなら、フランを送り届けた後、傍を離れないにしても、ルドヴィンに報告くらいはするだろう。それなら二人は今どこにいるんだ? 何のために、別の場所にいるんだ?


「二人が何? 何かあったの?」


 ラフィネにそう聞かれて、どきりとした。ボクが感じた違和感を、勝手に話していいのかわからない。ボクが変だと思っているだけだし、もし思い違いだったら、無駄に心配させてしまうことになる。それにエドガーさんにも迷惑をかけるかもしれない。これを、ボクの独断で言っていいことか、判断できない。


「おい、なにうじうじ迷ってんだ。どうせお前は嘘下手なんだから、さっさと言え」


 むう、確かにそうだけどさ、ちょっとくらい迷ったっていいじゃないか。ボクだって色々考えてるんだから!

 でも確かに、聞かれた時点で隠し通せるわけないな。悔しいけど、それはもう十分にわかってる。何年嘘が下手って言われ続けてきたと思ってるんだ。ボクはやっぱり、できるだけ正直に生きねば。


「実は……」


 ボクが感じたことを率直に話すと、三人とも不思議そうな顔をした。


「確かにそれは妙だな。大騒ぎしないのはエドガーらしくない」


「そうだね。フランソワーズ殿と出会ったのは昨日が初めてだったけれど、エドガーがどれだけ彼女を好んでいるかは知っていたし、部屋にすぐ連れていかないのはおかしいね。エドガーはこの城で迷子になったことないし……」


 思った通り、迷子の線はないのか。やはり、エドガーさんの行動は変なんだな。ボクの思い違いではなかった。もしやエドガーさんは誰かに成り代わられて、今は本物のエドガーさんじゃないとか……いや、それは考えにくいな。ボクを迎えに来る前は普通だったみたいだし、その間ずっとフランと一緒だったなら、入れ替わることは不可能だ。それに、来たときにはフェルツィウムさんもいたしね。エドガーさんが偽物だったとは考えにくい。


「ねえ、フランソワーズは本当に体調が悪かったの? 演技だったりとかしないよね?」


「え? うん、それは間違いないと思うよ。明らかに顔色悪かったし……そういえばエドガーさんも、何でか深刻そうというか、悲しそうな顔をしてたな」


 ずっと行動のことしか考えていなかったが、別れる前のエドガーさんの表情はずいぶんと暗かった。あの表情の意味は何だ? 何かあることは間違いないんだけどな……。


「ふうん……。てっきり僕は、二人して何か隠し事でもしてるんだと思ったけど、それは違うのかな。何か話さなきゃいけないことができたから、その場から急遽離れなきゃいけない風を装った、みたいな」


「エドガーとフランソワーズ嬢がそんな回りくどいことするとは思えないが。何か隠してるって言うのはあるかもな。二人しか知らない何か、それも、エドガーが暗くなるほどの悪いことをな」


 なるほど。そういうことはあるかもしれない。……そういえば、フランは調子が悪くなる前にも、一度、暗い顔をしているのを見たような……?


「まあ、お前じゃあるまいし、聞いたところではぐらかすだけだろう。とりあえず今無事なら後回しにするぞ。何かあったらその時考えりゃあいい」


「え、ええ!? その時にはもう手遅れだったらどうするの!?」


「その時はその時だろ。オレたちには他にやることがあるし、お前じゃないんだから、どうしようもなくなったら言ってくるだろ。この話は一旦終わりだ」


 こ、こいつ……さっきから、ボクじゃないんだから、って何度言う気だ! ボクと比較するんじゃない! 否定は……まあ、しないけどね!


 しかし、確かにルドヴィンが言うこともわかるんだけど、二人のことを考えると何だかもやもやするんだよなあ。このまま放置しておいていいのか、ってどうしても思ってしまう。無理にでも問いただした方が……いや、エドガーさんはまだしも、フランに強制はできないな。

 こんなことは思いつつも、ルドヴィンに動く気がないのなら、ボクが何かやっても取り返しのつかないことになる可能性がある。考えなしに一人で行動するのは得策ではないだろう。それなら、ルドヴィンの言うとおり、今は後回しにしておくしかない。けれど、注意を払っておくくらいは問題ないだろう。イリスさんやセザールさんにも伝えておいて、二人の動きに気を配っておいてもらわなければ。


 そう思った直後、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「ただいま戻りましたっすー!」


 さっき別れた時とはうってかわって、元気そうなエドガーさんの声だった。振り向いて見ると、後ろにはフランが、どこも悪くなさそうな顔色をして立っている。


「遅いぞ、エドガー。ああ、フランソワーズ嬢。こいつから体調を崩していたと聞いたが、大丈夫か?」


「はい! 心配させちゃってごめんなさい、ルミアちゃん。今は元気ですから、安心してくださいね!」


 そう言って、いつも通り、フランはボクに抱きついてくる。エドガーさんも、大声でルドヴィンに謝っていて、まさにいつも通りという感じだ。まるで、さっき見たのは嘘だったかのように、二人とも明るい笑顔をしていた。

 だが、あれは間違いなく現実だ。夢なんかではない。あの状態を見たのはボクだけだから、説得力はないが、二人の表情には確かに現実味があった。現に、フランは体調を崩していたと言うことを認めているのだ。やはり、あの表情は見間違いでも夢でもない。きっと、ラフィネとルドヴィンの言うとおり、何か隠している可能性が高い。


「どうしたんですか、ルミアちゃん。難しい顔をして、何かありましたか?」


「い、いや、何でもないよ! フランが元気になってよかった!」


「ふふ、そんなに心配してもらえて、私は幸せ者ですね」


 二人だけの時間で何を話して、どう結論付けたのか、ボクにはわからない。けれど、フランの体調を一時的に崩し、エドガーさんにあんな顔をさせたことが、話し合いだけで解決できているはずがないのだ。嫌な予感は、考える度にましていく。だからせめて、それが良い方向で収まってくれるように、何か言ってくれるその時まで、目を光らせておかなければ。それが今のボクにできる、精一杯のことであるのだから。


「ムーくん、またティノちゃんに逃げられたんすか!? 懲りないっすねー」


「ルミアちゃん、ルミアちゃん! 昨日の話なんですけど……」


 楽しそうに話す二人の顔は、どうしてだか翳って見えたのは、見間違いだったのだろうか。

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