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奇妙な行動

 氷の城にある部屋も、間違いなく氷の部屋だったけれど、ベッドとか、机とか、氷以外の別の素材でできているものはなぜか凍っていなかった。もしかしてこれも魔法の力、みたいなものなのだろうか。魔法というものがよくわかっていない以上、これは推測でしかないのだけれども。


 もう少しよく見てみたくはあったが、ボクの頭の中では、さっきのフランとエドガーさんの様子がぐるぐると巡っていた。フランは体調不良だとしても、明らかにエドガーさんの様子はおかしかった。普段のエドガーさんならああいうとき、真っ先にフランの異常に気がついて、慌てふためくはずだ。

 ……いや、慌てふためかないときもあるかもしれないけれど、フランのことだしなあ。フランのことには過剰反応するのに、あの対応はエドガーさんらしくない。そして何より、フランの様子に気づいて声をあげるのは、本来エドガーさんだったはずだ。エドガーさんが、他の人より遅くフランの容態に気づくなんて、ありえない。

 前にフランが熱を出していたときも、ボクやラフィネは気づかなかったのに一目で気づいていた。今日はあんなにわかりやすく顔に出ていたのに、エドガーさんが気づかないはずがない。何かに気を取られて気づかなかったのか、それとも気づいていて、ボクに指摘されるまでなにもしなかったのか……? エドガーさんに限って、そんなことはなさそうだけど。


 考えたって仕方ない。フランが心配だし、様子を見に行こう。ついでに、ルドヴィンとラフィネにも顔だしておこうかな。食事のときとかに会えるだろうけど、念のために。そう思い、部屋から出ていこうとすると、ドアノブに手をかける前に、扉がノックされた。


 誰だろう? イリスさんかセザールさんか……それともティチアーノさんかな。思い当たる人を並べながら、扉を開けると、さっき見知った顔がそこにはあった。


「失礼します、プリンセス。お休みのところ申し訳ありません」


「えっと、フェルツィウムさん?」


 予想だにしなかった人物が訪問してきて、つい驚いた声をあげてしまった。ついさっきティチアーノさんをつれていっていたのに、何か急ぎの用でもあるのだろうか。


「はい。君のところにティノは来ていないでしょうか。話が長くなると思って珈琲を用意している間に部屋を抜け出してしまったようで……」


「そ、そうなんですか……」


 ティチアーノさんは自由奔放だからなあ。なぜかはわからないけれど仲も良くないみたいだし、単にお説教が嫌だと言うのもあるだろう。隙あらば逃げるくらいはしそうだ。だってティチアーノさんだから。


「ボクの部屋には来てませんね。力になれずすみません」


「いえいえ。元はと言えばティノを逃がしてしまった自分が悪いので。それでは、失礼しますね」


 そう言って、フェルツィウムさんは立ち去ろうとしたが、はっとしたような顔をして、またこちらに振り向いた。


「ああ、そうだ。どこに何があるのかわからないのは不便でしょう。自分でよろしければご案内しましょうか?」


 そう聞いた瞬間、王子様に案内させるのは申し訳なくて断ろうとしたが、口に出す前に考え直す。今ちょうど、ボクはフランやラフィネたちの部屋に行こうとしていた。けれどよく考えたら、皆の部屋がどこにあるかなんて全く知らなかった。全然見て回ってないけど、外から見た感じではずいぶん広そうだったし、ボク一人で辿り着ける気がしない。正直、絶望的である。

 それなら、フェルツィウムさんに教えてもらった方が、確実に皆のところまで行ける。ボクが迷子になってしまって探させてしまう方がよほど手間だろうし、その方がいい。ここはフェルツィウムさんの厚意に甘えるとしよう。


「お言葉に甘えて、お願いしてもいいですか?」


「はい、もちろんです。自分にお任せください、プリンセス」


 フェルツィウムさんは一礼してから、先導し始めた。


 ……そういえば地味に気になってたけど、何でこの人度々、ボクのことをプリンセスって呼ぶんだ? 初対面で本物の王子様が、本物のお姫様でもないボクにプリンセス、なんて呼び方しないだろうに。

 いや、でもティチアーノさんも初対面のときから呼んでたな。何でだかわからないが、一回も疑問に思ったことなかった。一体どうして……あっ。


「おや? どうされましたか、ルミア殿」


「い、いえ。特には。……あの、フェルツィウムさんはルドヴィンと仲が良いんですよね?」


 ボクがそう聞くと、フェルツィウムさんは穏やかな笑顔で頷いた。


「はい。最初は第二王子が外交官として来るだなんて、どういう厳格な人が来るんだろうと思っていたけれど、良くも悪くも垢抜けた人で驚いたなあ。自分と違って行動力があって、憧れてます。そうだ、ルドヴィンはよく、君の話をするんですよ」


「ボクの話?」


「他の人の話に比べて、圧倒的にね。そのお陰で、会ったこともないのに、自分もティノも、君のことに少々詳しくなってしまいました。なので、ある程度君のことは知っているつもりです」


 ちょっと詳しくなるほど、ルドヴィンはボクのこと話してるの!? そんなに話すこともないだろうに、一体何を話したんだ。内容によっては絶対許さないからな!?


 しかし、これで合点がいった。ルドヴィンはボクのことを、よくお姫様と呼ぶ。正直あれは、多分仲良くなってなかったから、名前で呼んでくれなかったんだろうな。まあなぜか今も全然呼んでくれないんだけどね。

 というわけで、ボクがいないところではどうかわからないが、もしも外でもボクの名前を呼ばないのなら、代わりにお姫様と呼んでいるのかもしれない。いや、呼んでないかもしれないけど、そう呼んでたなら、ティチアーノさんとフェルツィウムさんにとって馴染みがあるのは、ルミアと言う名前よりもお姫様と言う名称の方だろう。それならプリンセスと呼ぶのもおかしくない……こじつけだろうか。


 でもそう考えないと、プリンセスと呼ぶ理由がわからない。他に何かあるだろうか。女の子全員を呼んでいるならわかるけれど、フランとイリスさんをそう呼んでいるのは聞いたことがない。ということは、ボクの考えた理由はあながち間違ってないだろう。うん、多分そうだ。すっきりした。


 そんなことを考えながらも、色々な部屋の場所を教えてもらっていた。やっぱり広いお城だ。建物のほとんどが氷だから、すぐ道に迷いそうだし、慣れるまでは一人で歩けそうにないなあ。


「所用な場所も案内したので、そろそろルドヴィンたちの部屋に参りましょう。客室が多くて見分けがつきにくいと思いますが、実はルミア殿の部屋の近くにあったんですよ」


「え? そうだったんですか?」


「はい。君達の部屋から二部屋分向こうは、もうルドヴィンの部屋ですよ。隣がエドガーで、その隣がフランソワーズ殿、一番奥がラフィネ殿になります。ふふ、気づかなかったでしょう?」


 全く気づかなかった。ボクが行こうとしていた部屋は、そんなに近くにあったのか。おそらく二部屋分空いているのは、兄様とエドモンドさんの部屋だろう。ということは、他の人の部屋に行くだけなら、そんなに移動しなくても済むのか。なんだか騙された気分だ。


 あれ? それじゃあエドガーさんは、フランをどこに連れていったんだ? エドガーさんはフランまで送っていくと言っていたのに、エドガーさんが走っていった方向は、どう考えても反対方向だった。エドガーさんはルドヴィンと一緒に何度かここに来ているはずだから、間違えるようなことはないだろう。なら、どうしてだ?

 ……もし万が一間違えていたのなら、部屋に戻ってきているはずだ。でも戻ってきていなかったら、何か理由があって違うところに行ったと考える他ない。早く二人の部屋を訪ねてみよう。考えるのはそれからだ。

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