役割分担
「説明の前に聞いておきたいんだけどさ」
出てくると思わなかった言葉に驚いていると、ラフィネが兄様に確認するような口振りでそう口を挟んできた。
「どうして第一王女なの? ルドヴィンの上に何人候補がいるかはよく知らないけどさ、王位継承権一位は第一王子で決まりなんでしょ。それじゃあ、さっさと第一王子の方を片付けた方がいいんじゃない? 難しいかもだけど、そっちが先の方が、動揺を誘えそうだし」
ええっと、つまり第一王子から王位継承権をなくすことで、なんかこう、ひとまずうやむやにしようと言うことだろうか。確かに、次期王様が確実って人が、王になれなくなったら、他に継承者がいても、多かれ少なかれ絶対混乱すると思うし、混乱に乗じてルドヴィンが王に……なんて、甘いことはないだろうけど、隙をつくことならできるだろうか。
むう、でも仮にも、ルドヴィンのお兄さんやお姉さんなわけだし、どっちにしろ一筋縄ではいかなさそうだけどなぁ。というかお姉さんの方に不祥事があるのが驚きである。
ラフィネの問いかけに、兄様は言いにくそうにルドヴィンに目を向けた。
「……何だよ」
「お前から伝えた方がいいだろう」
「それは、そうだけどなあ……」
ルドヴィンはもごもごと口を動かしていたが、やがて一つため息をついてから、言いにくそうに口を開いた。
「あいつ、第一王子の方は、一応もうどうにかなってんだよ。だから、そっちを片付ける必要はない」
「そうなの?」
ラフィネがきょとんとした顔をして首を傾げると、エドガーさんはどこか楽しそうに、身を乗り出した。
「そうなんすよ! なんとルドヴィン様の決死の犠牲によって懐柔」
「おい、その話はするな、エドガー」
「ひえっ! ごめんなさいっす!」
何かを話し始めようとしていたエドガーさんだったが、ルドヴィンのあまりにも強い目力に、おとなしく席についた。けれど、まだそわそわとしていて、話したそうにしているから、きっといい方向で話が纏まったのだろう。
それなら心配することもないか。エドガーさんとは対照的に、ルドヴィンはめちゃくちゃ話したくなさそうだから、逆に何があったのか気になりはするけれど。
「もういいだろ、この話は。アンドレ、続き」
「ああ。一週間後、隣国の公爵家で開催される大々的なパーティーがある。第一王女はその公爵家と親密な関係にあるのだが、あろうことか五年ほど前から非合法組織の一人と恋人関係になり、その公爵家とともに、その組織を支援している、という情報を得た。公爵家自体を糾弾するのは簡単だが、第一王女を王位継承権候補から外すことを考えると、隠蔽される前に証拠を握っておき、叩きつけた方がいい。そのために、パーティーが行われている間に潜入し、証拠を手に入れることが目的だ。
という訳で、明後日にはディゾルマジーアに向かいたい。何か異論はあるだろうか」
非合法組織……本当にそういうのってあるのか。前世でもニュースとかで、何かしらの問題があるとかは見たりはしたが、正直テレビの中の出来事だと思っていた感は否めない。だから、イメージでは完全にヤバい組織と言うことくらいしかわからない。
「明後日って、ずいぶん急ですねぇ。お父様の了承が取れるか心配です」
フランが困ったようにそう言うと、兄様は神妙に頷いた。
「そうだな。やることも危険に晒される可能性があることだ。取れるにしても取れないにしても、お前には向いていないだろう。相手は殺す気でかかってくる可能性があるからな」
「えっ、そんなに危険なことなの?」
聞こえてきた言葉に、思わず声をあげてしまった。まさか殺される危険性があるなんて、思ってもみなかったのだ。
「ああ、パーティーとはいえ、非合法組織の者がいないとは思えない。警備の者を装ってとして徘徊していることもありうるだろうから、怪しい動きをすればすぐに消しにかかってくるだろう。……本当はルミアにもやってほしくはないんだがな」
兄様はそう言って眉尻を下げた。そんな顔をさせるのは申し訳ないけれど、それ以上何も言わないということは、言っても聞かないとわかっているからだろう。ごめんなさい、兄様。せめて無傷でいることを誓おう。
「……それで、どうする? フランソワーズ。来れないならそれでいいが、来たいと言うのなら、俺も男爵に掛け合おう」
フランは少しの間黙っていたが、やがて決心するように頷いた。
「……行きます、行きたいです。何の役にも立てないかもしれませんが、行かずに後悔するよりましですから」
「そうか、わかった」
兄様はほんのわずかに口角をあげた。表にはなかなか出さないが、フランが危険だけど行きたいって言ってくれて嬉しいのだろう。何だかんだ言って、二人とも長い付き合いだし、特有の関係性のようなものが、目に見えるようだった。
そんなことを感じていると、ルドヴィンが愉しそうに笑って、話を始めた。
「よし、他の奴らは大丈夫だな?
さて、それじゃあ役割分担を発表する。役割は大きく分けて三つだ。客としてパーティーに出る出席班、パーティー中にこそこそと屋敷の中を探し回って証拠を手に入れる潜入班、そして、潜入班が怪しまれた時に、潜入班のところに増援が行かないよう、非合法組織に乗り込んで掻き乱す撹乱班に分かれるぞ」
出席班と潜入班と……撹乱班!? 確実に撹乱班が一番危険じゃないか。くっ、それなら出来たら撹乱班がいいなぁ。あんまり皆を危険な目に合わせたくないし……。
というかボクに向いてるの撹乱班しかなくないか。うん、じゃあ撹乱班で決まりだな。
「まず出席班はアンドレとフランソワーズ嬢だ」
「……へ? 私とアンドレ様ですか? 私はわかりますが、アンドレ様ですか?」
困惑したように、フランはルドヴィンにそう聞いた。言いたいことはわかる。てっきり、兄様は撹乱班だと思っていたのだろう。ボクも聞いたとき一瞬そう思った。兄様は一人で非合法組織の一つや二つ、壊滅させられそうだしなぁ……あ、でも兄様は誰もが目を惹く美しさだから、逆にそういうのには向かないのか?
兄様も聞かされていなかったらしく、訝しげな目でルドヴィンを見ていた。
「あー、まあな。言いたいことはわかるぜ。でも、お前らを選んだのは単純に見た目だな。戦闘能力は一切考慮してない。ほら、この場にいる貴族の中で、一番綺麗だろ」
この場にいる貴族と言うと、ボクと兄様とフランとルドヴィンか。……確かに。
「待ってください、さりげなくルミアちゃんのこと綺麗じゃないって言いましたか?」
「お前の顔面を撹乱してやろうか」
「いや、待て、一般論だ。だからその足を下ろせ」
おもむろに足を振り上げた兄様を何とか落ち着かせると、ルドヴィンは話を続けた。
「それを差し引いても、貴族としての経験はオレやそいつよりお前らの方が上だろ? 無理にオレらが出て醜態晒すよりも、お前らが出た方がよっぽどましだ。という訳で、頼んだぞ」
「……それもそうか。わかった、任せてくれ」
「……はい、自信はあんまりないですけど」
フランの元気が少しなくなったように見えて心配になったが、ルドヴィンはそれに気づいていないのか、次を話し始めた。
「次に、潜入班。やってもらうのはルミアとエドガーな」
「えっ!?」
「わーい、やったっすー!」
ボクが潜入班!? どうして!? 向いてなくないか!?
「あ、そうだ。女中さんとあん……下僕にも潜入班をやってもらう。大事な資料は一纏めにせず分散させてるかもしれないからな」
「かしこまりました」
「りょーかいしましたー」
「い、いやちょっと待って、ルドヴィン!」
このまま話が流される前に理由くらいは聞いておかなければ!
「どうした? 変えるのは無理だぞ」
「うぐ、いや、何で潜入班なのかなー、って」
「うん? ああ、お前にした理由か」
ルドヴィンから軽く伝えられた理由は、酷く単純なものだった。
「撤収するときとかに、小さいからちょこまか動き回って逃げやすそう」
……それだけかよ!
確かに逃げやすいとは思うけどね! まさかコンプレックスの面が採用されるとは思わなかった。こいつ……、いや、まだ諦めてないから。今でももっと伸びるんじゃないかって信じてるから!
ボクはその事で頭がいっぱいになりすぎていて、ラフィネが青ざめていたことに全く気がつかなかった。




