第四十四話:託されたもの
「おぉらよっ!」
巨体から放たれる斧の一振りが、複数の暗殺者を武器諸共吹き飛ばした。
「ぐああっ! ば、化け物がぁ······!」
「ひっでぇ事言うじゃねぇか······。なぁ! 暗殺者さんよぉ!」
「···っ!」
アルバのひと睨みに、周りの暗殺者たちはたじろいだ。
「捕獲用スパイダーネット射出」
側面からフェノメナが鉄の網を撃ちだし、暗殺者たちをひとまとめにした。
「出力60パーセントに設定、電撃放出」
「「「ぐぎゃああああああ!!!」」」
鉄の網を電撃が伝っていき、網に捕らえられている暗殺者たちを直撃。暗殺者たちは全員気絶した。
「ふっふーん。見たか、これぞまさに一網打尽ってね!」
「増援は無ぇみたいだな」
「さっさと首謀者を捕縛しましょう」
「ちょっと! 無視すんなぁぁ!」
2人に無視されて不満を叫びつつも、カズラはきりっと表情を切り替えてロウレンの元へ向かった。
「さ、これでとり巻きはいなくなりました。大人しく連行されてください」
「ぐぬぬ。化け物共めが······!」
「文明が衰退したこの時代に、私のような機械人形はオーバースペック過ぎるのですよ」
「俺っちは人間だぜ? この右腕以外は、な」
「捕縛輪、セット」
フェノメナは右脚の外腿辺りからフタを開け、鋼鉄製の捕縛輪を取り出し、それを慣れた手つきでロウレンの両腕に取り付けた。
「く······っ!」
「さて。·······後はよろしくね、リゲルくん」
◆◆◆
地上で激しい戦闘が起こっているようだが、彼女たちならば問題無いだろう。フェノメナもついているし、私たちはこっちに集中だ。
慣れた道を突き進み、一気に施設内部へと到達した。
······いつ見てもおかしな光景だ。
私は知らなかったはずなのに、この機神の手を通して様々な機械の知識が流れ込んでくる。
私はコンソールに触れ、システムを起動した。
「私がナビゲートします」
「ワタシも横でサポートするからね!」
「よろしくな、二人とも!」
機械人形のファルシアとフェリシアがサポートしてくれるのなら大丈夫だ。
「拠点爆撃用戦略兵器GRAVITY・APOCALYPSE······。何だこれ······、拠点制圧兵器じゃ無かったのか?! こんなもの、国を吹き飛ばすどころじゃないぞ!」
施設に残っていた兵器は、拠点制圧どころの物じゃなかった。国どころかこの世界すら滅ぼしかねないほどの超危険物、拠点爆撃用ミサイルだった。
これを、解体処分ではなく封印する······?
これの存在を国が知ったら、いずれこれを巡って戦争が起きるんじゃ······。
「······」
「封印しちゃわないんですか、師匠?」
「アイビス······?」
「あのお姉さんが言ってたじゃないですか、『世界を救う為に』って。だったら、いずれ来るその日の為にこれが必要って事なんですよ」
「······」
これが必要になるほどの事態······?
あるのか、そんなものが······?
「とりあえず、今のところは封印しておきましょう。その後どうするかは、またその時に話し合いましょうよ」
なんて単純で、お気楽な考えなんだろうか······。
でも、私は少なからずそんなアイビスに助けられてるところもあるんだよな······。
······そうだな。
もっと、単純に考えても良いんだ。
「······だな。封印するか」
「はい!」
せっかくなら、超厳重な防御システムを組み上げてやろう。
外部からのハッキングも許さない、私以外にはコンタクトも受け付けないほどの、厳重なプロテクトを施してやる。
「多重防衛プログラム構築、完了」
「バックアップもついでに完了!」
「······ふぅ。やっと終わった」
念には念を入れて、特殊なウイルスも仕込んでおいた。
プロテクトが全て破られた場合に限り発動し、ハッキングを仕掛けた端末を強制的に暴走させるウイルスだ。
さすがにファルシアやフェリシアではそこまでは出来なかったので、私が作製した。
「これで大丈夫かな?」
「問題ありません。ご主人様が行った防衛プログラムとウイルスを全て無力化する為には、ご主人様と同じ機械の手が必要です」
「それ無しで行うとなると、今の時代の人間だと解析だけでも1500年は先になるかもね!」
「そっか。まずコンピュータを生み出すところからだから······」
コンピュータを生み出すだけでも様々な研究と開発が必要だし、それ以前に資材も電気も無い。魔力で代用するにしても、それ専用にまた機械を開発しなくちゃいけなくて······。
機械の手無しだと、途方も無い年月と数多くの苦難が待ち受けている。
超古代文明の凄さを思い知らされるな······。
「さ、帰ろうか」
「はい、ご主人様」
「はーい!」
「ユニも疲れたろう? 大丈夫?」
「······へいき」
「そっか」
「あ、じゃあ私がおぶっていきますね。結局私だけ約立たずでしたので」
「ん······」
という訳で、ユニはアイビスが背負っていく事になった。
地上は大丈夫だろうか······?
大丈夫だよな。
◆◆◆
「お疲れ様でした、リゲルさん」
「あれ?」
遺跡の外にはロウレンも暗殺者たちの姿も無く、またカズラたちの姿も無く。
いたのは機械人形のフェノメナ1人だけだった。
「カズラたちは······?」
「ハカセたちは先に本国へと向かわれました。ロウレンと暗殺者一味の護送中です」
「2人だけで大丈夫なのか?」
「問題ありません。ハカセ自身は魔法戦闘もいけますし、雷光······コホン、アルバさんも強いですし、サポート用の小型機も持ってきていましたので」
「あ、そう······」
なんというか、凄い人たちだ······。
「ハカセより言伝を預かっております」
「言伝?」
「再生します」
フェノメナの右手首がパカッと開き、中から小型のレンズが出てきた。そのレンズからの光が遺跡の外壁に照射されると、そこにカズラの姿が写し出された。
「わっ! びっくりしたー!」
機械の事については相変わらず免疫が少ないアイビスは、飛び上がりそうなほど驚いていた。
『リゲルくんたち、お疲れ様でしたー。無事に戦略兵器の封印が終わったようで何より! ロウレン一味の事は感謝と、そして謝罪の言葉を送ります。シルヴェニアの内部事情に巻き込んでしまってごめんなさいね。そのお詫びと言う訳でも無いのだけど······、フェノメナを貴方に託します』
「えっ?」
「「え?」」
フェノメナを、託す······?
『フェノメナは元々砲撃戦用、それを無理やり精霊を軍事利用する為に強引に改造された機械人形です。そんな彼女を、この時代でようやく元の姿に戻せました。人格の方は、見つけた時にはすでに初期化されていました。おそらく、元々廃棄処分の予定だったのでしょう』
「······」
『貴方は、ファルシアとフェリシアを戦いの為の兵器としてではなく、仲間、あるいは家族として接しているようだとアキナから聞いています。なので貴方に、フェノメナを託す事にしました。フェノメナにとっても、お姉ちゃんたちと一緒の方が嬉しいでしょうしね。貴方なら、彼女たちを大切にしてくれる事でしょう』
「ハカセ······」
「「······」」
『それではリゲルさん、フェノメナ共々、私の可愛い娘たちをよろしくお願いします。いくら可愛いからって、✕✕しては駄目ですよ?』
「ちょ?!」
「再生終了」
最後にとんでもない事を言い残して、カズラのメッセージ映像は終了した。
「······という訳ですので、これからよろしくお願い致します。私のご主人様」
随分含んだ言い方だなこの子······。
姉妹機って言っても、ファルシアとフェリシアの性格も大分違うし、フェノメナはどんな性格をしているのやら······。
「歓迎します、フェノメナ。もう逢えないと思っていたので、とても嬉しいです」
「うんうん! これからもよろしくねフェノメナちゃん!」
「私も嬉しいですファルシアお姉さま。フェリシアお姉さまは少しうるさいので離れていただけますか?」
「ヒドイ?!」
「はっははは······!」
フェリシアに対しては容赦がないな。
どうやら、思った事はすぐに口に出す性分のようだ。
これは、また一段と賑やかになるな······。