十五話:盗賊団の討伐と気になる話
〈〜こんこらむ:11〜〉遺跡について
大昔の人々が遺した建造物、及び遺品や発掘物。
大半は風化していて、中には崩れてしまったところもある。
一部の遺跡には、剣よりも硬い材質の壁や、未知の物質で構成された道具など、この時代では到底考えられないようなものが発掘されている。学者たちによれば、遺された文献などに度々登場する『キ カ イ』なのではないかとされているが、詳細は不明である。
「正気ですか!」
アイビスに二度目の「正気ですか」発言を頂戴してしまった私は、二人を連れて盗賊団が隠れているらしい遺跡へと向かっていた。
遺跡はマルベラの街から南東に片道二時間程の距離に位置しているらしい。周囲は見渡す限り草原・あるいは荒野ばかりで、隠れられる場所などどこにも無い。なので、遺跡に籠もっているのはほぼ確実だろう。
結局街では協力してくれそうな人は誰もいなかった為、いつもの三人で向かっているのだが⋯⋯。
「分かっているんですか!相手は盗賊、しかも二十人ですよ!私たち三人だけで捕まえきれると思ってるんですか?!」
出発前から、今もずっとアイビスに怒鳴られまくっている。
確かに彼女の言い分ももっともだ。圧倒的人数差、普通なら勝てるかどうかも怪しいのに、さらに捕まえて連行するまであるのだ。連行中に逃げられてしまう事も考えられる。一人でも脱走を許してしまえばほぼお終いだ。
「まぁまぁ、落ちついて。ちゃんと勝算はあるから」
「⋯⋯ホントにあるんですか?」
じと。
イヤな目で見られた。これは信用してないな。
「アキナもありがとう。ごめんね、付き合ってもらって⋯⋯」
「いえいえ、気にしないでくださいな。一緒にごはんを食べた仲ではありませんか。わたくしの魔法がお役に立てるのなら喜んでご協力致しますわ」
アキナは満面の笑みでそう言ってくれた。
「ありがとう。そう言ってくれて助かるよ」
「⋯⋯で、師匠。ホントに勝算はあるんですかー?」
「も、もちろんだとも」
アイビスに詰め寄られながらも、私は説明する事にした。
「バレンさんに聞いた話だと、遺跡の入口は狭い通路になっていて、その先には開けた大部屋があるだけらしい。通路が狭いなら、一度に相手出来るのは二人か三人程度。それなら私一人でも相手取る事は出来るハズだ。倒したヤツはアキナに拘束してもらう。この作戦なら行けると思うんだけど⋯⋯、どうかな?」
「⋯⋯一対三で勝てるとしても、二十人倒すまで体力保つんですか?」
「そこは大丈夫。体力には自信があるから」
「⋯⋯はぁ。分かりました」
どうやら分かってくれたらしい。
「だったら私にもお手伝いさせてください」
「へ?」
急な申し出に、思わず変な声が出てしまった。
「⋯⋯いいの?人間相手に戦う事になるよ?」
「そりゃあ人を相手にするのは嫌です。怖いです。でも、師匠にばっかり危ない事をさせて何もせずにいては、弟子を名乗るなんて出来ません!」
アイビスは自分の想いを爆発させるように言った。そこまで覚悟を決めてくれた事は素直に嬉しい。
「⋯⋯分かった。じゃあ一緒に戦おう。ただし、無理の無い範囲で。ね?」
「はい!もちろんです!」
アイビスの覚悟も決まった。これなら大丈夫そうだ。
私たちは足取りも軽やかに、遺跡へと急いだ。
◇◇◇◇◇
道中に出てきた魔物を蹴散らしながら、私たちは遺跡へと到着した。陽の傾き具合からすると、およそ三時間といったところか。魔物さえ出てこなければ、もっと早く着いたのに⋯⋯。
遺跡に着いたは良いものの、盗賊団の姿はどこにも無かった。入口に見張りもいなければ、周囲にも気配は無い。
もしかすると全員中に居るかもしれない。
「⋯⋯連中は中のようですね。どういたしますか?リゲルさん」
「⋯⋯中に入ろう。ここでじっとしててもしょうがない」
「灯りなら、松明でも作りますよ」
そう言って、アイビスは荷物の中から材料をいくつか取り出し、即席の松明を作りあげた。あまりにも手慣れた動作に、私とアキナは思わず見惚れてしまった。
「⋯⋯器用だな。それに用意も良いし」
「冒険者たるもの、これくらいの準備は当然ですよ」
「えらいえらい。助かるよ」
「はあぁぁ⋯⋯♡」
思いっきり褒めて頭を撫でてやると、アイビスの顔がとろけていた。緊張感のかけらも無い。
「よし。行こう」
「はい!」「はーい♪」
私は松明を持ち、先頭を歩いた。その後ろに二人が続く。
しばらく歩いて行くと、奥が少し明るくなった。
いる。確実に。
「二人とも、気を付けて」
後ろの二人に声をかけながら進んでいった。
そして、開けた場所に来た。ここが遺跡の奥に違いない。
「おいっ!だ、だ、誰だっ!」
突然、奥から大きな声が聞こえた。
目をこらしてよく見ると、それは盗賊団の連中だった。⋯⋯何故か皆ボロボロに傷ついていて、大半が怯えていた。
「私たちはギルドからの依頼を受けて来た冒険者だ。この辺りを根城にして活動している盗賊団は、お前たちの事か?」
「⋯⋯あぁ、そうだよ」
「ギッ、ギルドの連中か!⋯⋯もう、終わりだ⋯⋯」
ギルドと聞いて、リーダーらしき男は驚き、その他の連中は絶望の表情を浮かべていた。
「⋯⋯俺たちに、もう抵抗の意志はねぇ。捕まえるんなら好きにしな」
盗賊団の連中は、あっさりと投降した。せっかく覚悟を決めていただけに、なんだか拍子抜けだ。
「⋯⋯よし。今から全員捕まえる。それと、何があったのか、聞いても良いか?」
「⋯⋯あぁ。良いぜ、話してやるよ」
一通り全員を縛りあげながら、リーダーと思しき男から話を聞いた。
盗賊団の連中は、街道を通りがかった一台の馬車を襲った。すると中から双子の女エルフが出てきて、盗賊団二十人を返り討ちにしたという。しかも素手で。その後、皆は意識を取り戻し、ふらふらになりながらも何とかこの遺跡まで戻って来れた、という事らしい。
私たちがここに来たのは、戻った直後の事だそうだ。
「⋯⋯ほぇ〜。それは災難でしたね〜」
「全くだ。ついてねぇよ」
「でも、悪い事をしたのは貴方たちなんですから、自業自得ですよ」
「分かってんよ。あいつらと戦って、もう俺たちの心は折れちまった。好きにしてくれ⋯⋯」
これで今回の依頼は達成した。だが、一つ気になる事が出来た。
盗賊団を叩きのめした双子のエルフ。彼女たちは一体何者なのだろうか。実力的にはAランク、ないしはBランクはあるだろう。それだけ強ければ街でも噂になっているだろうが、そんな噂は聞いた事が無い。
しかも、馬車の中にもう一人護衛がいたらしい。つまり護衛していたのは三人組。二人でも強いのに、それがさらにもう一人いるという⋯⋯。
連中の話だと、彼女らは隣街へと向かったらしい。なら、街に戻っても会えないか。先の黒い巨人といい、気がかりがまた増えたな。
すっかり意気消沈している盗賊団の連中を引き連れながら、私たちは街へと向かっていった。
鈍亀ペースで申し訳ありません。これからも、この調子でございます。