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【書籍化】前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます【コミカライズ】  作者: 沢野いずみ
番外編

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59/61

番外編:平和なホワイトデー

ついに本日3/15!

『前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます』

コミックス一巻発売です!


今回特典などはないそうなのですが、単行本化に際して

●おまけ数カット追加

●加筆修正数十ページ

だそうで、Webで読んでいただいている読者の方にもチェックしていただけると嬉しいです!

詳細は活動報告をご覧ください。



「そういえば」


 いつも通り配達が終わったのにまったりアリシアお手製のおやつを食べていたアダムが、思い出したかのように口を開いた。


「今日ってホワイトデーなんだよ」

「ほわいとでーってなんですか?」

「バレンタインデーのお返しをする日だよ」


 アリシアは自分で育てたハーブティーを口にしながら首を傾げた。


「ばれんたいんでーってなんですか?」

「え!? バレンタインデー知らないの!?  そうか……田舎はやらないのかな」

「田舎をバカにしてる……都会っ子だからって……!」


 確かにアリシアの育った村はイベント事に疎い。村で大事なイベントは冠婚葬祭と豊穣を祈る祭りだ。

 都会にあるような華やかなものではない。


「で、そのばれんたいんでーってなんですか?」

「好きな人にチョコを渡すんだ」

「へぇ」

「……」

「……」

「……」

「……え? まさかそれだけなんですか!?」

「うん、まあそれだけ」

「なんてシンプルな祭りなんですか!」


 それなら村の豊穣祭りの方がまだ華やかだ。


「いやいや、普段伝えられない想いを伝える、好きな人がいる男女にとってドキドキのイベントなんだって! あと祭りじゃない!」


 祭りじゃなかった。


「主に女性から男性にチョコレートを渡して告白するんだ」

「チョコは告白するためのアイテムってことですか?」

「そう!」


 アリシアに理解してもらえてアダムはほっとした様子だ。


「ばれんたいんでーはいつあったんですか?」

「ちょうど1か月前だから、2月14日だね」

「え? 1か月前!?」


 アリシアが驚きの声を上げた。


「1ヶ月前って、ばれんたいんでーから、ほわいとでーまで返事待たせ過ぎでは!? 長すぎでは!?」

「いや、大体バレンタインデーのときにそのまま返事をしてしまうから……」

「じゃあほわいとでーいらなくないですか!?」

「いや、バレンタインにもらったチョコに対して一応お礼という感じで……」

「はあ……」


 アリシアはあまり納得いっていない顔をしているが、都会には自分には理解できないことがあるのだろうとあきらめた。


「それで、ほわいとでーには何を渡すんですか?」

「人によって様々かな……クッキーとか花束とか……」

「ばれんたいんでーはチョコと決まっているのに?」

「アリシアちゃん、イベントごとの細かいことを気にし過ぎたら話進まないから!」


 アダムに言われてアリシアは渋々質問するのをやめた。


「で、せっかくのホワイトデーなんだから、賢者様に何かあげたら?」

「何かって……私ヴィンセントから何ももらっていませんけど……」


 ヴィンセントから何ももらっていないし、アリシアもそもそも存在を知らなかったから何も渡していない。


「だから、細かいことはいいんだって! イベントにかこつけてイチャコラしたらいいんだよ!」

「イチャ……コラ……」


 アリシアは自分の中の精一杯のイチャコラを想像した。


「アダムさんのすけべ!」

「何を想像したの!?」


 顔を赤くさせるアリシアを、アダムはパタパタと手で扇いであげた。

 顔の赤みが引いたアリシアは、アダムの言うことももっともだなとやる気になった。


「そうですね。せっかくのイベント、アリシア、やります!」

「いやそんな気合入れなくても」

「何か?」

「いや何でもない……」




◇◇◇




「うーん……」


 アリシアは考えていた。


「うーん……決めた!」


 アリシアはバター、砂糖、小麦粉、卵、そしてチョコレートをキッチンに並べる。


「名付けて『ばれんたいんでーも一緒にしちゃいましょう』クッキー!」

「ダサいね」

「うるさいですよアダムさん」


 アリシアはボールにバターを入れてよく混ぜる。


「アダムさん、卵を割って混ぜててください」

「はーい」


 アダムが片手で卵を割る。


「アダムさんすごいじゃないですか!」

「ふっ……独り身歴が長いんでね……」

「あ……すみません……」

「やめてガチトーンで謝らないで笑って」


 アダムを無視してアリシアはバターに砂糖を加えてかき混ぜる。よく混ざったのを確認して、アダムにボールを差し出した。


「卵を三回に分けて入れてください。まずは一回目」

「はーい」


 アダムに卵を入れてもらい混ぜる。入れてもらい混ぜるを三回すると、少し変化が出てきた。


「何かもったりしてるね」

「まだ粉が入ってないですからね。さ、ここで小麦粉を入れますよ!」


 小麦粉を入れて、ヘラで切るようにして混ぜる。


「へー。さっきのバターみたいに混ぜないんだ」

「コネコネしないほうがいいんですよ」

「お菓子は不思議だなぁ」


 アリシアが混ぜるたびに甘い香りが漂ってくる。アリシアはお菓子作りではこのときが一番好きだ。

 アダムが鼻をクンクンさせる。


「焼いたときと匂いも違うけど、すごく甘くておいしそうないい匂い」

「そうなんですよ。焼く前の生地の香りもお菓子作りの醍醐味ですよね」

「ちょっと食べちゃだめ?」

「だめです」


 アリシアに叱られて、アダムがしょんぼりする。


「涼しいところで生地を少し寝かせますよ」

「何で?」

「その方が生地がまとまって型抜きしやすいんです」

「へー」


 アダムとのんびりお茶を飲んで過ごし、時間になって生地の様子を見に行った。


「本当だ! なんかさっきより硬くなってるって言ったらいいのかな? 生地が違うね!」

「でしょう? これなら型抜きしやすいんです」


 アリシアがアダムにも型抜きを手渡し、二人で作業する。


「たまにはこういうのもいいですね」

「そうだね」


 アダムと型抜きしながら、アリシアはポツリと言った。


「あの子ともこういうことしたかったですねぇ」


 アダムが手を止めた。


「あの子って?」

「あっ……」


 アリシアがはっと口を押えるが、一度出てしまった言葉は引っ込まない。


「あの、えっと、弟……いえ、今は弟は存在しないのですが、弟のような存在が……」


 しどろもどろになりながら、アリシアが説明する。


「……あの子と、こうしてのんびりお菓子でも作って、平和に過ごしたかったんですよ」


 弟と、のんびり過ごせる機会は少なかった。

 会えるのは月に一度だけ。時間は十分。

 一緒にお菓子作りなどもっての他だった。


 あの子ともっと遊びたかった。

 あの子ともっと話したかった。

 あの子に手料理を食べさせたかった。


 あの子に――あの子を幸せにしたかった。


「もし……」


 もしあの子も私のように転生していたら。


「……今度こそ、好きなように生きてほしいですね」


 アリシアの言葉に、アダムは聞こえないように、そっと呟いた。


「僕も同じことを願っていますよ、姉上」




◇◇◇




「さあできましたよ!」


 アリシアが完成したクッキーを自慢げにアダムに見せる。


「チョコでコーティングしたから普通のクッキーよりそれっぽいでしょう!」

「バレンタインデーとホワイトデーが一緒ってそういうことだったんだね」


 アダムが一つつまみ食いする。


「うん、おいしい!」

「あ、もう! アダムさんはこっち!」


 アリシアがアダムに用意していた、袋に入ったクッキーを手渡す。


「これはヴィンセントの分だからもう食べちゃだめですよ!」

「いつの間に……」

「日頃の感謝の気持ちです」


 そしてアリシアがアダムにもう一つの袋を手渡す。


「これはアダムさんからヴァネッサさんに渡してください」

「えっ」


 ふふん! とアリシアが胸を張る。


「恋のキューピッドって呼んでくれていいですよ!」

「それはちょっと……」

「なぜですか!?」


 アダムはちょっと照れくさそうに頬を掻きながら、受け取った。


「ありがとう、アリシアちゃん」

「アダムさんも頑張ってくださいね!」


 にこっとアリシアが笑う。

 その笑顔は前世では見れなかったもので。

 アダムはアリシアのこの笑顔をずっと前世の頃から願っていた。


「何をしているんだ?」


 突然聞こえた地を這うような低音が聞こえてアダムは慌てて振り返る。


「あ、ヴィンセント」


 アリシアは嬉しそうだがヴィンセントは機嫌が悪そうだ。


「アダムと二人っきりで何をしていたんだ?」


 嫉妬している。あのヴィンセントが。

 あからさまな態度なのに、アリシアは気付かない様子で、ヴィンセントに近寄って行った。


「はい、ヴィンセント!」


 アリシアがヴィンセントにクッキーが入った袋を手渡す。


「これは?」

「今日はホワイトデーらしいので」


 アリシアは機嫌がいい。


「ほら、こ、恋人たちのイベントらしいので……バレンタインあげてないけど、代わりにチョコも使っているので……」


 アリシアが照れながら言うと、ヴィンセントがじっと手の中のクッキーを見つめる。


「アリシアがホワイトデーにくれたクッキー……永久保存するには……」

「ヴィンセント? ヴィンセント? 食べてくださいね?」

「もしかしたら歴史書の中にどこか方法が」

「そんな方法ないですから、食べてくださいねヴィンセント」


 見るからにバカップルである。


 二人の平和なやり取りを見て、アダムは満足そうに微笑むのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アダムとアリシアの掛け合いがすきです。
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