番外編:飲み会
『前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます』
二巻が ついに本日2021年4月15日 発売されました!
オール書き下ろし、新キャラ登場します!
詳しくは活動報告をご覧ください。
書き下ろしってすごくドキドキ……!
よろしくお願いします!
「そ~れ飲め飲め、そ~れ飲めえ~」
「このタイプの酔っぱらいって面倒くさい!」
ワインを片手に抱えたヴァネッサが、赤ら顔で手にしたそれをぐいぐいアダムに押し付けていた。アダムが心底迷惑そうにしながら逃げ回るが、ヴァネッサが酔っぱらいと思えぬ足の速さで追いかけている。
バタバタと居間で走り回る二人を見ながら、アリシアとヴィンセントは、アリシアが作ったつまみを口にしていた。
「このアーモンド揚げ、おいしいな」
「そのままでもいいですけど、揚げるとまた違った風味になりますよね」
「二人とも助ける気のなさがすごいんですけど!!」
のんびりとアリシアとヴィンセントがアーモンド揚げについて語っていると、アダムが割り込んできた。話に割り込んだだけでなく、身体ごと二人の間に割り込んだ。
「無視ってよくないと思うんだ俺!」
「無視していない。反応しなかっただけだ」
「それを無視って世間では言うんだよ!」
二人の間に置かれたアーモンド揚げの入った皿を胸に抱え込んだアダムは、それをぼりぼり食べ始めた。
「おいしい……動いたから塩分が沁みる……」
「お水いります?」
「いる……」
アリシアは立ち上がって台所に行き、コップに水を汲んだ。ちなみにヴァネッサは追いかけ飽きたのか、椅子に座って一人でワインを開けていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう……優しい……アリシアちゃんだけ優しい……」
アダムは喉が渇いていたのだろう、受け取った水を一気に飲み干した。
「うぅ~! 水っておいしい~!!」
「そろそろそこをどいてほしいんだが」
「賢者様本当に俺に優しくないじゃん……」
アリシアとの間に入られたことが気にいらない様子のヴィンセントに促され、アダムは渋々場所を移動した。
「何だよ……アリシアちゃんと賢者様だけイチャイチャして……独り身の俺のこと考えてよ……」
「お前もヴァネッサとイチャイチャしてただろう」
「あれはイチャイチャとは言わない。酔っぱらいに絡まれていただけ」
「でも結構密着していませんでした?」
アリシアが訊ねると、アダムは顔を大きく顰めた。
「そう思うでしょ? でもね、ヴァネッサさん、絶対くっついてこないの! なんでだよ、期待するじゃん! こういう状況ならラッキースケベ的なの期待するじゃん!!」
「そんなはしたないことするわけないじゃない」
「ほら、酔ってても理性ばっちり! いいことだね!」
一人でワインを飲んでいたヴァネッサからの冷静な言葉に、アダムが打ちひしがれていた。
「ヴィンセント、らっきーすけべってなんですか?」
「知らなくていい」
じゃあいいか、とアリシアはつまみの一つであるチーズに手を付けた。どうせきっとロクでもない単語なのだろうと思いながら。
「たとえ酔っててもセクハラはしないと決めているのよ」
「そう……いいことだよ……俺が悪いんだよ……ちょっと乱れた思考だった俺が悪いんだ……」
さきほど散々逃げていたのに、アダムはヴァネッサから注がれたワインを飲んでいた。明日仕事だからと言っていた気がするが大丈夫だろうか。
――まあ、ワインを注いでるヴァネッサが、嬉しそうな顔をしているからいいか、とアリシアは止めるのをやめた。
「アリシア」
ヴィンセントに呼ばれて振り返ると、ヴィンセントがワインの瓶口をこちらに向けていた。
アリシアはそばに置いていたワイングラスを手に取って差し出した。
ヴィンセントがワインを注ぐ。
「……ヴィンセント」
「どうした?」
「平和っていいですねえ」
トクトク、と注がれるブドウ色の液体と、ヴィンセントの柔らかな笑みを見て、アリシアは穏やかな気持ちになった。




