番外編:狩りに行きたい
『前世、弟子に殺された魔女ですが、呪われた弟子に会いに行きます』
皆様のご声援のおかげで
二巻が 2021年4月15日 に発売されます!
もう一週間切ってますね!
オール書き下ろし、新キャラ登場します!
詳しくは活動報告をご覧ください。
よろしくお願いします!
「アリシア」
塔の外に作った畑の様子を見て、にんまりしていたアリシアに声をかけてきたのは、塔の主であるヴィンセントだ。
アリシアは日焼け予防に着けた麦わら帽子のツバを指先で上に押し上げ、ヴィンセントの顔をよく見えるようにしながら、自分より幾分か高いその顔を見上げた。
今日は日差しが強くやや暑い。そのせいかヴィンセントも軽装だったが、それでも彼の美しさは損なわれるどころか、輝きを増していた。
薄手のシャツから覗く鎖骨がなまめかしく感じて、アリシアは目を逸らした。
「ヴ、ヴィンセント、どうしました……?」
鎖骨を見ていたことがバレないように笑顔で訊ねた。幸いヴィンセントにはバレなかったようで、彼はアリシアの鼻の頭に付いた土を指で拭った。
「しばらく出かけようと思う」
鼻に土が付いていることに気付かず恥ずかしいと思った気持ちが一瞬でどこかに行った。
「しばらく?」
「ああ」
「えっと、お仕事ですか?」
アリシアは一緒に暮らしてはいるが、ヴィンセントの仕事のすべては把握できていない。外で仕事があるのかと思い訊ねると、ヴィンセントは首を振った。
「いいや、私的なことだ」
「私的なこと?」
正直ヴィンセントが私的なことで出かけることが想像できない。ヴィンセントはこの二百年の間に親しい人間を作ることをやめてしまったようであるし、アリシアが知る限りで彼が私的な行動をしたのは、ヴィンセントがアリシアの墓を訪ねたことだけである。
そんなヴィンセントの私的なこととは何だろうと考えたが、いくら思いが通じ合ったと言っても一から十まで教えろというのは傲慢だ。
「そうですか……すぐに行くのですか?」
ヴィンセントがしばらくいないのは寂しいが束縛はする気もない。しばらく、ということはいずれ帰ってくるのだろう。アリシアはそれを待つだけだ。
今まで散々待たせたのだ。ヴィンセントが出かけるのを待つのぐらいどうということはない。
「ああ。ちょっと狩りに出てくる」
狩り? 狩りでしばらく出かけるとはどういうことだろう?
「ええっと、それはアダムさんが仕入れられないものを狩りに行くのですか?」
「ああ……いや、仕入れはたぶん、できなくはないだろうが……」
ヴィンセントは照れたようにはにかんだ。
「立派なものを狩ってくるから待っていてほしい」
この言葉でアリシアは先日した会話を思い出した。
「ヴィンセント……? まさか私のために狩りをしようとしていません?」
「ああ、アリシアのご両親に認めてもらえるよう、立派な熊を狩ってくる」
やっぱり!!
数日前にしたアダムを交えたアリシアの実家ついての会話をヴィンセントは覚えていたのだ。しかも、狩りができないと一人前ではないということを気にしている。
「ヴィンセントが狩りができるのは知っていますよ」
それこそ前世のときから知っている。
「だがアリシアのご両親は知らないだろう。きちんとできるところを教えなければ」
「ヴィンセント」
今にも狩りに行きそうなヴィンセントの服を掴んで引き留める。
「その、そういうのは段階を踏んでからするもので!」
「段階……」
ヴィンセントが顎に指を添えた。
「ではまずアリシアとの付き合いを認めてもらえるように文通をするべきだろうか……」
「ヴィンセント……そういうことではありませんよ……」
ヴィンセントのずれた反応にアリシアは肩の力が抜けた。
アリシアは、はあ、と一つため息を吐いた。
「それに熊はこの時期ではなくて、冬眠前が一番栄養を蓄えていておいしいですよ」
「それもそうだな」
納得したヴィンセントは、狩りに行くのをやめ、アリシアと野菜の世話を始めた。
暑い日差しを感じながらも、こうして過ごすのも悪くないな、とアリシアは充足した。
「冬眠前とかそういうことじゃないんだよおおおおおお!!」
二人のやり取りを木陰で見守っていたアダムは堪えきれず、小声で一人突っ込んでいた。




