30:アリシアの過去 5
それからしばらくして、ヴィンセントが森にやってきた。
アリシアの森の周りは厳重に警備されているはずなのに、どうやって入ったのか、アリシアにはわからない。
そして、それはきっと、アリシアが知らなくていいことなのだろう。
アリシアは自分に自信がない。だから、弟子になりたいという青年の希望を断った。
しかし、青年はそれでもいいと言った。
だから、アリシアは。
――その人は、英雄になりますよ。
この人が、英雄になればいいと、思った。
◇◇◇
やっぱり弟子は英雄だった。
だから、きっと、悪い魔女である自分を、倒しに来たのだ。
ごめんね。ごめんなさい。
他の国が、そんなことになっているなんて知らなかった。
自分は死ぬべきなのだと、本当はわかっていた。
でも死んだら弟がどうなるかわからなくて、死ねなかった。
でも、もう、いいだろうか。
アリシアの脳裏に、かつてアリシアに礼を述べた兵士が思い浮かんだ。
自分は、少しでも、いいことができただろうか。
いや、まだ――
アリシアはヴィンセントに手を伸ばす。
「ヴィン、セント、が、幸せになれま、すように」
きっと、この『祝福』は、英雄の力になってくれるはず。
アリシアの手から、徐々に命がこぼれだした。それが光となってヴィンセントを包み込む。
――どうか、弟を自由にしてあげて。
ねえ、クロード。
お姉ちゃん、ちゃんとお姉ちゃんできたかなあ。