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26:アリシアの過去



 アリシアには弟がいた。

 アリシアと同じ髪色に、同じ瞳の色。

 誰から見ても姉弟とわかる、自分によく似た、可愛い弟。


「姉上」


 いつも一緒に遊んでいた。

 その日も、いつも通りだった。


「あっ」


 ただ違ったのは、弟が転んだこと。そして怪我をしたことだ。


「い、痛いです!」


 痛みにビービー泣き出した弟がとても可哀想だった。アリシアは弟に駆け寄った。それでも弟は泣き続ける。

 弟をあやそうと、アリシアは弟に明るく言った。


「痛くなくなりますように」


 泣く弟の頭を撫でながらアリシアが言うと、ほわり、と光が舞った気がした。何だろうと思う間もなく、弟が喜色をにじませた声を上げた。


「姉上、痛みがなくなりました!」


 それはよかったとアリシアは微笑んだ。しかし、弟の顔がまたくしゃりと歪んだ。


「でも、まだ血が止まりません……」


 弟はまだ小さい。流れ出る血が怖いのだろう。アリシアは先ほどと同じように、弟のために、頭を撫でながら言った。


「怪我が治りますように」


 ふわり、とまた光が舞った。今日は天気がいいから、何か反射したのだろうかとアリシアが不思議に思っていると、弟が大きな声を上げた。


「姉上! 怪我が治りました!」


 何を言っているのだろう。アリシアもまだ子供だが、怪我というのは、小さな傷であっても、当日に治りきることなどまずないということは知っている。

 アリシアは弟の膝を見た。

 ない。

 流れ出た血もどこかにいき、まるで何事もなかったかのように、怪我がなくなっていた。


「え?」


 さすがのアリシアも驚き、呆然とその部位を眺めた。すると、どこかで叫び声がした。聞き覚えがある。自分たちが遊んでいるのを見守っていた、母の声だ。


「ば、化け物……」


 母の声は恐怖に埋め尽くされ、その目はアリシアを見つめている。


「か、母様……」


 アリシアは何が何だかわからず、母に近寄ったが、縋る手は母によって払いのけられた。


「化け物!」


 今度はしっかりと、アリシアを見て言った。


 化け物。


「母様、私……」

「私の子供が魔女だなんて!」


 まじょ。


 この間弟と読んだ絵本に書いてあった、魔女のことだろうか。

 なぜ母は自分を魔女と言うのだろう。自分は魔女ではないのに。


「姉上?」


 自分と同じように、状況がわからずきょとんとしている弟がいる。アリシアは思わず弟に駆け寄り、その体をぎゅっと抱きしめた。


「姉上?」


 弟が不思議そうな声を出す。訳がわからないのだろう。アリシアもわからない。だけど、たぶんよくないことが起きている。


「大丈夫よ」


 アリシアは不安そうにする弟を励まそうと、そう言った。



 大丈夫ではないと知るのは、そのすぐ後である。



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