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千円女

作者: 糸冨 ふうとさ

 此処のとことろではなく随分前からの事象と考えます。個人で建築の板金業を営んでいる小市民の己からの一言、つぶやきです。

今だ冷めやらぬ不景気街道まっしぐらの昨今、最大手として君臨する祖先の伝承の元で得た莫大な蓄えで繰り広ろげる、ホンワカ基調の威圧的態度で手前に勝手に仕切る様は、さすが流石ながれいし。まともに受け取る側にとって痛手で有ることなど知ってか知らずか構い無し、末端で働く人達への配慮は微塵の欠片も感じ取れない。

更には準大手の真似しんぼう、最大手が掲げたマニュアルで人の迷惑顧みず成り上がった愚者。そこに羅列される悪意としてしか捉えられない文言の数々、自己弁護を必要悪と誤魔化し私利私欲に偏り走る。莫大組織には並べない組織でガムシャラに打ち出す有象無象の方針。人材不足で時給アップ?人を思いやる姿勢?口先だけ達者な上から目線での「社員教育」と称するパワハラで社員は歪み、更に解消しきれない的外れの強要の御鉢はこちらに廻ります。朝礼での「ラジオ体操、安全第一、工程遵守」語る方の方も毎朝なので四苦八苦な事なのでしょうご苦労様。正直こちら側としては当たり前、活きていくための仕事で、その昔「怪我と弁当手前持ち」などと言った件リも存在しましたが、弁当は兎も角怪我はイケマセン、負った時点で休業にでもなったら一家路頭に迷います、労災適用のハードルは高くなかなか認めてはもらえない安い一時金で御終い。なので安全重視の無理のある工程に従い、しかしより良いもを構築したいが常であり、無理難題を吹っ掛けられてもそれが難しい修まりであっても考え抜き何とかするを信念とし、頭を柔らかくし職人気質で日々努力しています。朝の語りはマンネリでネチッコイしその型にはめるのは如何なものでしょうか。

正直当たり前の事で笑い飛ばしたいのは山々ですが、改善を促し立ち向かうのは困難なことなのでしょう。

そんな気持での《妻が有っても詰まらない》天然無垢な方の御紹介です『千円女』。


 この不景気風吹き荒ぶ折、個人での営業はズタズタになってしまい、ない頭を捻り考えた末、辿り着いた飛び込み営業。そこで訪問した家での出来事です。

己の掲げた飛び込み営業は散々なもので何軒回っても当然の様に門前払い、挫けそうになります。それでも、虱潰しの全件訪問の敢行は何としてでも貫かなければと言う信念で、見た目結構な御邸で躊躇しましたけれど、そこによぎる家族の顔、何とかしなければの体で、思いっ切り、インターホンを押しました。

インターホン越しの会話です。

「どちら様ですか」と問う声は何処となく品のある声と感じました。すかさずの常套句で

「地元で板金業をしております佐藤と申します」

「板金屋さんが何か?」と問う当然の件り。

「お宅様の屋根に関しての事なのですが」とはきはきと対応し文言を待つ。

「宅には前からの付き合いの建築屋さんが御座いますので、家に関する事でしたら結構です・・・」と言いながら如何してか玄関が開きました。戸惑いました。そして曰く、

「この様な誰とも知れない方の訪問には、インターホンでお断りするのが常でした」と言いながら現れた(ひと)は生い立ちと迄はいかないけど、裕福である自分が故の存在話を延々と三十分も丁寧な口調で語り。挙句に。

「板金屋さんでしたら樋などはお手の物でしょう」と問いました、こちらはお手の物なので。

「どうされました?」女曰く。

「この間の台風で、裏のタテの樋の交わる処が外れて、雨降りの日には、雨漏り?と言うのか方々に飛散しまして往生しております」と云うことでした早速、

「その所を見せてください」と申し上げ。程なく見た処で、

「修繕にはさほどの手間なく済みます」と告げ修繕することとなりました。其れには脚立が必要なので営業チャリで家に戻り軽トラに乗り換え、馳せ参じた次第です。その時点では成果ありと思いました。

「いか程掛かりますか」と問われ、

「五~六千円です」と答えました。

そこからが《見上げたもんだよ屋根屋のふんどし》が如く始まりました。直接にそこにヒットでは無いにしろどうせ貧乏人だと見て、足元を見透かしたのでしょう。

「家を建ててくれた会社は少しの事なら無料で対応してくれました」住宅一軒建てたのだからそこは頷けるけれど今回の条件とはかけ離れています。なのに、

「それは無理でしょうが・・・千円で如何なものでしょうか」とおっしゃわれました。思考回路はどう廻ったのか、流石に目が点です。がしかし今後の営業に繋げたい思いは強く、ニュアンス的には裕福な知り合いが多いことと考えまして、おっしゃった言い値の千円で引き受けてしまいました。

それは()()()()の始まりでした。樋補修の作業は時間を労せず済ませた処でなんと、

「少しお庭の手入れもお願い出来ますでしょうか」と、()()()()での申し入れ。

「近頃(わたくし)は肩も足も痛いので手入れが滞っておりまして是非お願い致します」と、その挙句に、半日掛かりで枝葉を切り取り束ね、処分する為に軽ットラへの積み込み、なれない事をしたので疲れました。そして更におっしゃることは、

「続けて後日やって頂きたい」とのたまれました。

えぇ‼です。真逆(まさか)同じ条件の千円で?その《真逆》でして、半日掛けての千円とは、時給二百五十円?こんな作業違いのモノは飲むわけには行かないでしょう普通。がしかし案山子、今後に繋がるカモノハシも有るのでと私鉄沿線、もう一度ならいいかいいかとアオリイカの体で引き受けました。

それは間違えであり浅はかです、あさりは砂の中、砂をはかせて酒蒸しに、それはそれで美味しいのです。けれど、一向に誰を紹介してくれる素振りはなく三振三昧。

泣くなよしよしで、話のつり橋は揺れます。

当たり前の様に、女の示すオシメノ如くこちらから都合の良い日のお伺いを立ててはせ参じる始末。

四時間で時給二百五十円千円御奉仕。

刈ったものの持ち帰り処分が当然の如くになり、結核にでもなったものかと恐山。

気弱で蒟蒻な自分は《一般的には考えられない処遇、是非とも改善》をと心の中で願うも、もののけ姫で、そんな声は当然伝わらない。諸事情は当初と甚だしく変わっているのに、彼女の口の端には上がらず。こちらから改善要求する事は何となく約束違反と側頭葉が勝手に考え、言い出せずにおりました檻。

「忙しくなったので」と言うことにして訪問を控える方針に切り替えたいと思います。

そうこうしてズルズル図星に嵌められて、領収書はきっちりと何のタメ五郎なのか八甲田山して、この度四度目となりました。

千円女恐るべしと今思うも元の木阿弥南無阿弥陀仏。お釈迦様に賛同して頂き、『妖怪千円婆ァ』とでも改めましょうか。

少々疲れましたので今回はここまでとなります。悪しからず。

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