ステラ先生の現代史と、一杯の紅茶
「いいですか、復習です。
ここ、ガイア大陸には現在、西から、人魔転生合衆国、アリスティア法王国、ダスティア共和国、アリメント協商連合国の4つの大国があり、エルト山脈以西の中心にあるマシュー湖周辺には多くの小規模国家からなるガイア辺境協議会が、それぞれ緩やかに共同関係を結んでいます。
そして、エルト山脈以西には、魔族による2つの大国があります。なんだったか覚えてますか?
はい、早かったミコさん!」
「えっとね、確かドワーフの国の、ド・ドン帝国と、魔人の国の、エリエント王国!」
「正解!二重丸あげちゃう!」
「わーい!」
「流石じゃ、ミコ!」
今日は土曜日。絶賛、ステラ先生の授業中だ。
授業中のステラ、テンション高いなぁ。俺も授業中だけは、テンション上がるタイプの先生だったけど。
そしてなぜかフランフランも参加している。
「現在は、ガイア大陸の西も東も、緩やかではありますが、共同関係を結んでいます。
しかし、今から200年ほど前に勃発した第二次人魔大戦では、血みどろの戦争が起こりました。
当時は、西側が人間の領土、東側が魔族、つまり魔人と知恵ある魔物という意味ですが、それぞれがこの大陸を二分していました。
戦の勢いは衰えず、どちらかが根絶やしになるまで続くとまで言われました。
そこで、人間側の首脳陣が、国民を戦地に赴かせるのではなく、それぞれの、もっとも強いモノ同士を戦わせ、それにより雌雄を決しようと、提案しました。
ぶっちゃけ、首脳陣の責任の放棄ですよね。
しかし、魔族の国でも、その疲弊は凄まじく、賛成を示した上、すぐさま選定が始まりました。
さて、ここで選定されたものを、それぞれなんというでしょうか?
はい、早かった!ミコさん!」
「えっと、人間側が「勇者」で、魔族側が「魔王」!」
「正解!今度は、はなまるあげちゃおう!」
「ミミクー!はなまるだって!キャー!」
「おう、よかったな」
「妾も嬉しいんじゃー///」
「ありがとー、フランー!」
こんな政治的な話だったのな、「勇者」と「魔王」って。
「ごほん。
現在でも、魔人の国・エリエントでは魔王がその元首として、政治の主権を握っています。
勇者は臨時の名誉職なので、現在は使われておりません。
結果を述べると、人間側の勝利でこの戦争は終わります。
その当時の首脳陣、というよりも、勇者ジンの「魔族も、そんなに人間と変わらないんじゃね?」という鶴の一声により、大森林の共同運営と、大陸の西と東を結ぶ人魔大道の敷設を魔族側が行うという約束のもと、エルト山脈以東、大森林南側の領土権を認めました。
また、魔族側でも勢力を二分していたドワーフ族が、大森林北側を占有することも同時に認められました。
その目論見は、確かに魔族の戦力の削減もあったでしょうが、人間側にとっては、大森林にあるダンジョンの共同運営権獲得こそが本命だったと、現代の歴史学者は結論づけています。
その後、人間側でも、詳細は次回に譲りますが、内部分裂を繰り返し、現在の形で、今のところは安定している模様です。
以上で今日の授業を終わります。各自、今日の授業をレポートにまとめて、提出するように」
パチ、パチ、パチパチパチパチ
ミコがスタンディングオベーションしている。ミコの目は、尊敬の眼差しで、キラキラしている。
フランフランは、羨ましそうに、ステラを眺めている。
「ステラ先生!質問があるのですが!」
「はい、なんでしょう、ミミク君!」
「人魔転生合衆国って、もしかして、転生者が集まる国だったりしますか?」
「その通りです、が、ちょっと違う、とも言えますね。
これは明日の授業の先取りになりますが、いいでしょう。
人魔転生合衆国は、転生者の子供である、リッカーンという人物によって作られました。
転生者が歴史的に認知されるのは、第二次人魔大戦終結から、約3年後と言われます。勇者のパーティの1人、“聖人”リンゴ・クリスタルが転生者であることを発表したからです。
そして、彼女は転生者が魔族の中にもいることを発見し、それらの保護を実践するため、1つの団体を創設します。それが人魔転生合衆国の前身となる「人魔共同扶助会」です。
そして、終戦後の、魔族への差別が根強く蔓延るなかで、彼女は転生者だけではなく、人間、魔族、双方の転生者を保護しました。そして、その活動を通して、魔族と人間、双方の信頼を得ることになりました。
そして、「人と魔族が差別なく暮らせる国」を理想として掲げます。そして、それこそ紆余曲折あるのですが、それを実現させたのです。
建国の折、彼女はすでに他界していましたが、その意思を継いだ人物、彼女の子供であるリッカーンが、その天才的な政治手腕によって、血を流すことなく、人間側の領土の一部割譲を果たしたのです。
そしてそれを契機に、さまざまな思想を抱いた集団が、独立を果たします。
人間側の、当初の実権を握っていたものの流れは、現在のダスティア共和国と、アリスティア法王国に続いています。
現在でも、転生者が、一番安心して暮らせるのは、人魔転生合衆国だと言われます。
そして、基本的に転生者は、特異な能力と、先見的な知識を持っているので、各国で優遇されています。
現在の発展も、転生者の知識と、コインの算出の2つで支えられている、と言っても過言ではありません。
と、いうわけで、技術的発展の基盤となる転生者は、人魔転生合衆国だけでなく、各国でもそれぞれが優遇制度を設け、随時募集をかけています。
疲れました、今日は本当に、こんなもんで」
「「「パチ、パチ、パチパチパチパチパチパチ」」」
ミコの真似をして、俺も触手を叩いてスタンディングオベーション。立ってはないけど。宝箱状態だから。フランフランも、釣られたのか、スタンディングオベーション。でも、なんか、これ、楽しい。変な一体感があるな。
ステラは嬉しそうに顔を赤らめている。でも、確かに話はうまいし、要点は射ているし、流石だな。
だいたい転生者モノって、「俺強えー」をするもんだと思ったけど、おそらく、それがやり尽くされた世界なんだろうな。技術の発展も納得だ。
ま、俺はそういうのには、興味ないし、ボチボチシコシコと、やっていきます。
フランフランの執事である、ハイドが紅茶の準備をしている。
「お嬢様方、お茶の準備ができました。ミミク様も、ご一緒にどうぞ」
フランフランは、本当にお嬢様だったらしい。ハイドから少し、その経歴を聞くことができた。
「うむ、ご苦労じゃ」
筆記用具を片付けた机に、ハイドが紅茶とお茶菓子を準備する。手際はよく、さすが執事である。
嫌みな程のイケメンだが、その人当たりの良さで、性格までイケメンときて、なんだか負けた気しかしないが、嫌いになれないのだからおもしろい。
「わーい、いただきます!
このお茶、すごくおいしい!甘ーい!」
「き、気に入ったのじゃったら、いつでも遊びに来てよいのじゃぞ?ここからすぐじゃ!第二層と第三層の間にあるからの、飛べるものしか来れんのじゃ!」」
「わー、本当?ミミクー、行ってもいい?」
「うん、まぁ、ステラが一緒ならな!」
「やったー!今度、行くー!!」
フランフランが殺意を込めた目で睨んでいる。いやいや、だって、ほら、なんか、色々怖いし。
そっと目を逸らすが、視線が突き刺さるように痛い。
「どうぞ」と言われたが、味わうことができないのがつらい。
一応職種でカップをつかみ、宝箱の中に流し込んでみたが、何も感じない。
そういえば、俺はコーヒー党だったなぁ。
最近、前世の記憶が、なんだか蘇ってきた気がする。
パラメータや名札付の影響だろう。この世界にとって、転生者の知識は、ある種のドーピングと言ってもいいほどの文明促進剤だ。
しかも、それを規制している様子はない。
早く、人間の身体を手に入れて、町を探索したいもんだ。
・・・うん?そういえば、あの、コインを大量に摂取した時、冒険者を取り込んでなかったか?
しかも結構強かった。弱い冒険者しか“捕食”してなかったから、“模倣”はその熟練度の低さも合わさって、今まで成功しなかったけど、今の俺ならできるんじゃね?
そう思って、その当時、生死をかけて戦った、冒険者の姿を思い出す。あれ、正直、女の子の方しか覚えてないや。
あの炎の魔法、怖かったしなぁ。ま、どっちでもいっか。
グニュグニュと、自分の身体を変形させる。
「“模倣”!」
・・・できちゃった。
「あれ、ミミク、女の子だ!」
「な、なにをしておるのじゃ、ミミク!
お主に、そのようま趣味があったとはのぅ。
とはいうものの、ほほう・・・」
「あ、ミミクさん、人間に“模倣”できたんですか!」
「できちゃった!」
フランフランの舐めるような視線だけが気持ち悪いが、どうやら人間の身体に“模倣”できたみたいだ。
これなら、人間の舌も“模倣”してるから、もしかして。
まずは匂い。あぁ、紅茶独特の、豊潤で甘い匂いがする。そう、これが、「匂い」だ。
そっとカップを持つ。ああ、温かい。「触覚」だ。
そして、ゆっくりと、紅茶で舌を濡らす。
「・・・美味い。」
「お褒めにあずかり光栄です」
300年振りの「味覚」。体内で消化するだけではなく、味わうという体験、仄かに甘く、温かい。
確かに俺は300年生きた。しかしそれは、ただ「死ななかった」というだけでしかなかったのかもしれない。「食べなければ死ぬという呪い」というようなことを綴った文豪もいた。しかし、それは、「食べる」という行為を、生きるための栄養を摂取する行為と定義付けてしまった不幸だったのかもしれない。
現に、この紅茶の一口が、俺に、もともと備わっていたであろう、あまりに当たり前で、あって当然だった「人間性」というようなものを思い出させてくれた。
喉元を通り、胃があるのかまではわからないが、確かに体内を温めてくれている。その温かみこそが、生きているということだと思った。
「・・・ありがとう、本当に美味しかった」
改めて、ハイドに礼を言うと、その改まった様子に、少し驚いたようだったが、静かにほほ笑んだ。
それがお世辞でないことを察したらしい。
ハイドはハイドで、驚いた。どうやらこの主と名乗る魔物は、本心から述べたようだった。
貴族社会では、本心ほど、恐ろしいものはない。誰かの本心を知っているという傲慢から、足元をすくわれることもあれば、また本心を打ち明けると、どんなに信じていたものでも、それを道具にして弄ぼうとする。
その点この魔物は、あけっぴろげに、いやそれが些細な味の感想だとしても、驕ることなく、目下のものである私に、その本心を伝えてきた。
あまりに世間知らずなのかもしれない。それでも、その言葉は、自分の心にじんわり染み入るような温かみを持って、私の心を少し温めた。
だから、謙遜はよそう。
「私のお茶は、おいしいのです。もし、恋しくなったら、いつでもお嬢様をお尋ねください」
「そうなじゃ、ハイドのお茶は、美味いのじゃ」
ふとした僥倖。まさか、フランフランから、そのような言葉が出るとは思いもしなかったハイドは、一瞬、眩暈がしたかのようだった。この方に、いつまでも、添い遂げよう。
たった紅茶一杯をめぐる想念は、ミミク、そしてハイドの何かを変えたかもしれない。
「ステラ様、本日はお嬢様の同席をお許しいただき、ありがとうございました」
「いえいえ、そんな「お許し」なんて、いらないんですよ。フランフランさんも、ハイドさんも、いつでも来てくださいね」
「世話になったなのじゃ。なかなか、面白かったぞ!な、ミコ?」
「うん、ステラ先生の授業は、いつも、タメになるの!」
「そ、そんな、もう、からかって!ま、確かに!私は!神様レベルの知識の持ち主ですから!」
照れ隠ししてやがる。
「それではお嬢様、帰りましょう」
「うむ、ミコ!いつでもじゃぞ!早く来るのじゃぞ!」
「わかった!ばいばい!」
2人が帰ったあと、すぐにあの紅茶が恋しくなった。というか、人間のころの味覚が戻り、早く人間の町で、ご飯を食べたくなった。
「ミコ、ステラ!女神の集金が終わったら、人間の体も手に入ったことだし、みんなで人間の町に繰り出すぞ!」
「わ、いいですね!おいしいものがいっぱい食べたいです!」
「おいしいもの!?人間の町には、おいしいものがあるの!?早く行きたい!」
「さあ、あと2週間だ!たぶん大丈夫だが、人間の町で豪遊するために、いっぱい働くぞ!」
「「はーい!」」
わくわくが、止まらない3人であった。
======現在の状況======
迷宮利益率= 50G/D
所持金:
106G(↓6)
→ステラへの給料
資産:
・「ゴルデンミミック(変異種)」=5000G
スキル:
・“模倣ミミック”=対象物に擬態する。
・“換金エクスチェンジ”=コインを使ってパラメーターを高めたり、魔物を召喚できたりする。
・“捕食”=対象物をHPに変換する。
・“毒手ポイズンタッチ”=相手にわずかな物理ダメージと、毒効果を與える。
・“暗殺アサシン”=相手に気付かれず攻撃に成功すると、攻撃力が3倍になる。
・“目録リスト”=“換金エクスチェンジ”で行使可能な項目を羅列する。内容は多岐にわたる。
・“会計”=対象が倒された時に落ちるコインの量がわかる。間接的に、対象の強さがわかる。しかし、仲間や作戦によって、その強さは上下するため、絶対的な指標ではなく、あくまで目安。
ステータス
・HP=120+1500
・MP=20+1500
・物理防御力=60+500
・物理攻撃力=300+500
・魔法防御力=20+500
・魔法攻撃力=20+500
従業員
・ステラ 職務:秘書 給料:2G/Day
・魔物 総勢 300匹(ダンジョンバット15%、ダンジョンラット15%、魔物植物20%、ゴブリン10%、ダンジョンスネイル10%、スライム5%、ミミック5%、ダンジョンウルフ5%、オーク5%、サイクロプス5%、龍1%、吸血鬼1%、ボブゴブリン1%、タラテクト1%、人魚1%) 給料:0G/D
・ソ・ドラキュラ・フランフラン 職務:戦闘員 給料:歩合(平均して)5G/Day
友達
・ミコ 種族:地底龍ランドドラゴン、幼女