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お姫様、落ちる

「お主のような雑魚に頭を下げるなど、言語道断じゃ!妾を誰と思ってか。

栄えある始祖ドラキュラの末裔にして、10代目頭領、ソ・ドラキュラ・フランフランであるぞ!

先の主人、ドゥルーズ閣下ならいざ知らず、貴様のようなミミックに(かしず)くなど、端から無理な相談じゃ!!」


フランフランと名乗る、ミコより少し年上に見える彼女の名前はフランフラン。先日の魔物召喚に応じなかった、魔物1匹だ。

黒いゴシックドレスに身を包み、目は血のように赤いのに、肌は蝋を溶かしたかのように白い。

椅子に座って踏ん反り返る少女の後ろには、おそらく執事か付き人であろう黒づくめの紳士、スラっとして、嫌みなほどにイケメンだ。


フランフランによると、一族の拠点はエリエント王国にあるらしく、避暑地として『洞窟』にヴァカンスに来ているらしい。それでも、もう200年はここに滞在しているということだ。


「ドゥルーズ閣下」というのは、先のオーナー地底龍(ランドドラゴン)の名前だそうだ。そういえば、聞いてなかった。あとでミコに確認してみよう。


ミコは今、遊びという名の、大虐殺に向かっている。

先日、“目録(リスト)”を何気なく眺めていたら、“会計(チェック)”というスキルが目に留まり、その機能を調べてみると「対象物の資産的価値を算出する」とあった。コインの出現量は、強さに依存するので、間接的に、その強さを計ることができるのだ。

すぐに自分の価値を調べてみると、「5003G」と出た。つまり、“換金(エクスチェンジ)”によって増加した分が5000Gで、3Gが元々の強さということだ。自分でも、その弱さ、というかもはや、儚さとでもいうべき弱さに、驚いた。

ステラは100G、そしてミコは、35000Gという破格の強さを算出した。

これなら簡単に負けることはないだろうと、一応冒険者の強さを確認してからだが、遊びに行くのを許可している。

まぁ過保護だとは思うが、もしやられてしまっては、夢見が悪い。弱肉強食とは言っても、やはりまだまだ俺には人間的な甘さが残っているようだ。

とは思ったが、ドゥルーズ、元オーナーも冒険者との戦闘を禁止していたっぽいし、教育方針が一致しているということで、自分では納得している。

流石に毎日行かせると、当初の目論見とは裏腹に、適度に殺し適度に生かす、というようなセコセコした真似は、ミコにはできずに、本当に皆殺しにしかねないから、土曜、日曜はお休みしてもらっている。

土曜、日曜はステラ先生の、「学校」が開かれており、社会の構造や文字、文化を学んでいる。

俺も横から聞いているのだが、なかなか先生としての素質があるようで、俺にも有用だった。


「ちょっと聞いておるのか?!

兎に角、妾は認めんぞ!妾はヴァカンスに来ておるのじゃ!働くなんて、もってのほかじゃ!」


あ、弱いものに下るってよりも、働きたくないってのが本心なのね。わかるー。


「いやあのね、君、うちのダンジョンに住んでるんでしょ?家賃なんか、どうしてるの?」


「ヤ、ヤチン?ヤチンとはなんじゃ!」


「え、そんなことも知らないの?あのね、誰かの家の一部を借りるなら、それに対する謝礼が必要でしょ?

わかる、ねぇ?君、仕事は?」


「し、仕事だと?妾は高貴な身じゃ。好きな時に、好きなように生きるのじゃ。

妾を契約で拘束するなど、何者にもできぬ!」


「はぁ。高貴なお方なのは十分、分かっているつもりなのですがね、あなた。じゃあ、高貴な方は、他人の家を、勝手に使ってもいいと、そうおっしゃっているんですか?」


「そ、そうじゃ!何が悪い!!」


「高貴な高貴なお方なのはわかりました。仕事ができないのも、わかりました。

そして、他人の家を勝手に曲がりするほどに、生活が困窮しているのも、分かりました!」


「な、なんじゃと!仕事はできぬ訳ではない、せぬのじゃ!困窮など、しておらん!」


「はぁ、では、お金、出してくださるの?」


「そ、それはできぬのじゃ・・・。家出、いや、ヴァカンスに赴いたゆえ、キンスは持たぬ!


わかった、では、その、仕事とやら、やってやってもよいぞ!内容を申せ!」


「・・・わかってくれれば、何よりだ。意地悪な言い方して悪かったな。しかし、お前にとっても、悪い話じゃないんだぜ?」


「お、お前などと・・・・ぐぬぬ、今は不問に処す。

早く申せ!」


「1日に、1人、ダンジョンの中で、もっとも強いと思われる冒険者を殺せ。それだけ」


「1人、1人でよいのか?」


「さらに、殺した冒険者が落としたコインの1割を給料として渡そう。家賃はその労働に免じて、免除してやる」


「ほ、ほう!なんじゃ、そんなことか!容易いわ!ソ・ドラキュラ・フランフラン、その仕事、受けてやろう!」


「そっか、ありがとな」


「か、畏まっていうでない!」


強い魔物ほど自己中だと、ステラから聞いてはいたが、なかなかの強者だった。こっそり、フランフランを“会計チェック”してみると、50000G!後ろの紳士でさえ、40000G!ただの「なのじゃ」少女じゃないんだよなぁ。

それでも快諾してくれたし、なにより話がわかるやつだったからよかった。


話がまとまったその時、扉が開いてミコが現れた。


フランフランは、何気なく振り返る。彼女は普段、何事にも無関心だ。生まれ持っての無関心。

少し何かに関心を抱いても、その長い寿命の中で、それらはすべて崩れ去った。花は枯れ、人形は崩れ、人は去った。「頭領」という肩書に、人は集まった。しかし、下卑た欲望の匂いがするだけ。

そんな彼女が、わざわざ振り返ったのは、些細な気まぐれだった。少し強い魔力を感じたから、それを確認しようとしただけ。それでも、普段はハイドが完璧に外敵を排除するので、その必要もなかった。万に一つもない、なんの理由もない、純粋な気まぐれ。

しかしそこに、すべてに感謝しうるほどに幸福な、ある意味で絶望するほどに悲しい予感が、脳裏に掠めなかったかどうかを、否定することはできない。


そこに立っていたのは、幼女だった。

着崩れた着物と顔は煤で少し汚れている。幼い顔は、さぞ楽しかったのであろう、満足感で満ちている。


「ただいまー!」


声は白金でできた鈴のように凛と響き、また、干したてのシーツのように温かく、柔らかい。


「お姉ちゃん、だあれ?」


ドラキュラから生まれたヴァンパイアの一族は、みな心臓が止まっている。死産した赤子に、一族の血を分けることで、繁殖を行なっているからだ。

それでも一瞬、その心臓から温かい血が巡ったかのような錯覚を覚えるほど、彼女の胸は高鳴った。

いや、現にその心臓はドクンと動いたのだ。もう使われることもないと、いじけて錆びてしまった血管に、新鮮な血液が、濁流となって全身を駆け巡る。真っ白な肌に、うっすらとピンクが混じる。

全身は瑞々しいほどに活力に溢れているのに、喉が砂漠のように乾ききり、舌は言うことを聞かず、思った通りに動かない。


「ふ、ふ、ふ、ふ、フランフランじゃ///

ま、また来るぞ!!」


目にも止まらぬ速さで、フランフランは飛び去る。生まれてこの方、こんな経験は初めてだった。

初めての衝撃だった。劇薬を飲んだかのように苦しいのに、なぜかその苦しみを手放したくない。

にもかかわらず、身体は反射的にそこから離れようとしている。しかし少しでも離れると、心臓をそこに置いてきてしまったかのような焦燥に襲われる。混乱の極みの中で、わがままで奔放な彼女は、たった一つ、初めて後悔というものを経験してしまうのではないかという、恐怖に襲われた。

城を抜け出すために、一族のものを切り裂いても、最愛の祖父の目が悲しく見つめていても、後悔しなかった彼女にとって、それは自分が自分でなくなるほどの恐怖だった。

そこでやっと、自分の身体を、自分の意志で、動かせることに気づいた。


そして一瞬、空中にとどまると、その少女に声をかけた。


「な、名はなんという?」


名前を聴くなど、これまでも、これからも、ないと思っていた。しかし、ここでそれをしなければ、それは彼女にとって、自分を殺すも同じだった。なぜなら現に、彼女はそれを問えたことに安堵していたからだ。


「ミコ!」


ミコ。その名前が、今後一生、自分を呪うのだと、一瞬で確信した。アンデットである彼女にとって、それは存在が、世界が虚無へと向かうその日よりも恐ろしく、そしてなによりも甘美だった。


「ま、また会おうぞ!いつでも歓迎じゃ!」


なぜ「来い」と言えなかったか、なぜ、連れ去るというような行動ができなかったのか。

それらの選択肢が出そろう前に、口から出た「歓迎」という言葉は、自分をただ「待つ」という身に落とす言葉だった。しかし、やはり彼女は後悔しない。たとえ、木が枯れ、風が絶え、日が燃え尽き、万物が塵に帰ろうと、彼女はいつまでも待てるであろうことを確信していた。


「うん!」


ミコは肯定した。むしろここで、断ってくれれば、この甘美で絶望的な苦しみから救ってくれるのではないかと願った。しかし、肯定した!ミコが、いつか、来てくれる!


フランフランは、その胸で起こっている、様々な現象を総称する言葉を持っていなかった。言葉としては知っていたかもしれないが、やはりこの世の言葉では不十分だと思った。


いつまでも見ていたいが、いつまでも見られていては、死んだ身がまた死んでしまいそうだと考え、フランフラは、蝙蝠上の羽を広げて飛び立つ。そのあとに続いて、主を追うハイド。


ミコはただ、何事もなかったように、いつもの席でお茶を飲んでいる。



なんというか、あれは、そういうことなのか?あんなに分かりやすく。魔物の性的対象はわからんな。LGBTなんかより、ずっと広いのかもしれん。


さて、問題は1つ、解決した。ダンジョンの魔物の多くは、1匹の殺傷力がそれほど高くない。

強い協力者を得ることができた。これでもし、半端な魔物では殺せないような冒険者でも、フランフランかバルトが始末してくれるだろう。

彼女はミコよりも強い。これでミコを危険な目に合わせることもなくなるだろう。


あと2週間で、約束の一か月。少しずつダンジョンの利益率は上がっている。ダンジョンが吸収したコインは、女神の訪問の折に、まとめて算出される。ここまでくると、2週間後が少し楽しみになってきたな。



「お嬢様、お茶を用意いたしましょうか」


「いらん。妾は部屋に籠る。何人も進入を許さぬ」


「かしこまりました、姫」


執事であるハイドは、不思議に思う。生まれた時から、同じ時を過ごしてきたフランフランの様子が、少し変だと思った。

部屋に籠ることは、今までも数えきれないほどにあったが、その原因は、声の調子だろうか、わずかに赤らめた頬だろうか。


しかし、何かが変わっているという確信は、なぜかあった。それでも、今まで何も変わらなかったように、これからも自分との関係は、何も変わらないだろうと考えた。


ただひたすらに、フランフランを想い、フランフランのやりたいことを、できるだけサポートする。


ハイドは気づかない。それが、当初の忠誠心とは、少し変質しているものだということに。

それでも、やはり、やることはこれからも同じだろう。



それが、彼が信じた忠誠心だからである。




======現在の状況======



迷宮利益率= 50G/D(↑35)


所持金:

112G(↓6)

→ステラへの給料



資産:

・「ゴルデンミミック(変異種)」=5000G


スキル:

・“模倣ミミック”=対象物に擬態する。

・“換金エクスチェンジ”=コインを使ってパラメーターを高めたり、魔物を召喚できたりする。

・“捕食”=対象物をHPに変換する。

・“毒手ポイズンタッチ”=相手にわずかな物理ダメージと、毒効果を與える。

・“暗殺アサシン”=相手に気付かれず攻撃に成功すると、攻撃力が3倍になる。

・“目録リスト”=“換金エクスチェンジ”で行使可能な項目を羅列する。内容は多岐にわたる。

・“会計(チェック)”=対象が倒された時に落ちるコインの量がわかる。間接的に、対象の強さがわかる。しかし、仲間や作戦によって、その強さは上下するため、絶対的な指標ではなく、あくまで目安。(new!!)


ステータス

・HP=120+1500

・MP=20+1500

・物理防御力=60+500

・物理攻撃力=300+500

・魔法防御力=20+500

・魔法攻撃力=20+500


従業員

・ステラ 職務:秘書 給料:2G/Day

・魔物 総勢 300匹(ダンジョンバット15%、ダンジョンラット15%、魔物植物20%、ゴブリン10%、ダンジョンスネイル10%、スライム5%、ミミック5%、ダンジョンウルフ5%、オーク5%、サイクロプス5%、龍1%、吸血鬼1%、ボブゴブリン1%、タラテクト1%、人魚1%) 給料:0G/D

・ソ・ドラキュラ・フランフラン 職務:戦闘員 給料:歩合(平均して)5G/Day(new!!)



友達

・ミコ 種族:地底龍ランドドラゴン、幼女



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