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ダンジョンの魔物と燃える幼女

ゾンビに乗って3日目。第二層までやって来た。

どうやら魔物は直感的に、俺の強さに気付いているようで、近寄ろうとしない。

今までも、ダンジョンの魔物と敵対するようなことはなかったが、味方とも違った。


例えばダンジョンプラントの一種、核取草(さねとりぐさ)、通称「落とし花」は落とし穴状に成長した開口部を、土色をした花弁で隠して獲物を待つ、ミミックの戦略より消極的な方法で狩りを行う魔物だが、その他の魔物が落ちれば容赦なく消化する。


弱肉強食はダンジョン内の生き物すべてにも当てはまる。


「『虎の威を借る狐』なんて言葉が、前世ではあったようですね」


(虎が俺で、お前は狐だな。)


「わかりませんよ?元女神の私に恐れをなしているのかもしれません」


(どうだかな。しかも、一部じゃないか。ところで、どこを切り離したんだ?爪の垢とか?)


「人を老廃物呼ばわりするなんて、失礼じゃないですか!あれは、一種の比喩です。

女神さまは肉体をお持ちにならないので、魂を分割の上、ダンジョン内に満ちる魔素で物質化なさったのでしょう」


(ということは、魔物と物質上は変わらないのか)


「そうなりますね。さらに、名前をくださったので、そのときこの人格が生まれたのでしょう」


(名前?えらく長い名前でしたね、「ダンジョン経営ステラトジー」さん。

「ダンジョン経営ステラトジー」さんは、「ダンジョン経営ステラトジー」さんになるまでの記憶は、どれほどお持ちなのですか、「ダンジョン経営ステラトジー」さん)


「ステラでいいですし、もし馬鹿にするつもりで人の名前を連呼していらっしゃるなら、私はあなたを軽蔑します」


(・・・すいませんでした・・・)


「わかれば、よろしいです」


くだらない話でもしなければ、この空間はあまりに退屈なのだ。そのために、口を滑らせて不要なことまで言ってしまった。たしかに人の名前を馬鹿にするのはよくないな、うん。


300年の生涯で、生活圏は第一層だけだったので、より下の階層のことは知らなかった。

第二層はダンジョンの構造も大きく変わるのではないかと期待していたが、ゾンビからの光景は、なにも変わらない。幾分、初めて見る魔物が増えたくらいか。


「あ、ダンジョンスネイルですよ!」


目の前には人型の鎧をつけた魔物。

しかしよく見ると、足首から、なにやら粘性の物体が溢れ出ている。


「あれは、一種のカタツムリでして、鎧は成長とともに変化します。

あれは新品のように輝いているので、なかなか長生きした個体ですよ!」


ステラは、初めて実物を見るらしく、興奮している。

ステラによれば、実際の鎧とは逆に、生まれた時は朽ちた鎧のように、赤錆びたような色をしているらしい。

脱皮を繰り返すうちに光沢を増し、さらに脱皮を重ねると、芸術的な模様まで浮き上がるそうだ。

見た目の豪華さを増していくことで、より長く生きた、強い個体が冒険者を惹きつける役割を担うそうだ。考えられた生存戦略だ、と感心する。


「人間のように歩けるわけではないのですが、足首から本体を出すことでゆっくりとですが、移動が可能です。ほら、鎧を殻だと思えば、カタツムリでしょ?

全身に張り巡らされた、筋肉の役割をする触手を動かすことで、鎧に人が入ってるかのように動くことができます。

冒険者が不用意に近寄れば、手に持った両手剣でばっさりですよ!」


うむ、ダンジョンを経営するという立場から見れば、こういう魔物の情報はたしかに有用だな。

ダンジョンスネイルの運用が、どのようになされているのかはわからないが、一匹ではなく、本物の空の鎧と一緒に運用するのが望ましい。

一匹だけで運用とは、果たしてどういう意図があるんだ?というか、


(ステラ、こいつは待ち伏せタイプの魔物だよな?どうして動いているんだ?)


「さて、散歩でしょうか?」


その時だ、通路の向こうから炎の洪水が迫る。通路を塞ぐほどの炎が、すべてのものを飲み込みながら迫ってくる。とっさのことで、ステラのことを考えずに、ゾンビの内臓に潜り込んでしまった。


(ステラ、無事か?!)


「“魔法障壁(マジックバリア)”を自分の周りに貼っています。私を無視して、自分だけ隠れるなんて、酷いですよ!」


(俺は死にたくない。自分の身は、自分で守れ!)


「労働基準法!」


(そんなものはない!!!)


ゾンビの焼けた、いやにうまそうな匂いが鼻につく。炎は消えたようだ。そっとあたりを見渡す。


(ダンジョンスネイルは、これから逃げていたのか)


目の前でダンジョンスネイルが真っ黒に焦げている。コインになっていないということは、本体はかろうじて生きているのか。

通路の奥から、なにかが聞こえてくる。


「びぃえ゛え゛え゛え゛え゛ん」


鳴き声、というか泣き声か?


「ぢぢうえ゛え゛え゛え゛え゛っ」


子供だ。子供の声がする。


ヨチヨチと子供が歩いてきた。赤い着物を着崩して着ている、女の子だ。


「ヒック、ヒック、ちちうえ・・・ちちうえ゛え゛え゛え゛え」


泣き叫ぶと同時に、その口からは炎が溢れ出る。さっきの炎は、この子供が出したものだったのか?!

容赦なく、炎がゾンビを焦がす。意味もわからぬまま、俺はここで焼き死ぬのか。ゾンビの腹から炎が入り込む。熱い、熱い、が。あれ?なんともないぞ。


(無事ですか、ミミックさん!?)


(ステラか?思念通話もできたのか?)


(当たり前です。ですが、MPを消費するので、使わなかっただけです!

私は“魔法障壁(マジックバリア)”で精一杯なので、早くあの子を泣き止ませてください!!)


(わ、わかった)


ボロボロと焦げ落ちるゾンビから抜け出し、外に出る。次の瞬間、ゾンビはコインとなって消えた。

もう後戻りはできない。

周りは火の海だ。ステラが“魔法障壁(マジックバリア)”の中で、必死に力を込めている。本当にやばそうだ。


(おい、おい!どうしたんだ?)


炎が収まる。


「あなた、だあれ?」


そういえば、名乗る名前がない。俺たちみたいな弱小の魔物には、名付けの習慣がない。ここはとりあえず、種族名を名乗ろう。


(ミ、ミミックだ。よろしく)


「ミ・ミミク?知らない。知らない人だよおおおおおおおおおお」


また口から炎が溢れかけている。


『2000Gになりまーす。お買い上げ、あざーっす』


うん、なんて?今はとりあえず、あの子だ。


(お父さん!お父さんの知り合いなんだ!

な?ちょっと落ち着いて、おじさんとお喋りしよう)


「グスンッ、父上を、知ってるの?」


(そうなんだ、うん。知ってる)


「あのね、父上はね、最強のね、龍なの。

でもね、最近ね、元気がなくてね。

でもね、遊びたかったからね、お外に行って、帰ってきたら、おうちにいなかったの・・・」


ああ、そうか。この子が先代オーナーの子供か。

冒険者に殺され、コインとなって消えてしまったのか。

直接、現場を見なかっただけ、僥倖だったかもしれない。しかし、どう伝えたもんか。


(・・・ミミックさん、どうするんですか)


魔力が尽きたのか、ステラは通路の柱の影に隠れている。


(元オーナーのお子さんですよね。どうにかして、誤魔化さないと、私たち、焼き殺されちゃいますよ)


うん、一理ある。一理あるが・・・。


(・・・お嬢ちゃん、お名前は?)


「・・・ミコ。父上が、つけてくれたの。」


(いい名前だね。ミコ、俺はお嬢ちゃんに、伝えないといけないことがある。)


「・・・なに?」


(お父さんはね、冒険者と戦って、死んだんだ)


(ミミックさん、ちょっと!!)


(任せろ)


「死んだ?父上は、死んだの?」


(ああ、残念だけど、殺された)


「グスン、グスン、ヒック、うええ」


(でも!でもな、すごくいい戦いだったんだ。どっちが負けても、おかしくなかった。少しの差だった。

お父さんは、冒険者と戦って死ぬことについて、話したことはなかったかい?)


「・・・父上はね、強い冒険者と戦って死ぬのが、最高のメイヨ(?)だって言ってた」


(そうだろ?見事な死に様だったよ)


「・・・父上は、魔物は死んだら、綺麗な光るものになるって、言ってた」


(そうだよ。綺麗な光るものになった。そして、その力は、今、俺に宿ってるんだ。)


「父上の力?」


(そうだよ、死んだお父さんの力が、俺にはついてる。

父上は最強の龍だったんだろう?お陰で俺は、最強のミミックになったんだ。)


「最強?父上と、一緒だ!」


(どうだ、俺と一緒に来ないか。1人は寂しいだろ?)


「うん、一緒に遊ぶと、みんな、黒くなって、動かなくなるの。でも、最強のミミクなら、大丈夫かも!」


(そうさ、俺は大丈夫だ。俺と友達になろう!)


「うん!!」


ミコがやっと笑った。幼い、可愛らしい子だが、そういえば、ステラは300歳だって言ってたな。


(そうです。しかし種族によって、成長速度は異なりますから、まだほんの幼子なのでしょう)


「あ、妖精さんだ!遊ぼっ!」


さっき、一緒に遊んでた子が、真っ黒になって動かなくなったとか言ってたけど、それって、さっきの炎が原因でしょ。

コインになってないから、死んではなかったみたいだけど。


「あ、こんにちは、私はステラです。えっと、今は泣いて疲れてるでしょ?今度!今度にしよう!」


「私は、大丈夫だよ?」


色々と教えないといけないことが、ありそうだ。


(そうだ、ミコ。俺たちを、お家まで案内してくれないか?)


「いいよ!」


その瞬間、ミコが輝き、一瞬で小型の龍が現れた。真っ赤な翼と、立派な角が生えている。

人型の姿からは、想像できないほどに、その体が放つ風格のようなものは、別格だった。

地底龍ランドドラゴン」と聞いていたから、なんとなく茶色のイメージだったのだが、ルビーを思わせる、宝石のように美しく輝くドラゴンだった。


「こっちの方が、速いの!行こ!」


俺とステラを咥えると、信じられないような速さで飛び立つ。

俺たちは、ダンジョンの最奥地へと、向かった。側から見れば、餌を咥えた龍だけど。


「ほら、見て!あそこに穴があるでしょ!私が作ったの!」


第二層から、直接第三層へと続くように見える、大きな穴が出来ている。


「ここを通れば、あと少しだよ!」


ダンジョンは地下に潜るほど、天井が高くなっており、第一層が5mほどだったのに対し、第三層は100mを超えるほどの大きな空間になっている。


「あそこ!」


目の前には大きな扉が聳え立っている。天井に届くばかりの巨大さで、重厚な装飾が施された扉だ。


風もなく舞い降りると、また一瞬のうちにミコは少女へと姿を変える。


「よいしょ、よいしょ」


巨大な扉を、少女が全身を使って開け広げている。


(なぁ)


(はい?)


(俺、ダンジョン内最強なんだよな)


(少なくとも、パラメータの総量では、そうなっていますが・・・)


(・・・たぶん、物理特化の子なんだろうな、さすがドラゴン・・・)


(ドラゴンは普通、魔法特化ですが)


(え、この筋肉は、それでもこれだけの力がある、っていうことなの)


(おそらく)


扉の奥には、特になにもなく、大きな広間が広がっている。


「父上はね、この広間で立ち上がると、天井に頭がついたの!」


(お、おっきいお父さんだよね)


「そうなの!でね、寝るときは、いつも父上の、体の上でね、寝て、寝て、た、の・・・」


俺と同い年とは言っても、ミミックよりも長生きをするドラゴンにとって、彼女は未だ本当に幼いのだろう。


(よし、慰めになるかわからないけど、ちょっと見てろ!“模倣(ミミック)”)


ミミックは、その体を大きく変形させる。おぼろげな記憶から、自分が想像するドラゴンを形どる。

少女の目の前には、父親とは全く似ても似つかない、一回りも二回りも小さな龍が現れた。


(ほら、ミコ。お前も泣き疲れただろ?もちろん俺は、ミコのお父さんにはなれないけど、少しくらい、ほんの少しだけなら、その代わりができるかもしれない。

ほら、お前のベッドになってやるから、ここで寝ていいぞ!)


ミコは、父親がもういないということを、持ち前の聡明さで、理解していた。しかし、その悲しみを昇華できるほどに、成長もしていなかった。

そして、ミミックの、その優しさも、十分に理解出来た。

最初は戸惑いがちに、その龍の背中に乗る。ゴツゴツしていて、土の匂いがする父親の背中と違い、

ぷよぷよとしていて、水の匂いがするその背中は、今の少女にとっては、むしろ心地よかった。

父親とは違う、でも、違うやり方で自分を大切にしてくれていることがわかった。


「・・・ミミク、ありがと」


(どういたしまして。俺も今日は疲れた。おやすみ、ミコ)


(・・・おやすみ、ミミク)


ステラも遠慮せずに、ミコの側に横たわった。


小さな龍の姿をしたミミックと、少女と、そして妖精。

3匹の魔物は、静かに寝入った。過去のことよりも、これから始まる新しい生活に、静かに、心を踊らせながら。




======現在の状況======


所持金:

494G(↓6G)

→ステラの給料


資産:

・「ゴルデンミミック(変異種)」=2000G(↓20000)

→“換金エクスチェンジ”により、名付けが行われた。


スキル:

・“模倣ミミック”=対象物に擬態する。

・“換金エクスチェンジ”=コインを使ってパラメーターを高めたり、魔物を召喚できたりする。

・“捕食”=対象物をHPに変換する。

・“毒手ポイズンタッチ”=相手にわずかな物理ダメージと、毒効果を與える。

・“暗殺アサシン”=相手に気付かれず攻撃に成功すると、攻撃力が3倍になる。


ステータス

・HP=120+5000(↓5000)

・MP=20+5000(↓5000)

・物理防御力=60+2500(↓2500)

・物理攻撃力=300+2500(↓2500)

・魔法防御力=20+2500(↓2500)

・魔法攻撃力=20+2500(↓2500)


従業員

・ステラ 職務:秘書 給料:2G/Day


友達(new!!)

・ミコ 種族:地底龍(ランドドラゴン)、幼女



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