それぞれの思惑
「悪い話じゃないと思うんだが、どうだろう」
突然現れたのは、見た目もステータスもか弱い少女、というには少し大きいが、大人とも思えない。正体はミミックらしい。得体の知れないミミクと名乗る女。ラフな格好で、ほとんど人間と変わらないぐらいに弱い。にもかかわらず、自分を『洞窟』のオーナーだと宣う。
「いい話もなにも、私、興味ないの。ごめんね」
「まぁそう言わずに、もう少し考えてみてくれ。お前はだらりだらりの生活に、さらにコインに余裕ができる。俺は自分の村が発展して美味いもんが食える。な?
また、そうだな、ひと月ぐらいしたら来るわ。な!よろしく!」
ここはダンジョン『地下都市』。エリエント王国が管理する『魔界』から続くこの都市は、事実上エリエント王国の管理下にあると言える。しかし、あの小娘によれば、もう一つ入り口があるらしく、そこを改装して冒険者の出入りを可能にする、という話だった。
私がダンジョンのオーナーになって約30年ほどだが、客自体が初めてだ。少し、緊張した。おばあちゃん以外とは、生まれてこの方、話したこともなかった。
先のオーナーは、私のおばあちゃんだった。才能ある大魔法使いで、フラッと出て行っては、世界中でその治療魔法を生かしていた。私も患者の一人だった。
さて、どうしようかな。まず、あんまり人付き合いとかしたくないんだよね。めんどうくさいし。コインだって、おばあちゃんがうまーく調整して、丁度女神への上納金ぐらいは、まかなえるぐらいには余裕あるのよね。もともと、血なまぐさいことが嫌いだったおばあちゃんは、あんまり冒険者を呼びたくなかったんだよね、たぶん。
でも、オーナーになってもらった”贈物能力”の”御使”はすごく便利だから、多少コインは欲しい。対価を払えば、なんでも願いが叶うなんていう、まぁ「地獄の沙汰も金次第」な能力で、これを使って、夢の完全自動化ダンジョンを作って、食っちゃ寝読書三昧の生活を満喫したい。
お願い事を一回は断るのは、おばあちゃんから教わった交渉術の一つね。通称「おばあちゃんの豆知識」。温故知新って大事ね。ああ、一人で生活してると、どうしても脳内会話が捗っちゃうな。することもないし、本でも読んで待ってよ。
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「さて、種は撒いた。これで村拡大の一手になればいいんだけど」
「でも、断れちゃいましたね」
「まぁ、たぶんOKすると思うよ。断る理由がないし。ダメなら実力行使もやむを得ないかな。俺が3つのダンジョンのオーナーになるなんて、それはそれでおもしろそうだろ?」
「血なまぐさいことをおっしゃいますね、そんなヘボヘボなパラメータで」
「これはな、作戦よ。頭で交渉する相手か、力で交渉する相手かを見定めるためのな」
「え、もし力で突っ込まれたらどうしたんですか?」
「こうよ」
ミミクの身体から、強者のものといっても過言ではないオーラがあふれ出る。
「パラメータを自由に出し入れできるんだよ。手数料は一日一回無料。それ以上は10枚分のコインを消費するけど。この前のダンジョンの収入で、やっとまもともなパラメータが買えたんだ。10万枚分だけ、パラメータに振ってみた」
「えええ、言ってくださいよ!びっくりするじゃないですか!」
「敵をだますには、まず味方から、ってな」
「適当に言ってません?」
ステラは呆れたようにため息をつく。ダンジョンの経営は、正直飛ぶ鳥を落とす勢いだ。ステラが以前言っていたように、ダンジョンの広さは魔素の量で変わる。ある日突然、『洞窟』は、一階層増えて四階層になっていた。最下層は変わらないらしく、その上に一階層増えたのだ。なんの知らせもなかったので、おそらく隠しパラメータのような機能があるんだろう。
それで『魔境』が約30万コイン/M、『洞窟』は約5万コイン/Mにまで成長した。10倍どころか、最初と比べれば、2,30倍にまで成長したのだから、俺の腕も捨てたもんじゃなかったようだ。
村の発展具合はまだまだだ。実際、冒険者の移住者は、まだいない。いないもなにも、宿泊施設はあっても、移住できるだけの家はない。それでも以前にくらべれば、コックの飯屋、ルイの換金所のおかげで、活気が出てきた。そろそろ、建売なんかも考えるべきだろうか。こういう時には、ボブに頼ってみるのが一番なんだろうが、あいつはこの村を作るのに反対したしなぁ。なんでも、村なんか作るより、宝印のコインバーを生産するだけで十分に儲けられるんだから、それ以外は邪魔にしかならないとかなんとか。宝印のコインバーはドラキュラから止められてるって言っても、全然聞かないし。俺だっておもしろくないけど、今は仕方がない。1000万枚ぐらいコインをパラメータに振れれば、なんとかドラキュラともタイマン張れると思うんだが、それまでは我慢だ。「なんとかしやしょう」なんて、一介の商人が何言ってんだか、そう言ったっきり、連絡取れないし。
ま、別に今となってはすぐに儲けたいわけじゃないし、あんまりコインを供給しすぎると、経済にも影響を与えかねない。美味い飯が食べられるだけで、正直現状にはそれなりに満足してるんだから、あとは地道にコツコツと村を発展させたい。
「あ、ミミク、早かったね。泳ぐのも飽きてきちゃったから、丁度良かった!」
ダンジョンのオーナーがどんな人物かわからなかったから、ミコにはダンジョンに外で待ってもらっていた。『地下都市』の知られざる入り口は、別荘から南東に進んだ海上の小島にある。小さな島だが、手つかずの原生林が茂り、希少な魔物が現存する島だった。
なんだか、小島を開発して自然破壊を促す悪徳ビジネスマンみたいな気分になる。
がっつり開発して、貴重な魔物を殺してしまうのは忍びない。『地下都市』から抜け出た魔物だろう。普通はこんなに繁殖する前に冒険者に殺されるが、ここは未開の土地。めずらしく地上に生きる魔物なのだ。しかし、ここはダンジョンの外、管理の外でもあるのだから、危ないっちゃ危ない。どうしたもんか。と、思っていた時に「開発」のスキルを見つけたのだ。コインを消費することで、どうやらダンジョンを作り出す機能のようなのだ。20万枚コインも掛かる。そこで、規模を拡大する必要も出てきたというわけだ。
さて、あの魔女さん、OKしてくればいいな。
「コックさんに頼まれたクラーケンの足も採れたよ!」
どうやらクラーケンというのは、足だけの生き物のようなのだ。大きな本体があるのではなく、足そのものがクラーケン一個体なのだ。これには知識と現実の差に多少驚いた。
「よくやったな!さて、じゃあ家まで送ってくれるか?」
「うん!ほら、乗って!」
最近、ミコを乗り物のように扱っている気がしてしまう時がある。そこでミコも従業員として雇うことにした。といっても、アルバイトというか、一回乗せてくれるごとに1コイン渡している。どうやら買い物のやり方も覚えたらしく、最近では村に一人で行くこともあるようだ。ああ、ミコが成長していく。この寂しさを、親心とでもいうのだろうか。
俺も社会勉強を兼ねて、そろそろ他の国にでも行ってみようかな。一番近いのはエリエント王国だが、あそこはドラキュラのお膝元、少し居心地が悪そうなので、アリメントにでも行ってみようかな。
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「久しぶりじゃな、ボブ」
「へぇ、お久しゅうございやす、ドラキュラ伯爵、いや、ドラキュラ王よ」
「なんじゃ他人行儀じゃのう、ボブ。わしも昔の名前で呼ぼうか、ボブ大将よ」
「大将なんて器じゃねぇって、あん時から言ってるでやんしょう」
「わしはお前ほど頭の切れる将校を知らんのでな。して、何用じゃ?」
「・・・あっしは、あの敗戦から、ずっと考えておりやす。ドラキュラ様と、勇者ジルの間で、何があったのか、と」
「なんじゃ、まだそんなこと言っちゃってんのか、ボブ~。ぬしもあきらめが悪いのう。魔族が負けて、人間が勝ったのじゃ。それだけじゃ」
「あっしは認めやせん。あっしは、今でもあれは間違いだったと思ってやす」
「しつこいのう、ボブ。だからなんじゃ?なにを言いたいのじゃ?」
「あっしには、魔族の勢いを取り戻す秘策がありやす」
「・・・ほう。わしはな、確かに人間の生まれる前の世界を知っとる。しかしあれは、弱肉強食、知性もなにもない時代じゃったぞ。今はどうじゃ、確かに多少は不自由じゃが、今は今でよいではないか。人間と魔物が手を取る、とまでは言わずとも魔族の領地もあり、おいそれとそれが侵害されることもない。よいではないか」
「・・・魔物はダンジョンに押し込まれ、魔族も王国内に押し込められている。それでいいのですか、王よ」
「口調が戻っておるぞ、ゴブよ」
「甘い!甘いのだ、王よ!・・・あっしは、あっしで、やりやす。お手出し無用。あっしは、『洞窟』の秘密を知るものだということを、お忘れなく」
「お、おぬし、まさかリバイアサンでわしを脅しているのか?」
「交渉でさ。今あっしを殺したら、手のものを使わす手筈を整えておりやす。あっしの願いは宝印のコインバー、ひいてはミミクに手を出すな、ということでやす」
「・・・おぬしの考えはわかった。・・・わかった、おぬしの願い、聞き入れよう。好きにせよ」
「助かりまさぁ。では」
ゴブはすぐに立ち去った。ドラキュラは、一人の旧友を失ったことをまず悲しんだ。第二次人魔大戦を共に戦った仲間だと思っていたものから、まさか脅しをかけられようとは。
リバイアサン、太古より神の使いとして、この世界をリセットしてきた、この世界の自爆装置。
「どうしたもんかの・・・」
ドラキュラは一人静に物思いにふける。
遅くなりました。仕事の合間に更新できる人、すごいですね。




