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地産地消・アット・ザ・ダンジョン


「・・・で、話ってなんだ」


「あ、兄貴ぃ・・・」


『洞窟』に見慣れない影が2つ。製金所のド・マリと、換金所のド・ルイだ。『まぁまぁまぁ』とかなんとか言って、ミミクが無理矢理連れて来たのは『洞窟』の最奥地、今では少し家庭じみた装いになってしまった、大広間だ。


「粗茶ですが、粗茶ではなく、美味しいお茶なので、謹んで飲んでください」


ステラがよくわからない言い回しで、お茶を持ってきた。どうやら最近、ハイドのところに通っては、お茶の淹れ方を勉強中とのこと。

一口、口に含むと、なるほど、同じ茶葉のはずだが、ハイドの淹れたお茶の方が美味しい。と言っても、また別の美味さがあるとも言える。なんの違いだろうか。


「美味しいねぇ」


「こんなんじゃ、こんなじゃまだハイドさんには・・・」


そんな女子2人にドワーフブラザーズは目もくれない。マリの肝は座っているようで、落ち着いているが、ルイの方は青ざめて、所在なさげだ。


「頼みがある」


2人はゴクリと喉を鳴らし、静かに聞く姿勢を整えた。


俺は糞爺こと魔王の言いつけで、“宝印”のコインバーを世に出すことが出来なくなっていた。前回の集金で、30万Gを手に入れたからと言って、すぐにパラメータを増強させた訳ではないので、そんな急に喧嘩を売るような馬鹿はできない。


そこで、たとえそれがいずれバレようとも、しばらくの時間稼ぎとして、ある作戦を考えた。


俺は、コインを集めるにはダンジョンの増強、調整だけが必要だと思っていたが、実は、そうではないと気づいたのだ。


コインを使って武具を作りたい冒険者は、一部に過ぎない。大方は、コインをC(キャッシュ)に変えたいのだ。

俺はコインが欲しい、冒険者はC(キャッシュ)が欲しい。そこで俺が思いついたのは、コインの買い上げだ。

中級の冒険者でも、コインを100枚持っていければいい方で、ほとんどの冒険者は日銭を稼げればそれでいいほどで、多くても10枚そこそこだ。コインの買取システムは、大量に持っていけばいくほど、値が上がる。

そこで、ダンジョンを改造して、屋外に専属の換金所を作る。しかも、それを1000枚で買い取った際のレートで買い取るのだ。普通なら、損をしてしまうだろう。しかし、俺には、その価値を10倍にすることが出来る。


そこで必要になるのは、専属の製金所だ。“宝印”のコインバーは、流石に売れない。“宝印”が?他のコインバーと、もっとも違う点は、魔素の充填率が100%だということだ。100%の状態の凄さは、魔素を生み出すことにある、と以前からマリに聞いていた。なんでも、武具に使われた魔素は消費し続けるもので、ダンジョンに足繁く通えばそれを補充することも可能らしいのだが、それでもやはり少しずつ魔素は抜けていくらしい。

しかし、魔素が100%まで充填できていると、もはやそれは一つのダンジョンとも言えるほどで、魔素が減らないどころか、増え続けるらしい。


おそらく、あの糞爺が怒った理由も、そこら辺にある気がする、がそれは置いとく。


そこで、買い上げたコインを、俺の身体ですべて馴染ませてしまうのだ。すると、そこには魔素100%のコインが労せず出来てしまう。しかし、そのままでは使えないので、少しだけ放置する。

そして魔素充填率99%ぐらいに調整したコインを、ふっふっふ、“宝印”の武具!として売り出すのだ。


あの糞爺も、これに口を出し始めたら、マザーに言いつけて、共闘してもらおう。俺は約束を守った!屁理屈じゃない!これぞ、作戦だ!


そして10倍では売れないかもしれないが、それを高値で売りまくる。するとどうだ!

冒険者が勝手に集めたコインが、C(キャッシュ)と俺のパラメータに早変わり!


天才か、俺!


パラメータの件は、別にいう必要もないことだから、それは伏せて2人に話す。2人の目が爛々と輝き始める。


「俺は、お前らの力をあまり知らない。しかし、前に頼んだ縁がある。それだけだ。マリの鍛治の腕、ルイの鑑定眼、その2つに賭けてみようと思うんだが、どうだ?俺に力を貸さないか?」


マリの手が震えている。今更怖くなったか?


「・・・お嬢ちゃん、俺に、専属の鍛治になれって言ってんだな?」


「そうだ」


「・・・俺に、製金どころか、武具製作にまで、手を出せと言ってるんだな」


「・・・そうだ」


なんか気に食わなかったかな、それならまた別に人を


「任された!!!!」


お、お前そんな、そんなでかい声出んのかよ、ビビったわ。


「・・・俺は、氏がない金物鍛治だ。俺だって、名誉欲もある。これは、俺にとって一生に一度のチャンスだと思う。ぜひ、力を震わせてくれ」


「・・・ありがとう。恩に着る」


「あっしは、ただの換金所のオヤジでさ。しかしね、旦那。あっしだって、夢があって、続けてきた。兄貴の、兄貴が打った金は、世界一でさ。それを、世界中に広めたかったんでさ。

旦那、あっしもぜひ、仲間に入れてくだせぇ」


深々と頭を下げるルイ。その言葉に驚き、そしてニヤリと笑うマリ。


「お嬢ちゃん、いや、ミミク。もう後戻りはできねぇぜ」

「そうでさ、ここでやっぱやーめた、は、あんまりでさ」


2人の熱意は、金をも溶かすほどだった。


「ああ、頼む。お前らの力を、存分に奮ってくれ!」


こうして話がまとまった。2人を車で送りつけ、帰路に着く。準備をして、1週間と待たずにやってきた。




「はぁ、今日はコイン5枚。せいぜい20C(キャッシュ)がいいところだぜぇ」


「あのミミクにやられてからー、ついてねー」


「最近、また、強くなった」


いつかミミクに捕食された冒険者の3人組だ。

3人の顔は、浮かない表情をしている。ダンジョンで、当初の予定の半分の地点でポーションが尽き、今は帰路に着いている。


「あ、宝箱!」


3人が通る道の傍に、またわざとらしく宝箱が置かれている。


「“解析(スキャン)”するだけのMPは?」


「ない」


「ほら、やめとくぞ。最近のミミックは、油断ならねぇ。無一文になったら、今日の宿代も出ないぞ。行くぞ!」


「で、でも〜」


長身の男が、少女を引きずって去って行く。


『洞窟』を抜けると、やっと夕方かという時間だった。


「はぁ、ここから帰るの、くそダリぃな」


「仕方が、ない」


トボトボと歩いていると、何やら知らない建物が出来ている。デカデカと「換金所 ニューオープン!」と書かれてある。


「あれ、ここら辺って、なんか建物とか禁止じゃなかったー?」


「ギルマス、変わった。それが、原因」


「おい、ちょっと寄ってみようぜ」


見栄えは村にある換金所と変わらない。


「おっちゃん、換金頼むわ。少ねぇけど」


「へい!」


陽気なおっちゃんは、金庫からC(キャッシュ)を取り出す。


「ひーふーみー、はいよ!」


「おっちゃん、そりゃないぜ。3C(キャッシュ)なんてことは」


そこに置かれていたのは、30C(キャッシュ)だった。


「おい、おっちゃん!間違えてないか?レートでいうと、1G/5C(キャッシュ)で、手数料引いて、20C(キャッシュ)が相場だろ?!」


「あっしもプロでさ。30C(キャッシュ)で間違いありやせんぜ。うちは、1000枚以下でも、1000枚時のレートで買い取ってるんでさ!」


「おっちゃん、儲かる?」


「慈善事業にしちゃー、損し過ぎだよー」


「馬鹿言っちゃいけねぇよ。あっしもプロでさ!しかしね、冒険者への対価は考えもんでさ。こんなに村に、国に、大陸に、世界に貢献してんのに、ちっとばかり処遇が悪いと思ってたんでさ。

これは、あっしの気持ちでさ。受け取ってくだせぇ」


ルイのセールストークが乱れ飛ぶ。


「な、なんだよ、おっちゃん。・・・いい店だな、また来るよ。みんなに宣伝するまで、潰れないでくれよ!」


「へぇ、お気遣いどうもでさ」


3人は思わずスキップしそうになるのを押し殺して、平然と歩き出す。


「得したね、やった。ご飯、宿、お酒、ゲット」


「そうだねー、それぐらいの余裕はできたねー」


するとまたしても謎の建物。


「おい、俺ら、魔物にでも幻覚見せられてんじゃねぇか?あんな建物、なかったぞ?」


「でも、幻覚なら、匂いしない」


そこには、えもいわれぬ、いい匂いが漂っている。


「い、行ってみよーよー」


3人の喉がなる。冒険終わりの疲労感、空腹感に、突き刺さるような誘惑が押し寄せる。


「いらっしゃいませー、何名様ですかー?」


そこには小さな妖精が浮かんでいた。魔物がやっている店など、エリエント以外では聞いたことがない。


「さ、3名で」


「かしこまりました、こちらにどうぞ!」


席に通された3人は、今にも魔物が食らいついて来るのではないか、盗賊が襲いかかって来るのではないかと身構えていたが、全くそのような気配が感じられない。


メニューには、村にもないようなメニューが、お手頃価格で揃っている。


「『ゲソの天ぷら〜柑橘の香りを乗せて〜』『地獄浜焼き』『親と子の愛情ステーキ』・・・最初はともかく、ほかのメニューは想像できない・・・。まぁ、値段も手頃だし、とりあえず頼んでみるか」


注文してしばらく経つと、エールとともに料理が揃った。


ゲソの天ぷらはカラリと揚げられ、しかもそのイカは、今まで食べたことはないほどに美味かった。外は油でカリッとしていて、中は弾力もありつつ、ふわりと溶ける。添えられた塩に柑橘系の果物の皮が混ぜられているらしく、油のコッテリ感が潮のように干いていく。


地獄浜焼きには、豪快に海の幸が、石を熱した板に乗せられて出てきた。貝は未だに踊っている。

内陸では、これほど新鮮な海の幸食べることなどできない。

唐辛子の効いたスパイスが振りかけられていて、ピリッと辛いが、それをエールで流し込むと、なんとも言えない幸福感が胃から込み上げる。


親と子の愛情ステーキとは、薄く切ったフィレ肉とチーズが行く層も交互に重ねられ、一口頬張ると、肉の旨味、チーズの旨味が濁流のように押し寄せて来た。そこに、舌が痺れるような山椒が仕込まれているのか、なんとも癖になる味わいで、また一口、また一口と、止まらない。親は肉、子には乳、そしてピリッとした親の言葉も愛情ってことか。


どれもこれも、今まで食べたことのないほどのクオリティだった。次々に料理を注文し、次々に食べ切った。最初に抱いた疑懼は消え去り、3人にはただただ幸福感しか残らなかった。


「え、これだけ食べて3C(キャッシュ)?!」


「はい、そうですよ?」


「え、安すぎ」


「いいえ、適正な価格を頂いております。いいものには、いい値段がつくものです」


「えええ」


そしてふと、店の奥に階段があることに気づく。


「2階には何があるんですか?」


「2階から上は、宿屋になっております」


「「「えええええ」」」


3人からすれば、棚からぼたもち、鴨がネギを背負って来たぐらいの都合の良さだった。

こうして、3人の幸福な1日が終わるが、チェックアウトの時にも、同じような声を上げたことは、想像に難くないだろう。




ふっふっふ、これぞ、「冒険者一網打尽囲い込み作戦」。料理は海で料理をしてくれたコックを引き抜いて、今はとりあえずステラにウェイトレスを頼んでいる。

コインとC(キャッシュ)の地産地消!ははは、はっはっはっは、はーっはっはっはっはっ!


ダンジョンの奥地から、テンプレートな高笑いが響き渡った。


ブックマークが徐々に増えて嬉しいです。これからも、平に平によろしくお願いします!

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