表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

母は絶望より強し

『洞窟』に帰ってから、ずっと考えていた。あの爺さんは、エリエント王国の魔王。ヴァンパイアの始祖にして、最強とまで謳われる魔王。その力を“会計(チェック)”で確認することは、正直ビビって出来なかった。恥ずかしいが、命が惜しかったから、仕方がない。命あっての物種だ。

しかしそれでも、あの、死を思わせるオーラ。喧嘩を売って、勝てる相手ではなかった。たとえ、フランフランを人質にして、などの非道な作戦なんかも、無理だろう。作戦というようなものが、弱者のものであっても、圧倒的絶対的な強者には、小手先でしかない。


「・・・『穴蔵に篭って過ごす』ですか。それも、いいですかね。ボブさんが、外の物でもなんでも、調達してくれるはずですよね」


本心から言っている訳ではないのだろうが、ステラの言葉には切迫感があった。


「空、高かったね。海、広かったね。ミコ、どっちも青だって聞いてたから、おんなじ色かと思ってたけど、全然違ったね。ミコ、ずっと覚えてられるよ。だから・・・」


ミコの、そんな声を聞いても、なにも、慰めるような言葉が出ない。


2人の表情は、無理に平静を装っていることが、ありありとわかった。元々嘘は苦手な奴らだ。そして俺も、一応あいつらを率いる立場なのに、こんなに暗い顔、声をしてしまっている。

俺はなんでこいつらに「大丈夫だ!」って言ってやれなかったんだろう。嘘になるから?ビビって縮こまっていたから?なんて情けないんだ。


自省を繰り返していた時、突然扉から小さな蜘蛛が津波のように広間に流れ込んで来た。それらは一箇所に集まり、1つの形を成した。


「あらあらあらあら、まぁまぁまぁ!!!

ご機嫌遊ばせ!マザーのおばちゃんが来ーたーわーよー!!!!!」


陽気な声と迫力で、一瞬目が点になるかと思ったが、現れたのはタラテクトのマザーだった。


「あらー!オホホホ、なんだか辛気臭い顔してるわねー!何かあったの?悲しいこと?辛いこと?怒られちゃったの?

いいのよ、いいの!悲しかったら泣くの!辛かったら、ぶつけるの!怒られちゃったら、復讐よ!オホホホ!」


おそらく、マザーは事の経緯を知っているのだろう。マザーの分身に、隠し事はできない。


「知ってるんだろ、マザーさんよ。復讐?俺の今のステータス、見ろよ。ダンジョンバットといい勝負だ。しかもな、どうやらあの糞爺が言ったことは、筋が通った忠告らしいんだわ・・・」


マザーは全ての複眼をこちらに向けて、その巨木の幹のような足で、俺を張っ倒した。なぜかダメージはないが、ミコとステラは一瞬の出来事に目を丸くしている。2人が駆け寄る暇もなく、タラテクトがいつもの調子で話し始めた。


「なーに言っちゃってんのよ、主人様ったら!


あの、コウモリお化けは昔から理屈屋なのよ。元人間のことだけあるわよ、あの爺。でもね、貴方達は魔物よ?正義?仁義?平和?共存?

ちゃんちゃら可笑しいわよ、オホホホ。

笑っちゃう、笑っちゃお、オホホホ。


そんなの、人間じみた、仲良しごっこを押し付ける、ただの屁理屈よ。あるように見えて、ないものよ、そんなの!何より私たちは好きなように生き、好きなように殺し、好きなように死ぬの!

それが魔物じゃない!」


「そんなのは強者の理屈だ!!!」


ミミクはボブから買った何処にでもありそうな剣で切り掛かった。しかし、傷どころか、その跡さえ残らない。


「見ろ!俺は弱い!お前に傷一つ付けられないほどに、弱い。強者に弱者はビビリながら生きていくしかないだろ!」


タラテクトは1匹であり、また1匹以上でもある。現在の強さはおよそ40000Gほどだが、分体全てからなる完全体では、その強さに検討もつけられない。

強者たるマザーには、弱者の気持ちなど、理解できるはずがない。


そんな気持ちをミミクは抱えながら、未だ斬りかかる。マザーは微動だにせず、ただ、静観している。


「いいか?この世は弱肉強食が真理だ!俺の父も、母も、そして同族たちが、その真理の元で、塵に消えた。俺もそうなる運命だった。

でも、少しの幸運で、俺は勘違いしちまってた。忘れてしまってた。俺は、弱い」


心からの、魂からの言葉だった。それただ黙って聞いていたマザーが、いつもの調子で笑い出した。


「オホホホ、オーホッホッホ!分かっていらっしゃるじゃないの!そうよ、この世は弱肉強食、これまでも、これからも、剣が絶え、戦争が絶え、武器という武器全てが尽き果てても、弱肉強食であることは、この世がこの世である限り、何も変わらないわ!


だからって、それがなんなのよ!


弱肉強食?強くなればいいじゃない!魔物の寿命は長いのよ?貴方達は若いわ!

しかも、あの爺は爺よ?老いぼれよ?死にかけ、どころか元は死体よ?なんで貴方達が負けるのよ?経験の差?あの爺にあるのは、勇者とかいう人間の若造に負けた経験だけよ!オホホホ!!!」


・・・なんて言い分だ。なんて身勝手で、傍若無人で、自己中心的で、無分別で、自由で、気ままで、生き生きとしている、なんて、なんて、格好いい言い分なんだ!!


そうだ、俺たちは、魔物だ。確かにこの世界の仕組みを変えることはできない。でも、自分を変えることはできるはずだ!なんで気付かなかったんだ!


やっと手に入れた自由を、手放してたまるか!俺には“換金(エクスチェンジ)”もある。ステラもいる。ミコもいる。


俺は何を弱気になってたんだ。今はダメでも、俺らには未来があるじゃないか!


「マザー、ありがとう。目が覚めた。俺は好きに生きる。襲ってきても、返り討ちにしてやる!

なんだか吹っ切れた。無鉄砲結構!喧嘩上等!」


「あらあら、私になにか言ったかしら?オホホホ。コウモリ爺の悪口なら、いくらでも申しますわよ、オホホホ!」


俺は死にたくない、2人も殺させない。それは確かに重要だが、ただ生き、死なない人生を、俺は300年も過ごしたじゃないか。どーも、何かが緩んでたな。俺は、自由に、気ままに、生き生きと生きる、そう決めたんだ。


「ミコ、ステラ。お前らの雇い主兼保護者として、あんな格好を見せて、申し訳なかった。

俺は好きに生きる。だから、俺もお前らには好きに生きて欲しい。

もしかしたら、これからは無茶もするかもしれない。それこそ、命を落としかねない。だから、選んでくれ。俺は、お前らの意見に従う。どうだ?」


正直、迷った。引き止めたかったし、一緒にいて欲しかった。でも、自分の自由のために、他人の自由を奪うほど、俺は腐っちゃいない。だから、もし、ここで・・・


「はぁ、何言ってるんですか?見す見す金ヅルを手放すと思ってるんですか?一蓮托生、二人三脚で始めたことです。放っぽり出したりしませんよ!」


「ミコ、空の青さも、海の碧さも、村の美味しい料理も好きだけど、ミミクのベッドが一番好き!だから、離れてもいいなんて、言わないでよ・・・」


たった一ヶ月とちょっとだ。なのに、こいつらは

、こんなことまで言ってくれる。俺は、涙を堪えるので精一杯だった。

それで、それぞれの目を見て、言うことができたのはたった一言。


「ありがとう」


ステラとミコが笑っている。あれ、泣いてるんですかー?なんて、そんな煽り方、どこで覚えた。泣いてない、これは、あれだ、身体から酸が漏れただけで。


「あらあら、まぁまぁ。なんだか、お邪魔かしらね?オホホホ。若いって、いいわね。私も若い頃は」


マザーがなにかブツブツ言っているが、今は聞き流そう。なんだか、急に心が晴れたようだった。

具体的な作戦は、明日にでも考えよう。よく考えたら「コインバーを世に出すな」だけが、具体的な忠告だったのだから、それさえ守れば、どうとでもなるだろう。

そして、パラメータの増強。糞爺め、いつか絶対に痛い目に合わせてやる。フランフランの祖父だということだから、命までは勘弁してやるが、それでも絶対に木っ端微塵にあの、余裕綽々な態度だけでもぶっ壊してやる。


目標は決まった。


1)コインバーを出さずに金儲け

2)パラメータの増強

3)そのために、ダンジョンの収益のアップ


そして


4)打倒魔王!


くっくっく、あいつの顔から余裕を消し去ってやるぞ。くっくっく。


「おい、お前ら!景気付けだ!村に飯食いに行くぞ!パーっとやるぞ!マザー、お前も分身サイズなら、付いて来てもいいぞ!」


「まぁ!嬉しいお誘い!ぜひご一緒させていただくわ!」


その後、村の料理に感動感激したマザーによって、村では巨大な蜘蛛の目撃例が増加することになる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ