魔王は太陽に目もくれず
「え、マジで言うてるのかの?」
「ハッ!マジで申しております」
「ワシ、だいぶそれっぽく、命令したのに、失敗しちゃったのかの?」
「ハッ!だいぶそれっぽく、命令していらっしゃいましたが、失敗しました!
しかもクラーケンの足は全て、食べられました!」
「え、あいつの足、食べられちゃったのかの?っていうか、食べることができたのかの?」
「ハッ!全部、あいつらの腹の中で御座います!ちなみに、定時連絡によると、食べたもの達は口々に美味しいというような感想を述べていたようです!」
クラーケンは、俗に言う「半魔物」である。動物と魔物の違いは、まずは肉体が魔素で出来ているか否か、そして自然発生するか否かである。
動物は、魔素の影響で自然発生することはない。しかし魂の輪廻はせず、血に魂が宿る。
「半魔物」は、動物の身体に魔素が染み付いて誕生する。普通は名札付と比べれば弱いが、クラーケンは古きものと比べても遜色はなく、実はそんじょそこらの魔物には負けないほどの強さを持っていたのだ。
それがやられたという。
「クラーケンは、余のペットであったのに、そうか、食べられたか。あいつとも、長い付き合いだったが・・・」
「ハッ!足だけなので、本体は生きております!」
「おお、それは僥倖じゃ!不幸中の幸いじゃ!!」
「ハッ!ただ今クラーケンは、海の底で療養中です」
調査で分かったのはミミックと、妖精、幼い龍の3匹がいつも行動を共にしているということが分かっていた。
しかし、オーナーがだれかは分からなかった。
そこで可能性のある3匹をまとめて殺そうと考えたが、やられてしまったとは、少し計算違いであった。
「・・・閣下、一つ問題が」
「うん、何じゃ、これ以上に問題があるのかの?」
「実は、フランフランお嬢様が、その一行と親しくしているらしく」
「フ、フラ、フフラフラ、フランフランじゃと?!?!?!」
フランフランは、200年ほど前に、家出をして、『洞窟』とかいうダンジョンに引きこもってしまった。『洞窟』には、ドゥルーズという古き龍が住み、そう簡単に手を出すことも出来ず、しばらくすれば帰ってくるだろうと思っていたが、いつ間にか200年も経っていた。
元々は、あいつの親である我が娘、クラリスとその夫フランクとの仲違いが原因だったそうだが、わしも詳しくは知らぬ。あくまで3人の問題として、深くは追求しなかった。
「そ、それは、どうするかの。どうすればいいかの?」
「ハッ!あまりに家庭的な領域であるため、答える口を持ちませぬ!
しかしながら、まずはクラリス様フランク様にお伝えするのが一番かと!」
「それは、お前、よくないと思うんじゃがのお。
『洞窟』は我らの支配下ではないゆえに、あまり表立って事を大事にしてしまうと、政治的な問題をも引き起こすかもしれんしのお。
何しろ、あやつらは手加減を知らん。『地獄』の一件は知っとるじゃろ?今、ダンジョン一つ潰してしまうと、経済にも政治にも悪影響を及ぼしかねんゆえのお」
「ハッ!では、いかがなさいましょうか?」
「コインバーの一件も、確かに見過ごすことはできんが、一度、話してこようかの。
もしフランフランを怒らせずに、『洞窟』の主を殺せれば、それはそれで一つ問題が解決するしの」
「ハッ!・・・ハ?!それでは魔王様が直接、趣きなさるということでしょうか?」
「うむ、問題あるかの?わし、強いし、万が一にも、死なんじゃろ。行ける行ける!」
「そ、それはしかし、魔王不在の魔王城とは、いささか不用心では?」
「そのためにお前ら隠密がおるのじゃろ?お前、影武者じゃ!」
「は、ハッ!承知いたしました。その任務、完遂いたしましょう」
「頼んだぞ」
ちょうど二つ目の太陽が昇るころ、魔王は飛び立った。内心、新しい『洞窟』の主人とやらにも、興味があった。ドゥルーズは、古きものの1柱であり、また友人でもあった。その友人がいなくなった原因も知りたかった。そして、もっと言えば、実は愛する孫娘の顔が見たくなっただけでもあった。
「(三つ目の太陽が真上に来るころには、つくじゃろう)」
そう思って魔王は、その身から溢れ出る禍々しいオーラを潜めた。警戒されずに近づくことが何よりだと思ったからだ。
記憶に新しい、孫娘の誕生。ヴァンパイアは、死児に両親となる者の血を注ぐ事で誕生する。
その死児は、永遠の仇である、勇者の子であった。あの忌々しい勇者の子に血を注ぐ経緯は複雑だったが、今となってはどうでもいい。
誕生したばかりのヴァンパイアは泣かない。むしろ、笑いながら誕生する。その声は、この世を祝福しているのか、それとも嘲笑っているのか。
その声を聞いて、人間だった頃から忘れていた、「トキメキ」を思い出した。
そして「おじいちゃま」と呼ばれたあの日から、魔王ドラキュラの牙は鈍ったのかもしれない。
魔王の脳裏に「おじいちゃま」という声ととも、フランフランの成長の記録が走馬灯のように駆け巡る。ああ、わしの可愛い孫。
子供を作るのは、ある意味で趣味だった。死んだ子が息を吹き返すのは、見ていて面白かったからだ。なによりも笑って生まれるというのが、なんとも愉快だった。
気まぐれに作った子は、いつの間にか「一族」と言われるまでに増えた。孫もいたはずだが、フランフラン以外の孫は知らない。
恋、だったのかもしれない。
ドラキュラは静かに上空から、海辺を見渡す。
そこにはフランフランがいた。ああ、麗しの我が孫!
ドラキュラは、フランフラン目掛けて急下降した。




