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金で天下を回す者

「おい、見たか!あれはとんでもなく金になるぞ!」


「ああ、あれはまさに、金の卵になりそうですね」


「私は金の卵より、その卵を産む、金の雌鶏が欲しいの」


3人の男女が、大きな建物に入りながら会話をしている。1人は大柄で、筋骨隆々とはしているものの、高級そうなスーツと装飾品で、洗練されたイメージを醸す。

隣には、その男とは正反対に背は低く、細身の眼鏡を掛けた男性が歩いている。ひ弱そうな外見からは考えられないほどに、目だけが鋭い。

そして目を惹くのは、その2人の男を引き連れるように歩く妖艶な美女。肉体的な魅力に溢れ、どんな男でも振り返らずにはいられないような美しさだ。派手な服装ではないが、シックな黒いドレスを着た姿は、まさに堕落へと導く悪魔か魔女のようにも見える。


3人は談笑とも密談とも言える声の大きさで、廊下を歩く。


「おお、この世の春、全ての男を魅了し、堕落へと誘う罪な方、麗しのインキュバス、エリザ嬢ではないか!」


目の前に現れたのは、貴族風の男。洗練された身の運びは、それが生まれた時から貴族たることを運命付けられた人が身につけるそれだった。


「あら、ヒュンマエル枢機卿、インキュバスだなんて、お上手な方。今日はどんな悪巧みをしてきたのかしら?」


「それは秘密だから悪巧みなのさ。でも、ベッドの中でなら、口を滑らしてしまうかもしれないよ。君の蜜で、私の舌を濡らしておくれ」


ヒュンマエルがエリザと呼ばれる女性の腰に手を回す。エリザの首元、その匂いを嗅ぐようにヒュンマエルが顔を近づける。そっとエリザは囁く。


「ふふふ、相変わらずせっかちね。今度、お食事に連れて行ってくださいね、ヒュンマエル枢機卿」


「ヒュンマエルでいいと言っているのに、君も連れないな。それではまた今度、使いの者を送るよ。ではまた」


去り際に腰から臀部へと、撫で回すように手を動かし去っていくヒュンマエル。


「相変わらずのエロ親父振りだな、ヒュンマエルも!」


やれやれと言った感じで大柄な男、ボスコがため息をつく。


「俺たちには挨拶もなしだしな、ハハハ」


どうでもいいと言った感じで笑う眼鏡の男、リッシュ。


「あら、私は嫌いじゃなくてよ?金の卵でなくても、あれも、そうね、ジャガイモくらいの価値はあるわ。定期的に収穫できる作物は、一定のお金になるものよ」


「枢機卿をジャガイモだなんて、エリザ様にしかできない比喩だな!」


「ハハハ、その通りですね」


枢機卿とは、アリスティア法王国の行政権を持つ組織の一員を指す。しかしここはアリスティア法王国ではなく、アリメント協商連合国に建てられた、商館の一つだ。


第二次人魔大戦直後の人魔転生合衆国独立から始まる混乱期に乗じて、その当時から大陸の流通網を掌握していた「協商組合」が、他国の税制から逃れるために、税金を取られる側から取る側へと転身した姿が、アリメント協商連合国だ。


協商連合国を取り仕切っているのは、「十席」と言われる評議会だ。その姿が世間に出ることはなく、実際に10人で構成されているのかどうかも分からない。全ては広報によって、その決定が通知される。


3人は大きな机がある部屋に着くと、すでに何人かが着席している。あるものは燻し草を醸し、あるものはブランデーを傾けている。「十席」には生半可な手腕ではなれないが、それはまた、曲者が集うということも意味している。


中には魔人もいるようだ。


議題も、誰ということもなく、先日発見されたコインバーへの対応をどうするか、ということになた。



「あっしは、コインバーを作ったお方を存じてやすぜ」


薄暗い部屋では、10人ほどの人物が、一本のコインバーを見つめながら会議をしている。


その中には風天のゴブの姿があった。

ほかのメンバーの注目がゴブに集まる。


「最近、『洞窟』のオーナーが変わりやしたのは、ご存知でやしょう。そのオーナーが、ちょっと変わりもんでやんして、このコインバーはそのオーナーが作ったもんでさぁ」


「あら、じゃあゴブがその金の鶏を捕まえて来てちょうだいよ。これで利益はあたしたちのものよ」


「へぇ、そうしやしょうかね。一筋縄でいくかどうかは風まかせ。皆様方も、ぜひ、手伝ってくだせぇ」


「あら、珍しいわね。あなたがそんなこと言うなんて。でも、いいわ。必要になったら言ってちょうだいね。これもアリメントのためよ」


薄暗い部屋に集まった人影は、一つまた一つとその姿をくらませる。ここでもまた一つ、ミミクの知らない物語が動き出そうとしていた。




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