紅い女とカッコいい男
「よく来たのじゃ!ミコ!!」
ミコに抱きつくフランフラン。ミコも嫌ではなさそうだ。初めて、この別荘に友人が訪れた感動で、フランフランは舞い上がっている。
「いつでも来ていいって、言ってたから、来た!」
「急に押しかけて、申し訳ございませn」
「もちろんじゃ、ミコ!早くこっちに参れ!
ハイド、お茶の用意じゃ。ミコのは特別甘くな!」
「(ああ、私、眼中にないんだぁ・・・)」
「承知いたしました、お嬢様。さ、ステラ様も。お紅茶でよろしいですか?」
「ハ、ハイドさん!もちろんです!」
ここに、フランフランとハイド以外のものが入ったことはない。『洞窟』第3層の天井と、第2層の床下を掘る抜いて作られたソ・ドラキュラ一族の別荘は、空間魔法による空間拡張で、本来の大きさとは比べられないほど大きい。
内装はゴシック調で、豪華な装飾品には、値段も付けられない。
玄関の広間にある大階段の正面には、ソ・ドラキュラ一族の真祖ドラキュラが描かれている。
応接間に通されて、フランフラン、ミコ、ステラの3人が座り、すぐにハイドがお茶を持ってきた。
「階段に飾ってた絵、あれは誰なの?」
「ドラキュラお爺様じゃ!妾たち一族の、一番始めのお方じゃ!」
「へぇ、よくわかんないけど、偉いんだね!」
「そうじゃとも、エリエント王国の魔王とは、ドラキュラお爺様のことじゃ!」
「ぶぅ?!?!マ、マジですか?」
ハイドは驚く様子もなく、すぐにハンカチを用意して、ステラが噴き出した紅茶の始末をする。
“浄化”の魔法までかけて、来た時よりも、ステラは綺麗になったかのようだ。
「はい、ステラ様。“原点にして最強”がドラキュラ様の二つ名なのですよ。彼の方以外に、魔族を統一できる魔人はおりません」
「へぇ〜、それは、知らなかったです」
「そんなことはいいのじゃ!ミコ!妾の部屋で、遊ぶのじゃ!!ハイド、呼ぶまで来るな!!!」
「畏まりました、お嬢様」
フランフランはミコの手を引いて、自分の部屋まで案内するつもりのようだ。ミコはミコで、初めての、同い年くらいの友達が嬉しく、楽しげに一緒に走り抜けていく。
「・・・ステラ様、大丈夫ですよ。流石に、ミコ様に嫌われるようなことはいたしません」
本心を見抜かれたかのようで、ステラは一瞬ギョッとした。
「・・・お見通しですねー」
「いえいえ、少しだけです」
「ハイドさんは、フランフランさんの、執事なんですよね?」
「はい、左様です。お嬢様が生まれてこのかた、この屋敷より遠く、離れたことはございません」
「えーおやすみなし?大変じゃないですか?」
「いえ、とんでもございません。これは、自由意志なのです。名札付には、それが許されていますから」
何か思うところがあるのか、ハイドの目は一瞬、遠くを見るような、柔和な目つきになったが、またいつものキリッとした顔に戻った。
「私も、一応ミミクさんの秘書ってことになってるけど、ハイドさんほど、働いてないなぁ。」
「クスッ、左様でございますか。お紅茶のおかわりはいかがですか?」
「欲しいけど、お互い、付き人ってことでしょ?畏まらずに、一緒に飲みましょうよ」
「よろしいのでしょうか、それではお言葉に甘えて」
同じような境遇にある2人には、相通じるものがあったのか、静かに話は弾んだ。
一方その頃、フランフランの部屋では。
「そ、そこはダメだよ///」
「まだまだ、こんなものじゃないぞ///」
「え、そ、そんなとこ///」
「ど、どうじゃ///どうじゃ///」
ガラガラガラッ
「あああああ・・・」
「ミコの、ミコの勝ちぃ!」
楽しく積み木崩しのオモチャで遊んでいた。
白熱した戦いであっただろう2人は、一層興奮していたが、ミコの顔が近づくとたびに鼻息を荒くしていたフランフランの興奮は、やっぱり、そういう興奮だったみたいだ。
ミコとフランフラン、ステラとハイドは、それぞれがそれぞれに2人の時間を楽しんだ。
日常に不満があるわけではない。むしろ、今までよりも楽しんでさえいる。2人の時間はあっという間に過ぎ去った。
ダンジョンの中では、日が沈むというようなことも、また、魔物の寿命や彼らが持つ自由な時間を考えれば、時間に縛られることなど必要がないことのようにも思えるが、あまりに長い自由な時間であるからこそ、節目が必要なのだ。
ある出来事に、時間という箱を与えることで、一つのまとまった宝箱を作り出すことができるのだ。
魔物は生涯それを忘れない。大切に大切にそれを日々眺め、またしばらく時間を置いて、またそれを楽しむ。魔物なりの、時間との関わりなのだ。
「今日は、本当に楽しかったです。フランフランさん、それから、ハイド//さん、ありがとうございましたっ///」
「フラン、また来る!ハイドさん、さようなら」
「ミコ、泊まっていっても、いいんじゃぞ?」
「・・・でも、ミミクが心配するから」
ミコに悲しい顔をしてしまい、取り繕うとするフランフラン。そして同時に、ミコの悲しげな顔が、自分とのしばしの別離に伴う顔だということに気づき、また心臓が動く気がした。
「ああ!わかった、わかっておるのじゃぞ。
また、いつでも来るのじゃぞ、ミコ」
「・・・うん、またね!」
「ミコ様、ステラ様、道中、お気をつけください。とはいっても、心配はむしろ不遜ですね」
「そ、そんなこと!私も、また来ます!!!」
「はい、いつでもいらっしゃってください。それでは」
「ばいばーい!!」
大きく翼を広げて飛ぶ赤い龍。その背中に、同じくらい顔を赤らめた妖精。
親睦深めて、2人は帰路につく。
風の中、静かに呟くステラ。
「・・・ハイド、さん///」
自室で枕に顔を押し付け呟くフランフラン。
「・・・ミコ///」
2人の想いは、ガンガルド火山から吹き出す溶岩よりも、きっと、熱く、静かに、身を焦がす。




