肝っ玉蜘蛛とパリピ女神
少しはダンジョンの経営に寄与しようと、ここ最近、ほかの魔物に交じって冒険者の相手をしている。隣には俺と全く同型の宝箱を設置している。
冒険者は必ず“解析”の魔法をかけてくる。どうにかこの解析魔法をレジストできないかを研究している。どうやら、この“解析”は万能ではないということが分かった。
まず成功確率は、80%といったところらしい。そして、魔物か否かを、魔素の量で判断しているようなのだ。つまり、「魔物をコインに換算した時の強さ」と「コインの量」をそれぞれ想定して、判断しているということだ。
そこから考えられる作戦は、こうなる。
「おい、見ろよ。やけにでけぇ宝箱だ」
「ほんとだー。すげー。こんな宝箱、だれがつくったんだろー」
「“解析”、する?」
「頼む」
「“解析”。わ、これ、とんでもない、魔素、含んでる」
「マジー?とんでもないって、どゆことー?」
「コイン、10000枚、以上の、魔素」
「おいおい、そんなことってあんのか?聞ぃたことがねぇそ、そんな量」
「ってことはー、馬鹿みたいに強いミミックかー、馬鹿みたいにため込んだ宝箱ってことー?」
「そう、なる」
「そんな強いミミックなんか、信じられるか!こいつは、宝箱に違ぇねぇ!」
「やったー!村で、豪遊だー!ひゃっはー!」
「ちょ、ちょっと、ま」
冒険者の3人のうち、盗賊と思われる女が近づいてくる。にやにやと浮かべた笑みは、もはや魔物である可能性など、微塵も想定していないことがわかる。
しかし、まだ、待つ。
「ほら、見てー!コイン、たーくさん!」
「わ、ほんと」
「こいつぁ、すげぇや。これを持って帰れば、夢の利子せいかt」
と言い終わる前に、近づいてきた3人まとめて捕食。モグモグ。いや、モグモグはしてない。溶かす。ジュージュー?ちょっと違う気もする。
酸性値は最大にまで上げているので、3人は苦しむこともなく溶け切った。あくまでこれはダンジョンのためなので、“換金”でパラメータとして取り込まず、吐き出してダンジョンに吸収されるのを待つ。
いい汗かいたぜ。汗腺なんて、持ち合わせてないけど。さぁ早く最奥地に帰ろう。
人型に“模倣”して、ハイドに分けてもらったお茶を、ステラに入れてもらおう。
ステラの冷却魔法で、キンと冷やしたのをぐっと飲み干したい。
近くのゾンビを捕まえる。本当は、オーナーの権能で、ダンジョン内ならどこでも一瞬で移動できるのだが、今日は、ダンジョンの様子を査察としゃれこもう。
前世では、査察される側しか経験がないので、ちょっとワクワクだ。
ゾンビの足で、4日ぐらいかな。不眠不休不死と、最高の社畜だぜ、ゾンビっつう奴はよ!
ゾンビの口から核を覗かせて、黙々と歩く。
おお、ゴブリンがしっかりと集団で戦っている。5人が一つのパーティを構成していて、指揮官、前衛が二人、後衛が一人、回復担当が一人という具合だ。
指揮官が、全体を俯瞰する位置にいて、前衛二人に情報を伝える。種族間の思念通話だから、どんなやりとりをしているかは、冒険者にはわからない。前衛は、戦場を引っ掻き回して、大きく冒険者を疲弊させ、すきを見てダメージを負わせていく。
後衛は、ゴブリンは魔法を使えないから、投石による支援だ。これも指揮官が標的を決定する。詠唱を始めた魔法使いや、ヒーラーが主な標的だが、前衛の支援も行う。
そして回復担当。ダンジョン内に自生する魔物植物から、魔素の回復薬を作り、それを使って回復支援をする。
これは、実は予想外なことだった。なぜなら、ゴブリンは一般的に知能が低いので、そんな科学的な代物を作り出すことができるとは、思っていなかったからだ。しかし、集団生活と、先祖代々受け継がれた知恵の蓄積だという。伝統や歴史が、こういう形で結実しているとは、なんだか考えさせられるなぁ、馬鹿だと思っててごめん。
おお、ダンジョンスネイルが生息する通路だ。2人の人間が両手を広げればその両端に手がつくほど、狭い通路の両脇に、鎧甲冑が並んでいる。全部で16体。このうち、本物は8体。
ダンジョンスネイルは、結構冒険者に人気だ。なぜなら、あまり動かず強力な攻撃力もない割に、コインを大量に落とすからだ。それはその防御力の高さが原因だ。パラメータの総量からコインは算出されるので、こういう事態も起こる。
そこで、目の前に来たら切り倒すという作戦以外に、わざと偽物を少し動かすというようなギミックも仕込んだ。中にはダンジョンラットが入っている。ダンジョンラットは、正直ただの大きな鼠だ。マウスと呼ばれるものは日本ではハツカネズミと言われ、ラットと呼ばれるものはドブネズミと呼ばれる。ラットともなると、小型犬ぐらいの大きさのものもいるが、ダンジョンラットは、大型犬ほどの大きさだ。
大人のダンジョンラットは大きすぎるので、鎧甲冑には子供のダンジョンラットが入っている。ダンジョンラットにしてみれば、安全に子供を保育できる施設としても使うことができるので、一石二鳥というわけだ。
冒険者が、警戒しながら、その通路を通る。いつまで経っても襲ってくる気配はない。
やっと通路から抜けたと思えば、後ろで鎧甲冑が動く音がする。なんだと思って再度近づく。
ガタガタと動いている。しめたと思った冒険者は、その鎧に切りかかる。しかし中はもぬけの殻。すでに幼体のダンジョンラットは逃げ出している。おかしいな、と思った冒険者の後ろから、本物のダンジョンスネイルが一撃を加える、というわけだ。
まぁ、子供だましだが、子供だましぐらいでも、魔物がそのような知性的な作戦を立てるはずがないという冒険者の油断を突いた作戦だといえる。
そんな風にダンジョンを視察して回りながら、やっと最奥地に着いた。さすがに疲れた。
遊びまわっているミコと鉢合わせになると思っていたが、通路は一つではないので、そんなこともまかった。あいつがどういう風に戦っているのか、一度ちゃんと見学してみようを思ったのだが。
そんなことより早くステラのお茶を飲みたいと思いながら扉を開けると、そこに大きな、そして不気味な物体が目の前に現れた。
漆黒の表面には、鈍い光沢を放つ、鉄を思わせる産毛がびっしりと生えている。大きな球体が二つ連なったような物体の間から、8本の柱を思わせる巨大な足。巨大な蜘蛛だ。
その正面にはステラがいる。一瞬でステラの傍に移動する。何ができるかわからないが、ステラを守らなけばと思った。しかし正面から見て、さらに驚いた。黒い肌に、宝石を思わせる光沢をもつガラス玉のような目が、数えきれないほど嵌め込まれたかのように輝いている。
そして、柱のような太い足を二本、器用に使って、ティーカップでお茶を飲んでいる。
お茶を飲んでいる?
「・・・ステラさん、この方は?」
「“『洞窟』の母”こと、タラテクトのマザーさんです」
「あらあら、まぁまぁ、はじめまして。私、マザーと申しますの。まぁまぁ、小さな主人様ですこと、まぁまぁ」
「・・・今回は、どのような御用向きで?」
「あらあら、まぁまぁ。先日は、子供の世話が大変で大変で、こちらに伺えなかったものですから、本日は、ご挨拶に伺いましたの」
「これはこれはご丁寧に」
「ドゥルーズさんは、どうなさいましたの?」
「冒険者との戦いで・・・」
「あらあら、まぁまぁ。あの方も、随分の長生きでしたものね。若い頃は、2人とも、血が滾ってたのかしら、喧嘩なんてしょっちゅうでねぇ、えぇえぇ。
覇権争いなんて、言うのかしら?!ドラゴンとタラテクト、大昔からの知り合いでしたのよ、あのお方とは」
「蜘蛛さん、お父さんを知ってるの?」
「あらあら、もしかして、ドゥルーズさんのお子様?あらぁ、大きくなって〜。昔見たときは、まだ卵だったのにねぇ〜。そうよ、お友達だったのよ〜」
「父上って、どんな龍だったの?」
「つよーい方だったわよ〜。芯が通ってて、自分の信念は、絶対に曲げないような方だったわ〜。
大昔は、私も含めて、いろんな魔物と喧嘩してたわよ〜」
「大昔というのは、どれほど前なんだ?」
「あらやだ!殿方がレディに、年のわかるような話をするもんでなくてよ!」
木の幹のような足を、冗談かのように振り落とす。オイオイ、マジかよ。
ズドンと振り下ろされた、広間の地面には、大きな穴とヒビが広がっている。
あっぶねぇおばさんだなぁ、おい!!!
「あらやだ、ごめんあそばせ!オホホホ!
昔はねぇ、戦ってるうちに、彼の方と何度も目が合いましてね〜」
そんだけ複眼がありゃ、いやでも目が合うわ!!
「彼の方、多分、私のことが好きだったのよ!でも、私、そんな軽い女じゃなくってよ!って振ってやったわ!」
振る(物理)。
「私の好みじゃなかったのよ。少し、足の数が足りなかったわね、オホホホ。
あらやだ、この年になると、どうしても昔話が多くなっちゃうわ、いやだわ〜。
私、お話は聞いてますの。私の子供達ったら、優秀だから、ちゃっかり主人様のお話も伺っていましたのよ!親バカかしら!
出でよ、我が眷属ども」
先程開けた穴から、ワラワラと溢れ出る、蜘蛛の子。
「私は、もう現役を引退しちゃったけど、この子たちは、きっと主人様のお力になると思うわ!死んだら、産むから、好きに使っちゃってくださいな。ビシバシしごいちゃってくださいな!
給料?そんなものに興味はなくってよ!でも、餌になる人間を、毎日1人はいただくわね!それで十分よ!あんまり食べると、いなくなっちゃいますものね!オホホホ」
“会計”で確認すると、1匹が5G。かなりの戦力だ。おそらく、ダンジョンの下から湧き出たから、この前の召喚時には、カウントされなかったのだろう。
「ミコちゃんっておっしゃるの?いい名前ね。
いい、ミコちゃん。お父さんは、偉大な龍だったわ。私も、あの方と喧嘩できたことは、すごく誇りに思ってるのよ!オホホホ。
だから、あんまり落ち込まずに、お父さんみたいな龍になって、また私と喧嘩してちょうだいね!オホホホ。
さて、そろそろお暇いたしますわ。私自身は、大3層の隅っこに寝ぐらがありますのよ、ご存知で?いつでも遊びに来てちょうだいね!ステラさん、お茶、ご馳走様。また飲ませて頂戴ね!
それでは、ご機嫌遊ばせ〜」
タラテクトは、その大きな身体を、小さな蜘蛛に分解して、先ほどの穴から出て行った。肌はないが、少し鳥肌の立つような光景だった。
「・・・なんというか、パワフルなお人ですね」
「・・・傍若無人、の、間違いだろ」
それでも、まぁ、戦力の増強にはなったかな。
うん、戦力の増強による、ダンジョンの魔物達の意識改革は、予想外に大成功だな!
まだ人魚族にはあってはないけど、ここまで順調なら、いつでもいいかな。
ちょうど入れ替わりに、広間が光に包まれた。
「ちぃ〜っす、女神ちゃんでぇ〜す」
「あ、女神さま!」
相変わらず、ふざけた喋り方だ。
「ミミクちゃんだっけぇ?名前変えるとか、超ウケる。ハンドルネームかよ!
さて、結果発表〜、ほら、みんな拍手!
まずはダンジョンが吸収したコインの発表〜。
今月は〜、1600枚でした〜、いえーい!!
後半の追い上げ、パねぇ!うなぎ登りじゃーん!ミミクちゃん、やばみハンパねぇ!
ここから、500枚を今月の上納金として、いただきまーす、あざーっす!
じゃ、次のダンジョンに、行くんで、来月もよろ〜!」
「あ、ちょっと待て!上納金って、ほかのダンジョンでも同じだけ、やってんのか??」
「ったりめーじゃーん。不公平?差別?はんたーい!いえーい!じゃね〜」
光が搔き消える。あ、人間形態への“模倣”できるようになったから、ご褒美変えてもらおうと思ったのに。ま、来月でいっか。
さて、今月の清算だ。
手元に残ったのは、使わなかったコイン含めて、約1200G。ここから、フランフランへの給料が、半月分で60Gかな。ステラ先生にも、先に60G渡しとくか。
残ったのは、約1100G。パラメータに“換金”しちゃうのは、まだもったいないかな。
もう少し貯めてからにしよう。そうだなぁ。
さっきマザーさんの協力も得られそうだったし、今月は戦力の増強はせずに、このコイン全部を、人間の通貨Cに変えて、人間との交流を始めようかな。
資本主義は金を回してなんぼだし。あの“便利屋”との取引でも、そっちのほうが都合良さそうだし。
よし、それじゃあ、今週中にでも、換金兼ねて、街に繰り出そう!
======現在の状況======
迷宮利益率= 100G/D(↑50)
内訳(new!!)
ミコ 20G/D
フランフラン 30G/D
マザーの眷属 50G/D
所持金:
1080G
→ダンジョンの利益-従業員への給料
資産:
・「ゴルデンミミック(変異種)」=5000G
スキル:
・“模倣ミミック”=対象物に擬態する。
・“換金エクスチェンジ”=コインを使ってパラメーターを高めたり、魔物を召喚できたりする。
・“捕食”=対象物をHPに変換する。
・“毒手ポイズンタッチ”=相手にわずかな物理ダメージと、毒効果を與える。
・“暗殺アサシン”=相手に気付かれず攻撃に成功すると、攻撃力が3倍になる。
・“目録リスト”=“換金エクスチェンジ”で行使可能な項目を羅列する。内容は多岐にわたる。
・“会計”=対象が倒された時に落ちるコインの量がわかる。間接的に、対象の強さがわかる。しかし、仲間や作戦によって、その強さは上下するため、絶対的な指標ではなく、あくまで目安。
ステータス
・HP=120+1500
・MP=20+1500
・物理防御力=60+500
・物理攻撃力=300+500
・魔法防御力=20+500
・魔法攻撃力=20+500
従業員
・ステラ 職務:秘書 給料:2G/D
・魔物 総勢 300匹(ダンジョンバット15%、ダンジョンラット15%、魔物植物20%、ゴブリン10%、ダンジョンスネイル10%、スライム5%、ミミック5%、ダンジョンウルフ5%、オーク5%、サイクロプス5%、龍1%、吸血鬼1%、ボブゴブリン1%、タラテクト1%、人魚1%) 給料:0G/D
・ソ・ドラキュラ・フランフラン 職務:戦闘員 給料:歩合(平均して)5G/D
・マザーの眷属 0G/D
友達
・ミコ 種族:地底龍、幼女
・マザー 種族:タラテクト、肝っ玉母上(new!!)
10話を迎えました。ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
活動報告に、ここまでの所感をあげます。これからも、よろしくお願いいたします。




