決意。
「タルヒ・メーベル。前置きというのが苦手だから率直にいう。私専属の部下となれ。悪い話ではなかろう。」
私が何故、訓令兵を見に来たか。
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「ところで隊長様。軍隊に所属するのはいいのですが、私から一つお願いがあるのです。」
「なんだね、リモスくん。」
隊長様は少し困った顔をされた。が、見なかったことにしよう。
ここは私も譲れるところではない。
「私専属の部下が欲しいのです。まぁそうですね、私の執事のような感じですかね。」
「...そのように手配を「焦らないでください。」っ...。」
「軍が指名した者など、私には信用できません故、私自身で見に行かせていただきます。」
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とまぁそんなことで私はここに来た。
「嬉しきお言葉。僕には勿体ないですね。喜んでお受け致します。」
「...そうか。拒否されると思ったがそうでもないみたいだな。タルヒ・メーベル。今日から私の付き人だ。」
「はい。隊長。」
「隊長と呼ぶのはやめてくれ。ファーストネームで呼ぶことを許可する。」
「...リモス様、でよろしいですか?」
「あぁ、よい。タルヒ、これからよろしく頼むぞ。」
「はい。」
★
なんで僕がこんなガキに。
部屋に戻った僕は苛立っていた。
それもかなり。
「タルヒ・メーベル。私専属の部下となれ。」
金髪ボブのガキにお仕えなどしなければならないのだ。
しかし、さっきの魔法はすごかった。
魔力Aクラスの上位。抵抗は精神の強さ。忍耐力精神力については折り紙付きの僕が負けかけた。あんなガキに。
それとあの威圧はただの威圧ではない。
“死の恐怖”だ。並大抵の魔導師じゃ無理なレベル。僕も怖かった。
それを軽々と...。くそっ、
「なんなんだあの小娘は!!くそっくそっ!!...死の恐怖なんて反則だろ...」
「ほう。あれは死の恐怖というのか。」
!?いつの間にっ...
「な、なぜここに...リモス様が...僕の魔力感知が働かなかった、だと?」
僕の部屋の周りには魔力結界を張り巡らせていたはず...
「あぁ、かなり優秀な魔力結界だったな。」
“だが、私には劣る。”とまで言ってきた。
優雅に重量操作で歩かずにこちらに来た。
「タルヒ。私に忠誠を誓うのは嫌か。」
この際隠しても無駄だろう。
「はい。タルヒ・メーベルはリモス・マーベリア隊長殿に忠誠を誓うなど受け入れがたいのです。」
リモス隊長は目を細めた。
「この際だ。堅苦しい発言はよせ。砕けて話すことを許可する。」
そこから僕はぶちまけた。
「だいたいですね、自分より年下のガキに上から目線で私のしたにつけ など言われて受け入れられるかって話ですよ!!それから...」
という調子で愚痴った。
それを隊長殿は相槌を打ちながらちゃんと聞いてくれた。
〇・〇・〇・
「あ、もう外が暗くなって来ちゃいました...」
「あぁ、もうそんな時間か。では私はお暇するとしよう。気が向いたらいつでも専属の部下にしてやるから言うといい。」
ガタッと隊長殿が席を立つ。
慌てて僕も席を立つ。
「送らなくてよい。タルヒは休むことだ。私は一人でも強いのでな。」
“そんじょそこらの事じゃ死なん。”隊長殿はそう言って笑った。
「世話になったな、タルヒ。それではまた明日、訓練所で会うとしよう。よい夢を。」
隊長は一礼して出ていかれた。
「なーんか...思ってたヤツとちげー...」
僕は思ったままに呟いた。
「あぁ、私もだ。」
扉の前からそんな呟きが聞こえた気がした。
★
「さて諸君。おはようなのだ。」
「「「おはようございます!隊長殿!!」」」
「うむ。良い挨拶じゃ。さて、今日の訓練だが────」
私が発言しようとしたその時。
胸ポケットに入れた無線機が鳴り出した。
『緊急事態発生。緊急事態発生。侵入者です。魔力推定A+、身体能力推定A-。危険人物が侵入した。発見次第安全面を確保し直ちに捕獲せよ。繰り返す。発見次第安全面を確保し直ちに捕獲せよ。』
侵入者、か。
「訓練内容変更だ。この者を捕獲せよ。よいな?」
「はっ!!!」
「行けっ!!!」
私の号令でみんなが散らばった。
さて、私も動くとするかの。
「ここに侵入こと、せいぜい後悔するがいい。」
隊長格のみに支給されるマントをなびかせ、帽子を深く被り歩き出す少女《怪物》。
誰が止められたものか。
★
「はぁ、はぁっ、」
かれこれ1時間は探している。
なのに何故見つからない。
「くそっ、どこにいるんだ!」
コツっ
一つの足音が聞こえた。
「誰だ!?」
「おや、見つかってしまったかね。」
眼鏡をかけた男性がいた。
「貴様が侵入者か...」
「軍事機密というものに興味があってね...。でも軍には所属したくなかったのだよ。」
「何故僕に言う。」
男は嗤う。
「君がここで死ぬからに決まっているだろう?」
「っ...、ギアチェンジ!歪曲眼!!」
「!!ほう、空間を歪ませるか...殺すのには惜しいな...。だが、話は別だな。」
躱された...?
「君とはここでおさらばだ。すまないな、少年。」
男が手をかざす。
ここが墓場か。つまんねー人生だったな。
僕は目を閉じて死を覚悟した。
「誰が死ねと指示した。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「ちっ、誰だ!!」
「リモス隊長っ...」
「馬鹿が。隊長の私より先に死ぬなど私は許しておらんぞ。」
いつもの冷たい目は、いつもの100倍くらい冷たくなって男を睨んでいる。
「君みたいなお嬢ちゃんが隊長?冗談も程々にしてくれ。」
男は笑う。本当の恐怖を知らないから。
「タルヒ。離れろ。」
「はっ!」
僕は恐怖を知ってる。だからこの男より劣ってはない。
「お嬢ちゃんに何が出来るのかなー?笑」
刹那、男の顔が恐怖に染まった。
冷や汗が止まらないらしい。
「死の威圧だ。恐怖など貴様には甘い。死の直前の模擬体験を受けさせてやったのだ。感謝せよ。」
いやそれで感謝とか、笑えないっす隊長。
「タルヒ。」
「は、はい。」
隊長がこっちを振り返る。
「怪我はないか。」
「...は?」
「上司たるもの、部下に死を覚悟させたことは私の技量不足だ。すまなかった。」
「...え?、失礼ながら隊長。あなたにとって部下とは?」
きょとんとした顔でこちらを見る隊長。
「私が命を賭してでも守らねばならぬ大切な者達だ。導く者として、そして強い者として私は諸君らを守る義務がある。誰一人として欠けてはならぬ。」
あぁやっぱ、他とは違う。
「...隊長、この場で言うことじゃないとは思いますが、。」
「なんだ?」
僕は隊長に跪き、決意を述べる。
「私、タルヒ・メーベルはリモス・マーベリア隊長様の専属の部下として忠誠を誓いたい所望でございます。」
隊長は目を丸くしていた。
そして初めて
「よい。タルヒ、私のことをよろしく頼むぞ。」
満面の笑みを見せたのだ。
★
「リモス様~?どちらに行かれたのですか~?」
「タルヒ!私はここなのだ!」
リモス様はすっかり僕に懐いてくれた。
「タルヒ!そろそろみんなの訓練の時間だ!急ぐぞタルヒ!」
ホントは可愛らしい人なんだとか。
お心が広い人なのだとか。
実は誰よりも部下を思っている人なんだとか。
僕を助けたことなどが訓練兵に伝わり、今やみんなに尊敬されてるリモス様。
その中で僕を選んでくれたことを僕は自慢としている。
「タルヒ!今日は私直属の部下を決める日なのだぞ。専属はタルヒだが精鋭部隊が欲しいと言われてな。私率いる直属部隊を構成する。もちろんタルヒは副隊長だ。」
「は、了解」
「良い返事だ。行くぞ。」
僕は一生、この人のそばに居たいと、その為にもっと強くなる。そう決意したのだった。