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アーリル王国の騎士  作者: siryu
初めての迷宮の章
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第60話 初迷宮 中編

「あ!ヴィンス、宝箱があったわよ!」


「本当だね。じゃあ僕が開けてみよう」


 ローザが見つけた宝箱をヴィンスが開けることにする。これはヴィンスが出しゃばった訳ではなく、宝箱には時々罠が仕掛けられている事があるためだ。

 罠を解除するにはスキル『罠解除』が必要なのだが2人共覚えていないので何かあっても耐えられるようにヴィンスが開ける事にしたのだ。


「これは……宝石だね」


 ヴィンスが開けた空箱の中身は宝石でそれをローザに渡した。


「本当ね……これって売るしかないのかしら?」


「えっと……確かこれを加工して貰ってアクセサリにする方法があるって聞いた覚えがある。ただ、これをどこに持って行けば加工して貰えるかまでは分からないけど……」


「だったら町に戻った時にカルディナさんに聞いてみない?ギルド職員なら知っているかもしれないわ」


「それは名案だね。じゃあローザが持っていて。もし使い道がなかったらファッション的な意味でアクセサリにしてもいいよ」


「本当!?だったら喜んで預かるわ!!」


 ローザも年頃の女性だけあって、ヴィンスの言葉に喜んだ。






「1階はこんなところかな?出て来た魔物もゴブリンだけだったし……」


「この調子が最後まで続けば最下層まで楽勝なんでしょうけど、そこまで甘くはないわよね…?」


「あっはっは、流石にそこまで甘くないと思うよ。この程度で済むなら世の中皆冒険者になるんじゃないかな?」


 ローザが半分上段の気持ちで希望的観測を言うとヴィンスは思わず笑いながら否定する。


「そこまで笑わなくてもいいじゃない。あくまで希望なんだから」


「ごめんごめん。さあ、次の階に降りようか」


 ヴィンスは膨れっ面のローザを宥めながら地下2階に降りた。


「資料によると2階はゴブリン以外の魔物も出現するみたいだからそのつもりでね」


「分かったわ。ゴブリン以外になるとさっきみたいに鞭だけで済ませるのも難しくなるでしょうから魔法も使っていくわ」


 そう言うとローザは棘の鞭からルーンスタッフに握り替える。


 幸いにも魔物との遭遇がなく探索は進みその間に宝箱を2つ発見する。中身はポーションと毒消し草であった。


「1階は何度かゴブリンと戦闘になったのに2階に入ってからまだ遭遇しないわね」


「う~ん、『索敵』にも全く引っ掛からないし……何でだろうね?」


 魔物と遭遇しない事に若干拍子抜けする2人だったが、しばらくするとヴィンスの『索敵』に多数の反応があった。


「これは……」


「魔物?」


「魔物には違いないんだけど……人っぽい反応もあるんだ。魔物と戦っているのかもしれないな」


「取り敢えず急いで向かいましょう!場合によっては助けがいるかもしれないわ!」


 2人は急いで反応があった場所に向かうと、3人の冒険者らしき人間が10体以上のゴブリン達と戦っていた。通常のゴブリンの体は緑色だが、今冒険者達が戦っているゴブリンの内、3体は赤っぽい色——ゴブリンソルジャーであった。

 ヴィンスの目から見て3人の冒険者は装備こそ悪くなかったが技量面では全員が未熟であり、ゴブリンソルジャーの攻撃に全く対応出来ず体は傷だらけになっていた。


「これは……明らかに苦戦しているね。助けてあげないと最悪全滅するな」


「勿論助けましょう!私は『エアーブラスト』を撃つけどいいかしら?」


「ああ、僕はゴブリンソルジャーの相手をする!」


 2人は作戦を決めると直ぐに行動に移る。





「おい!お前は盾職なんだからしっかりあいつの攻撃を止めろよ!」

「そうよ!そうすれば私も魔法を詠唱出来て何とか活路を見出せるのに!」

「無茶言うな!大体時間が稼げてもお前程度の魔法でどうにかなる相手じゃねえだろ!そもそも俺達のLvじゃまだ無理だったんだよ!」


 3人の冒険者達はゴブリンソルジャーの攻撃に全く対応出来ず既にボロボロであった。挙句の果てには仲間割れを起こす寸前である。確かに盾職の男がゴブリン達の攻撃を受け止められれば戦況はよくなるだろうが、単純にこの冒険者達はLvが低くゴブリンソルジャーを相手取るだけの力量はなかった。


「うわぁ!もう駄目だ!!」

「きゃぁ!!死にたくない!!」

「くそぉ!!」


 ゴブリン達に包囲された冒険者達は絶体絶命のピンチになるが——


「貴方達!諦めちゃ駄目よ!!」


 詠唱を終えたローザが魔法の射程内に入ると風魔法『エアーブラスト』を放つ。


「「「グギャーー!?」」」


 ローザの正面にいたゴブリン達は『エアーブラスト』によって体中を切り刻まれて倒れていく。


「ギャ?グギャッ!!?」


 従えていたゴブリン達が倒れていくのに気付いたゴブリンソルジャーだったが、いつの間にか接近していたヴィンスから繰り出される一撃で絶命した。


「うわぁぁ……あれ?」

「……え?」

「た、助かった……」


 ヴィンス達があっと言う間にゴブリンソルジャーとゴブリン達を始末するとようやく3人の冒険者達も現状を把握出来たのか、自分達が助かったのだと理解する。


「大丈夫ですか?」


 ヴィンスは冒険者達に声を掛けると同時に3人を観察する。3人共ヴィンス達と同じくらいの年齢と見受けられた。


「間一髪だったわね。助かって本当によかったわ」


 離れたところから魔法を放ったローザも合流する。


「あ、あんた達が助けてくれたのか……感謝する……」

「し、死ぬかと思ったわ~。ありがと~!!」

「ありがとう……本当にありがとう!!」


 助かった冒険者達はやっと安心出来たのか、3人共ヴィンス達に御礼を言うと力が抜けたのか膝から崩れ落ちる。


「3人共傷だらけね。回復してあげるわ」


 ボロボロの3人を見かねたローザは回復魔法『ヒール』で治療する。


「回復までして貰って申し訳ない。実は初めての迷宮探索で……1階は問題なかったんだが2階でこのザマだ。助けて貰ったからよかったけど、こんな事なら1階でもっとじっくり鍛えるべきだったな」


 治療して貰った3人の内1人が自分達の力量を顧みずに2階に進んだ事をヴィンス達に懺悔するように話す。


「君達は冒険者ギルドで迷宮の資料は購入しなかったのかな?」


「いや、勿論購入して持っているよ」


「だったら魔物の情報も載っていただろうに……勿論読んだんだろうね?」


 正直なところ2階に進むのが自殺行為だと思える程度の力量しか持っていない3人に疑惑の目を向けているヴィンスは思わず少々語気を強めて問いかけた。


「一応読んだんだけど……2階くらいなら何とかなるかなって……」


 ヴィンスの迫力に圧されたのか、思わず弱々しく答える冒険者。ヴィンスは思わずため息をつく。


「君達はもう少し慎重になった方がいい。見たところ前衛2人に後衛1人とバランスは良さそうなのに、この程度の敵で全滅しかける様じゃね……冒険者ギルドで誰かに鍛えて貰うなりして出直した方がいいと思うな」


「う、そこまで言われると流石に凹むなぁ……」


 ハッキリとした言葉でこそないものの、ヴィンスに「君達は弱すぎる」と言われたのと同じ冒険者達は案の定落ち込む。尤も「命を落とすよりはマシだろう」と考えているヴィンスはこの程度の言葉を掛けた事に罪悪感はなかった。


「取り敢えず君達は引き返した方がいい。何なら入り口まで送って行っても構わないけど」


 本音では先を進みたいヴィンスではあるが、せめて1階までは送らないとまた全滅の危機に陥るかもしれないと判断した。


「……皆、引き返していいか?」

「ええ、少なくとも私達にはまだ早かったんだわ」

「うん、もっと鍛えてから挑戦しよう」


 冒険者の3人はヴィンスの助言に従うかどうかを相談する。


「すまない。だったら入り口までは悪いから1階まで付いて来て貰ってもいいかな?1階からなら俺達だけでも帰還出来ると思う」


「分かった。じゃあ1階まで送ろう。ローザもいいよね?」


「ええ、勿論付き合うわ」


 ヴィンスの問い掛けにローザも同意すると5人で1階に引き返す事にする。


「それにしても2人は俺達と歳も変わらなそうなのに随分強いんだな……もしかして高ランクの冒険者なのかな?」


「……高ランクかどうか分からないけど私達は2人共Dランクだよ」


 見知らぬ冒険者達にどこまで自分達の情報を出してもよいかを考えながら、ランクくらいなら大丈夫だろうと判断したヴィンスは答える。


「Dランク!?俺達より3つも上なのか!」

「だったらあんなに強くても納得ね!」

「Dランク……格好いいなぁ……」


 この冒険者達は全員最低のGランクだったようで、ヴィンス達が自分達より3つもランクが上だと分かると目をキラキラさせる。


「その様子だと3人共Gランクみたいだね。じゃあまずはFランクに昇格するまでは1階で頑張る事を勧めるよ。多少時間は掛かるだろうけど今日みたいな目に遭うよりはマシなはずだ」


 ヴィンスが諭すように言うと無言で何度も頷く3人。どうやらDランクだと名乗った事が説得力に繋がった様だ。


「ん、ここを登れば1階だ。じゃあここでお別れだね」


「気を付けて帰ってね」


 ローザは少しだけ先輩風を吹かしたつもりで3人に別れを告げる。3人の冒険者達は手を振って階段を登って行った。


「さっきの冒険者達を見ると私も少しは強くなったんだなと実感出来たわ。うふふ」


 引き続き2階の探索に戻るヴィンス達だったが、途中でローザが先程別れた冒険者達を思い出して過去の自分と重ね合わせながら話をする。


「それって旅を始めた時のローザはGランクだったから彼等と同じだったって言いたいのかな?」


「まぁ、そんなところね」


「う~ん、贔屓する訳じゃないけど僕の見立てでは以前のローザの方が彼等より随分マシだったと思うけどね」


「え?そうかしら?」


 ヴィンスから過去のローザの方がよかったと評価された彼女は声にこそ出さないが少し照れる。


「さっき彼等にも言ったけど前衛2人に後衛1人とバランスは凄くいいのに全然上手く立ち回れていなかった。まだそれぞれの役目を理解出来ていない証拠だよ。その点ローザは自分の役目を最初から理解出来ていたしね。」


「でも立ち回りの話ならヴィンスが強いおかげで私は余裕をもって行動出来ているだけじゃないかしら?」


「それもあるかもしれないけど、中には自分も強いと勘違いして出来もしない事をやろうとする人も少なからずいるんだよ。その点ローザは自分を見失わずに立ち回れている。これは戦いで生き残るのに結構重要な事なんだよ」


「へえ……そういうものなのかしら……?」


 ローザはいまいちピンときていなかったが、ヴィンスの言う事は事実であった。己の力を過信したあまりに身を滅ぼす冒険者は沢山いるのだ。ローザの言う「ヴィンスが強いから無理をする必要がない」は事実であるが、ヴィンスの言う「自分も強いと勘違いする」も事実であり、その点ローザはヴィンスが強いからこそ自分の強さを冷静に判断出来ているのが大きいのだ。


「ん、敵がいるな。数は……6匹だ。ローザ、行くよ!」


「ええ、大丈夫よ」


 魔物の気配に気づいたヴィンスはローザに注意を促すと戦闘に入った。



——————————



「そろそろ外も夜の時間だね。僕としては今回の探索はあくまで迷宮に慣れるためのものだから、一度は迷宮で野営をして明日町に戻る事にしたいんだけどいいかな?」


「ええ、いいわよ。明日帰る時は脱出札使うの?」


「うん、一度どんなものか体験しておいた方がいいと思っていてね。脱出札は高いから今回の探索で考えたら赤字になっちゃうかもしれないけど、そこは必要経費と諦めよう」


「勿論ヴィンスがいいなら私も構わないわよ」


 ヴィンス達は何度か魔物と戦闘を繰り返しながら4階まで降りていた。その間に宝箱も2つ発見したが中身はポーションと毒消し草であった。これに倒した魔物の魔石や素材を全部売却しても恐らく銀貨8枚には届かないだろうとヴィンスは踏んでいた。


「じゃあ今日寝る時はローザの『範囲聖域』に頼ろうかな」


「任せて!ナクールの町に着く前に覚えたのがやっと活きそうね!」


 ローザはミレヘスの町から船が出る3日前の間に頑張って覚えたのだ。これを当時一緒にいたハンスにも教えると「よし!じゃあ一緒に野営しよう!!」と言い出したので、ヴィンスがハンスの首根っこを引きずって宿舎に放り込んだ事もあった。






「じゃあ今日はヴィンスから先に寝て。私が『範囲聖域』を唱えておくから」


 2人は食事を終えると、ローザはヴィンスに先に寝るのを譲ろうとする。


「ありがとう。じゃあ先に寝るね、お休み……」


 ヴィンスもローザの好意に甘えて先に寝る準備に入る。


「ええ、お休みなさい」


 こうしてヴィンス達にとって初めての迷宮探索初日を終えようとしていた。


※スキル『罠解除』…宝箱に仕掛けられた罠を解除出来る。スキルLvが高い程成功率が上がる。

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