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アーリル王国の騎士  作者: siryu
序章
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第6話 入隊試験 後編

「久しぶりにヴィンスを見たが随分立派に育ったものだな。若い頃のラルフにそっくりではないか」


 顎に手を当て微笑みながらラルフに向かって喋ったのは国王レオンである。


「お褒めの言葉ありがとうございます、陛下」


 お礼を言うのは騎士隊長のラルフ。


「本当に逞しく育って羨ましい限りだ。息子のアーヴィンがヴィンスを羨ましがるのもよく分かるというものだ」


 羨ましそうに笑いながら話すのは大臣のロベルト・カーペンター。アーリル王国のトップ3が揃い踏みである。

 この3人とアルフレッドを加えた4人は若い頃共に旅をした経験がある。そんな事もあり今でもとても親密な関係である。そのため余人を交えていない時は割と砕けた言葉で会話している。


「で、この模擬戦はラルフの見立てではどちらが勝つとみているのだ?」


「ちょっと待て、ロベルト!今から始まるというのにそんな事を聞いたら興が削がれるではないか!」


「おっと、これは失礼しました陛下。ラルフ、答えなくていいからな」


「はっはっは。ロベルト殿も陛下同様楽しみにして下され。お、そろそろ始まりますぞ!」


 ラルフの言葉が合図となったようにヴィンスとエリックの模擬戦が始まった。




(……速い!!)

 

 先に仕掛けたのはヴィンスだ。お互い剣を構え少し離れた位置で正対していたが、エリックが予想していた以上の速度でヴィンスは飛び込んできた。距離を詰めたヴィンスは上段から剣を振り下ろしたがその一撃はエリックに当たることなく剣で防がれる。

 振り下ろしの一撃を防がれたヴィンスはすぐに離れて距離を取る……とエリックは予想していたがまたも裏切られる。ヴィンスはそのまま強引に剣を押し込んで鍔迫り合いに持ち込んできたのだ。父親譲りの力にエリックは押し負けそうになる。


(く、この……!)


 この時ヴィンスが選択した鍔迫り合いだが決して脳筋な戦法ではない。それは攻撃を防がれた時の体勢に影響している。ヴィンスは振り下ろしの一撃で、エリックは上段横向きの受けでお互いの剣は衝突した。この体勢であればヴィンスは体重を乗せて押し込めるのに対してエリックはどうしても力を乗せにくいのだ。つまり有利な戦法を選択したに過ぎない。

 実戦であればエリックも防がれた瞬間にヴィンスが距離を取って離れるなどと予想はしなかったであろう。ではなぜそのような勘違いを犯してしまったかと言うとこれは入隊試験だからである。受験者は心理上どうしても慎重になりがちで自身の一撃を防がれるとすぐに距離を取って立て直そうとしてしまう傾向が強かった。そしてその瞬間を試験官が見逃さず追撃の一撃を食らわして不合格になるパターンが多い。エリックも副隊長に就任する前は何度も試験官を務めてきたのでその時の経験が悪い方向に働いてしまったのである。


(このままでは押し負ける……くそっ!やむを得ん!)


 押し返す事も受け流す事も出来ないと判断したエリックは剣技Lv1『剣圧』を発動して強引に押し返した。これを見ていた騎士達から「おおっ!」と声が上がる。これは決してエリックを褒める歓声ではない。むしろヴィンスを褒めるかのような反応だ。それはエリックの方が先に剣技のスキルを発動してしまったからである。

 入隊試験では受験者の技量を十分出しきれる様、試験官が先にスキルを発動しないように心がける事が騎士隊の中では暗黙の了解となっている。

 ラルフやアルフレッドが入隊試験を受けた時ですらそれは破られていない。もっともその時はお互いスキルを発動せず勝ってしまった訳ではあるが……。

 エリックも暗黙の了解は十分知っている。自らの矜持として人一倍意識していた程だ。それにも関わらず先に発動してしまった。それは一人の騎士として「絶対に負けたくない」という極めて単純な理由からであった。


(エリックも熱くなっているな。だがそれでいい)


 離れた所で見ているラルフの口元はニヤリと笑っていた。本来は試験官が熱くなりすぎるのはよろしくない。それは受験者の実力をしっかり判断して合否判定を出す必要があるかだ。しかしこの模擬戦は例外中の例外である。何故ならあの僅かなやり取りのみでヴィンスの実力は十分合格だと判断出来るレベルだからである。

 優秀な試験官の反応が遅れてしまうほどの速度で距離を詰める脚力とその一撃。防がれた後も状況を理解して有利な戦法を瞬時に選択出来る戦闘頭脳。それが確認出来た時点でヴィンスの合格は決まったようなものだ。エリックが剣技のスキルを使わざるを得なかった時点で見ていた騎士達もヴィンスの合格に誰も反論しないであろう。そしてそのことを一番理解しているのは当事者のエリックである。

 であればここからは試験官役の事など忘れてただ勝つことだけを考えれば良いのだ。


(この歳でこの強さ……末恐ろしいな。しかし私も王国騎士隊の副隊長を務める身。絶対に負ける訳にはいかない!)


 エリックは試験官の立場を忘れるかのようにヴィンスに向かって剣を繰り出した。エリックの剣はもはや受験者に向けて撃つ速さではない。それでもそれらを冷静に捌いていくヴィンス。これではどちらが試験官なのか分からなくなってしまうくらいである。


(やはり捌ききるか。しかしそれも計算の内だ。本命は……これだ!)


 木を隠すなら森の中——何気ない連撃の中に本命の一撃を叩き込む。それがエリックの狙い。そしてその一撃とは——



(エリックさんは絶対に何かを狙っている。それを見極めろ……これか!)



 流石に受験者であるヴィンスを大怪我させるわけにはいかない。熱くなっているエリックでも副隊長としてそれくらいの分別はある。そんなエリックが放った一撃は剣技『斬鉄剣』であった。ヴィンスの剣だけを破壊して強制的に自分の勝利にしようとした。

 後でヴィンスや周りの騎士から「大人気ない」と批判されるかも知れない。それでも構わない。試験が終わったら幾らでも謝罪するつもりだ。そんななりふり構わないエリックの一撃であったがこの模擬戦は彼にとって半分想定外の終局を迎えた。



「な、なんだと……?」


「……」


 エリックの発動した剣技『斬鉄剣』は自身の想定通りヴィンスの模擬剣を真っ二つに斬った。想定外だったのはエリックの模擬剣も真っ二つに斬れていたことである。それはつまりエリックが『斬鉄剣』を発動した瞬間にヴィンスも『斬鉄剣』を発動したことを意味している。

 まだ15歳の少年が『斬鉄剣』を発動したことにエリックも周りの騎士達も驚きを隠せずにいた。


「それまで!エリック、もういいだろう?」


 エリックに声を掛けてきたのは先程まで離れて見ていた筈の騎士隊長ラルフである。本来であれば試験官の掛け声で試験を終了させるのだがエリックの動きが完全に止まってしまったためラルフが出張ってきたのだ。


「……はっ、はい。その通りです。ヴィンス君、これで実技試験は終了だ。御苦労だったね」


 ラルフの呼びかけで我に戻ったエリックはヴィンスに向かって試験の終了を告げた。


「はい、ありがとうございました!」


 ヴィンスは頭を下げて挨拶をして試験場を後にした。




「どうだったエリック、俺の息子は?」


 笑いながらエリックに話しかけるラルフ。


「どうもこうもないですよ、ラルフ隊長!なんですか15歳とは思えないあの出鱈目な強さは!どれだけ厳しく鍛えてきたのですか!?」


「ん?俺は大したことしてないぞ。ヴィンスが勝手に強くなっただけだ。はっはっは!」


(……絶対嘘だろ……)


 焦りを含めながら問いかけるエリックに対して飄々と答えるラルフ。その返事に若干怒気も含めながら内心で毒づく。

 しかし……


(とんでも無い新人が入隊することになるものだ。これから騎士隊員も目の色を変えて訓練に励む事だろう。それはこちらも望むところだ)


 15歳とは思えないヴィンスの強さに驚愕していたが、彼が入隊することで騎士隊に大きな刺激を与えてくれるだろうと確信するエリック。副隊長を預かる身としては大歓迎である。が、それと同時に自分も新人に負けてはいられないと一層気を引き締めるよう誓っていた。




「如何でしたかな、息子のヴィンスは?」


「うむ。短い模擬戦ではあったが非常に面白いものを見ることが出来た。なぁロベルト?」


「そうですな、陛下。まるで若い頃のラルフをそのまま見ているようでしたな」


 離れた所から見ていた2人の下に戻って問いかけたラルフと満足気に答える国王のレオンに大臣のロベルト。想定以上に短い時間で終ったものの内容の濃い模擬戦だった事にレオンは大変満足して政務に戻って行った。


※剣技Lv1『剣圧』…剣に乗せる体重を瞬間的に増幅させる。鍔迫り合い等に有効。

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