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アーリル王国の騎士  作者: siryu
初めての迷宮の章
58/61

第58話 冒険者ギルドの騒ぎ

——アーリル王国——


「へぇ……盗賊団の討伐に続いて今度は海で大型の魔物まで倒したのか……ヴィンス達大変だったんだね、父さん」


「うむ、先程ラルフが誇らしげに話をしてくれたわ……しかし流石ヴィンスだな。やはりラルフの息子と言うのは伊達ではないな」


 今から少し前にアーリル王国大臣のロベルトは国王のレオンと共に、騎士隊長ラルフから息子のヴィンスから届いた手紙の内容を教えて貰っていた。

 そしてそれを自身の息子で現在は城勤めのアーヴィンにも伝えていたのだ。


(正直なところ僕も行きたかったけどこればかりは仕方ないか……)


 以前ロベルトがアーヴィンも連れて行って貰いたいと考えていたように本人も本音では一緒に行きたかった。しかし、戦闘力がほとんどない彼が行くのは足手まといでしかないとも分かっていたので最後まで自分から言い出す事もなかった。


 そしてその悔しさを本人と同じくらい理解していたのは父親のロベルトであった。


(私の才能を良くも悪くも受け継いだばかりにな……)


 少しばかり微妙な間が空くが先に口を開いたのは息子のアーヴィンであった。


「よし!僕もヴィンスに負けないように頑張らないとな!父さん、これに目を通して下さい!」


「ふむ、これは城下町の整備計画だな」


「はい!アーリル王国は陛下の安定した政策によって移住者も含めた人口増が——」


 アーヴィンは自分が出来る分野で頑張ろうと意気込むのであった。



——————————



「おい、お前ら!見ない顔だが新人か?」


 柄の悪そうな冒険者3人組がニヤニヤしながらヴィンス達に絡んで来た。

 どう考えても親切に色々教えてくれるような人達ではないだろうとヴィンスは判断する。


「……仮にそうだったら何か?」


「ああん?なんだその態度は!?」

「お前らみたいな若造が年上の俺達に舐めた態度を取るとどうなるか——」


 3人組の内2人がヴィンスの返事を聞いてあからさまに怒り出した。この反応を見てヴィンスはこの連中が最初から碌でもない事しか考えていないのだろうと見抜く。


(あ……先程の冒険者のお兄さんが他の冒険者に絡まれてる!)


 先程ヴィンス達に応対してくれた受付嬢が少しばかり騒がしくなったのに気付いてその辺りを見るとヴィンス達と柄の悪い冒険者3人を見つけて慌てだした。


(こ、ここは仲裁しにいかないと……でも怖い……!!)


 実はこの受付嬢はまだ新人で、このような場合どう対応していいか分からなかった。勿論彼女自身に止められるだけの力はない。


「まぁ待て、お前ら」


 3人組の先頭の男は怒り出した後ろの2人を制すと、そのままヴィンスに話し掛けてくる。


「なに、お前らが新人だったら俺達が迷宮をレクチャーしてやろうかと思ってな。悪い話じゃないだろ?」


「……具体的にどのようなレクチャーを?」


「!?」


 この連中のリーダーはヴィンスがここまで内容に突っ込んで質問してくるとは思わず少々驚く。と言うのも彼は元々2人に突っかからせた後に自分が穏便に行けば恐らくヴィンスの警戒心も失せて自分の誘いに乗るだろうと思っていたからだ。


 一方ヴィンスの方は最初から断るつもりでしかないが一応話が折り合わなかったと言う形で穏便に済ませたかったので、どうせ答えられないだろうと思いわざわざ質問しただけである。

 何故ならこの連中は下心を隠しているつもりでもチラチラとローザの事ばかり見ているので目的は明白だったのだ。


「そ、それはだな……魔物の対処方法だったり——」


「そうですか。それでしたら少なくとも貴方達から学ぶ事はないと思うので結構です」


「「「なっ!?」」」


 ヴィンスはある程度だが相手の強さがどれくらいか感覚的に掴む事が出来た。その結果この連中は自分どころか昨日までミレヘスの町で一緒にいたハンスやマルクスよりも明らかに弱い連中だと見切っていたのだ。


「お、お前!!あまり調子に乗るなよ!!」


 連中の1人が激高してヴィンスに殴り掛かるが、ヴィンスはその拳を躱すと相手の勢いを利用して足を引っ掛ける。


「ぶへっ!?」


 足を引っ掛けられた男はそのまま前のめりになって顔面から床に突っ込む形で倒れこんだ。


「ん?何だ何だ?」

「あそこで揉めているらしいぞ」

「ああ、またあの連中が絡んだのか……絡まれている方は見かけない顔だな?」


 流石にこれだけの騒ぎになると周りの冒険者も気付いたようだ。

 尤も誰も止めに行こうとはしない。余程酷い騒ぎにならない限りは自己責任だと言うのが冒険者の共通認識だった。


「貴様……!!ここまでしておいてタダで済むと思うなよ!!」


「ここまでしておいてと言われましても先に手を出したのはそっちですし……」


「う、うるせえ!!」


 頭に血が上った連中はヴィンスの冷静な反論で更に怒る。

 ヴィンスは勿論の事、ローザは彼に全幅の信頼を置いているため特に動じる気配も見せていなかった。


「喰らえ!」


 先程ヴィンスに足を引っ掛けられた男と同様に連中の1人がヴィンスに殴り掛かろうとするが、今度はその腕を掴んで先程転んだ男に向けて投げ飛ばした。


「うぎゃっ!?」

「ぐえっ!!」


 丁度起き上がろうとしたところに自分の仲間が投げ飛ばされてきた事で2人が重なって床に倒れこむ羽目となる。


「もう止めた方がいいと思いますよ」


「うるせえ!!もう絶対(ぜってぇ)に許さねえぞ!!」


 勘違いしているとはいえヴィンス達を新人だと思い込んでいる男は、自分達がこのまま新人にやられたままでは面子が丸潰れだと思い絶対に引く訳にはいかなかった。

 そして——


「きゃっ!」


「……この場で剣を抜きますか……」


 男が剣を抜いた事で思わずローザは声を出してしまう。ヴィンスも流石にやり過ぎだろうと眉を顰めるが、男にはそんな事はお構いなしであった。


「おい!流石にやり過ぎだぞ!」

「そうだぞ!さっさと剣を鞘に戻せ!!」


 流石にこの状況に周りの冒険者も黙ってはいない。一斉に剣を引き抜いた男を非難し始めるが男は剣を鞘に戻す気配はない。


「うるせえ、うるせえ!!それ以上騒ぐとこの男を()った後はお前らだぞ!!」


 剣を戻す意思を見せない男のこの発言を受けて周りの冒険者達も武器を手にしようとするがヴィンスが手で制した。


「私だけで大丈夫ですので皆さんは手出ししないで下さい」


 ヴィンスの言葉を聞いて周りの冒険者は面白いと思ったのか、彼に従って皆武器から手を離した。


「舐めやがって……あの世で後悔しやがれ!!」


 プライドをボロボロにされた男は剣を上段に構えてヴィンスに突っ込んでくるが、剣を振り下ろす前に動きが止まる。いや、正確には止めたのだ。


「な……なっ……!?」


 男の動きが止まった理由はヴィンスがスキル『威圧』を発動させたからである。

 ヴィンスは男の動きが止まったのを確認して男が掴んでいる剣を奪うとわざわざ鞘に戻してやった後に男の腕を後ろに捻じり上げた。


「ぐあっ!!離しやがれ!!」


「これだけ暴れておいて何を今更……誰かすいませんが町の警備隊の方を連れて来てくれませんか?」


 ヴィンスは男に向けて呆れながら言葉を浴びせると周りの冒険者に向けてお願いをする。


「ヴィンス様、それには及びませんわ」


「?」


 ヴィンスが声を掛けられた方を向くと冒険者ギルドで働いていると思われる女性と、その隣には相応に強そうな男が2人立っていた。


「対応が遅れてしまい申し訳ありませんわね。さぁ、この3人を連れて行って下さい」

「ああ、了解だ」


 女性の言葉を受けて男2人が暴れた連中3人の動きを拘束するために腕を縛った。


「は、離してくれ!!」

「そ、そうだ!俺達はこいつらに教えてやろうと——ぐはっ!!」


 言い訳をする連中に向けて拘束した男達は容赦なく殴りつけて静かにさせた後、連中を引きずって姿を消した。


「ヴィンス様にローザ様、大変ご迷惑をお掛けしました。対応が遅れてしまった事をここにお詫びしますわ」


 女性は頭を下げてヴィンス達に謝罪をする。女性の後ろでは先程ヴィンス達を応対してくれた受付嬢が心配そうに見ていたので、彼女が応援を呼んだのだろうと推測した。


「いえ、こちらこそお礼を言わせて下さい。大変助かりました」


「……随分礼儀正しいのですね。この様子だとミレヘスの町から届いた情報もあながち誇張ではないのかもしれませんね」


「え?それはどういう意味ですか?」」


 女性の言葉にヴィンスも驚くがローザはもっと驚いて、思わず会話の中に入ってきた。


「申し遅れましたわ。私はこの町の冒険者ギルドの支部長を務めているパトリシアと申します。以後お見知りおきを」


「これは御丁寧に。私はヴィンス・フランシスと言います」


「私はローザ・マティスと言いますわ」


 パトリシアと名乗る女性はナクールの町の冒険者ギルド支部長であった事にヴィンス達は驚きながら挨拶を返す。女性である事もそうだが今まで見てきた各町のギルド支部長よりも年齢が相当若く、彼女は30歳前後に見えた。


「失礼ながらパトリシアさん、先程貴女が仰った「ミレヘスの町から届いた情報」と言うのが気になるのですが、もし良かったら教えて頂いても?」


「そうですね……このくらいであれば御教えしても問題ないでしょう。冒険者ギルドでは各支部で情報を共有していますが、貴方達の事は期待の逸材なのでそちらに行った際はよろしく頼むと先日ミレヘスの支部長から連絡が届いていますのよ」


 パトリシアの話を聞いてヴィンス達も納得が言った。


 それと同時にローザはパトリシアも恐らくミレヘスのギルド支部長同様に自分の実力がまだDランクに相応しくないと見ているのではと思い、尚更もっと強くならなければと気合を入れる。


「それとこちらの都合で申し訳ないのですが今後の貴方達の担当を決めさせて貰いますね。カルディナ、こちらに来なさい」


「は、はい!」


 パトリシアが呼んだカルディナと言う名前の女性は例のヴィンス達を対応してくれた女性であった。


「私達の担当をわざわざ決めるんですか?」


「ええ、本来なら冒険者毎に担当は決めないのだけど……この子の名前はカルディナと言ってまだ新人なんだけど出来るだけ早く育てたいから今の内に色々な事を学ばせたいと思っているのよ。それで折角だから出来るだけ歳も近そうで強そうな冒険者を探していたの。どうかしら?」


「ええ、私達は全然構いません。よろしくお願いします、カルディナさん!」


「勿論私も構わないわ。よろしくね、カルディナさん!」


「よ、よろしくお願いします!!」


 ヴィンス達は応対が酷く無ければ誰でもいいと思っていたのですんなり同意をするとカルディナは喜んで挨拶をする。


「話がすんなり決まって良かったわ。じゃあカルディナは今後ヴィンス様達をよろしくね」


「はい!パトリシア様!」


 話が纏まるとパトリシアは満足そうな表情でその場を後にする。


「パトリシアさんって新人なのね?このギルドで働き始めてどのくらいなの?」


「はい!今日で丁度1か月です!」


「1か月ね……ってよく考えたら私達が旅に出たのと同じくらいの期間かしら?」


 ローザは少し先輩風を吹かそうと思ったが、考えてみると自分の冒険者歴と同じくらいかもしれないと思いヴィンスの顔を覗く。


「そう言われるとそれくらいだね」


「やっぱりそうよね……色々な事があり過ぎてもっと時間が経っていたんじゃないかと思っちゃうけど……」


 確認せずに先輩風を吹かさずによかったと心から思うローザであった。


「先程パトリシア様が仰っていましたがお二人はミレヘスの町から来られたのですか?」


「ええ、昨日から再運航した船に乗って来たのよ」


「やっぱり!……もしかしてですがお二人が海の魔物を倒した方達だったりしますか?」


 パトリシアはギルド支部長としてヴィンス達の事を知っているが、一職員のカルディナは知らなかったので質問する。

 この質問にローザは自分の口から答えにくかったのでヴィンスの顔を窺うと代わりに彼が答える。


「ええ、一応私達ですね」


「やっぱり違いますよね……え?今何て言いました?」


 自分で質問をしておきながら多分違うだろうと決めつけていたカルディナは反応が遅れてもう一度質問する。


「えっと……一応そうですよ」


「……ええ~~!!??お二人が海の魔物(・・・・)を~!!??」


 思わずカルディナは大きな声で叫んでしまう。そしてこの声を聞いてギルド内にいた冒険者達が一斉にヴィンス達の方を向く。


「おい!どうやらさっきの騒ぎの男が海の魔物を倒したらしいぞ?」

「本当か?でもさっきわざわざギルド支部長が出てきて話をしていたからな……本当かもしれんな」

「男女とも随分若いじゃないか。これはさっき連行された奴らじゃないけど俺達も誘うか?」

「よし!早速俺が声を掛けに行くぜ!」

「ちょっと待て!俺が先だ!!」


(しまった……適当に誤魔化して返事をしておけばよかった……)


 ヴィンスが後悔するがそれも遅く大勢の冒険者に囲まれる事になった。


「はわわ……」


 この騒ぎの原因を作ったカルディナは両手を口に当てて慌てだすがもう遅かった。

 そして彼女は肩を叩かれて恐る恐る後ろを振り向くと不気味な笑顔をしているパトリシアが立っていた。


「あ、あの……パトリシア様……」


「カルディナ、ちょっとこっちに来なさい」


「は、はい……」


 笑顔であるが間違いなく説教されるだろうとカルディナは覚悟をするとパトリシアは彼女の耳を掴んで引っ張りながらギルド内の奥に姿を消す。


「ちょ、ちょっとヴィンス~!?」


「ロ、ローザはどこ?」


 冒険者達に囲まれた2人は離れ離れになってしまい、再会出来たのは1時間程経った後であった。


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