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アーリル王国の騎士  作者: siryu
海上戦の章
54/61

第54話 ローザ一喜一憂する

 マルクス達はヴィンスから提供された資金を使って大急ぎで宴会の準備に取り掛かった。

 その間ヴィンスとローザは自由時間となりミレヘスの町を歩いていた。


「ヴィンス、お金を稼いでおいてよかったね?」


 ローザは「私には分かっているのよ」と言わんばかりの笑顔でヴィンスの顔を覗き込んだ。


「そうだね、貯めるのも大事だけど使う時にはしっかり使った方がいいからね」


 ヴィンスは続けてこうも言った。


「それに冒険者ギルドに行けば僕達は白金貨10枚貰えるって話なんだけど、元はと言えばそのお金はこの町の税収だろう?だったら少しでも町に還元しないとね」


 ヴィンスは以前幼馴染みのアーヴィンと経済活動について色々論議をした事があった。

 アーヴィンは父親がアーリル王国大臣のロベルトだけあって彼もその才能を十分に引き継いでいた。故に彼からはヴィンスも色々学ぶことが多かったのだ。


「成程ね……ヴィンスはそこまで考えていたのね?」


「うん。だから失った武器もこの町で購入すれば尚更いいだろうし、出来ればローザの装備もそろそろ見直したいね……でもそれはそれとして、折角町の懸案事項を片付けたんだから出来れば大きく盛り上がればいいなとも思っているよ」


「ヴィンスの言う通りね。町の皆も喜んでくれれば、苦労してあの魔物を倒した甲斐もあったってものだしね!」


 ヴィンスの考えに賛同するローザは笑顔でそう答えた。


「よし、じゃあ時間が空いている間に色々片付けておこうか。まずは冒険者ギルドに行こう」


「ええ、そうしましょう」


 ヴィンス達はクラーケン討伐の依頼を改めて報告するために冒険者ギルドへと向かった。


「あ!ヴィンス様にローザ様、お待ちしておりました!」


 ヴィンス達が冒険者ギルドに入ると先日ヴィンスが何度も世話になった受付嬢が2人に気付いてくれた。

 そしてその声でギルド内にいた冒険者達が一斉にヴィンス達の方を向いたのだった。


「おい、あれが海の魔物を倒した噂の2人か?」

「受付嬢の反応を見ると多分そうなんだろうな……」


 そしてその中に1人ヴィンスに見覚えのある男がいた。それは先日魔物の素材を回収する手伝いを頼んだ男だった。


「ほら見ろ!あの人(・・・)は本当に凄いって俺は何度も言っただろ!?」

「……確かに凄いとは聞いていたが……海の魔物の大きさは10mどころか20mあったって話だろ?お前の話以上じゃないか!」


 全員がヴィンス達の話をしているので2人は恥ずかしくなる。


「ヴィンス様にローザ様。支部長がお二人をお待ちしていますのでこちらへどうぞ」


 今回の討伐が重要依頼だからなのか、砂漠の盗賊団を討伐した時同様に奥の部屋へと案内される2人であった。





「ヴィンス殿にローザ殿。お疲れのところご足労頂いてすみませんな」


 受付嬢が案内してくれた部屋に入るとギルド支部長が既に座っていた。彼は立ち上がって2人を出迎えてくれる。


「いえ、先程はギルド支部長こそわざわざ来て頂きありがとうございました」


「ほっほっほ、マルクス殿の意図は分かっておりますからな。ある意味当然なので気にしないで結構ですぞ」


 そこに先程部屋に案内をしてくれた受付嬢がお茶を運んで部屋に入ってきた。


「ヴィンス様にローザ様、お茶をどうぞ」


「「ありがとうございます」」


 受付嬢も席に座るとギルド支部長が話を始める。


「まずは魔物の討伐お疲れ様でした。まさかあれほどの大きさだったとは……私も長年この仕事をやっていますが、あれ程の大きさの魔物は見た事はありませんでしたぞ」


 そう言ってヴィンス達を労ってくれるギルド支部長。


「そしてここからが本題ですが……先程港でも言った通り今回の魔物は想定以上でしたので依頼難易度も結果的にですが上がる事になり、それによってお二人に加算されるポイントも上がる事になります」


 そう言って本題に入ろうとするギルド支部長。

 この後ローザは予想外の展開に驚く事になる。


「元々の予定通りであればヴィンス殿がギリギリDランクに届くと言うところでしたが、ポイントが大幅に増えたのでCランク目前になれるところまで加算されました。またローザ殿もDランクまでは届かない予定でしたが同じ理由でDランク昇格となりますぞ」


「え!?私もDランクになるんですか!?」


 ギルド支部長の話を聞いてローザは思わず仰天した。確かに自分も頑張ったつもりではあるが、それでもヴィンスに比べれば貢献度は明らかに低かったと自覚があったのだ。


 そもそも冒険者ギルドで管理しているランク制度だが単独で活動している冒険者はともかく複数人で活動する場合は人数で等分にポイントが配分されるので必ずしも実力と冒険者ランクが見合うとは限らないのがこの制度の欠点であった。

 

 そしてギルド支部長もローザが驚いた理由を正確に理解した上で話を続ける。


「今回の討伐前にヴィンス殿が町周辺の魔物を大量に討伐した話を踏まえると、恐らくお二人の実力には大きな差があるのだとは思います。しかし冒険者ギルドの仕組み上、不正防止のためにもポイントの配分を操作する訳にもいきません。ですので差し出がましくて恐縮ですが、ローザ殿にはDランクに見合った精進が必要だと提言させて頂きますぞ」


「だ、だったら……私は今回辞退した方が……」


 実力に見合わない昇格を心苦しく思ったローザは辞退して全てのポイントをヴィンスに入るように申し出ようとするが


「大丈夫です、支部長。ローザはこれからもっともっと強くなりますから」


「ちょっとヴィンス……」


「それは頼もしい言葉ですな。期待しておりますぞ!」


 ヴィンスはわざとローザの言葉を遮る様な形でギルド支部長に答えた。






「ねえヴィンス……本当に私までDランクになって良かったのかしら?」


 あの後冒険者カードの更新と報酬を受け取って冒険者ギルドを出ると、ローザは不安そうな声でヴィンスに尋ねた。


「現時点でローザの実力がDランクに見合うかどうかは正直僕にも分からないよ。尤も他の冒険者の事を全然知らないって事が理由なんだけどね」


 ヴィンスはそう言いながら言葉を続ける。


「でもさ、仮に見合わなかったとしてそれを理由に今回僕だけが受け取っていたとしたら次に似たような事があった時もまた同じことをしちゃうんじゃないかな?僕はローザにそういう思考に陥って欲しくないと思っている」


「…………」


 ローザは何も返事をしなかったが、ヴィンスの言葉を頭の中で反芻していた。


「もし冒険者ランクと言う評価にローザの実力が追い付いていないと思ったら追いつけばいいだけだよ」


「……私はこんなに悩んでいるのに随分簡単に言ってくれるのね?」


「そんな事はないよ。ローザが悩む気持ちは僕だって少なからず分かっているつもりだ。僕も昔は父上みたいに強くなりたいと思って焦っていた時期もあったんだ。でも色々悩んだ結果、一歩ずつ強くなるしかないって結論に辿り着いたからね。だからアドバイス程度に聞いて貰えれば十分だよ」


 ヴィンスは自身の体験談を交えながらローザにアドバイスするつもりで話す。


「そっか……そうね。ありがとうヴィンス!私もっと頑張るわ!」


「うん、ローザはまだまだ強くなれるのは僕が保証するよ!」


 最終的にローザは笑顔で意気込み、ヴィンスもまたそれに満足して大きく頷いた。


 ヴィンスはこの時気付いてはいなかった。

 

 近い将来、ローザはヴィンスが舌を巻くほどの急成長を遂げると言う事を……


「さて、まだ時間はあるから……僕の武器とローザの装備も見直そうか。幸いさっき貰った報酬のおかげでお金に余裕はあるしね」


「だったらまずはヴィンスの武器から購入しましょうよ。私の装備を買い直してからヴィンスの武器を購入出来なくなったりしたら大変だわ」


「確かにそうかもね。じゃあその順番で購入していこうか」


 ヴィンス達は目的を確認した後武器屋へと足を運ぶ。






「ヴィンス、折角お金もあるんだから前のと同じでなくてもいいのよ?」


「いや、このお店の品揃えだと以前と同じ剣と槍が一番しっくりくるかな……」


 武器屋に辿り着いたヴィンス達は最初に剣と槍を探す。ヴィンスは色々手に持ってはみたが、結局以前と同じ鋼鉄の剣と鋼鉄の槍を選んだのであった。


「じゃあ次はローザの武器だけど……出来ればその杖とナイフを両方交換したいね」


「う~ん、ナイフは素材の剥ぎ取りくらいにしか使ってなかったけど……杖は魔法を使う時の補助だからともかくナイフの方はもっと違う武器に変えたいわ」


「確かにナイフだといざと言う時の護身用程度でしかないからその方がいいかもしれないね」


 ローザの武器を選ぶ順番になると彼女の意向を尊重した形で2人は探していく。


「もっとリーチのある武器の方がいいわよね……弓矢とかはどうかしら?」


「そうだな……ローザが使いこなせるのかどうかも疑問だけど両手を塞ぐ武器だと魔法を使いにくくなるんじゃないかな?それでも試してみたいと言うなら止めはしないけど……」


 ヴィンスに半分駄目出しを受けてしまいローザのトーンは落ちてしまう。


「……確かにそうかも……だったら他のを選ぶわ……あ!これなんかどうかしら?」


 そう言ってローザが新たに手にしたのは鞭であった。


「鞭か……これならいいんじゃないかな?あとはどの鞭を選ぶかだけど……」


「う~ん、折角お金もあるしいい物を選びたいけど……あ、これなんか今の私には重すぎて使いこなせそうにないわ……」


 ローザが手に持っていたのは『鋼鉄の鞭』であったが、片手で持つのが精一杯で彼女にはとても振り回せそうな代物ではなかった。


「じゃあこれなんかどうだろう?それより攻撃力はないだろうけどその分扱いやすいとは思うよ」


 ヴィンスがそう言ってローザに手渡したのは『棘の鞭』である。


「あ、これなら私でも簡単に扱えるわ!これにする!!」


 ローザは余程気に入ったのか店内の床に向けて何度も鞭を打ち付けた。


「ちょ、ちょっとローザ……ここ店内だから……」


「あ、ごめんなさい……」


 危うく側にいたヴィンスの足に当たりそうになり慌ててローザを止める。


(これをローザに扱わせるには少し危険な武器だったかもしれない……)


 ヴィンスは冷や汗を流しつつ若干後悔した。


「あとは杖の方だけど……意外にも今ローザが持っている杖よりもいい物はなさそうだね」


「そうね……だったらこの杖のままでいいわ」


 ヴィンスはローザの装備の中でも杖を出来るだけいい物にして上げたかったので表情はそこまで変えなかったが内心ではとても落胆していた。

 

 そんな時に店主の男が声を掛けてきた。


「悪いな。ミレヘスの町には魔法を使える人間がほとんどいないから杖を仕入れても需要がほとんどないんだよ。そう言う理由で今店に置いてあるのは魔導士の杖しかない。海を渡って『ナクールの町』に行けば近くに迷宮がある関係で強い冒険者もいっぱいいる。あそこならいい杖も売っていると思うぞ」


「そうでしたか……情報ありがとうございます!」


 杖に関しての情報を得たヴィンス達は次の目的地である『ナクールの町』まで我慢する事にした。


「後は防具かな……ローザの防具もレザー系では流石に心許ないしね……」


「おう、だったら俺が魔法使いの姉ちゃんの防具を見繕ってやろうか?」


「そうですね……お金はそれなりにあるんでオススメをお願いします」


「よし、任せてくれ!」


 店主は「俺の出番だ」と言わんばかりに意気込む。今は装備を外しているので普段の装備を店主に見せてからローザ用の装備を見繕ってくれる。


「靴の方は残念ながらオススメ出来る物がこれと言ってないんだが……そうだな、姉ちゃんには『魔導士のローブ』と『三角帽子』がいいだろう。このローブは今使っているレーザローブよりも防御力が高くて軽いから動きやすくていいと思うぞ。それと『三角帽子』も同様の理由でオススメするぞ」


「へぇ……確かに今装備しているレザー系の装備より良さそうね」


「そうだね。じゃあさっき選んだ武器と一緒に全部下さい」


「おう!毎度ありっ!」


 ローザが装備していたレザーローブとレザーフードを下取りに出した後、ヴィンスの武器とローザの装備全て込みで白金貨1枚強の値段を支払い購入するとヴィンス達は武器屋を後にする。


「この町で購入出来るのはこれくらいかな。後は次の目的地である『ナクールの町』で購入しよう」


「ええ、それでいいと思うわ。ふふふ、これで私も少しは魔法以外で貢献出来るかしら」


「いやぁ……あまり無理はしなくていいからね……」


 ローザは余程鞭が気に入ったらしく「早く試したくて仕方ない」と言わんばかりに嬉しそうであった。

 それを見たヴィンスは「武器選びを間違えたのでは?」と今更ながら心配になるのであった。

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