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アーリル王国の騎士  作者: siryu
序章
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第5話 入隊試験 中編

「行ってらっしゃい、ヴィンス」


「行ってきます、母上」


 今日は入隊試験日である。シェリーは息子のヴィンスをいつも通り普通に送り出した。

 このような特別な日は送り出す時の言葉を変えたりするものなのだろうがシェリーは特に変えなかった。ヴィンスを緊張させたくないという想いもあるがそれ以上にシェリーは楽観視しているのだ。ヴィンスは余裕で試験に合格すると。


 その根拠は1週間前のラルフの一言である。


 実をいうと1週間程前のシェリーは不安で仕方がなかった。その不安を少しでも和らげたくて夫のラルフと2人きりになった時「ヴィンスは試験に合格出来そう?」と尋ねた。


「余裕だぞ。今のあいつが合格出来ないほど入隊試験のレベルが高かったら俺も騎士になることは出来ていないからな」


 ラルフは笑いながら答えてくれた。騎士の事はよくわからないシェリーですら22年前の騒動の事は知っているので15歳当時のラルフは余裕で入隊試験に合格していたということを理解している。そして先程の言葉が意味するところは「現在のヴィンスは当時のラルフよりも強い」と言う事なのであろう。騎士隊長に上り詰めたラルフが言っただけに言葉に重みがある。

 そもそもラルフが家にいる時は暇さえあればヴィンスの稽古に付き合っていたのである。それも6歳から15歳の9年間も。そこまでを理解出来た途端シェリーの不安は一気に消えた。不安になっていたのがバカバカしい位である。


(さぁ、今日の夕飯はヴィンスの好物でも作りましょうか)


 合格発表は1週間後であるが、今から祝う気満々のシェリーであった。



 入隊試験のスケジュールは午前が筆記試験、午後が実技である。


 筆記試験に臨んだヴィンスは2年前から筆記試験の対策をしていただけあって特に詰まる事も無く回答を記入していった。これならまず大丈夫だろうとヴィンスは確信して筆記試験を終わらせた。


 そしてお昼休憩を挟み実技試験に臨む。


 実技試験はまず行軍試験から始まる。先頭の試験官に付いて走り、終了の合図が出るまで最後尾の試験官に抜かされなければ次の模擬戦に進める。

 一見単純な試験ではあるが脱落者は意外に多い。初めて受験する者は大抵ここで躓いてしまう。躓いてしまう理由だが、受験者も相応の練習をして試験に臨むのだが走るペースが想定よりも微妙に速いのである。最初は付いて行けても装備している武具の重さも相まって後半はボディブローのように効いてくる。これは一度経験しないとなかなか十分な対策をしてこられないものである。

 ちなみにヴィンスは10才の時から稽古に同様の内容を追加している。追加を提案したのはこの試験を見越していた父親のラルフである。その甲斐もあってこの試験もヴィンスは余裕でパスした。


 余談であるがラルフは当初8歳から追加しようと考えていたが模擬戦の稽古初日にシェリーから大目玉を食らったので流石に自重したのだった……。



 そしていよいよ最終試験の模擬戦が始まった。受験者は自分の受験番号が呼ばれるまで控室で待機することになっている。ヴィンスが周りを見渡すと皆漏れなく緊張している様だ。この試験の結果で合否が決まると考えれば仕方ない事ではある。ヴィンスも前日は多少不安であったが周りの緊張ぶりを見ると逆に冷静になっていた。

 模擬戦は複数の場所で同時に行うため一度に複数の受験者が呼ばれた。呼ばれた受験者の中にヴィンスは含まれていない。先程呼ばれた人数と控室に残った人数を鑑みて、呼ばれるのはあと2回だろうか。

 自分はどちらに入るだろうかと待ち侘びるヴィンス。

 

 暫くしてから2度目のお呼びが掛かったがその中にもヴィンスは含まれていなかった。必然的に3度目で声が掛かるものだと心構えをするヴィンス。

 

 そして3度目のお呼びが掛かった。しかしそれにすらヴィンスは含まれていなかった。

流石におかしいのではないかと、呼びに来た係員が部屋を出ていこうとする前にヴィンスは話しかけた。


「あの、僕の受験番号が呼ばれていないのですが……」


 不安になりながら問いかけるヴィンスに対して係員はいかにも当たり前のように答えた。


「ヴィンスさんは最後になります。もう暫くお待ちください」


 返答して控室を出ていく係員。ヴィンスは頭の中で色々整理してみた。

 

(そうか、3度目で全員呼び終わると思っていたけど1人溢れて最後に僕が残ったのか……。あれ?その割には3度目に呼ばれた人数は1度目や2度目より少なかったような……。もしかして試験官が怪我して3度目に呼べる人数が減ったのかな……?試験官の人達も大変だな……)


 考えを整理した結果このような結論に至るヴィンス。

 残念ながら見当違いも甚だしかった。

 今回の試験で色々頭を悩ませた副隊長のエリックがこれを聞いたらきっと口を開けて呆れていただろう。




「あれ?何ですかこれ!?」


 ようやく呼ばれたヴィンスが試験場に向かうと大勢の騎士が囲むように待ち受けていた。離れた所に父親であるラルフの姿が見える。その傍には大臣であるロベルト・カーペンターと……国王のレオン・アーリルまでいるのだ。驚いて当然である。

 ヴィンスが呆然としている間に1人の騎士が歩み寄ってきた。


「随分待たせてしまったね。さて、君の相手は私エリック・エルムが務める事になっている。どうぞよろしくお願いする」


「御丁寧な挨拶痛み入ります。私はヴィンス・フランシスと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 丁寧に挨拶をしてくれたエリックに挨拶を返すヴィンス。このやり取りの間にお互いを観察していた。


(とても15歳とは思えない体つきと雰囲気だな……。流石は隊長の息子と言ったところか)


(父上程では無いけどこの人も相当の遣い手に見える……。王国騎士隊は本当にレベルが高いのだな)


 このヴィンスの感想だが微妙に見立てが間違っている。それは「王国騎士隊はレベルが高い」の部分だ。

 アーリル王国の騎士隊は確かにレベルが高い。しかしそれは世界規模で比較した場合の話である。

エリックは副隊長で騎士隊の№2である。しかしヴィンスはエリックが王国騎士隊の標準的な強さに位置する騎士だと勘違いしているのだ。つまりヴィンスから見た場合(・・・・・・・・・・)の「王国騎士隊はレベルが高い」は誤りなのである。


「知っているとは思うけど念の為に説明しておこう。今から模擬戦をする訳だけど君が勝てば無条件で合格。勝てなくても内容が良ければ合格になる。質問はあるかな?」


「いえ、ありません」


「よし、それでは始めようか!」


 こうして本日の入隊試験最後の模擬戦が始まろうとしていた。


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