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アーリル王国の騎士  作者: siryu
海上戦の章
48/61

第48話 説得

「おう、ヴィンス!冒険者ギルドから聞いたぞ!お前さんとんでもない事やったって。もしかして狙って(・・・)やったのか?」


「さあ、どうでしょうかね?でももしかしたら少しは役に立つかもしれませんね」


 予定では今日中にハンス達がミレヘスの町に到着するのでヴィンス達は兵舎に寄って警備隊長のマルクスと軽く雑談をしていた。


「え?2人共どういう事?ヴィンスが何かやらかしたの?」


 ローザは話が分からず心配そうに尋ねるが


「何だい、ローザの嬢ちゃんは知らないのか?」


「だからどういう事なの、ヴィンス?」


「ああ、説明するのもちょっとややこしいんだけど……僕は2日前の夕方から魔物を討伐し続けていただろう?」


「ええ、それは勿論私も知っているわ」


「うん。それなんだけど……簡単に言うと昨日の魔物討伐がこの町での1日の魔物の討伐記録を作ったんだって」


「へえ、そうだったのね。一体どれくらい稼いだのかしら?」


「えっと……まぁそれは今度教えてあげるよ」


「ふうん……?」


 ヴィンスは出来るだけ簡略化した説明をした。と言うのも、あまり詳細を語るとローザに「私って足を引っ張っているのかな」と思わせてしまうかもしれなかったからだ。尤も、倒すだけならヴィンス1人の方が効率もいいのは確かなのだったが……

 

 ちなみにローザに内緒にしたヴィンスだったが、この2日で稼いだ金額は白金貨2枚以上になった。つまり先日購入した付与魔法の魔導書の代金をあっさり稼ぎ直したと言う事でもあったのだ。


「それでな、ハンスが到着したら町長の説得だけでなく一度依頼を出した冒険者ギルドにも一応説明をしなければいけない。その時にこの実績が補足として役立つ可能性もあるって事だ」


「へえ……そう言う事ねぇ……」


 マルクスの説明に何となく納得したローザであった。





 雑談を終えたヴィンス達は一旦宿屋に戻って待機する。ハンス達が到着したら恐らく兵舎ではなく宿屋に直行するだろうと予感していたからだ。


「今更だけどハンスさん達大丈夫かしら?テシスの町からミレヘスの町までの魔物って結構手強いでしょう?」


「そうだけどまぁ大丈夫じゃないかな?確認してはいないけどハンスさん達もここに来るのは初めてではないだろうし……」


 そんな事を2人が喋っていると部屋の外が少し騒がしくなってきた。2人は思わず顔を見合わせる。すると扉がノックされたのでローザが開けようとするとヴィンスが手で制した。


「どうしたの?ヴィンス?」


「ローザは声だけで対応をお願い。開けるのは僕がやるから」


「あ、なるほどね……」


 小声で相談した結果を受けてローザは声だけ出す。


「は~い。どなたですか?」


「ローザちゃん?俺だよ、ハンスだよ~!」


「ハンスさんね?今開けるわ」


 ローザが開けると思わせてヴィンスが扉を開けた瞬間、ハンスはヴィンスに飛びついてしまった。


「ローザちゃん!迎えに来……ってなんでヴィンス君なんだ!?」


「ハンスさんの行動はお見通しと言う事です。さあ僕の部屋に移りましょうか?それともこの町の兵舎を借りて数日ぶりの模擬戦でも——」


「い、嫌だ~!!それは絶対嫌だ~!!」


「ほら、ハンス隊長。ですから止めた方がいいと言ったのに……」


 ハンスの後ろでは一緒に来た3人の警備兵はひたすら呆れていた。





「おう、ハンス!久しぶりだな」


「久しぶりだな、マルクスのおっさん」


「お前は相変わらず口が悪いな……兄のユーグを少しは見習え!」


「ははは、兄貴は堅苦し過ぎて冗談じゃないね」


「全く……とは言え、取り敢えずお疲れと言っておこう」


 ハンス達と合流したヴィンス達は全員で再度警備隊の兵舎に向かった。

 ハンスとマルクスはやはり直接の面識があるようでお互い砕けた会話をしていた。


「しかしおっさんよ……今回の件、どういう事よ?ローザちゃんの手紙を見るまでこっちの人間は誰も知らなかったぞ?」


「それなんだがな……先日までお前達の町は例の盗賊団の件で大変だったじゃねえか。それなのにこの件までそっちの町に伝えたら一気に不安が広がると思ってな。だから城にだけ情報を出して救援を頼んだんだが……」


「そう言う事かよ……知っていれば最初からローザちゃん達と来てどうにかする事も出来たって言う話なんだが……それを聞いちまったらおっさん達の対応ばかり責めるのは可哀想だな……しかし相変わらずあの国王(ヤロウ)は動かねえな……クーデターでも起こしてやろうか」


「気持ちは分かるがあんまり物騒な事を言うな、ハンス!」


 ハンスは事情を確認した上で国王のエーランドに対しての不満を漏らしていた。それを年上のマルクスが宥める形となっていた。


「まぁ、今ここでこんな事を言っても仕方ねえか。もうヴィンス君の所に兄貴からの手紙は届いているんだよな?」


「はい、届いていますよ。これですね」


「ちょっと見せて貰ってもいいか?……ふうん、相変わらず文章が堅苦しいけど内容に文句はねえな」


 ハンスは自身の兄であるユーグからの推薦文をヴィンスから見せて貰うと、内容に納得しながら読んでいた。


「よし!じゃあこれから町長の所に殴り込みに行くか!」


「殴り込みじゃなくて説得では……」


 威勢よく兵舎を飛び出そうとするハンスへヴィンスは冷静にツッコミを入れていた。





「これはこれは……マルクス警備隊長にテシスのハンス警備隊長まで……それと確か先日来られたお二人ですな。今日はどういった御用件でしょう?」


 マルクスにハンス、ヴィンス達と合計4人が訪問して来た事に少々驚くミレヘスの町長。


「久しぶりだな、町長。今日はいい話を持って来たんだ」


「いい話ですか?それはどう言った事で?」


「俺も一昨日知ったばっかりなんだが……海に魔物が住み着いたせいで船が出せないって話じゃねえか」


 ハンスから海の魔物の件を切り出された町長は話が見えてきたようで表情が明るくなる。


「確かにその通りです!と言う事はハンス隊長が応援に来てくれたと?」


 ハンスは町長の反応になんとなく違和感を覚えた。まさかと思い確認をする。


「応援と言えば応援だが……もしかして町長は俺が城からの要請で派遣されたと勘違いしていないか?」


「え!?違いましたか?」


 町長にとってハンスから予想外の答えが返ってきて困惑した。ハンスは首を横に振りながら説明をする。


「だったら1つずつ説明してやるよ。まず俺がこの件を知ったのはここにいるローザちゃんからの手紙で教えて貰ったからだ。これだけで城からの要請ではないって分かるだろ?」


「そ、そうだったのですか……」


「町長、俺もあの時言っただろう?城に要請を出しても期待は出来んぞって」


 ハンスの説明だけでなくマルクスの一言で町長は凹んでしまう。

マルクスは元々城からの応援をほとんど当てにはしていなかったのだが町長は信じていたからだ。


「し、しかし現にこうしてハンス隊長が来てくれたではないですか?でしたら城からの要請かどうかはこの際もうどうでもいいのですが……」


「確かにその通りだ。しかし、勘違いしないで欲しいのは今回の作戦は俺やマルクスのおさんだけではなく……」


「おい、ハンス!こんなところまで「おっさん」呼ばわりをするんじゃない!」


「うっさいな、おっさん……俺やおっさんだけではなくここにいるヴィンス君達も含めて討伐に当たる事にする!」


 ハンスが説明している途中にマルクスが注意をするが、ハンスは鬱陶しそうに払いのけてヴィンス達を加えると宣言した。


「何と!?いやしかし……先日このお二人がここを尋ねて来た時に聞きましたが冒険者ランクはEだとか……それなのに彼らを加えるなど正気の沙汰とは思えませんな」


「何でだよ?特にヴィンス君は無茶苦茶強えんだぞ?」


(ぶふっ!)


まるで2日前のローザみたいなことを言うハンスに思わずヴィンスは苦笑してしまった。


「いや、その……ハンス隊長が推薦を無視する気はないのですが……」


「町長の言う事も分かるがまぁ聞いてくれ。まず俺達の町で懸案事項になっていた盗賊団の件が解決したのは知っているか?」


「それは勿論です」


「あれだけど解決に導いたのはこの2人のおかげって事も知っているか?」


「え!?あれはユーグ隊長以下セシスの警備隊の手柄では……?」


 表向きはセシスの警備隊が解決した事として報告が回っていたため、この話は町長には初耳であった。


「表向きはな。でも両町が約2か月間本気で捜索しても見つけられなかった盗賊団を、この2人が加わってからの作戦1日目で討伐に漕ぎつけたんだ。これはこの2人が解決したと言っても問題ないと思うがな」


「しかしいきなりそう言われても私にはにわかに信じられませんが……」


 ハンスの説明を聞いても町長は納得しきれない様子だった。ここでハンスはヴィンスに目配せをした。意図に気付いたヴィンスは町長に手紙を渡す。


「町長。あとで冒険者ギルドに同伴して貰えれば確実な証明も出来るとは思いますが、その前にこちらを読んで頂けますか?」


「これは手紙ですかな……これは……セシスのユーグ隊長からですな!?」


 町長の言った通りヴィンスが手渡したのはユーグからの推薦状であった。

 内容は盗賊団の討伐の詳細から始まってヴィンス達の多大な貢献などを記したもので最後に「この2人を加えれば上手くいくだろう」と締めくくれられていた。


「ううむ……確かにハンス隊長が仰られている事は本当のようですが……どうしてもこの方達を加えないといけませんか?」


 町長としては出来ればアプロン王国に所属している兵士、もしくは冒険者ギルドで条件を満たした者だけで討伐して欲しかった。と言うのも、そのどちらでもない者を加えて失敗、特に死んでしまった場合は町長の責任問題になりかねないからだ。


「ああ、まずおっさんに確認したいんだが、おっさんも海の魔物と戦ったんだろ?」


「ああ、まあな。俺を含めた警備隊の主力で戦ったが……」


「魔物はどれくらいの強さだった?仮に俺とテシスから連れてきた警備隊員3人が加わってどうにか出来そうか?」


「……お前等には悪いが無理だろうな。あのどでかい(・・・・)魔物はどう対処すればいいか未だに思いつかん」


 マルクスはハンスに気を遣いながらも正直に答えた。そしてハンスも、冒険者ギルドの依頼では「Cランク以上」となっている事を知っていたので、最初からそう答えが返ってくるのは分かっていて気にする素振りもなかったが。


「そういう事だ、町長。つまりその魔物を倒せる可能性を持っているのはヴィンス君だけなんだ」


「い、いやしかし……」


「町長。あんたはどうせ失敗した時のリスクばかり考えているんだろ?」


「そ、それは……!!」


 ハンスに図星を指され狼狽える町長。そんな町長を見てハンスは溜息をつきながら諭すように話す。


「いいか、町長。俺がこんな事を言うのも情けないが、陸上戦ならともかく今回はハッキリ言ってこの国の兵士だけじゃその魔物は倒せない。ヴィンス君達の力が必要なんだ。言い方は悪いが彼等の力を利用させて貰うしか方法はないと思っている。だったら町長も覚悟を決めるべきだろう?」


「!!」


 この言葉を聞いて町長はショックを受けた。役人上がりながら現場の意見に耳を傾ける様に心掛けていたつもりだったのに、町長まで上り詰めた事でいつの間にか自分が保身に走っていた事に気付いたからだ。


「……ハンス隊長……」


「おう」


「分かりました。私も覚悟を決めましょう!確かヴィンス殿とローザ殿でしたな。何卒よろしくお願いします!」


 覚悟を決めた町長はヴィンスとローザに向かって頭を下げる。つまりヴィンス達が討伐に加わる事を了承したのだ。


 ヴィンスとローザは顔を見合わせて


「「こちらこそよろしくお願いします!」」


 と勢いよく挨拶をする。


 町長の説得に成功したハンスはマルクスに向かって笑みを浮かべ、マルクスも満足気に頷くのであった。



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