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アーリル王国の騎士  作者: siryu
海上戦の章
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第47話 ヴィンス稼ぎまくる

「おはよう、ローザ。練習の成果はあった?」


「おはよう、ヴィンス。まだ使えないけど手応えは感じているからもう1日って所かしら」


 昨日冒険者ギルドから帰ってきたヴィンスはローザと夕食を済ませるとそれぞれ部屋に分かれた。

 ローザは引き続き付与魔法の練習をして、ヴィンスはもう一度外に行き魔物を倒していたのだ。


「じゃあ今日もお互い食事は合流してそれ以外は昨日の続きでいいかな?」


「ええ、それで構わないわ」


 2人で朝食を食べに行こうと宿屋の受付を通ると呼び止められる。


「ヴィンス様にローザ様、それぞれ手紙が届いています」


「もう返事が来たんだ。2人共仕事が早いね」


 ヴィンスの予想通り手紙の送り主はユーグとハンスであった。それぞれが受け取って内容を確認する。


「うん。ユーグさんからは町長への推薦状だ。ローザ、ハンスさんはこっちに来てくれるって書いてある?」


「……」


「ローザ?」


「……あ、え、ええ。確かにそう書いてはあるんだけど……」


「?」


 ヴィンスがローザの様子を窺うとどうもおかしい。

 ローザに許可を取って見せて貰うと


「な、何これ……?」


「さ、さぁ……?」


 手紙の冒頭に「今から迎えに行きます」と書いてあり、それ以降は要約すると早くローザに会いたいと言う事ばかり書いてあったのだ。

 

 ヴィンスは最後まで読まずにローザへ返却し


「僕は読まなかった事にするから……ローザからは「ハンスさんが来てくれる」と聞いただけで通すからよろしくね」


「そ、そんな……ハンスさんからこの件でしつこく絡まれたら流石に嫌だわ……」


「そこまではならないと思うけど……そうなったら流石に僕も何とかするよ。他の警備隊員に言いふらすとか……」


「……それはそれで嫌だわ……」


 早ければ明日にでもハンス達は到着すると思うとローザは少しだけ憂鬱になった。





「よし、ポーチが一杯になったからまた冒険者ギルドに行くか」


 朝食を終えた2人は別れて昨日の続きに励んでいた。ヴィンスは魔物を倒して素材回収。ローザは付与魔法の練習である。


「お待たせしました……またヴィンス様ですか?」


「あ、何度も来てすいません……」


「い、いえ!こちらこそ失礼しました!ただ、余りにも速いペースで素材の売却をされているので……それと先程の分の鑑定が終わっていますのでまずはこちらを」


 冒険者ギルドの受付嬢がヴィンスを見てビックリするのも無理は無い。彼は昨日から何度も素材の売却に来ているのだ。しかも回数だけが驚きの理由ではなく、毎回ランク2のポーチがほぼ一杯になるほどの量を持ち込んでいたのだからある意味当然である。


「お、おい!あの男また来たぞ」

「しかもまたどっさり持ち込んでるぜ?」

「おかしくないか?しかも1人なんだぞ?」


 昨日はそこまで気にしていなかった冒険者達もヴィンスが異常なペースで売却を続けているので流石に驚きを隠せなくなってきていた。


「じゃあまた行ってくるので鑑定よろしくお願いしますね」


「は、はい。どうかお気をつけて……」


 当のヴィンスは特に気にする素振りも見せず受付嬢に伝えるとそのまま冒険者ギルドの建物から出て行った。


「ちょ、ちょっと俺あいつを()けてみるわ」

「俺も気になるけどそれは止めた方がいいんじゃないか?」

「俺もやめた方がいいと思う。下手をしたら敵対行為と見なされるぞ」


 ヴィンスの事を気になった冒険者が尾行すると言い出して周りが止めるが興味本位に勝てず結局追いかけていった。


(さっきから僕を追っている人間がいるけど、とりあえず様子見だな……)


 ヴィンスもその冒険者に気付くが、取り敢えず放置してそのまま町の外に出ると『索敵』の範囲を目一杯広げて魔物の気配を探る。


(……あっちだな)


 気配を感知するとヴィンスは駆け出す。鎧を装備しているにも関わらずその速度は相当なもので、追いかけていた冒険者は簡単に引き離された。


(な、なんというスピードだ……多分こっちの森に入って行ったと思うんだが……うおっ!?)


 引き離された冒険者がヴィンスに追いついた時には既に魔物の群れを全滅させていて剥ぎ取りを行っていたのだ。


(引き離されたと言ってもあんな短時間でこんだけ魔物を倒したって言うのかよ……どうやって倒したんだ?)


 冒険者はただただ驚くばかりだったが


「そこの人、私に何か用でも?」


(や、やばい。バレた!?)


 ヴィンスは最初から気付いていたが、ここまで追いかけてきた冒険者をこれ以上放置する訳にもいかず声を掛ける。


「ここまで追いかけておいて返事がないなら敵対行為と見なしますがどうされますか?」


 少し強めの言葉を掛けるヴィンス。冒険者はこれ以上誤魔化せないと諦め、両手を上げてヴィンスの前に現れる。


「す、すまん。俺は決してあんたに何かしようと思っていた訳じゃないんだ……」


 冒険者は素直に尾行した理由をヴィンスに話すと


「そうですか……でしたらアルバイトを引き受けてくれませんか?」


「アルバイト?どういう事だ?」


「簡単な話ですよ。私が倒した魔物の剥ぎ取りを手伝って下さい。戦闘は一切手伝ってくれなくて結構ですが、自分の身は自分で守ると言う事で。日給は……銀貨3枚でどうですか?」


 ヴィンスの意外な申し出に冒険者は驚くと同時に悪い条件ではないと思った。1日の稼ぎとしてはそこまで多くはないが、作業内容が剥ぎ取りだけだからローリスクミドルリターンと言ったところで更にヴィンスの戦闘を公認で見られるのだ。


「分かった。是非受けさせてくれ!」


「成立ですね。じゃあ前金です」


 そう言うと冒険者がまだ何もしてないのにヴィンスは銀貨1枚を渡した。


(マジかよ……これで俺が逃げ出したら丸損なのに……)


 冒険者は余りにも気前がいいヴィンスを世間知らずの男なのかとこの時は思ったが、決してそうではないとこの後思い知る事になる——





「ん、そろそろ昼食の時間かな……それじゃお昼休憩にしましょう。もし午後も手伝ってくれるなら日給も増やしますけどどうしますか?」


「ふ、増やしてくれるのか?だったら勿論続けるぜ!」


 ヴィンスは元々「日給」と伝えてはいたが、かなりの量の剥ぎ取りを手伝って貰っていたので午前中だけでも十分のつもりだった。なので午後は午後で給金を出すつもりで冒険者に持ち掛けると汗だくになりながら彼は引き受けたのだった。


「じゃあ今から1時間後に町の門のところで合流と言う事でお願いしますね。あ、取り敢えず約束の日給の残りは渡しておきますよ」


「お、すまないな。確かに銀貨2枚受け取ったぜ」


 冒険者はヴィンスのとんでもなく早い戦闘ペースについていくのが精一杯だったが、それ以上の光景を見せ続けられていた。


 序盤はヴィンスが『索敵』で発見する度に引き離されてしまい戦闘している所を見られなかったが、自分が本当に戦う必要がない事に気付いたので防具を外して身軽になり追いかける事だけに集中するようにした。

 そして次は何とか戦闘中に追いついたのだが、ヴィンスの戦闘スタイルは右手に剣と左手に盾と至って普通だった。だが、あり得ないスピードで魔物に飛び込み一刀で首を落とす。ただこれの繰り返しだった。戦闘が終わった直後のヴィンスは返り血塗れであり、まるで鬼神とでも言うべき姿であった。


 ちなみに普段のヴィンスであればもっと色々な剣技や槍技を使っていたが、他人である冒険者を連れていたのであまり見られないように極力スキルを使用しないようにしていたのだ。

 

 それでもヴィンスは一度だけ離れている魔物を倒すために剣技『真空刃』を使った。それを見た時に冒険者は悟ったのだ。


(これ、俺が逃げ出したら簡単に殺されるな……)


 元々逃げ出すつもりなどなかったが、ヴィンスが気前よく前金を払ってくれた理由もよく分かった気がする冒険者であった。


 そして何より気持ちが良かった事があった。

 冒険者がヴィンスと共に行動してから既に1度冒険者ギルドに素材の売却に行ったのだが、その時の他の冒険者は「何故あいつが例の男と一緒に行動しているんだ?」と言わんばかりに見られたことだ。

 ヴィンスが売却している間にその冒険者は周りに取り囲まれて事情の説明に追われたが、説明を聞いた他の冒険者達は


「マジかよ……俺も付き添いてぇ……」

「俺はそれよりもあの男の戦闘を見てみたい」


 などと、皆から羨ましがられたのがとても気持ち良かったのであった。

 それと同時にヴィンスの戦闘の様子も聞かれたので簡単に説明すると


「ほ、本当に1人で倒しまくっているのか……」

「しかも剣技をほとんど使っていないだと……そんな事ってあり得るのか?」

「でもこいつが嘘をつく理由も無いしな……だったら本当なんだろう」


 と言った様子でヴィンスの凄さが間接的に伝わっていたのだった。





「お帰り、ヴィンス。魔物討伐の調子はどう?」


「ただいま、ローザ。こっちはまぁまぁ順調かな。ローザの方は?」


 昼食のために合流したヴィンス達。互いの進捗を確認するためにヴィンスが問うとローザは満面の笑顔になる。


「それがね、うふふ……1個だけど使えるようになったわ!」


「本当に!?おめでとう!!」


「ありがとう!1個覚えれば他のも割とすぐに使える様になると思うわ」


「それは楽しみだね。海での戦闘で期待しているよ」


 2人は笑顔で昼食に向かって行った。



——————————



「そろそろ陽も沈むな……今日はここまでにしましょう!」


「そ、そうか(やっと終わったか……とにかく疲れた……)」


「剥ぎ取りを手伝ってくれたおかげで助かりました。これは午後の給金と言う事で……」


「お、銀貨4枚もくれるのか!?最初の約束では日給で銀貨3枚って話だったが、結局合計で7枚も貰う事になっちまうぞ?」


 午後も陽が沈むまで魔物討伐に明け暮れていたヴィンスと付き添う冒険者。

 ヴィンスが切り上げを宣言して冒険者に給金を支払うと彼は予想以上の収入に喜んだものの心配もした。


「大丈夫ですよ。貴方が手伝ってくれたおかげで想定よりもいいペースで素材も回収出来ましたから」


「そうか……だったら喜んで頂くよ」


 冒険者ギルドでも剥ぎ取りや荷物持ちなどの依頼も無くはないが、その報酬はヴィンスが払ってくれた金額には到底及ばないものでしかない。

 しかも1日のほとんどを剥ぎ取りに時間を費やしたのでクタクタだったとは言え、銀貨7枚と言うお金はこの冒険者の強さでは丸1日魔物との戦闘に明け暮れても届く金額ではなかったのだから万々歳であった。


「しかしあんたは本当に凄いな……こんな無茶苦茶強い奴、俺は今まで見たことないぜ」


「そうですか?」


「ああ。こんなに強いならさ、あんたならあの依頼受けられるんじゃないか?ほら、知らねえかな?海の魔物の討伐の件」


 ヴィンスの強さに惚れ込んだ冒険者は軽い気持ちで例の依頼の件を持ち出したがヴィンスの表情が少し暗くなる。

 この冒険者はヴィンスの強さなら当然Cランク以上だと疑っていなかったが、Eランクのヴィンス達がその件を引き受けるのに苦労しているのだから当然とも言えた。


「あれ?俺何か不味い事言ったか?だったらすまん……」


「ああ、そう言う訳じゃ無くてですね……」


 ヴィンスは自分のランクを正確には伝えず、「ランクが届かない」と言う旨で受けられない事を伝える。


「そうだったのか……これだけ強ければCランクどころかBランクでも驚かないんだが……その若さなら実力の問題じゃなくて実績の方だと思えばある意味当然とも言えるか……」


「まぁそう言う訳で引き受けたくても引き受けられないんですよ」


 ヴィンスの説明を聞いた冒険者は理屈的にも納得した。


「それじゃここでお別れですね。お疲れ様でした」


「おう!こっちもいいものを見せて貰ったしいい経験をしたぜ!ありがとな!」


 町の入り口に到着すると2人は別れた。


(金銭的な意味でも体験の意味でも今日はいい日だったぜ。早速酒場で自慢してやるか!)


 冒険者はウキウキで酒場に繰り出して行った。





「お待たせしました……あはは、またヴィンス様でしたか」


「はは、何度もすいませんね」


 今日最後の魔石と素材売却のためにヴィンスは冒険者ギルドを訪れるとまた同じ受付嬢が対応してくれた。今日だけで5回目の売却に受付嬢も呆れを通り越して笑ってヴィンスに対応してくれる。


「こちらが先程お預けになられた素材の売却金になります。しかし……ここまで魔物を討伐出来るとなると昨日お連れの方が仰っていた事も嘘ではなさそうですね」


「え、何て言っていましたか?」


「「ヴィンス様がとても強い」と言う事です。ヴィンス様は現時点ではまだEランクですがこの調子ならDランクどころかCランクもそう遠くない内に届きそうなので」


「そうですか……それが「遠くない内に」ではなく「今」だったらもっと良かったんですけどね」


 この言葉からヴィンスからまだ例の依頼の件を諦めていないと言う気持ちが滲み出ていると受付嬢には思えた。しかし受付嬢の一存でどうにか出来るものでもないのでそれ以上踏み込む事は言えなかった。


「それではこちらも鑑定しておきますので後程取りに来ると言う事で宜しいですか?」


「はい。今日はこれで終わりにするので明日にでも終わっていれば大丈夫です」


「ありがとうございます。それではまた明日お越しください」


 ヴィンスは魔石と素材を受付嬢に預けると建物から出て行く。

 ヴィンスを見送った受付嬢は預かった魔石と素材を見て軽く溜息を吐いた。


(これは……間違いなく1日の最高売却額(※)を更新したでしょうね……)


※ミレヘスの町の冒険者ギルドで1人の冒険者が1日で売却した金額と言う事です。

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