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アーリル王国の騎士  作者: siryu
海上戦の章
46/61

第46話 進展

「同じ王国領の警備隊長でもユーグさんやハンスさんとは全然違うのね。ガッカリだわ!」


「何?何でそこでユーグとハンスの名前が出てくるんだ?」


 ローザの捨て台詞を聞いた警備隊長は予想外の名前を聞いて表情を変えた。


「何でって……私達は砂漠を渡ってこの町に来たんだから別に不思議な話でもないでしょう?」


「そりゃそうかもしれんが……さっきのは2人と面識があるような話し方だったからな」


「ええ、あるわよ」


「何だと?そこの君もあるのか?」


「ええ、まあ……」


 ヴィンス達がユーグとハンスに面識があると分かると警備隊長は少しだけ真面目な態度になる。


「もし良かったらどんな繋がりがあるのか教えてくれないか?」


「それは——」


 ヴィンスが代表して砂漠での出来事を話すと警備隊長はとんでもなく驚いた。


「なっ!?君達が砂漠の盗賊団を討伐していたのか!?」


 この町にも盗賊団を討伐した情報は届いていたが誰が討伐したのかまでは知らされていなかったからだ。


「私達だけではなく警備隊と協力してですけどね」


「ええ、セシスの町の警備隊の皆と頑張ったわ!」


 ローザは少し得意気になり盗賊団を討伐した時の詳細まで説明した。警備隊長はこの2人が討伐したと騙っている可能性も考慮していたが、詳細を聞いていくと信憑性が一気に増した。


「どうやら本当のようだな……先程の非礼は詫びよう。すまなかった」


 そう言うと警備隊長は2人に頭を下げる。態度の変わり様に2人は慌てて頭を上げる様に促した。


「さっきの話が本当なら話は変わってくるな」


本当なら(・・・・)って疑っているんですか?」


 ローザのジト目に警備隊長は慌てて首を横に振る。


「いやいや、誤解させるような言い方で悪かった!俺は9割がた信用出来ると思っているが、それを他人に信用させるにはまた話が違うと言う事だ」


「と言う事は……他の当事者を連れてくるか証言を取らないと駄目って事でしょうか?」


「そう、君の言う通りだ。今回の場合ならユーグを連れてくるか手紙でも書いて貰うかすればいいんだが……」


 警備隊長の言葉にローザは異論を唱える。


「そこまでしないと駄目かしら?だって冒険者カードには盗賊団を討伐した依頼の記録が残っているんでしょう?」


「確かにそうなんだが……それだと君達が盗賊団を討伐した事は証明出来てもそれで話が終わってしまう。もう一押し欲しいんだよ」


 ローザはこの説明がよく分からず首を傾げるがヴィンスはなんとなく理解していた。


「と言うのも盗賊団の討伐はこっちの冒険者ギルドでも依頼が出ていたから俺も知っているが確かDランク以上の条件だったはずだ。だから君達は実質Dランク以上の実力を持っていると言っても差し支えないだろうが、今回はCランク以上でそれだけだとまだ足りないんだ」


「そう言う事ね……砂漠のはDランクだったんだ……」


 ここまで説明して貰ってローザも納得した。


「砂漠の事も十分大きな案件だったからそれで町長も納得する可能性はゼロではないが納得しない可能性だって十分ある。だからもう一押し欲しいんだよ」


「でしたら当事者の手紙よりもここに来て貰って説得に加わった方がより確実ですね」


 ヴィンスの提案に警備隊長も同意はするが——


「確かにそうなんだが……ユーグをここまで連れてくるとなると……」


「あ、そうか……セシスの町からここまで来て貰うのはちょっと難しいかもしれませんね……」


 そう言って2人は顔を顰めるが


「だったらハンスさんじゃ駄目かしら?」


「ハンスか……盗賊団は両町の懸案事項だったからハンスでもいいかもしれないな」


 ローザの提案に警備隊長は賛同する。


「ここからテシスの町まで2日掛かるからな。取り敢えず伝書ホークでハンスに前もって連絡しておいた方がいいだろうな。あと、ユーグにも同じように連絡して推薦文だけでも書いて貰った方が尚の事いいだろう」


「そうですね。ありがとうございます、警備隊長さん」


「おう、そう言えば名乗ってなかったな。俺の名前はマルクスだ。この件が解決するまでこっちこそよろしく頼むわ」


 ヴィンス達は警備隊の兵舎を出て行くと伝書ホーク屋に向かう。ハンスとユーグに手紙を送るためだ。


「じゃあ僕はユーグさんに送る手紙を書くからローザはハンスさんへの手紙を任せてもいいかな?」


「私はいいけど……私がハンスさんに手紙を書いてもいいの?」


「僕が書くよりもローザが書いた方がハンスさんも乗り気になってくれると思うから僕は別に問題ないよ」


 ヴィンスはそう言いつつ、「我ながら酷い性格をしている」と自虐的にそう思った。





「よし、僕は書けたけどローザはどう?」


「ええ、こんな感じだけどどうかしら?」


「うん、問題無いね。すいません、こっちをセシスの町のユーグ警備隊長に、こっちをテシスの町のハンス警備隊長に個別便でお願いします」


「はい、毎度ありがとうございます」


 2人が書いた手紙をそれぞれの町に送ってもらう様にヴィンスは依頼を済ませた。


「あとは2人の返事待ちだね。それまでは特に予定もないから……外で魔物相手にローザの魔法練習を重点的にやろうか」


「ええ、望むところだわ」


「よし!じゃあその前に何かいい魔導書が売っていないかお店を回ってみよう」


「新しい魔導書!?それはちょっと楽しみね!付与魔法の魔導書手に入らないかしら……」


 魔導書と聞いたローザは少しウキウキしてヴィンスと2人で町を回りに行く。



——テシスの町——



「ハンス隊長!お手紙ですよ。伝書ホーク屋からです」


「あん?それで手紙は誰からだ?」


 以前ヴィンス達が初めてテシスの町の兵舎を訪れた際に対応をした警備隊員が伝書ホーク屋から運ばれた手紙を警備隊長のハンスに渡そうとするが、彼は面倒くさそうに返事をしただけで見向きすらしない。


「えっと……あ、ローザ殿ですよ!」


「ふうん……ってローザちゃんだと!?早く寄越せ!!」


「うわっ!!」


 ローザからの手紙だと分かったハンスは恐ろしい速度で警備隊員から手紙を分捕ってしまう。


「何だろうな?もしかしてもう寂しくなって俺に迎えに来て欲しいとか——」


「ハンス隊長。夢は就寝時だけにしてください」


 ハンスの寝言に副隊長のジョンが冷静にツッコミを入れる。


「お前は相変わらず夢の無い事を——何?ミレヘスから船が出ていないだと?」


「え?どういうことですか、ハンス隊長?」


 手紙を読んでいる途中で表情が険しくなるハンスにジョンは状況を確認する。


「ちょっと待ってろ。おい、お前ら!誰かミレヘスの町から船を出す事が出来ていないって話知っている奴いるか?」


 ハンスは兵舎にいる警備隊員に向かって問いかけるがその事を誰も知らず首を横に振るのみである。


「ハンス隊長、ミレヘスの町から船が出ていないんですか?」


「ああ、悪い。どうやらまだこっちには連絡が届いていないみたいだが……ジョンの言う通りミレヘスの町から船が出せていないらしい。詳細は分からんがローザちゃんの手紙によるとどうも面倒な魔物が海に住み着いたらしいな……」


「それは大変ですね……盗賊団の次は海で魔物ですか……それでローザ殿からは他には何か書いてないんですか?」


 ジョンがそう聞くとハンスは何故か顔をヘラヘラさせる。


「それがな……どうも俺の力を借りたいらしいんだな……待ってろ、ローザちゃん!!」


 ハンスはそう言うと急に旅支度を始める。何事かとジョンは手紙を受け取って読むと溜息を吐いて呆れる。


「ハンス隊長……これって要はミレヘスの町長に口添えのお願いだけでしょう?何故これだけでそこまでテンションを上げられるんですか?」


 ジョンの言葉は無視されたかのようにハンスは話を進めていく。


「俺は数日間留守にするからその間はジョンが隊長代理だ。それと……お前ら3人は俺と一緒にミレヘスの町まで行くからすぐに旅支度をしろ!!」


「は、はい!!」


 ハンスに指名された3人の警備隊員は慌てて準備を始める。


「しかしあの国王(ヤロウ)は相変わらず動かねえ奴だな……本当にムカつくぜ」


 準備をしながら呟いたハンスの言葉に声こそ出さないが皆が同意していた。



——セシスの町——



「ふむ……ヴィンス殿達も苦労しているな」


「そのようですね」


 ヴィンスから警備隊長のユーグに届いた手紙を副隊長であるジェフも見せて貰いお互いが状況を理解していた。


「ヴィンス殿の手紙に書いてある通り、私よりもハンスがミレヘスに行く方が地理的な意味でもいいだろう。よし、早速ミレヘスの町長宛の推薦文を書こう」


「それがいいでしょうね」


 ユーグはすぐに手紙を書き始める。


「それにしても我々には届いていなかったが城には情報が届いているだろうに……相変わらず国王は動こうともしないな」


「全くです」


 ユーグの愚痴にジェフも賛同していた。



——ミレヘスの町——



「付与魔法の魔導書が見つかって良かったね」


「そうね……でもあまりお金残っていないんでしょう?」


 砂漠の両町へ手紙を送ってから2人は時間を掛けて町の店を回りつくした。その甲斐もあって魔導書を取り扱っている店を見つけたのだったが……


「まあね……高いとは思っていたけど具体的な値段は知らなかったからね。これでも値下げして貰ったんだけど……」


 一番出回っている炎魔法や回復魔法の魔導書でも白金貨が必要な程の価格だったのだ。

 そしてお目当ての付与魔法は白金貨2枚であった。ヴィンス達の手持ちと丁度同じくらいだったのでそのまま払うと宿代すら払えなくなると危惧したヴィンスは兎に角粘り強く交渉したおかげで何とか1割値引きして貰ったのだった。


「ハンスさんからの返事にもよるけど了承してくれれば恐らく何人かでこの町まで来てくれると思う。ハンスさん達の滞在費はこちら持ちにするつもりだからこのままだとお金に不安がある。そこで……」


「2日間魔物の討伐に励むのね?」


 ヴィンスの考えを先回りしてローザが答えるが彼の返事は少し違っていた。


「その通りなんだけど、少し変則的にしよう。ローザは付与魔法の練習に励めばいいから僕と一緒に行動しなくても大丈夫だろう?」


「どういう事?それって私は1人で魔法の練習をして、ヴィンスだけで魔物と戦うって事かしら?」


「うん。どうかな?」


 ヴィンスの案はローザにとって多少不満のあるものではあったが、恐らくこれが最も効率のいい方法だとローザも薄々ではあるが感じていた。


「……少し不満はあるけど仕方ないわね。その代わり絶対に怪我しないで宿に帰って来てね」


「うん。任せてよ」


 そう言うと2人は予約していた宿屋で別れる。

 ローザは付与魔法の練習で部屋へ、そしてヴィンスは


「さて、行こうかな」


 気合を入れて町の外に出て行った——






「ふう。もうすぐ夕食の時間かな。今日はこれくらいにしておくか」


 日も沈んだので冒険者ギルドで素材を売却した後にローザを迎えに行こうと決め、ヴィンスは町に戻ってまずは冒険者ギルドへ向かう。


「お待たせしました。素材の買い取りで宜しいですか?」


「はい、お願いします」


 受付嬢に呼ばれるとヴィンスは回収した素材と魔石を全て出したのだが——


「きゃっ?あ、申し訳ありません……まさかこれほど素材があるとは……これ程あると鑑定に時間が掛かるのですが宜しいですか?」


「そうなんですか?それは困ったな……」


 ヴィンスは先日新調したマジックポーチ(ランク2)をほぼ一杯にしていたので素材の量も凄かったのだ。

 そしてこの後ローザと食事に行こうと思っていたヴィンスは受付嬢の言葉に難色を示す。


「でしたらこの番号札をお持ちになって下さい。後程ヴィンス様の御都合の宜しい時にお越しくださればお引換え出来ますので」


「それは助かります。それではよろしくお願いいたします」


 ヴィンスは番号札を預かるとそのまま冒険者ギルドの建物から出て行った。


「お、おい……さっきの若い男、無茶苦茶素材を持ち込んでいたぞ?」

「どうせ溜め込んでいただけじゃないのか?」

「多分そうだろう。でなきゃあんなに持っている訳がない」


 他の冒険者はヴィンスが何日も溜め込んでいただけと断定していたが、ヴィンスを担当した受付嬢だけはそれは違うと気付いていた。と言うのも今日ヴィンス達は依頼の件で一度冒険者ギルドに来ておりその際に素材も売却していたので覚えていたのだ。そしてそれは今回の売却分はこの日2回目なので溜め込む暇がなかった事を示していた。


(もしかしてさっきのヴィンスって人は連れの女性が言っていた通り、Eランクだけど物凄く強い人なのかも……)


 現時点で十分驚いていた受付嬢だったが、明日はもっと驚く事になるのだった——



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