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アーリル王国の騎士  作者: siryu
砂漠越えの章
44/61

第44話 砂漠を発つ

「あ~、昨夜は本当に酷い目に遭ったわ……お前ら覚えておけよ!」


「何を言っているんですか隊長。昨夜は隊長の自業自得です」


 テシスの町の警備隊長であるハンスの愚痴に対して副隊長のジョンは表情も変えず淡々と答えた。


 昨夜ヴィンスに引き摺られた警備隊長のハンスはあの後コテンパンに叩きのめされた。

 勿論一方的に暴行されたのではなく模擬戦の形式には違いないのだが。


「しかしヴィンス君は凄いな……あれから5戦くらいやったけど俺の剣は掠りもしなかったわ……しかも魔法まで使えるんだからな」


「それは確かに凄いですね……ハンス隊長が手も足も出ない腕前に魔法も使えるとか」


「全くだ。尤もその後の回復魔法はローザちゃんに掛けて貰いたかったな……あぁ、ローザちゃん可愛いよなぁ……」


 1戦終わる度にハンスはローザに回復魔法を掛けて貰う様に強請っていたが、ヴィンスがローザを近づけさせず彼が『ヒール』を唱えて治療していたのだ。


「もう……隊長じゃローザ殿と歳が一回り以上離れているんですからさっさと諦めてくださいよ……」


「別に歳の差夫婦でもいいだろうが!しかも俺がローザちゃんと結婚すればアルフレッド殿がお義父さんになるんだぞ!?最高じゃねえか!!あぁ、ローザちゃん……」


 妄想の広がるハンスはどこか遠い目をして恍惚としていた。

 しかしそんなハンスを現実に戻すべくジョンは非情な宣言をする。


「これは今の台詞をそのままヴィンス殿に報告しないといけませんね……」


「ば、馬鹿野郎!!昨日ですら半殺しに近かったのにそんな事をして見ろ!?俺は本当にヴィンス君に殺されるぞ!?」


「はいはい、そんな事はしませんから。もう少ししたらヴィンス殿達がお別れの挨拶に来てくれるのですからちゃんとしてくださいね」


「ちっ……分かってるよ……あの2人がもう少し滞在してくれたらもっと楽しかったんだがこればかりは仕方ないか……」


 ハンスは割と酷い目に遭ったのだが、昨夜の出来事がとても楽しかったと言わんばかりの言い様だった。





「じゃあヴィンス。そろそろ兵舎に行きましょうか?」


「そうだね」


 町のお店で日持ちする食料を買い込みと伝書ホーク屋でアーリルに手紙を飛ばしたヴィンスとローザはお別れの挨拶をしに兵舎へ向かおうとしていた。


「それにしても昨夜はハンスさんが少し可哀想だったわ」


「そうかな?」


「そうよ。だってヴィンスが笑顔でハンスさんをボコボコにしちゃうんだから。しかもボコボコにした張本人が魔法で回復してあげるって中々のトラウマ物よ?」


「……」


 昨夜の出来事を思い出しながら可笑しそうに話すローザを見て流石のヴィンスも少し思う所があったのか、この後ハンスに謝ろうと決意したのであった。






「ハンスさん……昨日はちょっとやり過ぎてすみませんでした……」


「なあに、そんな事気にすんな!はっはっは」


 別れの挨拶で兵舎に寄った2人だったがヴィンスはハンスを連れ出して昨夜の謝罪をした。いきなり連れ出されたハンスは「さっきジョンと話した事がヴィンス君の耳に入ったのか?」と内心でビクビクしていたが、とんだ見当違いだった事に気を良くしてヴィンスの背中を叩きながら笑って許していた。


 2人が戻ってくるとヴィンスとローザは改めて警備隊員達に挨拶をする。

 テシスの町の警備隊員は彼らと1日しか付き合いはなかったが、それでもヴィンス達が砂漠の両町で懸案事項であった盗賊団の討伐に大きな協力をしていた事や昨夜の飲み会ですっかり仲良くなっていた。


「ヴィンス殿にローザ殿。どうかお気をつけて!」

「旅が終わったら帰りも町に寄って下さい!また飲みましょう!」

「その時はまた隊長と模擬戦やってあげて(・・・)下さいね!!」

「それはいいな!あれはなかなか痛快だった!」


「ちょっと待て、お前ら!!なんで「やってあげて(・・・)下さい」なんだ!?」


 隊員の言葉が気に入らなかったのか突っかかるハンスにヴィンスとローザは口元を隠しながら笑っていた。


「はぁ、はぁ……あいつらは本当に好き勝手言いやがって……敬うって言葉を知らないんじゃないか?」


「それだけハンスさんが皆さんから愛されているんじゃないですか?」


「おう……ローザちゃんは相変わらず嬉しい事言ってくれるねぇ……」


 ローザの優しい言葉にハンスは気を良くするが


「ローザの言う通りですよ。じゃないとあんなに弄ら……慕われないと思いますよ」


「……ヴィンス君は今何と言い掛けた……?」


 ヴィンスの分かり易い言い直しに眉を顰めるハンスであった。


「まぁいいか……君達がここからプホール王国に向かうにはアプロン王国領の港町である『ミレヘスの町』に行く必要があるのは流石に知っているよな?」


「はい。ここから歩いて2日程の距離の所ですよね?」


「そうだ。そこから出ている船に乗ればプホール王国領の『ナクールの町』と言う港町に着く。そこから暫く歩けばプホール王国に行けるからな」


「はい。色々ありがとうございました」


「ありがとうございました。ハンスさんもお元気で!」


 一応手持ちの地図で大体の事は知っていたが、それでも丁寧に説明してくれたハンスにヴィンスとローザは感謝して頭を下げる。


「なあに、これくらい大した事じゃねえよ……」


 ヴィンス達に感謝されたハンスは恥ずかしそうに頭を掻きながら名残惜しそうな表情を見せる。


「ほんじゃまぁ……元気でな」


「「はい!では行ってきます!」」


 ヴィンス達は手を振ってテシスの町を出発して行く。

 警備隊員達も手を振って見送るがハンスだけは口をへの字に曲げるだけで手は振らなかった。


「ハンス隊長も手を振ってあげたらどうですか?」


「あん?いいんだよ。男は黙って見送るだけでよ」


「ははは、その発想は何か父親みたいですね」


「うるせえな、お前らは……よし!いつも通り町の見回りを開始しろ!」


「「はっ!!」」


 冷やかされたハンスは恥ずかしさを隠すように指示を飛ばし、それに従う警備隊員達であった。






「いい人達だったわね。両町の警備隊は」


「そうだね。特にテシスの町は1日しか滞在していないのにね」


 次の目的地である『ミレヘスの町』を目指して歩きながら会話をする2人。

 もう少しで砂漠を抜け出すと言う所まで辿り着いていた。


「次の町まで歩いて2日でしょ?今がお昼過ぎだから最低でも2泊は野営って事よね?」


「うん。でも『範囲聖域』を使えば2泊の野営くらい何とか大丈夫だろう?」


「ええ、それに火の番の時には今度こそ私も『範囲聖域』を覚えてみせるんだから!」


「それは頼もしいね。でも無理しなくていいから程々に——魔物が来るよ」


「そうなの?分かったわ」


 会話の途中で魔物の気配に気づいたヴィンスはその方向に持っていた槍を向けてローザに注意を促す。 その数秒後には巨大で鋭い牙を持ったトラ——『サーベルタイガー』——が4匹現れた。


(こいつは……ローザとは相性の悪い魔物かもしれないな……)


 サーベルタイガーは牙や爪による攻撃も厄介だが、動きが俊敏なので中々攻撃を当てるのに苦労するのだ。ヴィンス程の腕前なら気にする程ではないが魔法使いであるローザだと、魔法を躱された場合に敵の攻撃を回避出来る程の身体能力を持ち合わせていないので天敵と言っていい程相性が悪い。


「(となると……ローザに先制攻撃をさせて残った魔物を僕が倒すのがいいかな……)ローザ、魔法で先制攻撃をお願い!」


「分かったわ!」


 ローザは返事と同時に詠唱していた風魔法『エアーブラスト』を放つ。しかしサーベルタイガーの反応もヴィンスの予想通り早く、掠り傷程度で4匹とも回避して2人に迫ってきた。


「え!?躱された?」


 ヴィンスには大体予想出来ていたがローザにとっては想定外で彼女は大慌てした。


「大丈夫だ、ローザ!」


 ヴィンスはローザにそう言うと彼女に向かって飛び掛かってくるサーベルタイガーの前に立ちはだかって槍を突き出す。サーベルタイガーは頭部を貫かれて一撃で絶命した。


「残りは3匹……」


 ヴィンスはそう呟きながら残りのサーベルタイガーに目をやる。仲間をやられたサーベルタイガーであったが怯まずに3匹同時に2人へ襲い掛かってきた。


(同時に3匹来ると厄介だな……)


 ヴィンスは舌打ちしながら炎魔法『ファイアーボール』をサーベルタイガーの足元に放つと3匹の内1匹が綺麗に躱す事が出来ずに動きが止まってしまった。

 そのまま突っ込んできた2匹に向かってヴィンスは槍技『連続突き』を繰り出してサーベルタイガーを瞬殺する。それを見た残り1匹はそのまま逃げだした。


「ふう……俊敏な魔物だと厄介だったな……」


 ヴィンスは一息ついて戦闘を振り返っていたが、ローザは自分の魔法がほとんど役に立たなかった事に大きなショックを受けていた。


「ヴィンス……今のような魔物が現れたら私は全然役に立てないのかしら……」


 弱々しく質問するローザにヴィンスは即答こそ出来なかったが、考え込んだ上で返事をする。


「確かにサーベルタイガーのような俊敏な魔物には一発(・・)で魔法を当てるのは難しいかもしれないね」


「……と言う事は工夫をすれば何とかなるかしら?」


「そうだね。色々方法はあると思うよ。例えば相手の視界を奪ってからなら魔法も当てやすくなるだろうし……相手が反応出来ないくらい速い魔法を覚えるのも手かもしれない。あと役に立つと言う意味では何も攻撃魔法だけが全てじゃないしね」


「どういう事?」


「僕は使えないけど付与魔法って言う対象者を強化する魔法とかを覚えてくれたら僕も助かるかもね」


「付与魔法かぁ……まだ使えないけど覚えたら確かに便利そうね」


 近接攻撃が苦手なローザにとって戦闘=攻撃魔法と言う思考になりがちだったが、それ以外で明確な手段を提示して貰った事で道が開けた気がした。尤も、現時点の彼女では付与魔法を使えないのでどこかで魔導書を購入するなりして手に入れないといけないのだが。


「それは今後の課題にするとして折角魔物を倒したから素材を回収しておこうか。ローザも手伝ってくれるかな?」


「ええ、勿論よ」



——————————



「じゃあお言葉に甘えて僕が先に寝るから。お休み、ローザ」


「お休みなさい、ヴィンス」


 日も暮れて今日の移動はここまでと決めた2人は夕食を終えて交代で睡眠を取る事にした。今夜はローザの希望でヴィンスを先に休ませる事にしたのだ。

 そんなローザには目的があった。それは——


(光魔法のLvを上げれば目くらましに使えるはず……)


 ヴィンスと道中の会話で「目くらまし」の相談をした時に教えて貰ったのが光魔法Lv2『フラッシュ』であった。ヴィンス曰く『フラッシュ』は光魔法Lv1の『ライト』を強くして且つ瞬間的に唱えるイメージで練習すれば出来るようになると話を聞いていたので、これなら上手くいけば今夜中にでも覚えられるとローザは判断して練習に励みたかったのだ。


 寝る前にヴィンスは『範囲聖域』を唱えてくれたので魔物は寄ってこない。

 幸いヴィンスに聞いていた通り練習して1時間程で『フラッシュ』を使えるようにはなった。


「やったわ!これで——あ……」


 喜んだのも束の間、ローザは新たな問題に直面した事に気付いた。

 それは——


「『フラッシュ』を唱えても次の魔法を撃つまで効果が持たないわ……」


 ヴィンスも『フラッシュ』を使えるがその場合は近接攻撃と組み合わせて使うのを基本的なパターンとしている。しかし近接攻撃が不得手なローザではそれが難しく、かといって今のままでは『フラッシュ』で目くらましをしても次の魔法を準備している間に敵の視力が回復しまうのだ。


「これを解決するには詠唱速度を上げるしかないのね……」


 ローザの言う通りなのだがスキル『詠唱速度上昇』は一朝一夕でLvが上がる物ではない。

 旅に出てからスキルを身に付けたローザであったがこればかりは地道に努力するしかないのだ。






「んん……ローザ、そろそろ交代かな?」


「おはよう、ヴィンス。そろそろ時間ね」


 交代の時間に起きたヴィンスはローザと火の番を交代すると彼女はすぐに眠ってしまった。ヴィンスは辺りを見回すとローザが練習したであろう魔法の跡が残っているのに気付く。


(多分『フラッシュ』だけじゃ足りないって気付いたんだろうな……)


 ヴィンスはローザに『フラッシュ』の説明をした時点で恐らく今夜にでも練習すると大方の予想を付けていた。しかし、それと同時に2つの魔法を連続で唱える難しさにも気付いていたが敢えて彼女にはそれを説明しなかった。


(ここで変に先入観を持たせてしまえばローザの可能性を潰すかもしれないからな……)


 そして次の日の朝、ヴィンスはローザからある提案を受ける事になる——






「ローザ、いいよ!」


「ええ!」


 またもやサーベルタイガー4匹に遭遇した2人だったが、事前の打ち合わせ通りローザは『フラッシュ』を唱えて敵の視界を奪う。動きが止まったサーベルタイガーの群れにヴィンスは炎魔法『ファイアーストーム』を唱えると敵は躱す事も出来ずに炎の嵐に飲み込まれ焼け死んでいった。


「やったわ!」


「ああ、上手くいったね。惜しむらくは僕が魔法の選択を誤った事かな……」


 そう言ってヴィンスはサーベルタイガーの死骸に近づく。魔石は無事であったが肉や毛皮は炭になっており、高値で売れる牙も形こそ残っていたが焦げが酷く、売却時に値踏みされるのを覚悟しなければいけない状態だった。


「次は『エアーブラスト』の方が良さそうだね。あ、だったら僕が『フラッシュ』を唱えてもいいのか」


「そうよ!これで私が『フラッシュ』を覚えたのも無駄ではなかったって事ね。うふふ」


 ローザは自分1人で魔法を当てるのではなくどちらかが『フラッシュ』を使い、もう1人が魔法を当てればいいと考えて今朝ヴィンスに提案をしたのだ。

 勿論この作戦はヴィンスも思いついていたが、ローザには自分で気付いて貰うために敢えてヴィンスから提案はしていなかった。そして戦術の幅を広げるために普段なら剣か槍で攻撃するところを敢えて魔法を使って見せる事で役割を逆にする事も出来るとローザは気付く事が出来たのだ。


「じゃあ次に遭遇した時は役割を交代してみよう!」


「ええ!頑張るわ!」


 昨日の戦闘後とは違って希望に満ち溢れたローザの表情が印象的であった。


※光魔法Lv2『フラッシュ』…瞬間的に一面を強く輝かせる事で相手の視力を一時的に奪う。


※砂漠越えの章 終了時のステータス

(なお、Lvが上がらなくてもステータス値の上下はあります)


名前  :ヴィンス・フランシス

種族  :人間(男:17歳)

Lv   :37

HP   :1933

MP   :530

力   :485

素早さ :346

体力  :491

魔力  :199

運   :58


スキル

力強化Lv3

素早さ強化Lv1

体力強化Lv3

身体能力強化Lv2

詠唱速度上昇Lv2

剥ぎ取りLv2

威圧

剣技Lv7

槍技Lv5

盾技Lv4

炎魔法Lv3

風魔法Lv2

光魔法Lv2

聖魔法Lv1

回復魔法Lv3

魔法剣Lv2

索敵Lv3 ←UP

交渉Lv2

料理Lv1


称号

騎士

魔法騎士


装備

武器:鋼鉄の剣(ランク3)

   鋼鉄の槍(ランク3)

防具:鉄の兜(ランク2)

   鉄の鎧(ランク2)

   鉄の籠手(ランク2)

   鉄の盾(ランク2)

   レザーブーツ(ランク1)



名前  :ローザ・マティス

種族  :人間(女:16歳)

Lv   :14

HP   :98

MP   :139

力   :21

素早さ :41

体力  :41

魔力  :81

運   :78


スキル

詠唱速度上昇Lv1

風魔法Lv2 ←UP

光魔法Lv2 ←UP

回復魔法Lv2


称号

白魔導士


装備

武器:魔導士の杖(ランク2):魔力強化(極小)

   ブロンズナイフ(ランク1)

防具:レザーフード(ランク1)

   レザーローブ(ランク1)

   レザーブーツ(ランク1)


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