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アーリル王国の騎士  作者: siryu
砂漠越えの章
42/61

第42話 テシスの町でも

「昨晩は楽しかったわ~。ヴィンスもたまには羽目を外すのね?」


「……」


 ニヤニヤしたローザがヴィンスを楽しそうに弄っている。

 ヴィンスは昨晩の出来事を無かった事にしたかったがそれは所詮無理な話である。


(別に羽目を外した訳ではないんだけどな……半ばヤケクソだっただけで)


 前回酒場で飲んだローザは次の日二日酔いになっていたが今回は大丈夫だったようである。おかげでヴィンスが言い返す事は出来なかった。


「今日の予定だけど昼食を食べたら兵舎に寄って警備隊の皆さんに挨拶をしよう。それからコドランに乗って——」


「隣のテシスの町に行くのね?」


「うん、だからやり残した事があったら午前中に終わらせておいてね」


「ええ、じゃあ今から町長の所に行ってくるわ」


 そう言うとローザは町長の所に行く。

 昨日中に被害者女性達を町長の屋敷に移したと聞いていたので彼女達の様子を見に行ったのだろうとヴィンスは思った。


(さて、僕はどうしようか……)


 昼食まで3時間程暇を持て余したヴィンスは結局何も思いつかなかったのでまた外に出掛けて魔物を探す事にした。






「あ、あいつらが言った通りだ……」

「しかも魔法を使わずにサンドスパイダーまでやっつけちまうなんて」

「やっぱりとんでもねえ奴なんだ!あの時声を掛けなくてよかったな……」


 ヴィンスは結局4回魔物と戦ったが、魔物から一撃も受ける事なく倒していった。砂の中に引きずり込もうとするサンドスパイダーにも遭遇したが、何故か今回は襲われる前から相手の気配に気づく事が出来た。


(もしかしたら『索敵』のLvが上がったのかもしれないな。あと2個目の中級魔石を回収と。マジックポーチが沢山入るようになったから容量の心配をあまりしなくて済むようになったのは大きいな)


 ヴィンスが予想したように実際に彼の『索敵』は盗賊討伐の際にLv3に上がっていた。


 そして昨日冒険者ギルドでヴィンスの噂を聞いていた冒険者達がその戦いぶりを見せつけられ、噂ではなく事実だと再認識していた。




 町に戻ったヴィンスは町長の屋敷に近づくと丁度ローザが出てくるところであった。


「あ、ヴィンス!」


「ローザ。終わったのかい?」


「ええ」


 ヴィンスはローザにそれ以上聞かなかった。聞けなかったという方が正しいのかもしれない。しかしローザの表情は意外にもしっかりしていたのでもしかしたら彼女達の状態も少しは落ち着いたのかもしれないと希望的観測を持つヴィンスであった。





 昼食を食べた2人は警備隊の兵舎に向かう。


「お待ちしていました。これでお別れと思うと名残惜しいですが仕方ありませんね。お二人の無事をお祈りしています」


 副隊長のジェフは少し残念そうな表情で挨拶をしてくれる。


「ヴィンス殿。これは昨晩言った手紙になります。これを向こうの町の兵舎に持って行って頂ければ助かります。それではお気をつけて!」


 ユーグも昨夜話に出ていた手紙を渡して別れの挨拶をする。


「僕達も大変お世話になりました!」


「お世話になりました!」


 ヴィンスとローザは揃ってお辞儀をし兵舎を後にした。


「そう言えばヴィンス。今回はアーリルに手紙を送らなくていいの?」


「うん、テシスの町を出る時でいいかなって思ってるんだ」


「そうなの?」


「色々考えていてね」


 ヴィンスがそう考えているのには理由があった。手紙には今回の盗賊討伐とユーグ兄弟(・・)の事を書くつもりだった。兄のユーグには会えたが、弟のハンスにはまだ会えていなかったのでそれから送ろうと思っていたのだ。





「コドランって相変わらず便利よね~。これがなければ砂漠を歩いていくしかないって考えると悪夢ね!」


「そうだね」


 足場がしっかりしていない砂漠を歩き続けるのは地味に体力を削る。体力に自信のあるヴィンスも流石に1日中歩くのは避けたかったのでローザの意見に賛同した。


「ヴィンス、何でコドランに乗っているのに槍を持っているの?もし魔物に遭遇してもコドランなら逃げられるのに」


「何でって不測の事態に備えてだよ。何があるか分からないからね。それに……」


「それに何?」


「いや、別に」


「?」


 ローザには内緒にしているがヴィンスは余程の事が無ければ魔物に遭遇したら積極的に倒すつもりだった。

 新しい剣と槍を買ってから剣は十分に試したが槍はそこまで試していなかったのでそれも兼ねたいと思っているのだ。



——————————



「ヴィンス!あれがテシスの町かしら?」


「多分そうだろうね(珍しく遭遇しなかったな……)」


 幸か不幸か結局ヴィンスの目論見は外れて一度も魔物に遭遇する事なくテシスの町に辿り着いた。

 町の造りはセシスの町とほとんど同じで「セシスの町に間違って戻ってきたのかも?」と錯覚する程であった。

 町の入り口ではまだ念の為に身分確認を行っていた。盗賊団は討伐出来ているはずだが、まだ1週間程続けるとの事らしかった。


「さてと……まずは宿を押さえてそれから兵舎を尋ねようか。ユーグさんから預かった手紙を弟のハンスさんに渡さないといけないし」


「ええ、そうしましょう」


 ヴィンス達は宿を予約した後に兵舎を尋ねる。町の造りが似ているだけあって兵舎もやはり同じような場所にあった。


「すいません、ヴィンスと言う者なんですが……」


「はい。如何しましたか?」


 ヴィンスは入り口の近くにいた警備兵に声を掛ける。


「私達はセシスの町から来たのですが、そこの警備隊長であるユーグさんからここの警備隊長のハンスさん宛の手紙を預かっていまして……」


「セシスのユーグ隊長から?失礼ですがこちらをお預かりしても宜しいですか?」


「はい、どうぞ」


「それでは少々失礼します」


 ヴィンスから手紙を受け取った警備兵は早歩きで兵舎の奥に行ってしまった。





「ハンス隊長!」


「何だよ?大きな声でうるせえなぁ……」


 ハンスと呼ばれた男は顔の造りこそ兄のユーグとそっくりだが眼鏡はしておらず、身だしなみも兄と違ってかなり着崩していた。何より口調もいい加減で簡単に言うとズボラな男であった。


「ハンス隊長に手紙が届きました。セシスのユーグ隊長からだそうです」


「兄貴だぁ?昨日も伝書ホークで盗賊討伐の報を受けたばっかりだって言うのに何でまた……?」


 ハンスはそう言いながら手紙を受け取って面倒くさそうに読み出した。

 手紙を渡した警備兵はその場を去ろうとするがハンスが「何だと?」と呟くのを聞いて思わず立ち止まって質問する。


「ハンス隊長?如何されましたか?」


「……おい。この手紙は伝書ホーク屋から届いたんじゃねえのか?」


 ハンスに睨まれた警備兵は少し身震いして答える。


「い、いえ!確かセシスから来たヴィンスと名乗る若者と……あと同じくらいの年齢の女性もいましたね。あれ?そう言えばセシスにあんな2人いたっけ……?」


 セシスとテシスの警備隊は人材交流などもやっているのでどちらの町事情にも詳しかった。それにもかかわらず兵舎を訪れた2人の事を知らなかった警備兵は今になって首を傾げたのだ。


「おい!今すぐその2人をここへ連れてこい!」


「は、はい!ただいま!!」


 警備兵はハンスに怒鳴られながら命じられるとヴィンス達を待たせている入り口まで走っていった。


「マジかよ……ラルフ殿とアルフレッド殿の子供だと……?」





 その頃ヴィンスとローザは見知った顔の人間と話をしていた。

 見知ったと言っても初対面である。つまりセシスの町の警備隊の副隊長ジェフの兄であるジョンであった。

 ジョンが2人の傍を通り過ぎようとした時にローザが思わずジョンを指して「ジェフさん!?」と叫んでしまったのがきっかけだった。


「——いやぁ、私の父と弟がお世話になっていたなんて……もっとお話を聞かせてください!」


「いいですよ~次は——」


「じゃあローザが酒場でジェフさんに絡んだ時の話を……」


「ちょっとヴィンス?それは言わなくていいの!」


 などと賑やかに話をしていると先程の警備兵が走って戻ってきた。


「はぁはぁ……ヴィンスさんと……そこの貴女(あなた)!申し訳ありませんがこちらに来て貰っていいですか?」


「はぁ……構いませんが」


 警備兵に呼ばれたヴィンスとローザの2人は彼について行く。副隊長のジョンも何事かといった様子で3人について行った。





「ハンス隊長!お二人をお連れしました!」


 警備兵が「ハンス隊長」と呼んだ人物は後ろを向いて座っていた。

 彼にヴィンスとローザの視線が集まる。


「おう!ご苦労!」


 そう言って警備兵を労いながらハンスは振り向いて2人に笑顔を見せた。

 ヴィンスとローザはハンスを見て一瞬固まる。と言うのもジェフとジョンは正に双子とでも言わんばかりにそっくりだったのにユーグとハンスは色々違ったからだった。


「俺はここの警備隊長をやっているハンスだ。よろしく頼むな!ヴィンス君にローザちゃん!」


「は、はぁ……」


「こ、こちらこそ……よろしくお願いします……」


 ユーグとは違って軽い挨拶をするハンスに2人はおずおずと返事をした。


「ハンス隊長!初対面でしょうからもう少し丁寧に挨拶出来ないんですか?お二人が戸惑っているじゃないですか!」


 ジョンは尻込みもせずハンスを窘める。ハンスは嫌そうな顔をしながら「はいはい」と適当に相槌を打って誤魔化した。


「しかし驚いたな。昨日兄貴から盗賊を討伐出来たって聞いていたがその協力者がこの2人だったとはな……」


「「え!?そうなんですか?」」


 そこまでの詳細な報告はまだテシスの町には届いていなかったのでジョンを始め他の警備兵達も驚いた。先程案内してくれた警備兵に至っては驚いた表情で固まったままだった。


「しかもこの2人はな。俺の恩人の子供達なんだぞ!」


「え!?隊長の恩人と言うとアーリルの!?」


 その話は警備隊員なら全員が知っているらしく先程よりも皆が驚いた。


「よし、今日はとにかくめでたい日だ!!そこのお前、今からいつもの店を予約してこい!全員連れて行くから勿論貸し切りだ!!勿論2人も出席してくれるよな?」


((え、ええ~!?))


 急な展開についていけない2人だったが警備隊では割と日常的なのか、命じられた警備兵もあっさり


「はっ!それではすぐに押さえてきます!」


 と返事をして兵舎を飛び出して行く。






「ハンス隊長!無事酒場を押さえました!」


「よし!ご苦労!」


 飛び出した警備兵は数分で帰ってくるとハンスに報告する。予約出来た事を確認したハンスは満足そうに頷く。


「まだ夕方だが……もういいだろう!よし、お前ら!今から店に行くぞ!今日の仕事はもう放っておけ!」


「え?大丈夫なんですか!?」


 ハンスの発言にヴィンスは耳を疑い思わず声に出してしまった。それくらい真面目な兄のユーグとは対照的過ぎたのだ。


「いいからいいから。ほら、ヴィンス君にローザちゃんも行った行った!」


「……本当にいいのかしら……?」


 ローザも戸惑っていたがハンスの押しの強さに負けて皆と一緒に兵舎を出て行った。






「お前ら!昨日セシスの警備隊が憎き盗賊団を討伐したのは知っていると思うが……その中で大活躍したのがこの2人だ!!」


「「おお~!!」」


 予約した酒場に警備隊員が全員集まると乾杯の挨拶の前にハンスが演説をするかのようにヴィンスとローザを紹介する。まだ誰も飲んでいないのに隊員達は早くも盛り上がっていた。一方ヴィンスとローザはいきなり持ち上げられて少々困惑していた。


「そしてこの2人はなんと……俺の恩人でもあるラルフ殿の息子さんとアルフレッド殿の娘さんでもある!!」


「「おお~!!」」


 日頃から部下に言い聞かせていた事もあって警備隊ではラルフとアルフレッドは有名人らしい。この辺りだけは兄弟似ているなとヴィンスは思った。


「と言う事で2人とは十分に親睦を深めてくれ!以上、乾杯!!」


「「乾杯~!!」」


 よく分からない挨拶が乾杯の音頭となって宴会は始まった。

 ヴィンス達にとって2日連続となる飲み会ではあるが、きっとハンスなりにヴィンス達を歓迎してくれているのだろうと思い2人も飲み始める。


「ローザ、今日はくれぐれも……」


「もう!大丈夫よ!」


 ヴィンスがローザに注意を促すと彼女は若干うんざりした様子で答える。


(お酒の飲み過ぎではなくてあんまり調子に乗って喋り過ぎないでって意味なんだけど……)


 果たしてヴィンスは自身の不安が的中しないかと今から冷や冷やしていた。



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