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アーリル王国の騎士  作者: siryu
砂漠越えの章
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第41話 ヴィンス熱演?

 ヴィンス達が冒険者ギルドを出ると町では臨時の祭りを始めようと少しずつ準備が進んでいた。複数の飲食店では店先に屋台の用意をしたり外にテーブルや椅子を用意したりしていた。


「盗賊団を討伐出来た事は素直に嬉しいけど……被害女性達の事を考えると複雑ね……」


 ローザの呟きを聞いたヴィンスも正直同じ気持であった。

 もしこれを父のラルフや国王のレオンの立場であればどうしているのだろうか、どう振舞っているのだろうか、そんな事を何度も考えていた。

 

 結局ヴィンスの中で結論は出ないまま警備隊の兵舎に顔を出す。


「ヴィンス殿にローザ殿、お帰りなさい。冒険者ギルドの方は終わりましたか?」


「ユーグさん、ただいま戻りました。皆さんのご配慮のおかげで稼がせて頂きましたが……本当に良かったんですか?」


 笑顔で出迎えてくれたユーグに対してヴィンスは申し訳なさそうに尋ねる。


「ええ、勿論ですよ。ヴィンス殿達に協力して貰えるまで盗賊団の尻尾を掴めなかったのがたった数日で上手くいったのですから」


「そうですか……では有難く頂戴します」


「頂戴しますわ」


 ヴィンスとローザはユーグに頭を下げる。


「いえいえ……それで今夜なのですが……あまり浮かれ過ぎる訳にはいきませんが、ささやかな祝勝会を開こうと思いまして……もし宜しければお二人も参加して貰えると盛り上がるのですが如何でしょうか?」


 ユーグはヴィンス達に気を遣ってくれたのか少し慎重気味に誘う。恐らく2人が今回の件で今でも気にしている事を察してくれたのであろう。

 そんなヴィンスもそろそろ前を向かなければと考えている。そのためにも丁度いい誘いなのかもしれなかった。


「ローザ、僕は参加しようと思っているんだけどどうかな?」


「そうね……ヴィンスが参加するなら私も参加するわ」


 ヴィンスの顔を見たローザは彼が何となくではなく積極的に参加したそうな表情をしている事に気付いて割とあっさり賛同する。


「ありがとう、ローザ。ユーグさん、それでは私達も参加させて下さい!」


 参加を表明した2人にユーグも一安心する。


「分かりました!酒場を押さえていますので今から2時間後に来て下さい。場所は先日ヴィンス殿がジェフ達と会った酒場ですので」


「分かりました。あ、良かったらこれを費用の足しにしてください」


 ヴィンスはそう言うと金貨を2枚ユーグに渡す。


「ヴィンス殿、主賓からこんなにも戴く訳には流石に……」


「いえ、お気になさらず。それに冒険者ギルドの依頼達成のおかげで余裕もありますし」


「そうですか……それではありがたく使わせて頂きます」


 ヴィンスとしては先程冒険者ギルドで貰った報酬が自分達だけの物ではないと考えていたので少しでも警備隊員に還元出来るようにしたかった。

 そして遠慮していたユーグもヴィンスの説明を聞くとそれ以上は固辞せず使わせて貰う事にしたのだった。


 ヴィンス達は兵舎を出ると町のアイテムショップに足を運ぼうとする。

 以前から抱えていた課題を解消するためだった。


「ヴィンス、アイテムショップに行くって事は遂にアレ(・・)を買うのね?」


「うん、やっとアレ(・・)を買えそうだからね」


 2人は少しだけワクワクしながら思わず早歩きで進んでいく。





「遂に買うのね……2つ目のマジックポーチ(・・・・・・・)を!」


「もう一つこれがあれば幅が広がるからね」


 2人のお目当てはマジックポーチだった。

 今まで一番ランクの低いポーチを1つしか持っていなかったので旅をするだけならまだどうにかなったのだが、魔物を倒した際に容量が一杯で素材を回収出来ずに泣く泣く諦めていた事も何度かあったのだ。

 今回の報酬でまとまったお金を手に入れる事が出来たのでようやく購入出来る事になったのだ。


 しかしここでヴィンスは悩む事になる。それは——


「どうしたの、ヴィンス?もしかして今更買わないとか言う訳じゃないわよね?」


「いや、悩んでいるのはそこじゃないんだ……」


 ヴィンスの視線は2つのマジックポーチに注がれている。


 マジックポーチ(ランク1):1,300,000C

 マジックポーチ(ランク2):3,500,000C


「もしかしてこの2つのどちらにしようか悩んでいるって事?」


「うん。当初はランク1を買って残りのお金をローザの装備に回そうと思っていたんだけど……」


「それなら私の装備を後回しにして貰って構わないわ。ランク2にしましょうよ」


 ヴィンスは割と真剣に悩んでいたのだがローザはあっさりとランク2を買おうと勧める。


「いいの?」


「ええ。それにランク2の方が容量も多いでしょうからその分素材も回収出来るようになってお金も貯めやすくなるんでしょ?」


 ローザの言う通りで先に容量の多いマジックポーチを買ってしまった方がお金を稼ぐ効率は格段に上がるのだ。

 ただ、今のところはローザが魔物から大した攻撃を受けていないから問題が表面化していないだけで彼女の装備、特に防具は心許ないともヴィンスは思っていたので悩んでいたのだが結局——


「よし!じゃあランク2にしよう」


 ヴィンスはそう言ってランク2のマジックポーチを購入しようとする。


「すいません。こっちのマジックポーチを下さい!」


「はいよ!ん?もしかして……あんた達は今噂されている盗賊団をやっつけた2人組かい?」


「2人組……噂かどうか分からないですけど……まあ一応そう……なのかな?」


 店番をしていた中年の女性がヴィンス達を確認すると顔を輝かせてハイテンションになってとにかく喋り出す。


「やっぱり!?も~今町ではあんた達の事が噂になっているのよ~何でもその2人は若くて男性の方は大きくて女性の方は美人だって~それなのに2人に掛かれば砂漠の魔物50匹相手にしても一瞬で全滅させるとか——」


 冒険者ギルドで冒険者達が話をした内容に尾ひれがついた噂となって町にも広がっていたのだ。ギルド内の話は勿論の事、こんな噂が広がっていると知らなかったヴィンス達は困惑した。


「あの……そんなに凄くないのであまり言い広めないで欲しいのですが……」


(……美人……うふふ)


 ヴィンスは一生懸命噂を鎮めようと説得する一方、ローザは「美人」と言う言葉にとても気をよくし表情を緩めないよう人知れず自分と戦っていた。


「まぁまぁそう謙遜しないで~あ、折角町の英雄がウチで買ってくれるんだから少しはオマケしないとね!う~ん、じゃあピッタリ3,000,000Cでいいわよ」


 店主とは思えなさそうな店番の女性は500,000Cも安くしてくれると言ってくれる。

 嬉しい話ではあるが本当にいいのか不安にもなるヴィンスであるが——


「いいのよ~ウチの人にはちゃんと私から言っておくから~英雄に定価で売るなんてセシス町民の名折れよ~これで私も町で自慢出来るわ!英雄に半額(・・)で売ったって!!」


 2割弱の値引きを半額引きで売ったと盛って噂を広げようとする女性に若干引きながら2人はアイテムショップを後にした。

 そして2人で話し合った結果、今後はランク1のポーチをローザが、ランク2のポーチをヴィンスが所有する事に決めた。

 そして想定以上にアイテムショップで時間を使ってしまった2人はそのまま予定の酒場へ行く事にした。

 

 町では既に盛り上がっている人達も多く、飲食店でも大賑わいを見せている。

 臨時で出ている屋台にはかなりの行列が出来ていてその中には子供達も楽しそうに騒いでいた。

 また、店先にテーブルを出しているところは早くも客で埋まっており、エールを片手にこちらも大盛り上がりしていた。


「私達が初めて来た時も割と賑やかだったけど今日は特に賑やかね」


「そうだね。盗賊団を討伐出来た事で町の人達がここまで喜んでくれているなら……僕達がやった事も決して無駄じゃなかったって事なのかな」


「うん……そうよ、きっとそうよ!」


 ヴィンス達は作戦終了後から町へ帰還した後も決して達成感などは感じていなかった。

 しかし彼らは町全体が喜んでいる様な雰囲気を感じ取る事で初めて自分達の成し遂げた事が少しだけ誇らしく思える様になったのだった。






「お客様すいません、今日は貸し切りとなっていまして……」


「あ、えっと……警備隊の方達に誘われている者なのですが……」


「あ!警備隊の方達ですね?こちらへどうぞ~!」


 ヴィンス達が酒場に入ると女性店員に断られそうになるが、警備隊の誘いと言うと案内してくれる。ヴィンス達が店の先に進むとテーブルには既にエールと料理が並べられており、警備隊員も既に揃っていたようで2人の姿を確認すると盛り上がる。


「ヴィンス殿とローザ殿がいらっしゃったぞ!!」


 隊員の1人が声を出すと周りも主賓が来たかの如く拍手で迎え出した。「待ちに待った」と言わんばかりの待遇に2人は多少驚く。


「お待たせしちゃいましたか?遅れて申し訳ありません」


「いえいえ、まだお約束した時間には早いくらいなのですが……皆気が逸ってしまいましてね、30分くらい前には全員揃ってしまいました。こちらが少し恥ずかしいくらいです」


 ヴィンスはてっきり自分達が遅れたと思い隊長のユーグに謝罪すると彼は苦笑いしながら説明する。


「ヴィンス殿とローザ殿、どうぞこちらへ」


 副隊長のジェフは用意していた2人の席へ案内してくれる。


「それでは始めましょうか……皆、以前から町の懸案事項であった盗賊団を本日討伐する事が出来た!これも皆の頑張りとこのお二人のおかげである!」


 2人が席について準備が完了したと判断したユーグは乾杯の音頭を取り出した。皆真剣な顔つきではあるが、握っているエールのジョッキが小刻みに揺れている。皆無言で聞いているが「挨拶は短くしろ!」とユーグを急かしている様に見えなくもない。

 

 ユーグもこの辺りの気持ちは分かっているのか適当な所で切り上げる。


「——それでは作戦が無事終了した事を祝って、乾杯!!」


「「乾杯!!」」


 皆がジョッキを高々と振り上げて声を出すとそれぞれが近くの者とジョッキ当てて気持ちよく飲み出した。

 

 ヴィンスもローザと乾杯して飲もうとするが


「ローザ、今日はくれぐれもゆっくりね」


 先日ローザがジェフ達に絡んでしまった事を警戒してヴィンスは彼女に注意を促す。


「大丈夫よ、私だって学習するんだから。ヴィンスは心配性ね」


 ローザも笑いながら頷いてゆっくり飲み出した——





(……どうしてこうなった……?)

 

 祝勝会が始まって1時間程経過した。

 ヴィンスはゆっくりエールを飲みながら自問自答していた。


 始まった時はヴィンスの横にいたローザであったが、今は他の警備隊員のテーブルに移動しながら楽しそうに飲んでいる。楽しく飲んでいるだけなら勿論構わないのだが——


「いや~、あの時はローザ殿の魔法が無ければあの手強い盗賊を倒す事は出来なかったかもしれないよな?」

「だな!ジェフ副隊長でも苦戦するくらいだったからな!」

「そんなに凄かったのか?俺もローザ殿の魔法見てみたかったな!」


「え~?そんな事ないですよ~、あはははは!」


 どうやら作戦の時に非常口側を押さえていた警備隊員達のテーブルで飲んでいるようだ。

 ローザは普段ヴィンスと行動を共にしているので目立った活躍の場がなかったが、この時は相対的に活躍出来たみたいで隊員から絶賛されていた。

 そしてお酒が入ったローザは持ち上げられて悪い気分な訳はなく、上機嫌で飲み続けていた。


(ローザ大丈夫かな……折角気分が良さそうだからあまり邪魔はしたくないけど……)


 そんな事を考えているとヴィンスの隣にユーグが来る。


「ははは、ローザ殿が心配ですか?」


「え、そうですね……先日ジェフさん達に御迷惑をお掛けした時みたいにならなければとは思います……」


「それは大丈夫でしょう。私もその時の話を聞きましたが、いきなり絡んで来たからビックリはしたとは言っていましたが……今回はそう言う訳でもないですからね」


 先日の酒場での出来事はしっかりユーグの耳に入っていた様でヴィンスは少し恥ずかしかった。


「ところでジェフから聞いたのですが、ヴィンス殿達は『プホール王国』を目指しているとか?不躾ですがどのような理由で?」


 ジェフは父親のジムからの手紙をユーグにも見せていたのでこの様な質問をしてきた。


(そう言えばジムさんには何で『プホール王国』に行くのかの説明をしていなかったな……)


 そう思い出したヴィンスはユーグにそもそもの旅の目的を説明した。


「——何と!まさかアルフレッド殿が行方不明だったとは……御無事である事を願うのみですが……」


 アルフレッドが行方不明だった事を知らなかったユーグは酔いが完全に醒め、真剣に安否を気にしていた。


「5年前にアーリルを出発されたのですか……私がここに左遷されたのは2年前ですから……当時ならまだアプロンの城下町に勤務していましたが、アルフレッド殿が訪れていた事は聞いていませんでしたね」


 恐らくアルフレッドがアプロンの城下町に滞在したのは1日だろうと推測していた。

 と言うのも、ヴィンスも彼の父親であるラルフもアプロンの城下町にはあまりいい印象を持っておらず、恐らくアルフレッドも同じだろうと思っているからだ。滞在が短ければそれだけバレにくいと言う事なのだろう。


「では『プホール王国』に行くのは目的ではなくあくまで通過点だと言う事ですね?」


「そうですね。アルフレッドさんから連絡が途絶えたのはもっと先なので」


「そうですか……ヴィンス殿はいつここを出発されるのですか?」


「それですが……明日にはここを出ようかと」


「明日ですか!?それは名残惜しいですね……」


 明日にはヴィンス達がセシスの町を出ると聞いたユーグは考え込んで何かを思いつく。


「分かりました。御厄介をお掛けして申し訳ないのですが明日出発前に手紙をお願いしても宜しいでしょうか?」


「手紙ですか?」


「ええ、明日はテシスの町に行かれると思いますので私の弟に手紙を渡して頂ければと……」


「はぁ、まぁ構いませんが……」


 勿論セシスの町を経由するので手紙を渡すくらい訳はなかった。特にこの町の滞在中はユーグに色々お世話にもなっていたので猶更である。


「ありがとうございます。それでは明日出発前にお手数ですが兵舎に寄って頂ければ——」


 ユーグが話を中断したのでヴィンスは何事かと彼の目線の先を追うと……祝勝会に参加していた警備隊員全員がヴィンスの前に立っていた。何故か全員ワクワクした表情をしている。


「あ、あの……皆さん何か?」


 ヴィンスが恐る恐る尋ねると隊員の1人が切り出した。


「ヴィンス殿!話は聞きました!是非国王(ケダモノ)に啖呵を切ったシーンをここで再現してください!!」


「……え?」


 国王(ケダモノ)?啖呵?何の話だとヴィンスは頭の中で整理すると先日のある出来事を思い出す。


「あ!まさか……」


 ヴィンスは速攻でローザとジェフを探すと2人が同じ場所にいるのを発見する。彼の視線に気づいた2人は舌を出して笑っていた。

 困り果てたヴィンスはユーグに助けを求めようと彼の方を向くが——


「そうだそうだ!これは私も是非見たいですね。何せ我らは全員国王(ケダモノ)から左遷された身ですのでこんな面白い話を逃す手はありませんね」


「そ、そんな……」


 誰も助けてくれないと悟ったヴィンスはその後も抵抗し続けるが結局陥落し嫌々ながら再現する羽目になった。


 お酒も入っていた事もあって途中からヴィンスも満更ではなくなり、再現演技にも力が入る。

 そして最後の台詞を言い放った時、店の中では最高の盛り上がりを見せた。


 余談であるがこの様子を酒場の店主も密かに見ていたと言う。

 そしてその店主曰く——


「あれを毎夜この酒場で上演してくれればウチの店の売り上げが伸びる事は間違いないのにな……」


※マジックポーチ(ランク2)…国民的RPGに出てくる「ふ〇ろ」と同じ役目を果たす物。アイテムにはランクがあり、マジックポーチの場合はランクが上がる毎に最大容量(重さ)も増えていく。ランク1だと容量は100kgだがランク2になると300kgになる。

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