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アーリル王国の騎士  作者: siryu
砂漠越えの章
37/61

第37話 盗賊団討伐作戦 前編

 ヴィンス達が警備兵の兵舎を訪れてから2日が経った。

 今日は盗賊団を討伐するための作戦決行日である。


「おはよう、ローザ。昨日は眠れたかい?」


「……ええ」


 ヴィンスはローザに朝の挨拶をするが流石に彼女の表情は重かった。目元も少し黒く昨夜はあまり寝られなかったのだろうと容易に想像が出来た。

 それでもローザは自分から作戦に参加すると言った以上は気丈に振舞う。例えヴィンスに嘘だとバレようと。


「そうか、ならよかった」


 そしてヴィンスもローザの想いを無駄にしないよう追及する事もしなかった。


 朝食を済ませた2人は兵舎に向かう。隊長のユーグを始めとした警備隊と最後の作戦確認のためであった。


「おはようございます。ヴィンス殿にローザ殿」


「おはようございます。ユーグさん」


「……おはようございますわ」


 ユーグもローザが気負い過ぎている事は気付いたが、彼女の事はヴィンスに任せる事にしてその事には触れなかった。


「それでは最終確認です。今から2時間程前から両町で通行の制限を掛けました。そしてお二人にはこれからレンタルした『コドラン』に騎乗して砂漠を渡って貰います。『コドラン』であれば3時間程でテシスの町に辿り着けるでしょうが、その間に盗賊団の襲撃を受ければ作戦は成功です。襲撃を受けなければ本日は諦めテシスの町から伝書ホークでこちらに連絡を入れてください。そして明日はテシスの町から作戦の再実施となります。宜しいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


「……ええ、大丈夫ですわ」


 ユーグの説明確認に頷く2人。

 

 ちなみに『コドラン』とは砂漠でも活発に動ける2足歩行のトカゲの様な地竜の魔物『コドラ』を調教して飼い慣らせたものである。砂漠を越える人間はまずレンタルするのが常識となっていた。


 ヴィンス達は作戦を立てる際に『コドラン』を使用するかどうかで散々協議した。盗賊団側から見れば乗り物がない方が襲いやすいと言う意見と、通常は『コドラン』を使って砂漠を越えるのに使わなければ逆に怪しまれるだろうと言う意見の2つだったが、結局後者を選んだのだった。


「それでは我々は町に待機しております……御武運を!!」


 ユーグが代表で言うと警備隊がヴィンス達に向かって敬礼する。


「はい!それでは行ってきます!」


「行ってきます」


 ヴィンスも敬礼を返し2人は出発した。





 レンタルしたコドランにそれぞれ騎乗した2人はゆっくり進んでいく。

 ヴィンスは普段装備している鎧等を一切装備せずに帯剣しているだけでローザも杖はマジックポーチの中に仕舞っていた。


「ローザ、そんなに緊張しなくていいよ」


「……随分簡単に言ってくれるのね……」


「ローザは今から気負い過ぎなんだよ。相手が人間である以上、この前砂漠で魔物と戦闘した様に砂の中からいきなり現れる事なんて絶対にないんだから。これだけは確実に言えるね」


「……そう言われるとそうね……」


「でしょ?だから人間の姿が見えるまでは緊張なんかする必要はないんだよ」


 ローザは町を出てから更に緊張し続けていたが、ヴィンスの言葉を聞くと幾らか緊張が和らいだ。それはヴィンスの説明に説得力があった事もあるが、彼が普段通りに振舞っている方が大きかったかもしれない。


 そして実はローザよりもヴィンスの方が緊張していた。もし自分の判断が誤ればローザを危険に晒すことになるかと思うと気が気ではなかった。が、それでも彼は彼女のためにもそんな様子をおくびにも見せる訳にはいかなかったのだ。



——————————



「お、カモが引っ掛かったぞ。これは2人だな」


 砂漠の真ん中辺りに位置する地点で岩陰に隠れて獲物を狙っている集団がいた。

 全員が口元にバンダナを巻いて人相を分かりにくくしている。

 そしてその集団の中でスキル『索敵』を持った人間が仲間に伝えたのだ。


「でかした、ザック!どっちの方角からだ?」


「ああ、セシスの方角からだな。テシスからは来ていないようだし、こっちから他に来そうになければこいつらを狙うぞ」


 ザックと呼ばれた斥候は仲間達に情報を伝える。

 獲物を見つけた集団はバンダナで口元こそ隠しているがニヤニヤしていた。


「獲物は2人なんだよな?女がいるといいな。いひひ」


「2人だけしかいないのに女がいるかぁ?」


「もう拠点にいる女どもは飽きたからな~。次の女が欲しいぜ」


「拠点に連れて行っちまえばリーダーに取られちまうから、先にここでやっちまおうぜ」


 集団が好き勝手に言っていると、双眼鏡を構えていた男から報告が入る。


「お、見えたぞ!あれは……1人は男だが……もう1人は女だぞ!しかも若そうだ!」


「マジか!?大当たりじゃねえか?」


「よし、男の方は斬り捨てて女は戴きだな」


「じゃあ今日は「力尽きた旅人」のパターンで行くか」


 そう言った男は集団が隠れている岩陰から出ていくと、ヴィンス達が通るであろう場所でわざと横になる。ヴィンス達を油断させて彼を介護しようと近づいた時に襲う算段であったのだ。


 しかし、彼らはこの時まだ気付いてはいなかった。

 この襲撃計画が全て台無しになると言う事を。


 何故なら盗賊団の斥候であるザックからは遅れたものの、この時点では既にヴィンスの『索敵』にも盗賊団は引っ掛かっており、彼の肉眼にはわざわざ1人の男が砂漠で横になった瞬間が見えていたからだ。



——————————



「——なるほど、こういう手口で油断させるつもりか……」


「ヴィンス?さっきは集団が『索敵』に引っ掛かったって言ったけど今度は何があったの?」


 少し前にヴィンスの『索敵』に集団が引っ掛かった。現在砂漠の両町では通行者を制限しているので十中八九その集団が盗賊団の一味である事は間違いなかった。

そしてヴィンスの呟きが気になったローザは彼に質問した。


「もう相手に見えているかもしれないから指を指せないけど……この先に大き目の岩があるのはローザも見える?」


 ヴィンスはそう言いながら自身の目線でローザに教える。


「う~ん、薄っすら見えるかどうかってところね。それが何かしたの?」


「そこから人が現れてわざわざ横に倒れたのさ」


「ここからだと私じゃ全然見えないわ……相変わらずヴィンスは視力がいいのね。で、それって……どういう事?仲間割れでもしたのかしら?」


 ローザは割と真面目に言ったつもりだったがヴィンスは思わず笑ってしまった。


「ははは、違うよローザ。奴らは僕らを欺くために「力尽きた旅人」を演じているんだよ。多分僕達が通ったら「水が尽きて……」とでも言うんじゃないかな?」


「ふうん……それで私達がその人に近づいたら不意打ちで岩陰から集団で襲ってくるって事かしら?」


 ヴィンスがここまで説明するとローザも盗賊団の狙いが理解出来た様だった。


「そんなところだろうね。さて、ここで絶対にやっておかなければいけない事のおさらいだ」


「えっと……『索敵』を持った斥候を……殺すのね」


「その通り。ここで斥候を逃すと作戦の「第2段階」が非常に難しくなるからね。恐らくだけど盗賊団に『索敵』持ちが複数いるとは考えにくい。まともな『索敵』持ちなら冒険者になった方が十分に稼げるはずだからね」


 ローザは人を殺した事が無かったので「殺す」と言う単語を言うだけでも随分憚られた。

 それに対しヴィンスはあっさり肯定した後に作戦と盗賊団への考察を述べたので思わずローザは尋ねる。


「……ねえ、ヴィンスは人を殺したことがあるの?」


「幸か不幸かまだないよ。アーリル王国が平和なおかげでね」


「そう……人を殺そうとしているのに戸惑いみたいなものはないの?」


「ないね。ラウルさんの件ではそうならなくて良かったと心から思えるけど……今回に関しては何の迷いもないよ」


 ヴィンスはそう言い切った後、逆にローザに問う。


「ローザはどう?ローザにそこまで無理強いをするつもりはないよ。敵の位置が分かった以上、油断さえしなければ多分僕1人でも何とかなるだろうし」


 ローザはヴィンスの好意に甘えようかとも一瞬だけ思ったが直ぐに自身の甘さを捨てて決断した。


「いえ……私もやるわ!」


「そう、じゃあ「例の作戦」の方はローザに任せようと思うけどいいかな?すごく重要だけど」


「ええ、任せて貰っていいわ」


「よし。じゃあもうすぐだから気を抜かないでね」


「勿論よ。もう私でも見えているし」


 そう言ったローザの視界には既に「力尽きた旅人」が映っていた。





「す、すみません。そこの旅の御方……お助け下さい……」


「ど、どうされましたか?」


 砂漠で倒れている男から助けを求められたヴィンスはわざと慌てた声色で声を掛けた。


「今朝町を出発したのですが手持ちの水が底を尽きて……申し訳ありませんが水を分けて頂けませんか?」


「(見え透いた嘘を……)そうでしたか……それは大変でしたね。ちょっと待ってください」


 ヴィンスはローザに「油断するな」と目配せし、ローザも頷く。

 ヴィンスは『コドラン』から降りてマジックポーチから水を取り出すと倒れている男に近づいていく。


「これは申し訳……ありませんなあ!!」


 倒れていた男がそう吠えると隠し持っていた短刀でヴィンスの脚を斬りつけようとする。が、ヴィンスは簡単に躱した。


「な、何!?」


「ふん!」


「ぐぎゃっ!?」


 まさか短刀を躱されるとは思っていなかった男が慌てだすと同時に、ヴィンスは中腰だった男の顔面に膝蹴りをぶち込む。ヴィンスの重い膝蹴りを受けた男の鼻と歯が何本も折れ顔面は真っ赤となった。


(な、何だと!?)


 ローザを手籠めにする事ばかりを考えていた盗賊団は想定外の出来事にパニックとなった。ローザでも簡単に分かるくらい岩陰の方から気配を感じたくらいだった。


「ローザ!」


「ええ!」


 ヴィンスが合図するとローザは風魔法『ウインドカッター』を岩陰の下に向かって放つ。大量の砂埃が舞って視界が悪くなる中、1人だけ躊躇なくこの場を脱出しようとする男がいた。斥候のザックであった。


(な、何だこいつらは!?さては狙われていたのは俺達の方か!?)


 圧倒的不利を悟ったザックは拠点に逃げ帰って仲間に伝えるため、自分だけでも脱出しようと岩陰に隠していた『コドラン』の背中に飛び乗った。


(あいつが斥候だな?絶対に逃がさない!!)


 ヴィンスは鋼鉄の剣を鞘から抜くとザックに向かって剣技『真空刃』を放つ。

 ヴィンスから放たれた飛ぶ斬撃はザックと自身が乗っていた『コドラン』の首と胴体を同時に斬り離した。胴体のみとなった2体は2,3歩ふらふら歩いた後、横に崩れ落ちた。


「ひ、ひぃ!!ザ、ザックが()られたぞ!?」


「ちょっと待て!?何であの距離からザックの首が……?」


「ば、化け物だ!逃げろ!!」


 ザックを殺された事で更に動揺が広がった盗賊団は残った『コドラン』に飛び乗って逃げ帰ろうとする。

 そしてこの瞬間こそがヴィンスがローザに任せた「例の作戦」を行うタイミングでもあった。


「えいっ!」


 ローザは逃げ出した盗賊団に向かって風魔法『エアーブラスト』を弱めに放った。


「ぐわっ!何だ!?」


「い、痛ぇ!!」


「ちきしょう!!いいからこのまま逃げるぞ!!」


 ローザの放った『エアーブラスト』により盗賊団に死者こそ出なかったものの彼らは多数の切傷を負って逃げる羽目となった。


 結局この戦闘での死者はザックと呼ばれていた斥候1人だけである。


 ローザは逃げ出した盗賊団を見つめていると後ろからヴィンスが彼女の肩を叩いた。


「お疲れ、ローザ。『エアーブラスト』は丁度良い加減だったよ」


「……ありがとうヴィンス。これで作戦の第1段階は成功と言っていいのかしら?」


「うん。ここからは時間との勝負だ。すぐにセシスの町に戻るよ!」


「ええ、分かっているわ!」


 そう言うと2人は『コドラン』の背に乗って急いでセシスの町に戻った。


※『コドラン』…トカゲの様な2足歩行の小型な地竜の魔物『コドラ』を調教して飼い慣らせたもの。砂漠の両町でレンタル出来る。砂漠を越える際はほとんどの者が利用する。コドランを全力で走らせれば砂漠で魔物に遭遇しても簡単に引き離す事が出来る。

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