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アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
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第30話 孤児院との別れ

 孤児院でラウルとエステルが感動の再会を果たしていた頃、ヴィンスとローザはコッソリ抜け出していた。

 所謂部外者の2人が孤児院に居続けるのは水を差すと判断したためだ。

 

 宿屋までの道のりを歩いているとローザから


「あそこでさっと抜ける私達って凄くない?ね?ね?」


 ローザはヴィンスに褒めて貰いたいのか、自分達の行動を自画自賛してヴィンスに問いかけた。


「はいはい、凄い凄い」


「むう……もう少し私の顔を見て言ってよ!」


 少し頬を膨らしながらローザは不満を口にし、それを見たヴィンスは笑いながらローザの頭を撫でてあげた。


 もっともこの2人が孤児院を出たのは何も空気を読んだだけではなかった。

 宿屋に着いた2人はそれぞれ部屋に入ると、数分も持たず眠りに落ちていた。

 若い2人とは言え、約1日半動きっぱなしは流石に体に堪えたのだった。





 コンコン


「おはよう、ローザ。そろそろ起きたかい?」


 体力に自信のあるヴィンスは次の日の朝しっかり目が覚めたが、ローザはそうもいかなかった。何度も部屋をノックしに行くが、その都度「もう少し寝させて……」と弱々しい声が帰ってくるだけだった。

 しかし既にお昼に差し掛かっているのでこれ以上寝させるつもりもヴィンスには無かった。もっと強くノックしようとすると宿の廊下から見知った顔が見えてきた。


「良かった、まだこちらにいらっしゃいましたね。こんにちは、ヴィンスさん」


「あ、レーラさん。こんにちは」


「え?レーラさん?ちょっと待って!」


 突如現れたレーラに挨拶をしたヴィンスだったが、その声が聞こえたのか部屋の中から慌てたローザの声が聞こえてくる。バタバタとした音が少々聞こえてきたがその音が鳴りやむと勢いよく部屋の扉が開きローザが姿を現した。


「レーラさん、こんにちは!」


「こ、こんにちは、ローザさん……」


 笑顔で挨拶をするローザだったが寝癖が完全には治っておらず、それに気付いていたレーラも少々反応に困った様子で挨拶を返した。


「それでレーラさん、今日はどのようなご用件で?」


「あ、そうでした!エステル様が御2人に是非御礼を言いたいとの事でしたので、もし御都合がつけば孤児院に寄って頂きたいのですが如何でしょうか?」


「はい!はい!是非行きます!」


 レーラからの誘いに真っ先に返事をしたのはヴィンスではなくローザであった。そんな彼女をヴィンスも苦笑いして見ながら


「では後程伺います」


 とレーラに返事をする。

 それを聞いたレーラも満足そうな表情で


「それではお待ちしております」


 と言って彼女は宿を後にしていった。


 ヴィンスはローザの方を振り向くと


「じゃあ僕達は取り敢えず昼食を食べようか」


「そうね……昨日は夕食も食べずにそのまま寝ちゃったから流石にお腹が空いたわ……」


 ヴィンスは目が覚めてから軽く朝食を食べていたが、まだ寝起きに近いとは言え長時間食事をしていなかったローザのお腹は限界だったようだ。


「ただ食事に行く前に……寝癖はしっかり直してね」


「え?……もっと早く言ってよ!!」


 顔を赤くしたローザの声が宿屋内に響き渡った。





「お待ちしていたわ、ヴィンスさんにローザさん。お掛けになって」


「「はい!それでは失礼します」」


 昼食を済ませた2人はそのまま孤児院に向かった。

 孤児院の大部屋では子供達の相手をしているレーラとラウルの姿が見えたので軽く会釈をすると、レーラは笑顔で返してくれたがラウルは少しムスッとした表情でわざと視線を外してきた。それを見た2人はクスクス笑いながらエステルの部屋に向かったのだった。


「この度は何とお礼を言っていいのか……本当にありがとうございました」


 エステルはそう言うと深々と頭を下げた。


「いえ、僕達は何も……ねえ、ローザ?」


「そうですよ、エステルさん。私達はラウルさんと少しだけ(・・・・)お話をしただけなんですから」


 ローザの言う事にある意味間違いは無かった。言葉を交わしたと言うより戦闘の方が長かったからだが……


「ふふっ、ではそういう事にしておきましょうか」


 昨晩ラウルから詳細を無理やり聞き出したエステルは全部知っていたのだが敢えてそれを言う事はなかった。


「2人はこれから城下町に戻るのかしら?」


「そうですね、正直気は進みませんが一応報告はしておかないと不味いので……勿論ラウルさんの事は一切触れないので安心してください」


「本来ならこんな事言えた立場ではないのだけれど、そうして貰えると助かるわ」


「大丈夫です!任せてください!」


 ローザは胸を張って答える。もっともエーランドとの謁見でのやりとりは全部ヴィンスに任せるつもりなので彼女が言えた立場でないのだが。


「それと……出来ればこれも何とか出来ないかしら?」


 エステルはそう言うと隠し金庫から例の白金貨70枚を取り出す。


「私はこれを使う気は無いし、かといってここに置きっぱなしも流石にね……お金じゃなくて現物があればそのまま返却で済むんでしょうけど、何とか出来ないかしら?」


 エステルは困り顔でヴィンス達に相談する。

 ヴィンスは手を口に当てて考え込む。この場では特に思いつかなかったが


「そうですね……何とかしましょう!お預かりしていいですか?」


「本当!?何度も迷惑を掛けて本当にごめんなさいね」


「いえ、大丈夫です!私達(・・)が何とかしますから!」


 ローザが「私達」と言ったがヴィンスは心の中では「(どうせ僕が考えるんだけど……)」と諦めて白金貨を預かった。


「それと話は変わるのだけれど、貴方達は修行と並行してローザさんのお父さんを探すための旅をしているって聞いたのだけど本当かしら?」


「はい、そうですが」


「そう……良かったらこれを預かってくれないかしら?」


 そう言ったエステルは再度隠し金庫に向かうと一冊の『魔導書』を持ってきた。


「これは……魔導書じゃないですか……それも聖属性だ!」


「え!?ほ、本当ね!エステルさん、これは!?」


 聖属性の魔導書を見た2人は思わず興奮し、ローザはエステルに問いかけた。


「これはあの人の遺品でね……売却すれば凄い金額になるんでしょうけど……それは出来なかったわ。それでね、御礼と言うほどではないけど貴方達に預けたいのよ。ラウルには許可を取っているわ」


「しかし、このような高価でレアな物は流石に……」


 ヴィンスは正直喉から手が出るほど欲しい物ではあったが流石に受け取るのを躊躇した。


「いいのよ、ヴィンスさん。私達は誰も覚えられなかったし。それに有効活用して貰えた方があの人もきっと喜ぶわ」


「エステルさん……」


 エステルの好意と想いにローザは感動していた。


「……分かりました。それでは大切にお預かりします!」


「ええ、貴方達ならきっと使いこなせるわ」


 ヴィンスはエステルから魔導書を預かるとマジックポーチに入れた。


「それでは僕達はそろそろ失礼します。今から城下町に向かえば明日中には着くと思いますので」


「そう、名残惜しいけど仕方がないわね。無事に目的を達成出来る事を願っているわ」


「はい!エステルさんもどうかお元気で!」


 2人は深々とお辞儀をしてエステルの部屋を退出した。




「あ、エステル様とのお話は終わりましたか?」


 2人の姿を見つけたレーラが寄ってくる。


「レーラさん。ええ、終わりましたよ」


「そうですか……これからこの村を出発して砂漠の方に向かうと聞きましたけど」


 レーラの言葉を聞いたヴィンスは彼女が盗まれた絵画の件を詳しく知らない事に安堵した。この件を知っているのは極力少ない方がいいし、レーラが知ってしまえば少なからずショックを受けるであろうと言う事は明らかだった。


「はい、それもあって今から出発するつもりです。レーラさんもお元気で」


「レーラさん。旅を終えたらまたここに来るつもりだからそれまで元気でね!」


「はい!その時をお待ちしています!」


 レーラは少し残念そうな顔をしていたが、ローザの「またここに来る」と言う言葉で再び笑顔になった。

 そこに1人の男が近づいてくる。もちろんラウルだ。


「おい、その、何だ……気を付けて行けよ……」


 ぶっきらぼうにそれだけ言うと子供達の方へ戻って行く。

 そんなラウルを見た3人は顔を見合わせて笑い合った。


「それでは失礼します」


「みんなまたね~!」


「ローザお姉ちゃんまた来てね~!」


「料理のお兄ちゃんもまたね~!」


 最後までヴィンスは子供達から「料理のお兄ちゃん」と呼ばれていたが、ヴィンスは寧ろそれくらいで良いと思って特に名前を憶えて貰おうとはしなかった。

 

 2人は手を振って孤児院とカレルの村を後にした。


※『魔導書』…新しく魔法を覚えるのに必要な書。魔導書を読む以外にも使い手から直接指導してもらう方法がある。読んでも無くなりはしない。属性毎に魔導書は存在し、レア度が高い属性の魔導書は購入金額も高くなる。

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