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アーリル王国の騎士  作者: siryu
序章
3/61

第3話 幼馴染のローザとその父親アルフレッド

 フランシス一家が住んでいる国である『アーリル王国』

 世界には数多の国があるが、アーリル王国は世界で屈指の「住みやすい国」として認識されている。これにはいくつかの要因があった。

 

 まず、王国領では幸いなことに凶暴な魔物がほとんど生息していない。したがって魔物による被害はほとんど発生しないのである。

 また国王のレオン・アーリルは国民を第一に考えた政治を行っている。

 大半の国では国民の所得に対して定率の税を課しているのだが、アーリル王国では累進課税制度を適用しており、そのおかげで低所得世帯でも暮らしていくことが出来るし高所得世帯でも他国に比べて特に税率が高い訳でも無いので概ね好評である。

 

 そして何といっても評判が高いのが教育制度である。

 大半の国では教育制度が整備されておらず、存在していても高額な授業料が必要になる。その点、アーリル王国では国が税金で運営する学校に6歳から12歳までの6年間ほぼ無料で通うことが出来る。義務教育では無いので対象年齢の子供全員が必ずしも通わないといけない訳では無いが、家業で人手不足のところ以外は全員が通っているのが実情だ。ちなみに勉強だけでなく生徒同士での繋がりも作れるので将来に繋がる人脈作りも兼ねて人手が不足しがちな商人一家の子供も大抵は通わせている。




「先生さようなら!」


「はい、さようなら」


 授業が終わり教師への挨拶を済ませたヴィンスは帰宅しようとする。


「だ~れだ?」


「その声はローザでしょ?」


 学校からの帰り道、ヴィンスを後ろから目隠ししたのは幼馴染のローザ・マティス。ヴィンスの1つ年下で肩まで届いた金髪の可愛らしい女の子だ。彼女は父親ラルフの同僚騎士でもあるアルフレッド・マティスの娘である。ラルフとアルフレッドは幼馴染で今でも非常に仲が良い事からフランシス一家とマティス一家は家族ぐるみの付き合いをしているのだ。


「ねえ、今日お父さん非番の日だから指導出来るって言っていたよ」


「本当?だったら荷物を置いたらすぐに行くよ」


 ローザから話を聞いたヴィンスは帰宅したらローザの家に行くことを約束する。


「ただいま!母上、ローザの家に行ってきます」


「はいはい、あんまり遅くならないうちに帰ってきなさいね。くれぐれもご迷惑をかけないようにしなさいよ」


 母親のシェリーに注意されながら家を出ていく。前回指導して貰った時は熱中し過ぎて門限を過ぎてしまい、気づいた時には「母上に叱られる!」と青ざめてしまったヴィンスだった。


(あの時の母上は怖かったからな……今日は気を付けないと)


 しっかり反省して同じミスをしないよう心掛けるヴィンスはある意味父親のラルフより出来る人間かも知れない。




「お邪魔します!」


「はい、ヴィンス君いらっしゃい」


 ヴィンスを迎えてくれたのはアンナ・マティス。腰まで伸びた赤髪が特徴な美人でありローザの母親である。そして2階から降りてきたローザも出迎えてくれた。


「ヴィンス、お父さんもう庭で待っているわよ」


「うん、一緒に行こう!」


 ローザはヴィンスの手を取って一緒に庭に走っていく。


「あらあら、ローザったら積極的ね~」


 後ろから笑って2人を眺めているアンナであった。




「お邪魔します!アルフレッドさん、今日もよろしくお願いします!」


「おう、ヴィンスいらっしゃい!今日はお互い時間に気を付けような」


 頭を下げて元気よく挨拶するヴィンスに笑いながら返事をするのは娘ローザと同じ金髪のアルフレッド。完全に前回の事をいじる気である。


「もう、お父さん。そんなこと言ったらヴィンスも困っちゃうじゃない!」


 ローザは父親のアルフレッドを窘めるように言う。


「はっはっは、すまんな。じゃあ早速始めるか!」


 娘からの注意も楽しんでいるかのようなアルフレッドだったが「始める」と言った直後真面目な顔つきになる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「将来アルフレッドとラルフが王国騎士隊のトップに立つだろう」


 これは10年以上前に発言した国王レオン・アーリルの言葉である。


 この言葉を裏付けるように昨年両名は王国騎士隊の副隊長に任命された。王国騎士隊の歴史上、副隊長が2人選ばれたことは無かったがアルフレッドとラルフは甲乙つけ難い優秀な騎士であった為に前例の無い措置をしたのだ。

 アルフレッドとラルフは幼馴染で一緒に剣を始めた仲である。少年の頃は勿論騎士隊に入隊して現在に至るまで訓練の相手はお互いである。周りから言わせると2人の剣の腕前は全くの互角に見えるが、本人達に言わせると少しだけラルフの方が上らしい。

 しかし2人が全力で戦えばどちらが勝つのか?以前ヴィンスはラルフに聞いてみた事がある。


「アルだろうな。剣だけなら負ける気はしないがあいつは魔法も使えるからな」


 アーリル王国の騎士隊員は精強で有名だが魔法を使うことが出来ない。

 アルフレッドを除いては。

 もっとも、アルフレッドの本領は剣であり魔法の腕前は生粋の魔法職には及ばない。

 しかし王国全体で見ても魔法を使える者がほとんどいない為、ヴィンスはアルフレッドに指導して貰うようになったのだ。



 ヴィンスはつい最近まで魔法を目の前で見たことが無かった。初めて目の当たりにした日は自身の模擬戦の稽古初日である。


 稽古を終えたヴィンスの体中に出来た痣を見た母親のシェリーは父親のラルフに向かって大激怒した。彼女としても剣の稽古をつける以上ある程度の怪我は仕方ないと理解している。しかし打ち合い稽古の初日、しかもヴィンスはまだ8歳である。いくら何でもやり過ぎだと。有無を言わさずラルフを家から追い出した。

 追い出されたラルフもやり過ぎた自覚はあったので急いでアルフレッドの所に向かった。ヴィンスに回復魔法を掛けて貰う為だ。事情を聞いたアルフレッドは笑いながらラルフ宅に向かいヴィンスに回復魔法を掛けてあげた。

 話には聞いていたが初めて見た魔法にヴィンスは感激した。その場でアルフレッドに魔法の弟子入りをしたくらいである。その様子をみたラルフは「息子がアルに奪われてしまう!」と危機感を募らせたが、アルフレッドの帰宅後ヴィンスに「剣と魔法どっちが好きだ?」と聞いたところ「剣!」と即答してくれたので取り敢えず安堵する事が出来た。


 ちなみにヴィンスの怪我も治ったのでシェリーの機嫌も直っただろうとラルフは楽観視していたのだが甘かった。確かにシェリーの機嫌は直っていたので再度家からは追い出されなかった。が、それとは別でシェリーはラルフをしっかり反省させるためにその日の夕食は作ってあげなかった……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よし、2人ともかなり魔力の制御が出来るようになったな。2人とも素質があるようで安心だ」


 魔力は体内に宿っており誰もが持っている。しかし魔力を制御出来なければ魔法を使う事は出来ない。よって魔法の心得が無い者は魔力を制御出来るようにすることから始まるのだ。


「えへへ、ヴィンスといっぱい練習したからね~」


「うん、ローザに先を越されたのはちょっと悔しかったけど2人とも出来るようになって良かったよね!」


 指導して貰った初日は2人とも自身の魔力を感覚で掴む事が出来なかった。指導して貰うのは今日で2日目だが、それまでの間は学校が終わってからヴィンスはローザと一緒に自主練をしていた。ローザは自主練2日目で、ヴィンスは3日目で制御出来る様になっていたのだ。今はその成果をアルフレッドに確認して貰ったのだ。


 指導初日の余談だが、なかなか感覚を掴めなくて悔しかったヴィンスは熱中し過ぎて励んだ結果、自宅の門限に気づかず帰るのが遅くなってしまった。案の定母親のシェリーから説教を受けてしまい、ただでさえ遅くなった夕食の時間が更に遅くなってしまった。アルフレッドはその経緯をローザ経由で知っていたので「今日は時間に気を付けような」発言に繋がったのである。


「よし!じゃあ基本を押さえたところで魔法の練習に入るか!まずは……」


 こうしてヴィンスとローザは初めての魔法習得に励んでいった。


※ラルフは幼馴染のアルフレッドを「アル」と愛称で呼んでいます。お気づきだと思いますが一応。

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