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アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
28/61

第28話 ラウルとの戦い

9/29

ラウルとの戦闘シーンを一部書き換えました。

「私はヴィンスと言います。貴方がラウルさんですか?」


「……俺はお前らに「何をしに来た?」とも聞いているんだが?」


 ヴィンスの目の前に立っている銀髪の男は、質問を質問で返してきたヴィンスへ苛立たし気に再度問う。


「話が話なだけに貴方がラウルさんと確信出来ないとこちらの用件は言えません」


「何だと?ちっ、生意気な……」


 本来であれば彼の言う通りヴィンス側から用件を言うのが筋なのだが、ヴィンスは折れなかった。

 もし目の前の男がラウルでなかった場合、下手をするとエステルに迷惑を掛ける可能性があったからだ。

 しかし、この男も慎重で中々名乗らない。


「だったら質問を変えてやる。ここを誰から聞いた?」


「……カレルの村でやっているエステルさんです」


「……ちっ」


 変更された質問に対して正直に答えるヴィンス。

 ここまでであれば仮に相手がラウルでなかったとしても大丈夫だろうと判断した為だ。

 その回答を聞いた男は再度舌打ちをする。そして自分の名前を明かす。


「そうだ、俺がラウルだ。で、お前らは何をしに来た?」


 名前を明かしたラウルは再度ヴィンス達に問う。


「端的に言うと『漆黒の隼』ことラウルさんが盗んだと思われるアプロン城にあったはずの絵画を取り返しに来ました」


「何だと?さてはお前らアプロンの奴らか!」


 ヴィンスの返事を聞いたラウルは鞘から剣を引き抜くと瞬時に距離を詰めヴィンスに突きを繰り出す。


「きゃっ!」


「ふっ!」


 ガキンッ!!


 ローザが小さな悲鳴を上げるがヴィンスは落ち着いて剣を鞘から抜いてラウルの突きを払いのける。

 手加減したとは言え自身の剣技Lv2『疾風突き』を払われたラウルは警戒して再び距離を取った。


「ふん……今の突きを防ぐとは中々出来るな」


「取り敢えず先に話を聞いてもらえませんか?それと僕達はアプロンの人間ではありませんので」


「何だと……まあいい、話だけは聞いてやる」


 全てを納得した訳では無かったがラウルは自身の剣を鞘に収めた。

 話を聞いて貰えそうな雰囲気になったヴィンスは一息ついて話をする。


「全部を話すと長くなるので掻い摘んで話しますが……僕達はアーリル王国の人間で修行と人探しを目的に旅をしています」


「お、遅れましたけど私はローザと言います……」


 慌ててローザは自己紹介をする。


「アーリルだと?アーリルの人間が何でわざわざアプロン城の絵画を取り戻しに来た?」


「アプロンの城下町に寄った時の成り行きです。それで手掛りを探すためにカレルの村へ行きました。」


「……それから?」


「それから……孤児院に寄りました。そこでエステルさんやレーラさん、子供達に会いました」


「……」


「そして昨夜エステルさんに色々お話を聞きました。聞いた内容を喋りましょうか?」


「いや、いい……」


 孤児院の話をしたところからラウルは少しずつ俯き加減になっていく。

 上手くいけば説得出来るかもしれないと手応えを感じたヴィンス。


「そうですか……でもこれだけは伝えたいと思います。エステルさんはラウルさんには「もう止めて欲しい」と言っていましたよ」


「そうか……分かった」


 ラウルの言葉を聞いたヴィンス達は説得に成功したと思い安堵した。

 しかし、ラウルの右手は再度剣の柄を握っていた。


「エステルさんの話は分かった。それでも、俺は止める訳にはいかない!」


「何故ですか!?エステルさんは貴方の親同然の——」


「お前らに……俺達の何が分かる!?」


 ラウルにとってのエステルは実の母親以上の存在である。それを他人であるヴィンスが軽々しく口にしたことでラウルは激怒する。

 そしてラウルは鞘から剣を引き抜き剣技『疾風突き』を繰り出す。

 先程とは違って手加減無しの『疾風突き』はヴィンスの想像以上に速かった。


「くっ!」


 ヴィンスは剣を引き抜く余裕すらなかった。身体を横っ飛びすることでギリギリ回避する事に成功する。立ち上がったヴィンスはもうこれ以上の説得は無理と判断して自身の剣を抜く。


「ローザ、巻き込まれないよう離れてくれ」


「で、でも」


「もう……剣を交えないと無理な所まで来ているんだよ」


「……」


 まだ説得を諦めていないローザも戦闘を避ける事は出来ないと諦めてヴィンスから距離を取る。

 ローザが離れたことを確認したヴィンスは剣を構えラウルに対峙した。


(さっきの『疾風突き』も躱すとはこいつは想像以上に出来る奴だな……)


(一撃目と違ってさっきの『疾風突き』は凄く速かった……厄介だな……)


 それぞれの観察が交錯する中、仕掛けたのはラウルであった。今度は剣技を発動せず距離を詰めて斬り掛かるが、ヴィンスもそれにしっかり反応して剣で受け止める。

 軽く舌打ちをしたラウルはそこから剣技Lv1『連続突き』を繰り出すがヴィンスは剣技を使う事なく全て受けきった。『連続突き』を受け止められたラウルは全力で斬りかかるがそれも受け止められたのでそのまま鍔迫り合いに持ち込むがヴィンスは苦も無く受け止め続ける。


(くそっ!こっちの『連続突き』を簡単に受け止めるとはムカつく野郎だ)


 ラウルは鍔迫り合いで剣技『剣圧』を発動しているがそれでもヴィンスを押し切れない。しかもヴィンスが剣技『剣圧』を発動していない事にも気付いているのでラウルは余計腹立たしかったのだ。


「ふん!」


「ぐっ!?」


 鍔迫り合いで押し切れなかったラウルは膠着状態を嫌ってヴィンスに前蹴りを放つ。予想外の蹴りを胸に受けたヴィンスは後方によろめきながらラウルと距離を取った。


(腕力ではとても敵わんな……そうなると)


(スピードで勝負してくるだろうな……)


 ヴィンスもラウルと同じことを考えていた。実際鍔迫り合いで片方のみ『剣圧』を発動しているのにそれで押し切れないようでは腕力で相当の差がある事を示している。ラウルからしてみれば正面からぶつかるのは分の良い戦法ではない。分のあるスピードで勝負を仕掛けようと決断するラウル。

 

 一方ヴィンスは出来るだけラウルに傷を負わせたくないと考えていた。余程実力に差があればまだしも、ラウル相手にそう考えるのは正直危険である。それが分かった上でそう考えてしまうのはやはりエステルや孤児院の事を考えてであった。


 その為にヴィンスは敢えてラウルの仕掛けに乗る。


「ふっ!」


「ふん!」


 ラウルは先程同様一気に距離を縮めて剣を繰り出す。ヴィンスも剣でそれらを受け止める。


 ラウルの狙いは全力で繰り出す『疾風突き』である。しかしスピードで勝っているとは言え、ヴィンスの体勢を崩さずに仕掛けても恐らくギリギリで躱される。ならば仕掛ける前に先程の鍔迫り合い時の前蹴りみたいな方法で相手の体勢を崩しておけば躱される事は無い。

 そう考えたラウルは、剣による攻撃の最中に逆の手で腰もとにぶら下げているマジックポーチから短剣を取り出し斬りかかる。

 不意の一撃に対し、ヴィンスは体を仰け反らす事でギリギリ躱すが体勢は崩れ掛けた。


(よし、今だ!)


 狙い通りヴィンスの体勢を崩したラウルは『疾風突き』を発動させようとするが、このタイミングを狙っていたのは寧ろヴィンスの方であった。


「ふっ!」


「なっ!?」


 ヴィンスは風魔法『ウインドカッター』をラウルにではなく彼の足元に放った。ヴィンスが魔法を使えると知らなかったラウルは驚くと同時に砂埃を被る。数秒の間視界を奪われたラウルは剣を闇雲に振り回すがヴィンスには当たらない。


「ぐっ!?」


 ヴィンスはラウルの視界が戻らない内に剣を叩き落した。彼が持っているのは短剣のみとなった。


「もう終わりです。それとも短剣だけでまだ続けますか?」


「……」


 ヴィンスからの勧告にラウルは表情を歪ませる。

 ラウルは剣以外に短剣も使えるがそれだけで、戦法も読まれ魔法すら使いこなすヴィンスに勝てる自信は既に無かった。


(もう終わりだな)


 ラウルはそう悟ると薄っすら微笑む。そして持っていた短剣を自身の首に当てようとした。


「あっ!?」


 自害しようとしたラウルを見たローザは思わず叫び目を閉じる。




「あ……ああ……」


 ゆっくり目を開けたローザは目の前の光景を見て安堵した。

 ローザの目に映るラウルはしっかりと立っていた。側にはヴィンスもおり、ラウルが自身の首に刺そうとした短剣を間一髪で掴んでいたのだ。掴んでいる右手からは血が流れている。


「お、お前……何でこんな事をする……?」


 ラウルは何故ヴィンスが怪我をしてまで自分の短剣を止めたのかを理解出来なかった。


「エステルさんと約束しましたからね。貴方を止めるって。でもその中に貴方を死なせる事は入っていません」


「何を言っている……?大体俺が死んだところでお前らには関係ないだろうが!」


 バチンッ!!


 ラウルが悪態をつくと、ヴィンスではなくローザが彼の頬を引っ叩いた。


「なっ!?」


「「なっ!?」じゃありません!エステルさんがどれだけ貴方の事を心配しているか知っているんですか?これでもし貴方が死んでしまったらエステルさんが……レーラさんだって……」


 ローザは目に涙を浮かべながらラウルへ抗議するように言った。

 悪態をついていたラウルも流石に年下の女性に引っ叩かれたせいか、少しバツが悪そうな表情で俯いた。


「……で、俺をどうするつもりだ?アプロンに引き渡すのか?」


 ラウルは死んでもアプロン王国に身柄を拘束されたくなかった。だからこそ自害しようとしたのだったが『ヒール』で手を治療しているヴィンスからは意外な答えが返ってきた。


「そういう依頼は受けていましたけどね。別にそこまでする義理も無いですよ」


「……何?」


 拘束する気の無いヴィンスの返事を聞いてラウルはトーンダウンした。


「当然絵画は返して貰います。しかし貴方は盗んだだけで誰も傷つけなかったようですし、犯行声明書を置いていく事で他の人へ容疑が掛からないよう配慮もしていた……ですからそれ以上は要求しませんよ。貴方の命も身柄も。ローザもそれでいいだろう?」


「ええ、勿論よ。あんな(ケダモノ)の依頼なんか全部放ったらかしてもいいくらいなんだから!」


「け、(ケダモノ)?何だそれは?」


 ローザがまだアプロン国王のエーランドを(ケダモノ)と呼ぶことにヴィンスは苦笑いし、当然ラウルには何の事か伝わっていなかった。


 エーランドからは「犯人を捕まえてこい」と言われていたが、正直そんな事はどうでも良いとすらヴィンスは思っていた。

 エステルの話を聞いた時点でヴィンスは今回盗まれた絵画は取り戻すが、それを返却だけして「犯人は見つけられませんでしたが絵画は取り戻しました」とでも言うつもりだったのだ。


「そう言う訳ですから絵画は渡して貰います。いいですね?」


「……ああ、分かった」


 ここまで来てラウルも潔くマジックポーチから盗んだ絵画を取り出しヴィンスに渡す。


「あ!もう一つ要望を聞いて欲しいんですけど」


 ここにきてローザからもラウルに要望を出す。


「……何だ?」


「孤児院に正面(・・)から帰ってあげて下さい!」


「!? そ、それは……」


「いいですね!?」


 ローザはここぞとばかりにラウルに顔を近づけて念を押す。

 そんなローザの執念に観念したラウルは諦め顔で頷く。


「……分かった」


「良かった!これで一件落着ね!」


 ローザは笑顔で喜ぶ。

 その顔を見たラウルは自身にとって妹みたいな存在のレーラを思い出した。


「よし!じゃあ早速カレルの村に引き返しましょう!ラウルさんもいいですね?」


「いいですね?」


「ああ、分かった……」


 ヴィンスだけでなくローザからも念を押されたラウルは2人の視線をわざと外して返事をした。が、何かを思い出したかのようにラウルは問いかける。


「あ、ちょっと待て!お前ら絵画を返却しに行く時は王国に何て言うんだ?」


「え?う~ん、犯人は逃げた後で絵画は残っていました……かな?」


「……となるとここの場所を言うのか?」


「まぁ……そうなりますね。流石にこれ以上誤魔化すと不自然になりかねませんし……」


「そうか……ちょっと待ってろ!」


 ラウルはそう言うと部屋の隅に駆け寄って何かを操作しているように見えた。

 すると床の一部が開きそこから何かを回収してマジックポーチに入れた。


「待たせたな……もういいぞ」


 何をやっていたのか若干気にはなったが、折角孤児院に戻る気になったラウルの気分を害したくはなかった2人は敢えてそれを聞かなかった。


 こうして2人はラウルを連れて廃鉱を後にした。


※剣技Lv2『疾風突き』…速度を重視した突き。同じ剣技Lv2に『疾風斬り』(速度を重視した斬り)もある。


※剣技Lv1『連続突き』…瞬時に突きを2回繰り出す。ちなみに槍技Lv1にも『連続突き』が存在する

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