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アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
24/61

第24話 カレルの村 その2

「す~…す~…」


(まだ寝ていたのか……)


 宿に戻ってきたヴィンスは部屋に入るとまだ爆睡中のローザを見て少し呆れてしまった。


「ローザ、ローザ」


「う~ん、あと10分……」


 ヴィンスはローザを起こそうと揺り動かすがまだまだ眠いらしい。


(まぁもう少し寝かせてあげてもいいか。とは言えこの調子だと今後が思いやられるな……)


 結局ヴィンスはローザを無理やり起こすことは無かった。





「……ごめんなさい、ヴィンス。流石に寝すぎよね……」


「まぁ、今更言っても仕方ないからいいけどさ」


 ちなみに「あと10分」と言っていたローザが起きたのはそれから1時間後だった。

 正午過ぎから寝始めて現在は夕方に差し掛かっていたので流石にローザも反省していた。


「取り敢えず今から冒険者ギルドへ行こう。入手した魔石と素材を売ってマジックポーチの容量を空けないと」


「そうね、すぐに行きましょう」


 カレルの村に着く少し前の戦闘でマジックポーチの容量は既に限界を迎えていた。そのため以降の戦闘では魔石のみ回収して素材は諦めていたのだ。ヴィンスとしては早くマジックポーチの容量に空きを作りたかったので直ぐにでも売却に行きたかったのだが、ヴィンス1人で行ってしまうと冒険者として昇格に必要なポイントがローザに加算されないのでずっと待っていたのだった。




「間に合って良かったわ。この村の冒険者ギルドって閉まっちゃうのが早いのね」


「それを言ったらホルンの村だって一緒だよ。アプロン王国の城下町みたいに規模が大きければ24時間体制でも利益が出るけど、この村だとそう言う訳にはいかないだろうからね。」


 冒険者ギルドは基本的に全世界の町や村に存在しているが、利用者数に応じてギルドの営業時間は違うのだ。アプロン王国の城下町だと利用者も多いので24時間営業だが、それなりの規模であるアーリル王国の城下町だと冒険者がほとんどいないのでやはり閉まるのは早いのだった。


「今回の売却額は前回よりも大きかったわ。」


「まあね、前回より魔石数はちょっとだけ少なかったけど素材は出来るだけ回収したからね」


 彼らの言う通り魔石は全部下級で数も128個と前回より5個少なかったが、ブルーウルフの牙と毛皮に野営中に襲ってきたキングコブラの皮等を売却したおかげで合計金貨3枚銀貨5枚となった。


「夕食だけど調べた限りこの村には宿屋でしか食事出来るところがないみたいなんだよ」


「だったら宿屋に戻って食事しましょう。今日はお昼も食べていないからいつも以上にお腹空いちゃったわ」


 ローザはそう言うと自分のお腹を押さえる。確かにヴィンスは1人で昼食を食べたが彼女は寝ていたので朝食以降何も食べていなかったのだ。


「うん、じゃあ夕食を食べながら僕が歩き回って分かったことを教えるよ」


 ヴィンスがそう言うと2人は宿屋へ戻って行く。



——————————



「——じゃあ明日もまた孤児院に行くって事なのね?」


「そうだね。孤児院シスターのエステルさんと言う人に会ってみようと思ってる」


「話をしてくれたレーラさんって人の言う事が本当ならエステルさんって本当に素晴らしい人だわ。どこかの(ケダモノ)とは大違いよ!」


「まだ(ケダモノ)呼ばわりかい……とは言え僕も同じ事思ったけど」


 宿屋の食堂で食事をしながらヴィンスは孤児院で聞いた事をローザに伝えた。ヴィンスも予想していたがエステルの話をローザにすると目を輝かせて聞き入っていた。


「でもエステルさんが話の通りだったら……とても窃盗事件と結びつくとは思えないんだけど……ヴィンスはどう思う?」


「そうなんだよね……僕もそう思ってさ。全然考えが纏まらないんだよね」


「う~ん、じゃあ振り出しに戻ってしまうのかしら?」


「ここで振り出しに戻っちゃうと打つ手なしだね」


 そう言いながらヴィンスは両手を上げてお手上げのポーズをする。


「ヴィンスがそんな事言っちゃったら私なんかもうどうしようも無いわよ」


「まぁまぁ、取り敢えず明日もう一度孤児院に行こう。その先はその時考えればいいよ」


「そうね、あんな(ケダモノ)の為にそこまで悩む義理は無いわ」


 ローザは余程エーランドの事を毛嫌いしているらしく、まだ(ケダモノ)と連呼していた。ヴィンスも気持ちは十分理解しているので2人の時であれば好きに呼べばいいくらいにしか思っていなかった。




「おはよう、ローザ。昨夜はすぐに眠れたかい?」


「ええ、昨日はお昼寝し過ぎちゃったから少し心配だったけどすぐに眠れたわ」


 次の日の朝、ヴィンスはローザの部屋に行くとしっかり起きていた。

 前日の睡眠不足は完全に解消されたようで素晴らしい笑顔を見せてくれた。


「じゃあ、朝食を食べたら予定通り孤児院に向かおうか」


「そうしましょう!早くエステルさんに会ってみたいわ!!」


「分かった、分かったから」


 昨日からエステルに会うのを楽しみにしていたローザは待ちきれないとばかりにヴィンスに促す。ヴィンスも「やれやれ」と思いつつ自分自身も早くエステルに会ってみたいと思っていた。




「ヴィンス様!おはようございますわ」


「レーラさん、おはようございます。昨日の今日で申し訳ありません」


「いえいえ、ヴィンス様なら大歓迎ですわ!あ、お連れの方もいらっしゃるのに申し訳ありません!私は——」


「あなたがレーラさんね?初めまして!私はヴィンスと一緒に旅をしているローザ・マティスと言いますわ。よろしくお願いしますね」


 2人が孤児院に着くと、シスターのレーラが子供達と一緒に庭で遊んでいた。レーラがヴィンスに気付くと笑顔で挨拶をして2人も挨拶を返した。


「そうだ、ヴィンス様。昨日ヴィンス様が寄付して頂いたことをエステル様にお伝えしたら大変お喜びになり、是非エステル様からお礼を言いたいと申されています。もしよかったら今から御案内しますがどうでしょうか?」


「本当ですか?でしたら早速御会いしたいのでよろしくお願いします」


「分かりましたわ。それではこちらへどうぞ」


 どうやら今日はエステルがいるようで、昨日の事もあってレーラがすぐに案内してくれると言うので2人はそれに従った。




 レーラが案内してくれた部屋の扉をノックすると中から「どうぞ」と声が聞こえたので彼女は扉を開ける。部屋の中には40代と思わしきお淑やかな女性がいた。


「ヴィンスさん、初めまして。私がこの孤児院の責任者を務めているエステル・ノルダールと言います。よろしくお願いしますね」


 そう言うとエステルはヴィンスに向かって頭を下げる。


「ヴィンス・フランシスです。エステル様、こちらこそ初めまして。よろしく御願い致します」


 見た目は華奢でありながら只ならぬ雰囲気を醸し出すエステルにヴィンスは恭しく礼を返した。


「えっと……そちらのお嬢様は?」


「……はっ!? わ、私はヴィンスと共に旅をしているローザ・マティスと言います!よろしくお願いします!」


 エステルの雰囲気に押されたのか、ローザは一瞬間を空けてから慌てて彼女に挨拶をした。そんなローザをエステルは微笑みながら見つめて挨拶を返してくれる。


「ローザさんね。そんなに畏まらなくていいわよ。よろしくね」


「は、はい!こちらこそ!」


 まだローザは緊張しているようだった。


「そうそう、ヴィンスさん。昨日はこの孤児院に沢山の寄付をしてくださって……本当に助かりますわ」


「いえ、お気になさらず」


 昨日の寄付に対してお礼を言われたヴィンスだったが、この間に彼は冷静に分析していた。

 この孤児院には20人近くの子供達がいるようだ。昨日の寄付した銀貨5枚などこの規模の孤児院であれば食費だけでも精々1日分になるかどうかの金額でしかない。それに生活をしていくには食費以外にも色々お金は掛かる。もし「盗まれた美術品を売却したお金で孤児院を運営していたとしたら」と考えると盗まれた美術品の価値と各窃盗事件の間隔はそんなに懸け離れていない気がしている。


 だが同時に矛盾点もある。以前ジムとも話をしたが孤児院は10年程前から設立されているのに事件が起き始めたのは1年程前からである。それまでの9年程はどうやって運営していたのか。

 そして何よりエステルが窃盗事件の犯人とは到底思えなかった。


「ところでエステル様。是非孤児院の事を色々お伺いしたいのですが宜しいでしょうか?」


 考えがとても纏まりそうにないヴィンスは、孤児院の生い立ちを聞くことにする。


「勿論構いませんわ。あと、ヴィンスさん。様付けは止めてくれると嬉しいわ」


「それでは失礼して……エステルさん。10年程前にこの孤児院を作ったと聞いたのですが大変ではありませんでしたか?」


「そうねぇ……最初はもっと子供の数も少なかったけどそれでもやっぱり大変だったわね」


「それは資金面的な意味ですか?」


 ヴィンスは核心的な質問をぶつけてみたが意外な返事が返ってくる。


「いえ、あの頃は資金調達をしてくれる人がいたから(・・・・)お金は大丈夫でしたわ。当時は私が子供の世話に慣れていなかったからと言う意味よ」


(資金調達をしてくれる人がいたのか……しかしこの表現だと過去形?)


「そうでしたか……やはり子供達の世話は大変そうですね。特に育ち盛りの子達は元気ですから」


「そうなのですよ、あの頃は私の体が持ちませんでしたわ。ここにいるレーラもとにかく元気で走り回るから。ふふっ」


「エ、エステル様!私は……そこまでお転婆ではありませんでしたわ!」


「ふふっ、そういう事にしておきましょうか」


「へ~、今のお淑やかそうなレーラさんからは想像がつかないわね」


「ローザ様まで!」


 連続でお金の話をして警戒されるのを防ぐため、ヴィンスはわざと話をずらしてみた。

 するとエステルも昔の事を思い出しながら当時のレーラの事も話をしてくれた。レーラは恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてエステルに反論しているが恐らく事実だったんだろうと推測出来る。ローザも2人のやり取りが面白かったのかニヤニヤ笑いながらレーラを見ていた。


 ヴィンスは続けて質問する。


「こちらで育った子供達は大きくなったらどうされているのですか?」


「そうね、この村で生活している者もいれば他の場所に出て行って働いている者もいるわね。その中でもレーラはここに残って私の手伝いをしてくれているから非常に助かっているわ。ありがとうね、レーラ」


 エステルはそう言ってレーラに微笑みながらお礼を言う。


「そ、そんな……エステル様のおかげで今の私はあるのです……それなのにエステル様からお礼の言葉を頂くなど……うぅ……」


 急にエステルからお礼を言われたレーラはオロオロしだす。何とかエステルに感謝の気持ちを伝えたいが上手く言葉に出来ず遂には泣き出してしまった。


「あらあら。ごめんなさいね、レーラ」


「エステル様……エステル様ぁ~!!」


 そんなレーラをエステルは優しい笑みで見つめながら彼女をゆっくり抱きしめた。レーラも感極まったのか先程より大泣きしてエステルを強く抱きしめる。


「……ぐす……」


 抱き合う2人を見ていたヴィンスの隣からも泣き声が聞こえた気がして見てみるとローザまで貰い泣きしていた。


 これ以上聞くと収拾がつかなくなりそうだったので取り敢えずヴィンスはこの場で聞くのを諦めた。





「……大変失礼しました。私は子供達の方に戻るのでここで失礼させて頂きますわ」


 やっと場が落ち着いた頃、レーラは子供達の方へ戻ろうとする。そこへローザが予想外の提案をする。


「レーラさん、ちょっと待って!あの、私もお手伝いさせて貰えないかしら?」


「え?ローザ様がですか?私は構いませんが宜しいのですか?」


「ええ。ヴィンス、構わないでしょ?」


「僕は構わないけど……エステルさん宜しいですか?」


「ええ、子供達も大喜びすると思いますわ。ローザさん、よろしくお願いしますね」


「はい!任せてください!レーラさん、行きましょう!」


「え、ええ」


 ローザはエステルから許可を得ると、レーラの腕を組んで大張り切りで子供達の所へ向かう。そんな彼女を見ながらヴィンスも何か思いついたようでエステルに提案する。


「エステルさん、普段は孤児院の食事はどなたが作っているのですか?」


「そうね、大体は私が作っていますわ。手が空いていない時はレーラにお願いする事もありますけど」


「そうでしたか……もし良かったら今日の昼食は僕に任せて貰えませんか?」


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