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アーリル王国の騎士  作者: siryu
序章
2/61

第2話 稽古

——世界暦1207年——


 ヴィンスは今日で8歳になる。6歳から始めた稽古も2年が経過しようとしていた。この2年ヴィンスがやってきた稽古の内容は刃の部分を潰した模擬剣と槍の素振り。これだけであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ——2年前——


「最初の2年間は素振りだけだ」


 稽古初日に父親のラルフに宣言されたのだ。これを聞いたヴィンスは「2年間は流石に長すぎるのでは……」と思わなくもなかったが、無駄な事を父親が言う訳ないとすぐに自身の考えを払拭してひたすら素振りに打ち込んだ。素振りの内容はそれぞれ『振る』『払う』『突く』『受ける』この4パターンである。

 

 始めた当初は武器に振り回されるだけだったが一月もすれば様になってきた。


 二月もすれば武器を振った時の音が変わっていた。


 続ければ続けるだけ自分の成長を感じる事が出来た。こんなに楽しいことはない。ヴィンスは2年間1日も休まず振り続けた。ラルフも帰宅した時や非番の日には素振りを見てくれる。基本的に口出しはしないが、疲労で素振りの勢いが鈍ってしまったり体のバランスが崩れたりした時は見逃さずに指摘をしてくれた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして8歳になった今日から模擬戦が解禁される。昨晩ヴィンスは興奮し過ぎてなかなか寝付けなかった。先程仕事から帰ってきたラルフが庭に出てくるのを今か今かと待ち侘びているところだ。胸の高鳴りが止まらない。


「うむ、待たせてすまないな」


 ラルフも模擬剣を持って庭に現れた。模擬戦の稽古初日はお互いの武器を剣にすると前もって決めていたのである。


「どれ、早く模擬戦を行いたくて仕方なさそうだから早速始めるか」


「はい!よろしくお願いします!」


 短い会話を終えてお互い剣を構える。その瞬間ヴィンスは自分の体が重くなったのではという錯覚に陥る。剣を構えているだけなのに汗が一気に噴き出そうだ。

 ヴィンスが今まで経験したこともない感覚の発生源はもちろんラルフである。ラルフはスキル『威圧』を発動しているのだ。『威圧』は相手の動きを止めたり鈍くさせたりする効果があるスキルである。相手が自分と同等もしくは格上ではまず成功しないが、ラルフとヴィンスでは実力に差があり過ぎるので当然効果がある。


「さぁ、受け止めてみろ!」


 言うや否や一気に間合いを詰めてラルフが剣を振り下ろす。狙いはヴィンスの左肩。いくら模擬剣でも頭に当たればただでは済まない。利き腕側である右肩も狙いから外したあたりはラルフの配慮である。左肩なら最悪骨折しても幼馴染の同僚に頼んで回復魔法を掛けて貰えば、完治とはいかずとも日常生活には支障ない程度に回復してくれるはずだ。顔を真っ赤にして怒りそうなシェリーのことはこの際忘れておくことにする。

 

 もっともラルフはこの一撃がヴィンスの肩に当たらないだろうと確信している。

 その根拠?それは……


(ヴィンスは俺の息子だからだ)


 ラルフの剣がヴィンスの肩に当たる寸前、ヴィンスは自身の肩を守るようにしっかりと剣を構えてラルフの一撃を防ぐ事に成功する。 


(流石俺の息子だ!)


 自分の期待に違わず一撃を防いだヴィンスにラルフは思わずニヤリと笑った。

 相手は8歳の子供にも関わらず『威圧』まで発動してヴィンスの動きを制限させた。その上で自分の一撃を受け止める。それが出来れば素振りが完全に体に染みついているだろうと判断出来る。この一連の行為は2年間の素振りの成果を確認する為のものだったのだ。

 

 この結果に満足していたラルフであったがこれだけでは終わらなかった。


 一撃を防がれてにやりと笑った瞬間ラルフはわずかに気を緩めていた。その隙をヴィンスは見逃さなかったのだ。一撃を受け止めた直後にラルフの剣を払いのけて薙ぎ払いの反撃を繰り出す。


(何だと!?)


 想定外の反撃にラルフは驚いた。慌てて剣を構え直しヴィンスの反撃を上から叩き落……したはずだった。

 

「……あ」


「……その、すまん……」


 慌てていたラルフは手加減出来なかったのだ。

 ヴィンスの剣は真っ二つに斬られている。「折られている」のではなく「斬られている」のだ。ラルフも刃が潰れている模擬剣を使っているにも関わらず、だ。


「……」


 ヴィンスは斬り落とされた剣を拾って無言で見つめている。模擬剣とは言え2年間使い続けた剣だ。しかもヴィンスにとって初めての剣である。さぞかし愛着も深かっただろう。流石に拙いことをしたと自覚のあるラルフは息子に何と声を掛ければ良いか悩んでしまう。


 しかしその悩みはすぐに消える事になる。


「すごい……すごいです!父上は凄いです!」


 ヴィンスは尊敬の眼差しでラルフを見つめてくる。ほっとしたと同時にとても気分が良くなるラルフ。息子に尊敬されている自覚はあるものの、この時ほど「この子の父親で良かった!」と思えた事は無かった。


「父上!先程の一撃は何という技なのですか!?僕も上達すれば使えるようになるのですか!?」


 目をキラキラさせて尋ねてくる息子に対して更に気分が良くなるラルフ。


「うむ、先程の一撃は剣技『斬鉄剣』と言ってな。決して簡単ではないが稽古を続ければお前なら絶対に習得出来るだろう。何せお前は俺の息子だからな!はっはっは!」


 気前のいい事を言うラルフだが決してリップサービスではない。『威圧』を受けた状態で最初の一撃を防ぐ事が出来れば今日の稽古は合格だったのが、防ぐだけではなく僅かな隙を見逃さず反撃までしてきたのだ。ヴィンスの素質はラルフの想像以上だった。


(この子はいつか俺をも超えていく。間違いない。)


 このあと新しい模擬剣をヴィンスに渡して模擬戦の稽古を再開する。再開後のラルフは一切油断せず適切な力加減でヴィンスと剣を打ち合った。


 ヴィンスが想像以上の素質の持ち主であることに気をよくしたラルフは少しばかり熱中しすぎてしまった……。


 序盤はラルフの攻撃を防ぐ事が出来ていたヴィンスであったが大人と子供の体力差は如何ともし難く、この日の稽古が終わった頃にはヴィンスの体は痣だらけになっていた。



 家に帰ってヴィンスの体を見たシェリーは今まで見たこともないくらい激怒し、その日ラルフの夕食は作って貰えなかった。


※スキル『威圧』…使い手より格下の相手に対して動きを止めたり鈍くさせたりする効果のあるスキル。対象の数が多いと効果が落ちて効きにくくなる。使用者のLvが上がる程効果も大きくなる。


※剣技Lv5『斬鉄剣』…文字通り鉄をも斬る技。使用する武器や使い手の剣技Lvによって威力は増減する。

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