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アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
19/61

第19話 アプロン王国到着

「はい、水だよ」


「ありがとう、助かるわ」


 イミルの洞窟から抜け出した2人は休憩に入る。ヴィンスはマジックポーチから水を取り出してローザに渡した。


「ここからはアプロン王国領だからアーリル王国領とは同じに考えちゃ駄目だよ。具体的には——」


「街道だろうと魔物は襲ってくるんでしょ?」


「その通り。だからこの休憩中も気を抜いたら駄目だからね」


 水を飲みながらローザが先に答える。ヴィンスから何度も聞いているので辟易しているくらいだ。

 ヴィンスはアーリル王国領から何度も言っているのに関わらずこれだけ念を押すかのように言うのは、やはりローザを危険な目に遭わさないよう心配しているからである。


「アプロン王国にはあとどれくらいで着きそうなの?」


「魔物に遭遇しなければ(・・・・・・・)2時間程で着くと思うよ」


遭遇しなければ(・・・・・・・)ね……そうであって欲しいわ……」


(ローザには悪いけど多分無理だろうな……)


 ローザの希望的観測を内心で簡単に否定していたヴィンス。彼は一度ラルフと来たことがあるが、その時は洞窟を出てから城下町に着くまでに4回の戦闘があったのだった。



——————————



「はぁ、はぁ……何なのよ!この国は!」


(やっぱりね)


 現時点でちょうど半分と言った距離だが、その間に戦闘が3回あった。

 先程の休憩でローザのMPはある程度回復していたが、それでももう尽き掛けていた。遭遇する魔物は洞窟とあまり強さは変わらなかったがそれ以上に短時間での連戦が彼女には堪えたみたいだった。


「ローザ、もう一度休憩しよう」


「はぁはぁ……ごめんね、ヴィンス」


 ヴィンスはまだまだ大丈夫だったがローザはそうはいかなかった。MPもそうであるが、それ以上に体力が持たないのだ。ヴィンスがローザに『ヒール』を唱えて体力を回復してあげる。


「ありがとう。おかげで一息つけたわ」


 息を切らしていたローザだったが『ヒール』のおかげで大分楽になったようだ。


「初めてアーリル王国領を出たけど、本当に違うのね。ヴィンスの言う通りだったわ」


「僕も初めて来たときは同じように驚いたものだよ。そんな僕を見て父上は笑ってたな」


「……そう考えるとアーリル王国って素晴らしいのね」


「僕もあの時は同じ様に思ったよ。ふふっ、やっぱり皆同じ事を考えるんだね」


「?」


 ローザの感想を聞いてヴィンスは思わず笑ってしまい、彼女は不思議な顔をしている。恐らくだが、初めてヴィンスがアーリル王国領を出た時と同じ感想を昔のラルフも感じていたんだろうと今更ながら分かったのだ。


「いや、何でもないよ。さぁ、そろそろ行こうか」


「よく分からないけど……そうね、そろそろ行きましょう」


 休憩を終えた2人は引き続きアプロン王国を目指して歩いていく。



——————————



「やっと辿り着いたね。想定より時間掛かっちゃったな」


「……時間云々は置いといて取り敢えず無事に辿り着けた事にホッとしてるわ……」


 休憩後も3回魔物と戦闘する羽目になった2人だったが無事辿り着いた。やはりヴィンスは余裕があるがローザはヘトヘトであった。

 

 城下町の門には衛兵が立っている。彼らは魔物の襲撃に備えた見張りでもあり、旅人が訪れた場合は身分を確認するのが仕事である。


「ローザ、身分証明出来る物持ってるよね?」


「えっと……冒険者カードって身分証明出来るわよね?」


「うん、十分だよ」


 ローザはヴィンスに確認するとローブの内側から自身の冒険者カードを取り出す。

 冒険者カードは世界で一番簡単に作成出来る身分証明書と言われており、アーリル王国では15歳以上の成人であれば大抵の国民が所有している。

 

 ちなみにローザは一度も冒険者ギルドで使用した事が無かったので最低のGランク。ヴィンスもアーリル王国の冒険者ギルドでは役に立つ仕事が少なかった為、彼女より1つ上のFランクに過ぎなかった。


「あれ?ヴィンスも提示するのは冒険者カードなの?確か騎士隊員って専用の身分証明書があるってお父さんに聞いてたけど……」


「ああ……あれはここでは使いたくなくてね……」


「ふうん?」


 歯切れの悪いヴィンスに違和感を覚えるローザだったが何か考えがあるのだろうと、それ以上の追及はしなかった。



「ふむ、ヴィンス・フランシスにローザ・マティス。共にアーリル王国から来たのだな?」


「「はい」」


 2人から提示されたカードを衛兵は確認する。


「うむ、問題無いな。入っていいぞ」


 こうして2人はアプロン王国の城下町に入って行った。



「ここがアプロン王国の城下町……随分賑わっているのね」


「そうだね」


 アプロン王国の城下町はアーリル王国の城下町よりもお店が多いし、何より冒険者ギルドの前はとても賑わっているように見える。アプロン王国の方が治安に不安がある分、護衛などで冒険者の需要が多いのだろう。


「取り敢えず先に宿を取ろうか。その後、冒険者ギルドに行って回収した魔石と素材を換金しておこう」


「そうしましょう。ヴィンスに任せるわ」


 アーリル王国と違ってアプロン王国では冒険者の数が多いため宿屋は何件もあるが、その中からヴィンスは2年前にラルフと泊まった宿にローザを連れて向かう。この宿は値段の割に個室でも風呂付などサービスが良く、別料金ではあるが同じ建物内で経営している料理屋も美味しいと冒険者に好評の宿である。幸い部屋に空きがあったので1室で半銀貨9枚の部屋を2つ借りる事にした。


「じゃあ次は冒険者ギルドに向かおう」


「ええ、それにしてもアーリル王国と違ってギルドには人が沢山いるみたいだわ」


 ほぼ開店休業状態のアーリル王国の冒険者ギルドとは別物と言っていいくらい人が入っていた。向こうでは売却カウンターの前で待つことなどまず無かったが、こちらでは何人も並んでいて30分程待つ羽目になった。


「お待たせしました。次の方どうぞ」


 受付嬢に呼ばれた2人は冒険者カードと一緒に入手した魔石と素材をカウンターの前に並べる。受付嬢はカードを受け取った後、魔石と素材の鑑定を始めていく。


「鑑定が終わりました。魔石の方ですが全て下級で数は133個、素材は一角ウサギの角と毛皮にお化けアリクイの毛皮で合計は……290,800C(コイン)になりますが宜しいでしょうか?」


「……はい、それでよろしくお願いします」


 売却価格の明細メモを見せて貰いながらヴィンスは承諾して交渉は成立した。一角ウサギはアプロン王国領に生息していないためか角の価格はアーリル王国で売るよりも少し高く売れた。


「こちらが買い取り金額になります。それと冒険者カードをお返ししますね」


 受付嬢から金貨2枚銀貨9枚銅貨8枚が渡され冒険者カードも返却された。


「よし、換金も終わったし宿に戻って夕食を食べに行こうか」


「ええ、今日は戦闘ばかりだったからその分お腹もペコペコだわ!」


 一日歩き通しの上に10回以上の戦闘を経験したローザは疲れ切っていた。そしてそれ以上にお腹も空いていたのでヴィンスの提案に大喜びする。そんな彼女をヴィンスは苦笑いしながら見ていた。その視線に気づいたローザは少し恥ずかし気な表情をした後、誤魔化すかのように自ら率先して宿屋の方へ歩きだしヴィンスも慌てて付いて行く。


 その途中、ローザは先程の冒険者ギルトでのやり取りを思い出してヴィンスに尋ねる。


「そう言えばさっきの換金の時、ヴィンスは凄く真剣に相手のメモを見ていたわね?」


「ん?ああ、そうだね」


「……もしかしてだけど……騙される事あったりするの?」


「滅多にないみたいだけど、そういう事をする不届き者もいるって父上に聞いた事があったからさ。一応ね」


「ええ!?何よそれ……」


「昔父上達が旅に出た時、ある国で明らかに相場より低い価格を提示されたことが1度だけあったらしくてね」


 冒険者ギルドが騙すこともあると解釈して驚きの声を上げるローザ。正確にはギルドが騙したのではなく職員個人が騙してその差額を懐に入れようとしたのだが。


「それで……ラルフさん達はどうしたの?」


「その時はロベルトさんが大激怒したらしくて……詳細は聞いてないけど、相場よりも高い価格で買い取らせたって聞いたよ」


「へぇ、ロベルトさんも凄いのね……」


「そりゃ、大臣を務める人だからね」



 ちなみに当時の話だが、激怒したロベルトは担当した男性職員に買い取り価格の明細を出すように要求したが職員はそれを拒否した。次にロベルトは他の職員を連れてくるように要求しこれも拒否されると大声で「誰でもいいから他の職員来てくれ!」と叫んだ。

 慌てて飛んできた女性職員に状況を説明したロベルトと「そんなことはしていない」とこれを否定する男性職員。そこでロベルトは「だったらこれらの魔石と素材を合計幾らと鑑定した?」と男性職員に問いただすと途端に口ごもりだした。鑑定には相応の時間が掛かるのだが、この男性職員は最初から買い叩くつもりだったのでしっかり鑑定していなかったのをロベルトに見抜かれていたのだ。

 その結果この男性職員は詐欺未遂と断定されて警備隊に連行される事となった。ギルド長はレオン一行に謝罪し彼らもそれを受け入れ、お詫びと言う事で買い取り金額に色を付けてくれたのだった。



——————————



「美味しい!この宿は当たりね!」


「そう言ってくれると嬉しいよ。帰ったら父上に「ローザも気に入っていたよ」って伝えておくよ」


 宿に戻った2人は早速夕飯を食べる事にした。

 今日はローザを労う為にヴィンスは一番高い「料理人お任せコース」を注文すると、スープにサラダ、メインの肉料理とパンが運ばれてきた。特にローザはメインの肉料理を気に入ったみたいで幸せそうな顔で食べている。


「こういう生活が出来るのなら冒険者も悪くないと思っちゃうわね。勿論今の私じゃヴィンスに頼り切りだから1人ではとても出来ないけど」


「実際同じ考えを持っている人は多いんじゃないかな?ただ、冒険者は稼ぎが良い分、危険も多いけどね。それに実力のある冒険者でもそれなりに遠出しないと稼げる依頼や魔物も狩れないだろうから毎日が遊べるって訳でも無いだろうし」


「そう言われるとそうかぁ……やっぱり大変ね——うん、ご馳走さまでした!美味しかった~!」


「ご馳走さまでした!」


 食事に満足したローザとヴィンスはお金を払って料理屋を出た後、まずはヴィンスの部屋に2人共向かった。


「今日は取り敢えずこのまま休むとして、明日は1日掛けてアプロン王国を案内しようかと思っているんだけど」


「そうね、折角初めて来たんだから色々見て回りたいわ」


「よし、じゃあ明日もここで一泊して明後日出発でいいかな?」


「ええ、任せるわ」


「うん、じゃあお休み」


「お休みなさい」


 簡単な打ち合わせの後、ローザは自分の部屋に戻る。

 ヴィンスはお風呂に入った後すぐに寝る事にした。


 明日以降の予定が大幅に変わるなど知る由も無く——


※冒険者カード…基本的には冒険者ギルドで使用する物だが世界共通の身分証明書にもなる。ギルドの依頼の達成や回収した素材等をギルドに売るとポイントが蓄積し、一定のポイントになると昇格する。カードにはSS~Gまで9段階のランクが存在する。カードには本人の名前と出身地が記載されており、本人がカードに触ると薄く発光する仕組みになっている。


※下級魔石の売却価格は2,000C(コイン)/個


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