表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
18/61

第18話 洞窟を越える

※ヴィンスの癖…戦闘中は少し言葉遣いが荒くなる。

「おはよう、ローザ。しっかり眠れたかい?」


「ふぁ……おはよう、ヴィンス。昨日はごめんなさいね。でもおかげさまでよく眠れたわ」


 小さな欠伸をしながらローザは起きた。

 

 昨晩は焚き火の番をしながら魔法の練習に励んでいたローザだったが、思わず練習に励み過ぎてしまい、火の番の交代時間よりも前にMPは底を尽き掛けていた。

 本来なら大失態だが、ヴィンスはそのタイミングで「交代の時間だよ」と言って代わってあげたのだ。時間が早過ぎたのでローザも最初は断ったが結局はヴィンスに説得されて寝る事にしたのだった。


「うん、じゃあ朝食を食べたらすぐに出発しよう。洞窟内で何度か戦闘になると思うけど今日中にはアプロン王国に着くと思うから」


「分かったわ」


 そう言うと、ヴィンスはローザが起きる前に用意していたパンとスープを彼女に渡す。


「……美味しい。特にスープが身体(からだ)に染みるわ……」


 寝起きのせいかローザの声はまだ小さいが、しっかりスープをゆっくり味わいながら飲む。


「外で寝ると体温は特に下がりやすいからね。だから朝は温かい物が好ましいんだ」


 そう言いながらヴィンスもスープを口に入れる。

 ヴィンスの作ったスープは野菜だけで出汁を取った物に塩を入れただけであるが、これだけで十分美味しいのだ。これは騎士隊の野営訓練で何度か振舞っているが隊員からも好評だったものだ。勿論母親のシェリー直伝である。


「ご馳走さま、ヴィンス。今日も美味しかったわ」


「それはどういたしまして」


 ヴィンスが食器を片付け、ローザは火を消して出発の準備が完了する。


「よし、行こうか」


「ええ」


 2人は洞窟に向かって歩き始める。アーリル王国領とアプロン王国領を結ぶ『イミルの洞窟』は一本道なので迷う事は無いのだが、魔物が生息しているので決して安全な道ではない。

 特に魔物は洞窟の光が届かない場所で襲ってくることが多いので通行人にとって非常に厄介なのである。その理由は——


「ローザも使えるよね?」


「ええ、——えい!」


 ローザはそう言って光魔法Lv1『ライト』を唱えると2人の前方に光の玉が出現して周りを照らしてくれる。


「うん、お見事。僕が唱え直すからローザは消してくれていいよ」


「そうね、悪いけどお願いするわ……」


 ヴィンスも『ライト』を唱えるとローザは自分の『ライト』を消した。『ライト』は洞窟など光が無い所では必須になる松明の代用品と言える魔法であるが、常にMPを消費してしまう弱点がある。

 であれば松明の方がいいのではと考える者もいるが松明にも弱点はある。それは片手が塞がってしまう事だ。片手が塞がった状態で魔物に襲われてしまえば勿論苦しくなる。と言う事で、魔法を使えない者が洞窟を抜ける時は、松明担当と魔物の撃退担当と言った具合に集団で行動するのが推奨されているのだ。


「ごめんね。私のMPだとこの洞窟の長さでは持ちそうにないわ」


「まだ仕方ないよ。昨晩の様に魔法の練習を続けていればその内ローザのMPも増えていくだろうからさ」


「そうね……って、え?何で知ってるの?」


「え?何かおかしいこと言った?」


「だって、今「昨晩の魔法の練習」って……」


「……あ!」


 ローザにそこまで言われてやっとヴィンスは自身の失言に気付いた。彼女が内緒で魔法の練習をやっている事に気付いていないフリをするつもりだったのに、あっさり自分から「気付いていた」と言ったようなものだったからだ。


「だから昨晩はあんなに早く火の番を代わってくれたのね……気を遣わせて悪かったわ」


「いや……色々ごめん……」


「別にヴィンスが謝る必要はないわよ」


 申し訳無さそうにするヴィンスとは対照的に笑って答えるローザ。実際に彼が何か悪い事をした訳でもないから当然ではあるのだが。


「前から気になっていたんだけど……『ライト』って便利だけど、敵にもこっちの位置がばれたりしないの?」


「勿論ばれるよ。ただ、それは松明でも一緒だしね。あ、そうそう。物陰に隠れて術者を襲ってくる魔物や人間もいたりするから十分気を付けておいてね」


「魔物はともかく人間も!?」


「そうだよ。人間だって全員が善人じゃないからね。洞窟は盗賊が潜む絶好の場所だとも言える」


「……急に怖くなってきたわ……」


 ローザも十分警戒して歩いているつもりだったがその対象はあくまで魔物だけだった。しかしヴィンスから人間も対象であると聞かされると色々な意味で恐ろしくなってしまった。


「あ、あのね……例えばなんだけど……もしかしたら向こうから私達みたいな通行者とすれ違う可能性もあるじゃない?」


「可能性はあるだろうね」


「その通行者が実は盗賊で……すれ違いざま急に襲ってきたりする事もあるのかな……?」


「その可能性はゼロじゃないね」


「ひえぇ……」


 ヴィンスからの回答にローザは顔を青ざめる。そんな彼女をヴィンスは苦笑いしながら見ていた。


 非常に治安の良いアーリル王国で強盗事件などこの数年起きてはいない。それはホルンの村でも同様である。それが当たり前の環境に身を置いていれば、言い方は悪いが平和ボケしてしまっても決しておかしくはない。そんな中、騎士隊は滅多に起きない事件にも備えて非常に厳しい訓練を行っている。

 

 しかし他の国は決してそんな事は無い。実際、今向かっているアプロン王国の城下町は一部の区域で非常に治安が悪いのだ。


「ん、『索敵』に引っ掛かった……魔物が5匹かな」


「ま、魔物ね。分かったわ」


「基本的には僕が倒すけど、離れている敵にはローザからも援護を入れて欲しいな」


「了解よ」


 『ライト』の明かりが届く距離になった瞬間にまずは3匹のフライスコーピオンが飛んで来る。

 備えていたヴィンスの間合いに入ると右腕に持った槍で瞬時に刺突を繰り出す。槍に貫かれたフライスコーピオンはすぐさま落下した。2匹は絶命し、1匹はまだ息があるのか身体を痙攣させていたが、ヴィンスによる止めの一撃で痙攣は止まった。


「ローザ、まだ2匹いるから気を抜くなよ」


今度(・・)は大丈夫よ!」


 残っているのは毒を持つポイズンフロッガー2匹である。

 今度は魔法を準備していたローザから仕掛ける。彼女の杖から放たれた『ウインドカッター』がポイズンフロッガー1匹に襲い掛かった。昨夜の練習の成果が出たのか気持ち威力が上がっているようにヴィンスには見えた。ポイズンフロッガーの身体が切り刻まれながら吹っ飛ぶが、惜しくも一撃で倒す事は出来なかったようだ。

 

 残り1匹は怯まずに突っ込んでくるがヴィンスの敵ではない。落ち着いている彼はポイズンフロッガーの喉元に槍を突き刺して一撃で沈黙させる。その後、ヴィンスは弱っていた残り1匹にも止めを刺した。


「こんなもんだね。ローザお疲れ!」


「……一撃で倒せなかったわ……」


 ローザは自身が放った『ウインドカッター』一発で倒せなかった事に少なからずショックを受けている様だった。


「仕方ないよ。さっきのポイズンフロッガーは一角ウサギやお化けアリクイよりも生命力が高いからね。それに倒すことは出来なかったけど間違いなく威力は上がっていたよ」


「本当?そうだったら嬉しいけど……あとこの魔物はどう処理するの?」


「この魔物は魔石の回収だけにしておこう。それぞれの血に使い道があるんだけど回収するのに手間が掛かるからね」


 そう言うとヴィンスとローザは魔石のみ回収を始める。

 ちなみにフライスコーピオンは麻痺、ポイズンフロッガーは毒を持っているので、それぞれの血から解毒剤を作ることが出来るのだが手間を惜しんで放棄する事にした。


「よし、魔石も回収したしこのまま進もうか」


「ええ」



——————————



「この戦闘が終わればもうすぐ出口だ!ローザ頑張れ!」


「もうほとんどMPが残って無いわ!」


 2人はこれで7度目の戦闘に突入していた。しかも今度は両側から20匹以上に囲まれていた。

 ローザもヴィンスのおかげでMPを無駄遣いすることなく戦闘を行ってきたが、今回の戦闘では挟み撃ちを受けてしまいヴィンスだけに任せる訳にもいかなかった。魔物の数が多い出口側をヴィンスが、若干少ない入口側をローザが受け持っていたが何とか3匹を倒したところで、彼女のMPはほとんど残っていなかった。


 ヴィンスはローザが限界だと悟ると、手にしていた槍を地面に突き刺して剣に持ち替え同時に詠唱を始める。詠唱の時間稼ぎの為にヴィンスからは攻撃をせず襲い掛かってくる魔物を間合いギリギリまで引き付けては剣で迎撃する。そして詠唱が完成すると数が多いローザ側の魔物に向かって炎魔法Lv3『ファイアーストーム』を放つ。同じ炎魔法の『ファイアーボール』と違い強力で広範囲に放たれた炎は一気に魔物を飲み込んでいき、残ったのは魔物の骨と魔石のみだった。


「す、凄い……」


 思わずローザから感嘆の声が漏れる。属性が違うとはいえ自身の風魔法ではとても出せない威力だったからだ。


『ファイアーストーム』を目の当たりにして弱腰になった魔物は何匹か逃げ出した。残った魔物に対してヴィンスは槍を握り直して1匹ずつ倒していく。


「これで終わりだ!」


「グゴッ!」


 最後に残ったポイズンフロッガーに止めを刺して戦闘は終了した。


「今のは流石に数が多かったな……ローザ、大丈夫?」


「だ、大丈夫なんだけど……MPが残って無いから次に戦闘になったらもう何も出来ないわ」


「出口が見え掛けているからもう洞窟で戦闘になる事は無いと思うよ。取り敢えずさっさと出ようか」


「そうね、早くこの洞窟から出たいわ……」


 洞窟での戦闘に辟易していたローザは一刻も早くここから出たかったが疲労も大きく、ヴィンスからの問いかけに弱々しく答えた。

 

「それにしてもさっきの炎魔法凄かったわ。ヴィンスはあんなに強い魔法も使えたのね?」


「ああ、あれね。今僕が使える魔法では一番強いし広範囲に放てるから、さっきのように多数の敵を相手にするには重宝するだろうね」


「だったらもっと早く使ってくれれば良かったのに……」


 ローザは頬を膨らませながらヴィンスに不満を言う。ヴィンスも苦笑いしながら


「ごめんごめん。確かにさっきの戦闘ではもっと早く使うべきだったよ」


 とあっさり非を認めた。実はヴィンスも隊の訓練や王国領の魔物駆除でも先程の様な多数を相手にした経験は無かったので、少なからず焦ってしまった故の判断ミスである。


「ふう、やっと出口に辿り着いたわね」


「うん、ローザもよく頑張ったね。洞窟から出たら一度休憩しよう」


「是非そうして欲しいわ」


 こうして2人は無事イミルの洞窟を抜ける事が出来た。


※『イミルの洞窟』…アーリル王国領とアプロン王国領を結ぶ洞窟。一本道ではあるが魔物が生息しているので、戦闘力の無い者が通行する時は護衛を雇うのが通例となっている。


※光魔法Lv1『ライト』…光の玉で周囲を照らす。洞窟などで使うのが一般的な使い方。術者に追随させたり位置を固定したりする事も出来る。


※炎魔法Lv3『ファイアーストーム』…炎の嵐で広範囲の敵を攻撃する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ