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アーリル王国の騎士  作者: siryu
アプロン王国の章
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第16話 戦闘の心構え

 見送りに来てくれた人に向かって手を振りながら出発する2人。

 1人は黒髪に大柄ではあるがまだ少年の域を出ない若い男——ヴィンス・フランシス。

 もう1人は腰まで伸びた金髪に綺麗な顔立ちの少女——ローザ・マティス。


 彼らは城下町を出て街道を歩きながら今後の確認をしていた。


「まずはアーリル王国領を抜けるのよね?」


「そうだね、ホルンの村からかなり先にアーリル王国領と『アプロン王国領』を結ぶ洞窟があるからそこを目指すことになるね」


 質問するローザに、ヴィンスは父親のラルフから預かった世界地図を見せながら説明する。


「この時間だとホルンの村に着くあたりで夕方に差し掛かるけど……どうするの?」


「う~ん、そのまま進んで途中で野営するのも手だけど……今日は泊まろうか?」


「うん!そうしてくれると嬉しい!」


 ヴィンスがホルンの村に泊まると決めた瞬間、ローザは素晴らしい笑顔で喜んだ。元々ヴィンスは時間的に考えて村に泊まるつもりだったし、旅の初日くらいはローザにあまり無理をさせたくは無かった。

 そして出来れば彼女の母親であるアンナに挨拶をしておきたかったのだ。


「それにしても街道って本当に魔物が出ないのね。この前の森では魔物の群れに襲われたのに」


「父上に聞いた話だけど、他の王国領では街道でも魔物はそれなりに現れるって話だし、そもそも街道が整備されていない国も結構多いらしい。だからその認識はあくまでアーリル王国領だけと考えておいた方がいいよ」


 アーリル王国領では街道で魔物が襲ってくる事は滅多にない。その理由として、生息している魔物の強さが大したこと無く、更に視界が開けているので不意打ちも出来ないからと考えられている。裏を返せば不意打ちが出来る森の中などでは襲われると言う事だが……。


「だから今後の事を考えて、村に着いたらまずはこの前の森に入ろう」


「え?わざわざどうして?」


「僕はともかく、ローザは実戦経験が少なすぎる。それに魔物を倒した後の事も覚えてもらう必要があるしね」


「魔物を倒した後の事……そういうことね、出来ればやりたくないけどそう言う訳にもいかないのよね……」


 ローザはヴィンスの意図を理解すると思わず顔を顰めてしまう。


 ヴィンスの言う「魔物を倒した後の事」とは魔石と素材の回収の事である。魔石は品質が下級の物でも燃料として使えるので売ればお金になるし、素材も様々な用途に使用されるので同様に売ることが出来る。

 先日森で襲われた時は子供の救出が最優先だったので一切回収せずに帰ったが、旅を続けるには資金が必要なので回収しない訳にはいかないのだ。


「まぁまぁ、そんな嫌な顔しないで。ほら、この前遭遇した一角ウサギの肉は塩を振って焼いて食べたら美味しいよ。ローザだって食べたことあるだろう?」


「ええ……あれは確かに美味しいわ……」


「だろう?村に着いたら一狩りして、アンナさんと一緒に夕飯で食べよう」


「……そうね、そう考えたら少しはやる気が出てきたわ」


 最初は嫌がっていたローザに対して「食欲」と「母親」を利用することで上手く説得したヴィンス。ローザはまさかヴィンスがスキル『交渉』を使ったとは夢にも思わなかっただろう。


 魔物にも遭遇しなかったのですんなりとホルンの村に辿り着いた。2人はまずアンナに会いに行く。


「お帰りなさい、ローザ。それにヴィンス君も。この様子だと上手くいったみたいね」


「お母さん、ただいま!」


「お邪魔します、アンナさん。アンナさんにはいろいろやられましたよ」


「あら?何の事かしら?うふふ」


 白々しい反応をするアンナに対して思わずヴィンスは苦笑いをして話を続ける。


「……まぁ、そういう事にしておきましょう。僕とローザは今日ここで一泊させて貰いたいのですがいいですか?」


「それは勿論よ。今日くらいはゆっくりしていってね」


「ありがとうございます。あとでゆっくり話はしますが、とりあえず今からローザと森に行ってきます。夕飯には戻ってきますので」


「あら?そうなの?」


「うん、今からヴィンスと一緒に狩りに行ってくるわ」


「そういうことね?じゃあ気を付けて行ってらっしゃい」


「「はい、行ってきます」」


 狩りに行くことをアンナに伝えた2人は家を出て森へ向かった。

 

 ヴィンスは鎧を着込んだ状態で右手に剣を左手に盾を装備し、ローザはローブを身に纏って右手には杖を持っていた。

 

「ローザ、分かっているかもしれないけど一応説明しておくよ。森みたいに視界の悪い所は不意打ちを受けやすいから注意が必要だ。今日はもう陽が沈み出しているから尚更だけど」


「そうね、先日のあの子達も魔物に囲まれていたのは全く気付かなかったって言っていたわ」


「うん、だからこういう時に重宝するスキルが『索敵』なんだ」


 ヴィンスはそういうとスキル『索敵』を使用する。ヴィンスの『索敵』はLv1なので範囲は広くないがそれでも数匹の魔物の気配が引っ掛かった。


「こっちに一角ウサギらしき気配が3匹いるよ。ローザいける?」


「やってみるわ」


 ヴィンスが気配を感じた方向に剣を向けると、ローザはその方向に杖を向けて風魔法『ウインドカッター』を放つ。


「ギャァ!!」


(気配が1匹消えたな……残り2匹はどう出るかな……?)


 ローザの放った『ウインドカッター』は1匹に直撃して死んだ。残り2匹の内1匹は逃げ出したが、もう1匹はこちらに向かってきている。


「ローザ!1匹こっちに向かって来るぞ!」


「ちょ、ちょっと詠唱が間に合わ——」


「ちっ!」


「きゃっ!?」


 ローザの魔法が間に合わないと判断したヴィンスは舌打ちをしながら一気に距離を縮め、一撃で一角ウサギの首を刎ねた。一角ウサギの顔がローザの方に転がってしまい、彼女は思わず小さな悲鳴を上げてしまった。


「ふう、大丈夫かい?ローザ」


「だ、大丈夫だけど……うぇぇ……」


「どうせ食べる為に血抜きするんだから。これくらいで狼狽えていると、この先の旅なんかとても無理だよ?」


「わ、分かってはいるけど心の準備というものが……」


 ローザは言い訳しながらも血抜き作業をするヴィンスを手伝った。彼の言う通り、この程度で弱ってしまうくらいなら到底旅など続けられる訳が無い。


「あとは魔石の回収と、素材の剥ぎ取りだね。一角ウサギの場合は角と毛皮がそれなりの値で売れるから。肉は予定通り今晩のおかずで」


「……やり方が分からないから教えて貰ってもいい?」


「勿論教えるよ。まずは——」


 ヴィンスが教えながらローザは手を動かす。ヴィンスは魔物駆除任務で何度も同じことをやっていることもあってとても手際が良い。ローザも最初は顔を遠ざけながらやっていたが、2匹目の時には大分慣れてきた。


「うん、思ったより物覚えが良くて安心したよ。ほら、女の子には結構きつい作業だからね」


「勿論きついわよ!でも……ヴィンスに頼り過ぎる訳にもいかないし……」


「そうか……よし!そろそろ終わりそうだから次の獲物を探そうか」


 旅に向けてローザも良い心構えになってきたことにヴィンスは満足する。そしてローザの熱が冷めない内にヴィンスは次を狙おうとした途端、彼女は表情を曇らせる。


「え?2匹もあれば十分じゃない?」


「いやいや、食糧的には十分だけど元々はローザの戦闘技術を上げるのが目的だからね?」


「そう言えばそうだったわ……」


「さっきの戦闘で分かったのはローザの魔法は威力と連射能力が低いって事だ」


「え?連射は分かるけど威力も?『ウインドカッター』の威力ってこんなものじゃないの?」


「今のローザの魔力ならね。扱える魔力がもっと増えれば同じ魔法でも威力は上がるよ」


「それはそうでしょうけど……」


「実際、僕の『ウインドカッター』だったらさっきは1発で3匹倒せていたよ」


「え?そこまで差が出るの!?」


「うん。ただ、焦ったところですぐに魔力を増やす方法は無いからさ。そこは戦術で補おう」


「でも私にはまだ連射も難しいわ」


「そうだね、でもさっきの場合だったら……2発目の魔法を間に合わせる方法はあったと思うよ」


「え?そんな方法あったかしら……?」


 今以上に詠唱速度を上げる事が出来ないローザは最初から思考放棄していたが、ヴィンスはそれを補えると言う。実戦経験の少ないローザには思いつかなかった。


「じゃあ質問。さっき1発目を放った後ローザはどうしていた?」


「どうって……あ!」


「うん、何もしてなかったよね?一角ウサギは3匹いる(・・・・)って教えたのに」


「うう……」


 ローザはとにかく速く(・・)詠唱する事ばかり考えていたので思いつかなかったが、話はもっとシンプルだ。速く(・・)詠唱出来ないのであれば早く(・・)始動すればいいだけの話だからである。


「でも……私はヴィンスの様に『索敵』を使えないから残り2匹がどうなっていたか分からなかったし……」


「それはどうかな? 少なくとも一角ウサギの声で1匹しか倒せていなかったのはローザでも気付けたんじゃない?」


「!!」


 出来ればローザにはこれ以上言い訳をして欲しくなかったヴィンスであったが、残念ながらそうならなかったので思わず少し苛立たし気に反論した。ヴィンスからの当然の指摘にローザはギクッとした。

結果として1匹は逃げ出していたが、残った魔物が襲い掛かってくると想定して行動しなければいけないのだから。


「勿論ローザが何も考えていないと思っている訳じゃないよ。詠唱を始めればMPも消費しちゃからね。でもね、さっきの場合は3匹ともローザに任せていたからさ。敵が全滅するか逃げ出したりしたかを確認出来ていない限りは戦闘態勢を解いて欲しく無かったんだよ。君の場合は接近戦になれば一気に苦しくなるんだからさ……」


「……ごめんなさい……」


 もう、ローザも分かってくれていると思ったヴィンスは優しく言った。

ローザも自分の考えが甘かった事を再認識して思わず涙を浮かべていた。


「分かってくれたらもういいよ。じゃあ次行こうか!」


「……うん!」


 気を取り直したローザはヴィンスの声に元気に反応した。

 その後は、ヴィンスの手を借りながらも合計で一角ウサギ9匹とお化けアリクイを5匹倒した。


※スキル『交渉』…交渉事を有利に運びやすくする。


※スキル『索敵』…周囲の気配を探る。スキルLvが上がれば範囲も拡大する。


※『アプロン王国』…アーリル王国の隣の国


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