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アーリル王国の騎士  作者: siryu
旅立ちの章
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第14話 ローザの決断 前編

「ヴィンス、準備は大丈夫か?」


「はい、エリック副隊長」


 ヴィンスがホルンの村に行って帰って来てから6日目、旅に出るのは明日である。

 旅に備える為のアイテムの準備も終わったので今日は同僚の騎士隊員に挨拶回りをしていた。


(隊長が私に確認したのはこの事だったんだな……)


 数日前は意味の分からない事をラルフが言っていたとエリックは思っていたが、今になればあれはこの旅に関係していたのは明白だった。


(隊長達も昔は旅に出たというが当時は4人だった……しかし、今回のヴィンスはたった1人だぞ……本当に大丈夫なのか?)


 エリックが不安に思うのも仕方が無かった。

 確かにヴィンスは強い。しかし、いくら強くても単独では限界がある。

 単独では野営中もなかなか寝ることが出来ないであろう。常に気を張らなければいけない旅でそんな事をしていれば体が持つ訳が無い。


(今からでも止めるべきでは……いや、それとも私も共に行くと進言するべきか)


 エリックは自分も一緒に行けば何とかなるのではと考えた。エリックは急いで隊長のラルフの所へ行こうとするが……


「エリック副隊長、大丈夫ですから」


「!?」


 ヴィンスに何か喋った訳でもないのに止められてしまい、エリックは動揺した。


「な、何が大丈夫なんだ?そもそも私が何をしようとしたのか分かるのか?」


「大方、父上の所に行って僕の旅について反対するか……もしかしたら副隊長も一緒に行くと進言するのかなと思ったんですが違いますか?」


「……何故分かった……?」


「顔に書いてありますよ」


 実際エリックが考え込んでいた時、彼は微妙にではあるが様々な表情をしていた。また、ヴィンスが入隊して以降も何かとヴィンスの事を気に掛けていてくれたので、今回も自分の事を心配してくれているというのはすぐに分かったのだ。


「そうか……だったら隠しても仕方あるまい。確かにまずは反対しようとした。しかし、今回の目的にはアルフレッド殿の事も含まれている。となると計画自体を中止にする訳にもいかないと考え直した。であればやはり私も行くしか」


「いえ、そういう訳にもいきません」


「何故だ!?」


「今回の旅は最低でも1年以上は掛かると思います。そのような旅に家族をお持ちの副隊長を連れて行くのは……その……」


「……!! そうか、そういうことか……」


「はい……」


 そこまでヴィンスが言うとエリックは彼が何を言いたかったのかすぐに理解した。ヴィンスは第2のアルフレッドを作りたくなかったのだ。

 ヴィンスはアルフレッドの娘で幼馴染のローザをずっと見てきた。便りが届かなくなってからの彼女を見るのは本当に辛かった程だ。

 今回の旅も無事に帰って来られる保証は無い。そんな旅に家族のいるエリックが加われば、彼の家族をローザと同じような目に遭わせてしまうかもしれない。それはヴィンスにとっても耐えられない事なのだ。


「ですので副隊長も行くと言うのであれば僕は全力で反対します」


「そうか……それは分かった。しかしな、やはり1人で行かせるのは……」


 そこまで言われたエリックはこれ以上自分も行く(・・・・・)とは言わなくなった。しかしこのままではヴィンスが単独で行くことの危険性は解決されていないので食い下がるが


「多分なんとかなりますよ。実際1人で行ったアルフレッドさんも1年間は問題無かったようですし」


「そうかも知れんが……そうだとしても流石に楽観視過ぎると思うんだが……」


 エリックが心配している点は多分何とかなるとヴィンスはこの数日で思うようになっていた。それは決して自分の事を過信する訳では無く、別の理由からであった。



——次の日——



「それでは陛下!行って参ります!」


「うむ、くれぐれも気を付けて行ってくれ」


 遂に出発の日となった。城では国王のレオン以下、隊長のラルフを始めとした騎士隊員に大臣のロベルトや手の空いていた役人達も見送りに加わっていた。その中には幼馴染のアーヴィンもいる。


「ヴィンス、気を付けてな」


「はい!父上」


「絶対無事に帰って来いよ!」


「ああ、アーヴィン」


 父親のラルフや幼馴染のアーヴィンなど色々な人が声を掛けてくれている中、ヴィンスに近づいてくる人がいた。

 彼女(・・)の事を知るアーヴィンやロベルトは思わず「あっ!!」と声を漏らした。


「……ヴィンス……」


「……遅かったじゃないか、ローザ」


「ヴィンス、あのね」


 ヴィンスの前に現れたのはホルンの村にいるはずの幼馴染ローザであった。

 彼女はヴィンスに何か話そうとするがヴィンスはそれを遮るように言う。


「僕と一緒に行ってくれるかい?」


「ええ、こちらこそよろしくお願いするわ」


『ええ!?』


「「……」」


 ヴィンスがローザを誘い、ローザもそれを受けたことで周りは驚きに包まれた。

 大臣のロベルトやその息子のアーヴィンですら驚いている。

 この場で驚かなかったのは国王レオンと騎士隊長のラルフだけであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


——一週間前——


「そうか……アンナさんはそう言って(・・・・・)いたか」


「はい」


 ホルンの村から帰って来た日、ヴィンスは村を出る前にアンナから言われた事をラルフに伝えていた。

 その内容は「もしローザが一緒に行きたいと言ったらその時は連れて行ってあげて」であった。


 もしそうなった場合どうすればよいか判断がつかなかったヴィンスは取り敢えずラルフに伝えたのだ。


「これは陛下にも相談する必要があるが……個人的には一緒に行けば良いと俺は思っている」


「え!?」


「ん?意外か?」


「はい、正直意外でした」


 きっとラルフは止めると想像していたヴィンスだったのだが、予想に反して賛成だったのでヴィンスは驚いていた。


「まず、お前に聞いておきたいことがある。もしお前があの子と同じ立場だったらどうする?」


「あの子とはローザの事ですね?」


「うむ」


「そうですね……自分も探しに行こうと考えます」


「そうだろうな。そして今日起きた出来事を聞く限りだと恐らくあの子もそう言うぞ」


「今日の出来事……そうか、なるほど……」


 今日の出来事とは、村に住んでいる兄妹を捜索する為に危険も顧みず単独で森に入った事を指している。

 勿論旅の危険度は森での捜索とは比べ物にもならないが、今回はヴィンスという腕利きもいるのだ。であれば自分も行くと言い出しても不思議ではないとラルフは言いたいのであろう。そしてその考えにヴィンスも思わず納得した。


「それにあの子は5年も待ち続けたんだ。それを誰が止められるというのだ?」


「それは……」


「だからな、もしあの子が望むのであれば俺はそれを叶えてあげたいと思うのだ」


「しかし、一緒に行けばローザも危険な目に……」


「それはお前がカバーしてやって欲しい。それにな」


「それに?」


「あの子はアルの娘だぞ。今はまだまだかもしれないが、旅を続けていけばきっとお前でも驚くほど伸びると俺は踏んでいるぞ」


「それは……あるかもしれません」


 ローザが伸びると確信しているラルフはニヤッと笑いながらヴィンスに告げる。そしてその考えは決して根拠のないものではないとヴィンスも気付いていた。

 昔の話になるが、ヴィンスとローザが同時に魔力制御の練習を始めた時、先に出来るようになったのはローザだったからだ。ヴィンスも次の日には出来ており、日数的には十分ヴィンスも優秀だったのだが、魔法に関してはローザの素質はヴィンスよりも上回っていたと言える。

 この数年はローザが練習をしていなかったので今はヴィンスの方が上だが、彼女が練習を再開したらどうなるかは分からないとヴィンスは思っていた。


「まぁ、これ以上はここで言ってもどうしようもない。明日もう一度一緒に陛下の所に行こう」


「はい、分かりました」


「ああ、あとな。この件は他の人には言うなよ」


「分かりました」


 ラルフと段取りを決めたヴィンスは次の日、ラルフと共にレオンに報告に行った。

 そしてレオンの下した決断は——


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