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アーリル王国の騎士  作者: siryu
旅立ちの章
13/61

第13話 ローザへ会いに 後編

 バチン!


「!!」


 家に着いた2人は扉を開けるとそこにはローザの母親アンナが待ち受けていた。そのアンナはローザの顔を見るといきなり頬に平手打ちをした。


「ローザ!どうして一人で森に入ったのよ!!」


「ご、ごめんなさい……」


「ア、アンナさん、ローザを心配していたのは分かりますがもうその辺で……」


「ちょっとヴィンス君は黙ってて!!」


「は、はい!!」


「いい?結果無事だったから良かったものの、もしヴィンス君が見つけてくれなかったらあなた(・・・)まで……そうなったら私は……!」


「ごめんなさい!お母さんごめんなさい!!」


「……」


 そう言うと2人は泣きながら抱き合った。まるで先程の親子達を見ている様である。いや、親子だからこそ親は子を心配して涙を流せるのだろうとヴィンスは思った。

 ちなみに森では「少しくらいアンナさんに叱られた方が良い」と思っていたヴィンスであったが、想像以上なアンナの凄まじい剣幕に実質騎士隊№2の実力を持つヴィンスですら思わず怯んだ程である。恐らくラルフですら怯むに違いないと変な確信をするヴィンスであった。


「ぐすっ、あ、ヴィンス君ごめんなさいね。みっともない所を見せちゃって」


「い、いえ!」


 涙を拭いながら謝るアンナと気まずそうに視線を外すヴィンス。


「そういえば今日は何でヴィンス君がこの村にいたの?」


「私も同じ事聞いたんだけど……私とお母さんに話があって来たんだって」


「実はそうなんです。ちょっとお時間を取らせますが良いですか?」


「まぁ、そうなの?だったらお茶を用意するから少し待っててね」


「あ、お構いなく……」


 そういうとお茶を用意しに台所に向かうアンナ。


「じゃあ、ヴィンス。こっちに座って待っていましょう」


「うん、ありがとう」


 案内された居間の椅子に座るヴィンスとローザ。


「こうやって話すのも随分久しぶりな気がするわ。どれくらいかしら?」


「そうだね、ゆっくり話すのは2年振りかな……」


「2年……ああ、ヴィンスが入隊試験に合格したのを知らせに来てくれた時ね!」


「うん」


「そっかぁ、あれから2年も経ったのね。ヴィンスも凄く強くなるわけよね」


「どうだろうね、父上の背中はまだ見えてない気がするけど」


「そんな事無いんじゃない?だってさっき森でやったのって『威圧』でしょ?あれって相当凄くないと出来ないってお父さん言っていたわよ?」


「へぇ、よく分かったね。『威圧』を使えるようになったのは数か月前だったかな……?」


 アンナが来るまで他愛もない話をする。ちなみに『威圧』を使えるのは王国騎士隊の中ではラルフとアルフレッド、そしてヴィンスだけである。副隊長のエリックですらまだ完全には使いこなせていない。それ程習得するには難易度が高いスキルなのである。


 そんなことを話しているうちにアンナがお茶を運んでやってきた。


「お待たせしてごめんなさいね。はい、ヴィンス君」


「アンナさん、ありがとうございます」


 お客であるヴィンスへ先にお茶を渡すアンナ。その後、ローザと自分の所にお茶を置いた。


「それでヴィンス君。お話って何かしら?」


「はい、実は……私事ですが、一週間後を目途に僕は陛下の命令で修行の旅(・・・・)に出る事になりました」


「「!!」」


 ヴィンスの告白に声も出さず驚く2人。2人が「修行の旅」と聞いた瞬間に想像した事は間違いなくアルフレッドの事だろうとヴィンスは容易に想像が出来た。


「以前父上やアルフレッドさん同様に諸国を巡って勉強したり王国領では遭遇しない魔物の討伐をしたりすることが目的になります。そして(・・・)……」


 淡々と話すヴィンスの言葉を黙って聞く2人。ヴィンスが「そして」と言った時、微かに2人は反応したようにヴィンスには見えた。


「同時にアルフレッドさんの捜索もします!」


「「!!」」


 先程よりも少し強めの声を出したヴィンス。そして今度ははっきりと反応を示した2人。


「陛下を始め、ロベルトさんや僕の父は片時もアルフレッドさんの事を忘れたことはありません!僕が今日伝えに来た話は以上です!」


 そう言うと立ち上がって勢いよく頭を下げるヴィンス。そのヴィンスを見ながら目に涙を溜めたローザは凄い勢いで居間を出て自分の部屋に閉じ籠ってしまった。アンナも少し目に涙を溜めていたがローザよりは冷静だった。


「うん……ヴィンス君、わざわざそれを伝えに来てくれてありがとうね。それと……1つだけお願いしてもいいかしら?」


「……はい、何でしょうか?」


「ローザの部屋に行って貰えないかしら?私が行ってもいいんだけど……それでも今あの子に必要なのは私じゃなくてヴィンス君のような気がするのよ」


「……分かりました!」


 そう言って承諾したヴィンスはローザを追いかけるため、アンナに一礼をしてから居間を後にした。

1人になったアンナは、まだ本人が(・・・)入った事のないアルフレッドの部屋に入り静かに泣いていた。




「ローザ……」


「ヴィンス……ヴィンス!!」


 ローザの部屋に入ったヴィンスはローザに話し掛けると、ローザはヴィンスの胸に飛び込んで激しく泣き始めた。今は何も言わない方が良いと判断したヴィンスは黙ってローザを受け入れて自身の右手を彼女の後頭部に添えた。


 ローザは落ち着くと自分からヴィンスから離れた。


「取り乱してごめんね……」


「仕方ないよ。もし自分が同じ立場だったらやっぱりね……」


 恥ずかしくなったローザはヴィンスに謝るが、ヴィンスも彼女の気持ちが十分に分かるので全く気にしていなかった。


「そっか……そうね……ヴィンス、ありがとう」


「ううん」


 やっと笑顔に戻ったローザは心からヴィンスにお礼を言った。




「それでは僕は帰ります。お邪魔しました」


「今からだとかなり遅くになると思うけど……気を付けて帰ってね」


「お母さん、ヴィンスなら大丈夫よ」


 夕方になる頃、ヴィンスはマティス家を後にしようとしていた。ローザとアンナも見送りに家の外まで出ていた。


「あ、そうだ!ヴィンス君。ちょっといい?」


「はい、何でしょう?」


 何かを思いついたかのような反応をしたアンナがヴィンスに近寄ると何やら耳打ちをする。


「……(ぼそぼそ(・・・・))」


「……!! しかしそれは……!」


「?」


 ローザには聞こえないように小さい声だったが、それを聞いたヴィンスは思わず大きな声で反応してしまった。


「もしも、もしもだからね。その時はどうかお願いするわ」


「でもそうなると僕だけでは判断する事は出来ません!」


「その時は陛下に判断を仰げばいいわ。ただ、出来ればヴィンス君からも口添えしてくれると嬉しいわ」


「……保証は出来ませんが……」


「今はそれでいいわ」


「ねえ、何を話しているの?」


「何でもないわ。さぁ、ヴィンス君もそろそろ行きなさい」


「そうですね……それでは失礼します!」


「ええ……?何よ、それ……?」


 2人の内緒話に業を煮やしたのかローザが割って入ってきた。これ以上追及されるとヴィンスが口を割るかもしれないと危惧したアンナはすぐにヴィンスをこの場から離させようとした。意図を察したヴィンスは追及を逃れるため急いで村を出て行ったのだった。




「ヴィンス!今何時だと思ってるの!」


「す、すみません!母上!」


「お前……村を往復するのに時間掛かるんだから、一度家に戻ってから行けば母さんもこんなに心配しなかったのに……」


 ヴィンスは城から直接ホルンの村に行った事に母親のシェリーは知らなかった。その為いつもなら帰ってくる時間にヴィンスが帰って来ずシェリーはずっと心配していたのだ。  

 そしていつもヴィンスより遅く帰ってくるラルフが先に帰って来たので慌ててラルフに相談した。ラルフはてっきり自宅に寄ってから村に向かうと思い込んでいたので、「自宅に寄ってから行け」とわざわざ指示はしなかったのだ。

 心配しているシェリーに事情を説明すると彼女も大分落ち着きを取り戻したが次第に「遅くなるのなら何故伝えずに村に行ったのか」と怒りが湧いたのだった。


「もう……でも、無事に帰って来て安心したわ。さあ、早く夕飯を食べなさい」


「は、はい。母上」


「ん?ちょっと待て!それだけで終わりなのか!?」


「え?何が?」


「お前……俺が無断で遅くなったら平気で夕飯や次の日の朝食作ってくれないじゃないか!何でヴィンスはあれだけで許されるんだよ!」


「それを言うの……? あなたは!何度もやるから怒るのよ!ヴィンスは今日が初めてだからよ!その違いも分からないの!?」


「ぐ、ぐぬぬ……!」


(……ごめんなさい、父上……)


 自分の時とは違う甘い裁定に不満を漏らしたラルフだったが、根拠があって裁定を下したシェリーは堂々と反論した。元々は自分が遅くなったことが口論のきっかけだと分かっているヴィンスは、言い返せないラルフを見て心の中で謝りながらひっそりと夕飯を食べる事にしたのだった。


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