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アーリル王国の騎士  作者: siryu
旅立ちの章
12/61

第12話 ローザへ会いに 中編

「きゃっ!」


「おねえさん!?」


「だ、大丈夫よ。このくらい!」


 木製の杖を構えたローザに一角ウサギが角を向けて飛び掛かって来た。何とか杖で受け止めたローザであったが、一角ウサギの衝撃が思ったより強くてバランスを崩したのだ。他の一角ウサギも飛び掛かって来たが今度はバランスを崩さずに受け止めた。これなら何とかなるかも知れないと思ったローザだったが甘かった。今度は一角ウサギよりも巨体のお化けアリクイが奇声を出しながら突撃して来たのだ。


(私が避けたらこの子達が……受け止めるしかない!)


 ローザは杖を両手で構え直してお化けアリクイの突撃を受け止めるが、衝撃に耐えられず杖は折れてしまいローザは突撃を正面から受けてしまった。


「きゃあー!!」


「おねえーさーん!!」


 犠牲になった杖のおかげである程度の衝撃は緩和されていたが、それでもローザを吹き飛ばされた。何とか起き上がったローザだが目の前に映ったのは今にも兄妹が魔物に襲われようとしている光景であった。


「うわーん!!」


(駄目っ!『ウインドカッター』を放とうとしても今からじゃ詠唱が間に合わない!)


 後の治療の為にMPを温存していたローザの戦法が裏目に出た。

 最悪の結末を予想してしまったローザは思わず泣きそうになるが……ここから予想外な事が起きた。

急に魔物が動かなくなったのだ。正確に表現するなら動こうとしても上手く動けない様子であった。


(これは……昔お父さんに見せて貰った事がある……確か『威圧』よ!)


 ローザの想像通り、魔物の群れはある人間(・・・・)が発動した『威圧』を受けて動けなくなったのだ。問題は誰が(・・)発動したのかという事だが……


(『威圧』はかなりの手練れじゃないと使えないって言っていたわ。お父さんを除けば……ラルフさん?)


 ローザはラルフが駆けつけてくれたのかと想像した。

 そして走って近づいて来たのは……ラルフに近いくらい大柄ではあるがもっと若く、そして……3年前までは毎日のように顔を合わせていた幼馴染であった。


「3人共大丈夫か!?」


「ヴィンス!?ヴィンスなのね!?」


「ああ!」


 ヴィンスの顔を見た瞬間、ローザは張り詰めていた緊張が解けたのか思わず座り込んでしまった。

 ヴィンスは兄妹達の所まで来ると「10秒だけ目を閉じてくれないかな」と頼んだ。

 兄弟は言われた通り10秒目を閉じてから目を開けると、先程の魔物達は全部絶命していた。たった10秒で変わり果てた光景に兄妹は驚きを隠せなかった。


「うん、もう大丈夫だ!君達よく頑張ったな!」


「「う、う、うわーん!!怖かったよー!!」」


 恐怖から解放された兄妹はヴィンスに頭を撫でられながら泣き叫んだ。そこへふらつきながらローザが歩いてきた。


「ヴィンス……ありがとう」


「ローザも無事で良かったよ。森を捜索するのであれば駐在の騎士と一緒に探すべきだったとは思うけどね」


「……子供達とは違って私には厳しいのね……」


「そりゃ、ローザは成人なんだから同じ対応をする訳無いだろう?」


「……いじわる」


「何とでも言ってくれ。後でアンナさんにもしっかり報告しておくから」


「えぇ……? 久しぶりに会ったヴィンスはやたら厳しいわ……」


 てっきり自分にも優しい言葉を掛けてくれると期待していたローザだったが、意外にもヴィンスが厳しい指摘をしてくる事に戸惑いを隠せなかった。

 ヴィンスも意地悪で厳しい事を言っている訳では無い。寧ろヴィンスにとって大事なローザだからこそもっと慎重な行動を取って欲しくて心を鬼にして言っているのだ。


「あとは……治療もしなきゃいけないね」


「そうね、その子は私が治療するわ」


「いや、僕がやろう。ローザはMPがほとんど残ってないんだろう?」


 そういうとヴィンスはジャンの患部を見ながら『ヒール』を唱えた。ローザが回復していたおかげもあって『ヒール』で十分だと判断した為だ。


「これでもうこの子は大丈夫だろう。次は……ローザの番だね」


「え?私は大丈夫よ……」


「無理しちゃ駄目だよ。呼吸もし難い様だし、肋骨あたりに攻撃を受けたんじゃないのかい?」


「……よく分かるのね……」


「伊達に騎士隊に入隊してから2年も経ってないよ」


 先程から厳しいヴィンスにこれ以上小言を言われたくなかったローザは、怪我を隠して後から自分で治そうとしたがヴィンスには見抜かれていた。


「ちょっと肋骨触るよ」


「痛っ!」


「ああ、これは多分(ひび)が入っているだろうね。よく我慢したものだよ」


 杖で半分防いだとは言え、体の軽い女性がまともに受けたのだから無事で済むはずがない。ローザは魔法が使えるとは言え体の強さだけなら一般人とほとんど変わらないのだから尚更である。


「ちょっと強めに掛けておくか……」


「……え!?これってもしかして『ハイヒール』!?」


「そうだよ」


 ローザが驚いたのも無理は無い。ヴィンスが唱えたのは回復魔法Lv3『ハイヒール』で、本職のローザですらまだ使えない魔法だったからだ。


「ヴィンスはどんどん強くなっていくのね。私と全然違うわ」


「……9年前からずっと練習(・・・・・)しているからね……」


「……!!」


 ローザがショックを受けるであろう事は分かった上でヴィンスはわざと言った。

 

ヴィンスとローザは同じタイミングで魔法の練習を始めた。師匠はローザの父であるアルフレッドだ。剣や槍ほどではないが、ヴィンスは魔法の練習にも熱心だった。ローザもヴィンスと一緒に練習していた。アルフレッドがいなくなるまでは。

 アルフレッドがいなくなってからローザは魔法の練習に身が入らなくなり、1年後には一切練習をしなくなっていたのだ。それでもそれまでに覚えた魔法は今でも使える。

 しかし、ヴィンスはアルフレッドがいなくなってからもずっと練習をしてきた。ローザが練習に付き合わなくなってもずっと続けてきた。


(僕まで魔法の練習を辞めたらアルフレッドさんはきっと悲しむ)


 そう考えているヴィンスは、アルフレッドに再会したらまずは魔法の腕前を見て貰おうと密かに計画している程だった。


「そうよね……ヴィンスは私と違ってずっと続けてきたのね……私は一体何をしてきたのかしら……」


「……難しく考える必要なんて無いんじゃないかな?」


「え?」


「言葉のままだよ。それこそ魔法で僕に置いてかれていると思うのなら、負けないよう練習を再開するだけでいい。それだけだよ」


「……」


「うん、ローザの治療も終わったしそろそろ帰ろう。村の皆も心配しているだろうからね。僕は男の子を背負うからローザは女の子の方をお願い出来るかな?」


「大丈夫だよ、おにいちゃん。もう歩けるから!メルも大丈夫だよな?」


「うん、おにいさんもローザおねえさんありがとう!」


「よし、じゃあ行こうか」


「……ええ」




 4人が森から帰ってくると村では歓喜の声に包まれた。兄妹の両親が駆け寄ってくる。


「お前達は!お前達は……本当に無事で良かった……!!」


 安否を心配していた兄妹の父親は説教も後回しに涙を流しなら兄妹を抱きしめていた。


「ローザちゃん、そして騎士様。本当にありがとうございました……!!」


 母親はローザとヴィンスにお礼を言った後、父親同様に兄妹を抱きしめる。


「「ごめんなさい!ごめんなさい!」」


 兄妹も十分に反省しているのだろう。泣きながら謝っていた。

 この親子達を見ながらヴィンスはローザに話しかける。


「ローザには謝らないといけないかな」


「急にどうしたの?」


「いや、さっきは単身で森に入ったことを咎めたけどさ。ローザがそうしてなければあの子達は助かって無かったかもしれないと思うとね」


「でもヴィンスの指摘はもっともだと私は今でも思っているわよ?」


 客観的に考えれば森の中でヴィンスが指摘した内容は正しい。しかし、ローザはその手間すら惜しいと考えて単身で森へ捜索に出た気持ちもヴィンスには分かっている。

 そしてヴィンスがそもそもこの村に来た理由はローザにあること(・・・・)を伝えるためだ。その内容が先程の兄妹の捜索に通じるところがあると思うと、ヴィンスも先程の指摘が本当に正しかったのか分からなくなったのだ。


 兄妹の捜索騒動も落ち着いた頃、ローザは思い出したかのようにヴィンスに問いかける。


「あれ?そう言えば今日のヴィンスは何をしにこの村に来たの?その軽装を見る限り任務で来たようには見えないけど」


「ああ、実は……ローザとアンナさんに伝えたいことがあって来たんだ」


「そうなの?一体何かしら……?取り敢えず家に案内するわ」


「うん、ありがとう」


 ローザの家に向かうため彼女に付いて行くが、これから伝える話の事を考えたヴィンスの足取りは決して軽くは無かった。


※回復魔法Lv3『ハイヒール』…中級回復魔法。『ヒール』よりも回復速度が速い。

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