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キノコ星人の侵略

作者: 楠樹 暖

 ある日突然に地球人の頭の中に声が響いた。

 声の主は二万光年離れた惑星からのメッセージであった。

 ハイパードライブ航法を開発し数万光年を行き来することが可能となった人類ではあったが、広大過ぎる銀河系の中で他の惑星の知的生命体と遭遇できることは期待されていなかった。

 選抜された十名からなる調査隊が指示された座標へ向かうと、そこに地球型惑星があった。

 惑星へ降りると、人間型の異星人が出迎えてくれた。ずんぐりとした体形で、頭は笠のようになっている。見た目はまるでキノコのようだ。

 キノコ星人の科学力はそれほど高くはなく、宇宙船はおろか、飛行機すら作ることもできなかった。

 しかし、文化、芸術、哲学面では地球人よりも高度な文明を築き上げているようだった。

「ようこそ、地球の皆さん」

 キノコ星人がテレパシーで話しかけてきた。

「我々は、遠く異星の同胞を探していたのです」

「同胞……ですか?」

「このテレパシーに反応できる生物は同胞です。我々と交流できるということはつまり同じ仲間ということです」

 キノコ星人はこのテレパシーを使って他の個体と意識を繋げ、文明を高めているようである。

 このテレパシーは光よりも速く、どんな距離でも一瞬にして届くことができる。それは、電波の通信手段しか持たない地球人にとっては革新的な技術である。

 通常の電波を使った通信では、たとえば四光年離れた場所から通信を行うと、地球へ届くまでに四年かかる。そのため、数光年離れた宇宙から通信を行う場合は連絡用の小型艇を往復させる必要がある。キノコ星人のテレパシー技術を取り込むことができれば小型艇を出す必要もなくなり、即座に連絡を取り合うことが可能だ。これは地球人にとっては喉から手が出るほど欲しい技術である。

 キノコ星人のテレパシーを受け取れる生物は、訓練次第で発信することも可能だという。つまり地球人にもテレパシーは使えるのである。そのテレパシー技術はキノコ星人は無償で教えてくれるのだという。地球人にとっては願ったり叶ったりである。

 さっそく、隊員たちはテレパシーの訓練を始めた。

 最初は全然使えなかったテレパシーだったが、赤ちゃんが言葉を覚えるようにメキメキと上達していった。

 テレパシー技術は地球人が生来的に持っている技術であり、使い方を知らなかっただけなのだ。

 テレパシー技術を利用した通信網はメッシュ型ネットワークであり、一人一人をノードとして情報を他のノードへと伝える。複数のノードへの通信が行えるため、情報の拡散が容易である。テレパシーの中継は無意識化で行えるため、寝ていても通信切れを起こすことはない。

 テレパシーは発信者が認識していない者に送るのは難しいが、一度認識してしまえば以降は容易にやり取りすることができる。キノコ星人と知り合った隊員たちは、キノコ星人たちの深い文明を体感することになった。そして多くのコンテンツに触れることでテレパシー能力が更に向上した。

 テレパシー技術をマスターした隊員たちが地球へ戻ることになった。

 地球式に握手をする隊員たち。別れを惜しむキノコ星人は体をプルプルと震わせた。笠から落ちる粉のようなもの。

「どうか地球へ戻ったら、我々のことをよろしくお願いします」

「はい、とても友好的な異星人だったと伝えます」

 宇宙船へ戻り、検疫検査を行った隊員たちがキノコ星人たちの企みに気がついた。

「さっきの粉を調べたところ、あれはキノコ星人たちの胞子であることが判明した。

 もし、このまま地球へ戻っていたら、キノコ星人たちが地球で繁殖することになっていたぞ」

「キノコ星人たちは我々の科学力を甘く見ていたようですね。分子レベルのスキャンなんてお手のものなのに」

「キノコ星人たちは自分たちが惑星から離れられないので、テレパシーを使って他の星から知的生命体をおびき寄せていたんだな。そして、自分たちの繁殖のために知的生命体に胞子をつけて帰すという」

「ただより怖いものはないということだな。まぁ、何にせよ、キノコ星人たちの地球侵略は阻止できたわけだ」

 隊員たちはキノコ星人の胞子をすべて除去し地球へと戻った。

 キノコ星人たちの胞子は地球の大地へと撒かれることはなかった。


 ――数年後、キノコ星人たちから持ち帰ったテレパシー技術は、地球の通信手段のインフラと化した。

 ローコスト、ハイクオリティの通信手段は地球上へと広がり、地球を覆う複雑なネットワークを構築した。

 その形態はキノコ星人たちのテレパシーネットワークと酷似している。

「地球へのネットワーク構築は順調ですね」

「ああ、地球人は見込みがあるね」

「地球人も早く気づいてくれるといいですね。肉体が単なる器でしかなく、関係性こそが本質であると」

「我々の祖先も、この身体でなく菌糸ネットワークが本体であることに気がつくのにかなり時間がかかったからね。まぁじっくり待つとしよう」

「あっ! 新しい知的生命体の惑星を発見しました」

「では、新たな媒介者をこの惑星に招待するとしよう」

 銀河全体を結ぶネットワークはキノコ星人の菌糸ネットワークの形へと変わりつつあった。


(了)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 菌糸ネットワークが本体であるならば、胞子という増殖手段が退化するのでは。 [一言] きのこの山を抜けるとたけのこの里でした。夜の底がホワイトチョコレートになった。明治製菓の書き出しです…
2017/06/05 22:11 退会済み
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